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<東京怪談ウェブゲーム 界鏡線・冬美原>


噂を追って【1】
●オープニング【0】
 その日、鏡綾女は『情報研究会』部室にて頭を抱えていた。
「うーん……どうしてこんなに噂が多いんだろ。ここ最近、急に増えてきた気がするよ〜」
 綾女の言うように、ここのところの冬美原では様々な噂を耳にするようになってきていた。中には解決した噂もあるが、意味不明なままで流れ続けている噂もある。
 綾女たち、情報研究会の部員も噂について調べてはいるようだが、手が回り切っていないのが現状であった。
「うーん……」
 綾女がちらりとこちらに視線を向けた。……何だか嫌な予感がする。
「……何だか暇そう、だよね?」
 くすっと笑みを浮かべる綾女。もうターゲット・ロックオンされてしまったようだ。
「よかったら、噂について調べてきてくれないかなあ? 調べる内容は、そっちに任せるから☆」
 綾女が笑顔で言い放った。部員たちの視線が集まってくる。どうやら断れそうにない雰囲気だ。
 まあ、内容を自由に選べるのが救いだけども……さて、何について調べてみようか?
 気になることは色々とあるのだから。

●調査不足【1C】
「嘘だぁ……」
 倉実鈴波は掲示板を見つめて呆然としていた。ここは冬美原情報大学の経済学部棟の中だった。回りには経済学部の学生たちが行き交っている。
「おーい、お前、マクロの問2出来たか?」
「ぜーんぜん! 何であそこであんな意地悪いの出すかな……」
「頼む! 情報システムのノートコピーさせてくれ!!」
「へっへっへー、俺の前期試験、今日1日で終わりだもんねー♪」
 周囲の学生たちからはそんな会話が聞こえてきていたが、鈴波の耳にはほとんど入っていなかった。
「嘘だぁ……」
 再度つぶやく鈴波。掲示板には『経済学部 前期試験日程表』と書かれた紙が貼られていた。今日7月22日から月末までの日程だった。
 鈴波はがっくりと肩を落とし、掲示板の前を離れた。
(そういえば前期試験ってのがあったんだなぁ)
 鈴波は自らの調査不足を悔やんだ。7月になれば予備校は夏期講習制、上手くやれば結構自由時間が出来る。そこで鈴波は、気になる先生の居るここ冬美原情報大学に潜り込んで、勝手に講義を聴講しようと思っていたのだが……運悪く今日から前期試験であった。
「特急回数券も買ったのに……」
 通い詰めようかと思っていた鈴波は、特急の回数券もしっかり購入していた。まあ、腐る物でなく、有効期限も3ヶ月あるのが救いか。
「こうなったら、学食で昼食食べてから冬美原観光しようかなぁ」
 そう言うと、鈴波は一目散に学食のある学生会館へと向かった。安い学食で、鈴波が腹一杯食べたことは言うまでもない。

●わくわく噂ランド【2E】
「冬美原ってヘンな噂がいっぱいだね」
 鈴波がぼそっとつぶやいた。大学の学食で昼食を食べた鈴波は、その足で冬美原図書館に寄り、今は麗安寺に向かう最中だった。先に寄った学食や図書館で、色々と噂を耳にしていたのだ。
「赤マントに火の玉に大きなかえる……スバラしい!」
 ぐっと拳を握りしめる鈴波。何やら鈴波の琴線に触れる物があったようだ。
「凄い速さで動く影ってのは、都市伝説のターボ婆さんかなぁ?」
 あれこれと考える鈴波の表情はとても楽しそうであった。運悪く前期試験の始まった日にやってきたことなど、どこかに吹き飛んでしまったのだろう。
「なくなった神社ってのも気になるなぁ。神社の跡地、今は何かな。それに城の四方を神社で固める理由があったのか? 気になる、気になる……」
 噂というのは未だ結論が導かれてないから余計に気になる訳だ。鈴波の反応は当然であった。
「わくわくするなぁ……」
 前言撤回。鈴波の場合、当然というラインをやや通り過ぎているようだ。

●城主の墓へ【3E】
 麗安寺――旧市街北東部に位置する、旧城主・榊原氏の菩提寺である。ゆえに、榊原氏の墓を訪れる者も少なくはない。
「あちー……」
 鈴波は手でぱたぱたと煽ぎながら麗安寺に足を踏み入れた。最初は図書館から麗安寺まで歩いてみようと思っていた鈴波だったが、暑いわ遠いわで途中でバスに乗る始末だった。
 鈴波が足を踏み入れた時、黒髪を後ろで括った青年がそばを通り過ぎていった。
(へえ。若い人も来るんだなぁ)
 妙なことに感心しながらも、鈴波は榊原氏の墓を探すことにした。けれど墓はやたらと多い。鈴波が溜息を吐いたその時、背後から男性の声がかかった。
「どうなされましたか?」
 振り返る鈴波。そこには袈裟姿の青年が立っていた。ちなみに坊主頭ではなく有髪だ。
「えっと……城主の墓を探しているんですけど、どこにあるんですか?」
 これ幸いと、鈴波は目の前の青年に城主の墓の場所を教えてもらうことにした。
「それでしたら一番奥の……そうですね、一緒に参りましょうか。その方が分かりやすいでしょう」
 青年はにこっと笑うと、鈴波についてくるよう促した。鈴波はすぐに後を追った。
「観光ですか?」
 青年が鈴波に尋ねる。鈴波は頭を掻きながら答えた。
「ええっと……そのようなそうでないような、あはは。城主について調べてる途中で……」
「おや? 城主について興味がお有りですか? もしお時間があるのでしたら、色々とお話をお聞かせ出来ますが……どうです、羊羹でも食べながら」
「ぜひっ!」
 羊羹という言葉につられ、鈴波は即座にその申し出を受け入れた。それでいて城主の話も聞けるのだから一石二鳥である。
「申し遅れました。私、麗安寺の住職で宗全と申します」
 青年――麗安寺宗全(れいあんじ・そうぜん)は笑顔で言った。

●何もない場所【4D】
「ふー……」
 夕方、鈴波はぐったりとした様子で旧市街を歩いていた。
(羊羹につられるんじゃなかったなぁ)
 あの後宗全から話を聞いていた鈴波だったが、次第に『話を聞かされる』ように変わってきていた。
 城主の話をしていたのは最初だけで、そこから仏の道やら人生についての話へと変わってゆき、最後には今の鈴波の生活を聞いてありがたい説教までする始末であった。
「でもまあ、羊羹は美味しかったし、城主の話も聞けたからよしとするかぁ」
 切り換えの早い鈴波。宗全の話を聞くのも、ありがたい説教を除けば鈴波には苦でもなかった。
 榊原氏のことで分かったのは、大正時代で榊原氏の血筋は途絶えていることだ。無論それは宗全の言葉によるものなので、詳しく調べ直したら違った結果になるかもしれないが、直系の血筋が途絶えていることはほぼ間違いないようであった。
 さて、麗安寺を後にした鈴波がやってきたのは、冬美原城址公園より東方に位置する小さな公園だった。
「石碑も何にもないし、ここで合ってるのかなぁ?」
 きょろきょろと見回す鈴波。鈴波は今はなき東西の神薙神社の跡地を訪れようとしていたのだ。
 もちろん麗安寺を出る前に宗全に位置を尋ねたのだが、宗全もよく分かっていないようで曖昧にこの場所を教えてくれただけだった。
 何の変哲もない公園で、ここに昔は神社があったとは到底思えない。
「うーん、一樹が居たら何か分かるかもしれないのになぁ」
 あいにくと、霊感のない鈴波には何も感じることは出来なかった。
「西の跡地見てから、新聞社寄ってみようか」
 そう言って鈴波が歩き出したその刹那――ぐらりと地面が揺れた。
「うわっ!」
 驚き足を踏ん張る鈴波。揺れたのはほんの1、2秒だったが、それは強い揺れだった。幸い近くの建物が崩れるということはなかった。
「ふー……冬美原でも地震はあるんだなぁ」
 揺れが収まってから、妙なことに感心する鈴波であった。
 ちなみに、鈴丘新聞社の資料室は地震で崩れた本の整理のために、閉館時間が繰り上がってしまっていた。

●アサギテレビニュース【5】
「今日夕方、午後6時47分頃に起きました地震についてのニュースです。冬美原では震度4を記録しましたが、周辺都市では揺れの観測はありませんでした。また今回の地震による被害ですが、コンビニ等の商品が床に落ちるといった被害はあったものの、人的被害および家屋の被害はなく、火災の報告もありませんでした。以上、アサギテレビニュース、唐沢敦がお伝えいたしました」

【噂を追って【1】 了】


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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【 整理番号 / PC名(読み) 
                   / 性別 / 年齢 / 職業 】
【 0035 / 倉実・鈴波(くらざね・りりな)
                 / 男 / 18 / 大学浪人生 】
【 0249 / 志神・みかね(しがみ・みかね)
                    / 女 / 15 / 学生 】
【 0461 / 宮小路・皇騎(みやこうじ・こうき)
        / 男 / 20 / 大学生(財閥御曹司・陰陽師) 】
【 0516 / 卯月・智哉(うづき・ともや)
                 / 男 / 21? / 古木の精 】
【 0576 / 南宮寺・天音(なんぐうじ・あまね)
           / 女 / 16 / ギャンブラー(高校生) 】
【 0670 / 倉実・一樹(くらざね・かずき)
                   / 女 / 16 / 高校生 】


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■         ライター通信          ■
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・冬美原へようこそ。
・『東京怪談ウェブゲーム 界鏡線・冬美原』へのご参加ありがとうございます。本依頼の担当ライター、高原恵です。
・高原は原則としてPCを名で表記するようにしています。
・各タイトルの後ろには英数字がついていますが、数字は時間軸の流れを、英字が同時間帯別場面を意味します。ですので、1から始まっていなかったり、途中の数字が飛んでいる場合もあります。
・なお、本依頼の文章は(オープニングを除き)全20場面で構成されています。他の参加者の方の文章に目を通す機会がありましたら、本依頼の全体像がより見えてくるかもしれません。
・お待たせしました、冬美原の噂を追いかけるお話をお届けします。範囲が広すぎてプレイングを書くのも大変だったと思いますが、いかがだったでしょうか? 冬美原ではこのような依頼をこれからも出してゆく予定です。
・さて、今回はほぼ皆さん個別の内容になっています。調査内容が分散するとこのようになる訳で、人によってはシリアスに、また別の人はコミカルにお話は進んでいます。
・調査結果ですが、プレイング内容によって浅く広くか深く狭くかに分かれていると思います。調べる際には1つのことに絞った方が、より深い結果を得られることになるかもしれませんね。
・地震については本文最後にあるような状況です。被害はほぼ0と言って差し支えないと思います。ただ、この影響で一部公共施設の閉館時間が繰り上がってたりするのですが。
・倉実鈴波さん、4度目のご参加ありがとうございます。はい、大学には前期試験なる時期がありまして、今はちょうどその時期でした、残念。東京から冬美原まで、さてどのくらいかかるんでしょうねえ……恐らくそれは人によって違うことでしょう。ちなみに、西の跡地も東と似たようなものです。
・感想等ありましたら、お気軽にテラコン等よりお送りください。
・それでは、また別の依頼でお会いできることを願って。