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<東京怪談ウェブゲーム 界鏡線・冬美原>


噂を追って【1】
●オープニング【0】
 その日、鏡綾女は『情報研究会』部室にて頭を抱えていた。
「うーん……どうしてこんなに噂が多いんだろ。ここ最近、急に増えてきた気がするよ〜」
 綾女の言うように、ここのところの冬美原では様々な噂を耳にするようになってきていた。中には解決した噂もあるが、意味不明なままで流れ続けている噂もある。
 綾女たち、情報研究会の部員も噂について調べてはいるようだが、手が回り切っていないのが現状であった。
「うーん……」
 綾女がちらりとこちらに視線を向けた。……何だか嫌な予感がする。
「……何だか暇そう、だよね?」
 くすっと笑みを浮かべる綾女。もうターゲット・ロックオンされてしまったようだ。
「よかったら、噂について調べてきてくれないかなあ? 調べる内容は、そっちに任せるから☆」
 綾女が笑顔で言い放った。部員たちの視線が集まってくる。どうやら断れそうにない雰囲気だ。
 まあ、内容を自由に選べるのが救いだけども……さて、何について調べてみようか?
 気になることは色々とあるのだから。

●チーズケーキは美味しい【2C】
 夏休み最初の月曜午後――天川高校文芸部の部室。夏休みゆえに授業はないが、部活動はある所はある。文芸部はその『ある所』の方に属していた。
「分かってるだけで……もぎゅもぎゅ……噂ってこんなに……もぎゅ……あるんだ……もぎゅもぎゅ」
 倉実一樹は右手にフォークを持ちながら、左手に持ったレポート用紙に見入っていた。その前に、喋るか食べるかどちらかにしろという話もあるが、それはさておき。
 先日一樹は、情報研究会の部室を訪れていたのだが、何の因果か冬美原に流れる噂の調査をすることになってしまった。少し気は進まなかったが、一樹は何かのネタになるかもしれないと自分に言い聞かせることで乗り切ることにしたのだった。
 調べると決まり、まず一樹は噂を整理することから始めた。やはり噂になっていた『ル・フィーナ』のチーズケーキを食べながらの作業だ。ちなみに――一樹がチーズケーキを多めに買って部室にやってきたら、先輩たちによってその大半を奪われてしまったというのは余談である。
「うーん、急に噂が多くなったのは5月で……その前には交通事故も多かったみたい」
 真剣な表情ながらも、フォークは一樹の口元へとチーズケーキを運んでゆく。よほど美味しいのか、すでに半分以上が一樹の体内へと消えていた。
「にしても、変な事件ばっかり」
 一樹は噂を整理しながら、自分も関わるはめになったいくつかの事件を思い出していた。正直、思い出したくない部分もある。もしこの噂の中にも『そういう関係』の事件が隠れているのなら、深くは考えたくない。もし運悪く出くわしたなら、一樹は一目散に逃げてやるつもりだった。
(街の守護がどうとかって話もあるし……これは神社かなあ。後で覗いてみようっと。後は、おっきなかえると凄い速さで動く影……)
 一樹はフォークを置くと、小さく溜息を吐いた。
「うっわぁ……鈴波兄ちゃん好きそうな噂」
 一樹の脳裏に従兄の鈴波の顔が浮かんだ。浪人生だというのに近頃やたらと冬美原にやってくるので、もし鈴波がこの噂を耳にしたなら喜んで調べていることだろうと思われた。
「……うちの学校に出てくる変な人って、まさか兄ちゃんじゃないよね?」
 神妙な表情でつぶやく一樹。冗談か本気か、区別のつかない口調だった。

●神薙南神社にて【3D】
 一樹は部室で噂の整理を終えた後、鈴丘新聞社を経由して神薙南神社を訪れていた。実は天川高校からは神薙北神社の方が近いのだが、先に回った鈴丘新聞社からは神薙南神社の方が近いのだ。
「先に新聞社行くんじゃなかったぁ……」
 うなだれている一樹。先に神薙北神社を回ればよかったと気付いたのは、新聞社が目の前に見えてきた時だった。
 そんなささいなミスはあったが、一樹は新聞社でここ最近の新聞の縮刷版を読みふけってきた。けれども噂に関連した事件はそう多いようにも感じられなかった。単に新聞に取り上げられないレベルでの事件だったのかもしれないが。
 一番目についたのは、どこかの議員が鈴糸山の自然を守ろうと運動を起こしていたことか。そういえば駅前なんかでよく演説をやっていたような気もする。すぐに通り過ぎてしまうので、その議員の名前や顔は記憶にないけれど。
「噂には関係なさそうだけど……最近は少し凶悪な事件が増えてるよねぇ」
 一樹は溜息混じりにつぶやいた。昔はそうでもなかったはずなのだが、今年に入ってから殺人や放火といった事件が目につくようになってきていた。いや、それでも他の街に比べれば発生件数は低い方だ。今までがなさ過ぎたから余計に目につくのかもしれない。
「あんまり遅くならないうちに帰らなきゃ……」
 夏場で日が長いとはいえ、女の子があまり遅くまで出歩いているのはそう褒められたことではない。一樹は早め早めに用件を済ませることにした。
 境内をしばらく歩いてから、近くを通りがかった巫女に話を聞く一樹。巫女によれば今月の月例祭――奇数月は神薙南神社ではなく、神薙北神社の担当だ――は参加者2人という少人数で、盛り上がりに欠けるものであったが、それでも無事に終わったということである。
「冬美原の地を護るための儀式ですが、こうも参加者が少ないと、この先はどうなってゆくのでしょう……心配です」
 巫女は神妙な表情で語った。

●豆腐屋追いかけ、愉快な一樹さん【4F】
「待って〜っ!」
 夕方――一樹は旧市街の細い道を走り回っていた。手に大きめのタッパーを抱えて。
「お豆腐屋さん待って〜っ!!」
 一樹は自転車に乗ってちょこまかと走り回る豆腐屋を追いかけていた。一樹の家の近くまではやって来ないので、何とかして捕まえようとしていたのだが……逆に豆腐屋の動きに翻弄される始末だった。まあ、豆腐屋には一樹を翻弄するつもりはないのだが。
 細い道を何度も何度も曲がり、ようやく豆腐屋に追い付いた時には、一樹は汗びっしょりであった。
「毎度あり〜」
 豆腐屋のおじさんの笑顔に見送られ、一樹はタッパーを抱えて近くのバス停へと歩き出した。タッパーの中には家族の人数分の絹ごし豆腐が納められていた。
(神社も回ったし、お豆腐屋さんの豆腐も手に入れたし、言うことないよね)
 豆腐屋を追いかける前に、一樹は神薙北神社を訪れていた。そこの巫女からも、神薙南神社の巫女と同様の話を聞かされたことから、月例祭の参加者の減少に神薙神社が危機感を持っていることを一樹は感じていた。
「大丈夫かなあ……」
 冬美原に住む者の1人として、参加者の減少は気になることであった。
 と、バス停が見えてきたその刹那――ぐらりと地面が揺れた。
「きゃあっ!」
 一樹はタッパーを抱え込んでその場にうずくまった。揺れたのはほんの1、2秒だったが、それは強い揺れだった。幸い近くの建物が崩れるということはなかった。
「大きかったぁ……」
 大きく息を吐く一樹。これほどの揺れがきたのは覚えている限りではなかったような気がする。
 一樹は抱えていたタッパーを見た。豆腐は崩れずにそのままの形であった。
 一樹はバス停に着くと、バスが来るのを待った。が、地震の影響でバスがやってきたのは時刻表の時刻より10分程遅れてのことだった。

●アサギテレビニュース【5】
「今日夕方、午後6時47分頃に起きました地震についてのニュースです。冬美原では震度4を記録しましたが、周辺都市では揺れの観測はありませんでした。また今回の地震による被害ですが、コンビニ等の商品が床に落ちるといった被害はあったものの、人的被害および家屋の被害はなく、火災の報告もありませんでした。以上、アサギテレビニュース、唐沢敦がお伝えいたしました」

【噂を追って【1】 了】


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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【 整理番号 / PC名(読み) 
                   / 性別 / 年齢 / 職業 】
【 0670 / 倉実・一樹(くらざね・かずき)
                   / 女 / 16 / 高校生 】
【 0035 / 倉実・鈴波(くらざね・りりな)
                 / 男 / 18 / 大学浪人生 】
【 0249 / 志神・みかね(しがみ・みかね)
                    / 女 / 15 / 学生 】
【 0461 / 宮小路・皇騎(みやこうじ・こうき)
        / 男 / 20 / 大学生(財閥御曹司・陰陽師) 】
【 0516 / 卯月・智哉(うづき・ともや)
                 / 男 / 21? / 古木の精 】
【 0576 / 南宮寺・天音(なんぐうじ・あまね)
           / 女 / 16 / ギャンブラー(高校生) 】


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■         ライター通信          ■
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・冬美原へようこそ。
・『東京怪談ウェブゲーム 界鏡線・冬美原』へのご参加ありがとうございます。本依頼の担当ライター、高原恵です。
・高原は原則としてPCを名で表記するようにしています。
・各タイトルの後ろには英数字がついていますが、数字は時間軸の流れを、英字が同時間帯別場面を意味します。ですので、1から始まっていなかったり、途中の数字が飛んでいる場合もあります。
・なお、本依頼の文章は(オープニングを除き)全20場面で構成されています。他の参加者の方の文章に目を通す機会がありましたら、本依頼の全体像がより見えてくるかもしれません。
・お待たせしました、冬美原の噂を追いかけるお話をお届けします。範囲が広すぎてプレイングを書くのも大変だったと思いますが、いかがだったでしょうか? 冬美原ではこのような依頼をこれからも出してゆく予定です。
・さて、今回はほぼ皆さん個別の内容になっています。調査内容が分散するとこのようになる訳で、人によってはシリアスに、また別の人はコミカルにお話は進んでいます。
・調査結果ですが、プレイング内容によって浅く広くか深く狭くかに分かれていると思います。調べる際には1つのことに絞った方が、より深い結果を得られることになるかもしれませんね。
・地震については本文最後にあるような状況です。被害はほぼ0と言って差し支えないと思います。ただ、この影響で一部公共施設の閉館時間が繰り上がってたりするのですが。
・倉実一樹さん、4度目のご参加ありがとうございます。ファンレターありがとうございました、やはりそうだったんですね。えっと、天川高校は城址公園の北方に位置します。駅は西方ですね。したがって駅から天川高校は北東方向に位置することになります。豆腐は美味しいですよ。
・感想等ありましたら、お気軽にテラコン等よりお送りください。
・それでは、また別の依頼でお会いできることを願って。