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<東京怪談ウェブゲーム 草間興信所>


十二体の人形 【4月の少女】

【序】
「困ったねぇ」
 言葉とは裏腹に、少し楽しそうな声で茅環・夙(ちのわ・まだき)は呟いた。それを聞き、目の前で座っている矢蔦・優治(やつた・ゆうじ)は眉根を寄せて茶をすすった。

 彼が経営している人形店『傀儡堂』の常連(と言うよりも店主の茶飲友達)になった優治からの依頼で、入院している女の子にぬいぐるみを一つ作って持っていった帰りの事だった。
 病院の小さな中庭で、人形遊びをしている少女を発見したのである。
 薄い茶色の髪に、色素の薄い白い肌の少女。まだ6歳ぐらいだろうか、と思えるほど幼い子供だった。
 特に子供には興味は無い夙だったが、少女が持っていた人形を見て目を丸くした。
 『十二体の人形 盗難事件』で消えた人形の内一体が、その少女の手の中にあったのだ。
 少女と同じような白い肌。何よりもその人形の特徴と思えるのは美しい白髪。汚れなど一片も見当たらないような美しい髪は、そうそうあるものではない。
「こんにちは」
 そう声をかけると、少女は驚いたような顔をして夙を見‥‥そして、人形を抱いて走り去ってしまった。

「‥‥と、言うわけでね。その女の子には振られちゃったわけだよ。でも、その直ぐ後で彼女は倒れたらしいんだ」
「いきなり大の男に話し掛けられて逃げない入院患者(しかも女の子)はいないって」
 あはは〜、と呑気に笑う夙に対し、優治は眉間に酔ったしわを人差し指で押さえた。
「本当に。どうしようかね、子供相手に無理強いはできないし‥‥何よりも入院患者だしね。まぁ、とりあえず話はさせてもらうよ」

 夙の説明と草間興信所の主である草間の調査を要約すると以下の通り。
・少女の名前は『日和・結香(ひより・ゆうか)』。入院している病院は『とねりこ小児病院』。
・人形の名前は『アルマース』。四月の誕生石であるダイアモンドを眼に宿した少女型の人形。
・日和は病棟の中でも、奥の方にいる。生まれつき体が弱く、心臓の移植手術の為に入院。
・大人しい性格で、人見知りが激しい。

【壱:色々なひと。】
「お人形をすり替えるのって無理かな。夙さん、アルマースに似た人形ってある?」
 優治同様、大学が休みの日には偶に店に遊びに来る常連候補の杉森・みゆき(すぎもり・−)が、勧められた冷たい甘茶を飲み干してから言った。しかし、彼女の提案に対して夙は小さく頭を振る。
「少女型の人形はあまり作ってないんだ。ここには同じようなものは展示していないし‥‥似たような人形は作れるけど、すぐにはできないよ」
 御免ね、と言いながら優しく頭を撫でた。みゆきが小柄な事と、幼い雰囲気からか、夙は彼女を子供扱いする。しかし、それにはみゆきは特に反論もせずに「そっかぁ」と悩んでいた。
「でも、あんまりやりたい事じゃなかったから、無くて良かったかもしれない」
「‥‥それじゃ、あたしは行くよ」
 髪や服、果ては爪先まで全身赤よりも深みのある真紅で統一した女、紅臣・緋生(べにおみ・ひおう)が立ち上がった。仕事の参考にと思い、立ち寄った人形店で依頼を受けるとは思わなかった彼女だが、話を聞いた以上は無視できない。
「あたし向きの依頼じゃないけどね」
「お願いするよ」
 柔らかく笑って見送る。彼女に続くようにみゆきも出て行こうとしたが、そこで一人の青年とすれ違った。手にはなにやら大きな包みを持っている。
「やあ、四月の人形が見つかったって?」
 長袖に白いTシャツとジーンズ姿。あまり見ない客なのに、何故誕生月の人形の事を知っているのか。優治は不思議そうな顔で彼を見た。
「僕にも手伝わせてよ。『彼』が帰ってきやすいように‥‥」
「ちょ、ちょっと待って。あなたは誰ですか?」
 みゆきが首を傾げて問いかけた。後ろで人形の事を話す青年が気になったのか、緋生も足を止めて振り返る。
 みゆきの言葉に同意するように優治も青年に目を向けた。ただ一人、夙は「おや」と声を上げて小さく笑う。
 青年は優治が自分の事に気付かないのを訝しげに思い、それから己の姿を見て納得した。口元に笑みを浮かべ、しなを作って彼に流し目を送る。
「‥‥ヒドイわ、優治さん。アタシの事、忘れちゃったのォ?」
「アタシって‥‥アンジェラぁっ?!」
 がたーんと大きな音を立てて席を立つ。が、その反動で優治は椅子もろとも後ろに倒れてしまった。
 彼の隣に座っていた夙は笑みを浮かべて、アンジェラと呼ばれた青年‥‥室田・充(むろた・みつる) に声をかける。
「いや、見事に化けたねぇ」
「いえ、これが普通です」
 のんびりとした夙の口調に、充が真顔で返す。
 ほのぼのとした空気が流れる中、緋生の長い溜息が店内に響いた。
「‥‥で。そこのあんたも引受人ね。行くなら早く行くよ」

【弐:白いひと。】
 『とねりこ小児病院』はあまり大きくはないが、白が際立つ病院だった。子供向けに動物の絵などが描かれているが、それよりも緋生の真っ赤な出で立ちは目立っている。
 すれ違う看護婦や、子供たちの目はどうしても彼女に向いてしまう。
「目立ってますね〜」
 隣で並んで歩くみゆきは、充と緋生の服の色を足して割ったような可愛らしいパステルピンクの服を着ている。
「病院ってのは、白いから嫌いなんだよ」
「じゃあ、僕は嫌いな色なんですね」
「ボクはまぁまぁ好きな色なのかなぁ」
 緋生の言葉に、充とみゆきが笑いながら応える。彼らの後ろを歩いている優治は、前にいる三人を見つつ「和んでる‥‥和んでるぞ、お前ら」と小さく呟いた。
 夙は店があるので行けなかったが、代わりに優治が同行する事になった。彼も、この病院には知り合いが入院しているのでついてきたのだ。
 ナースセンターで日和結香の病室を聞き、案内してもらう。普通は怪しまれる所なのだが、充が妻子持ちの友人に頼んで譲ってもらった絵本を寄付した事や、みゆきが大学の教育学部で小学校教諭志望だという事を言うと、多少は信用されたらしい。特に、みゆきの場合は何かの勉強になるかもしれないという事で了解が出た。
 ただ、結香は心臓が弱いのであまり興奮させたりしないようにと釘を刺されたが。
「じゃあ、俺はちょっと見舞いに言ってくる」
 そう言って、優治は別室へと向かう。
 残された三人は看護婦に案内されて、病棟の奥のほうへと向かっていた。左右に病室のドアがあるのだが、それはどれも閉められている。明かりといえば、天井に設置された蛍光灯と突き当たりのガラス窓から差し込む光だけ。
 しかも、進むごとに音が遠ざかっていくような感がある。
「ここです。‥‥結香ちゃん、入るわよ」
 案内をしていた看護婦が病室のドアをノックする。部屋からはくぐもった声で可愛らしい少女の声が返ってきた。
 促されて入室すると、ベッドで少女が上体を起こして座っていた。その手に、四月の誕生石・ダイアモンドを元に作られた人形‥‥『アルマース』がある。
 三人の姿を見ると、明らかに警戒するような眼差しに変わった。それを宥めるように、みゆきが猫の指人形を取り出して、腹話術でもするように話し掛けた。
「こんにちはぁ」
 そう言うと、目を丸くさせて結香は指人形を見た。充も同じようにウサギの指人形をつけて挨拶をする。
 緋生はというと。子供の相手は苦手らしく、二人が少女を宥めているのを見守っていた。
「‥‥こんにちは」
 結香も打ち解けてきたのか、アルマースを傾けて挨拶をする。少し張り詰めていた空気が緩むのを感じ、誰もが胸の中で安堵の溜息を漏らした。

【参:黒いひと。】
「‥‥そうかー。じゃあ、結香ちゃんはここには来たばかりなんだね」
 指人形を操りながら、みゆきは結香に色々な話を聴いた。ここへは最近入院したばかりで、今までは他の病院を転々としていたらしい。来たばかりだが、もうしばらくしたら他の大きな病院に移る事になるかもしれないという。
 充はアルマースにウサギの指人形を向け、これまた器用に操りながら声をかけた。
「きれいな子だね! お嬢さん、よかったら僕とお話してくれませんか?」
 首を傾げるウサギに、結香が笑ってアルマースを近付ける。
「いいわよ、ウサギさん」
 その様子を見ながら、緋生は何か引っかかるものを感じていた。
 大人しい性格だが、人見知りが激しい。その割には、指人形一つでこうも仲良くなるというのはどういう事だろうか‥‥と。ただ、夙が怖い人だっただけなのだろうかとも思った。
 彼女がそう考えている間にも、話は進んでいく。
「お嬢さんは、何処から来たんですか?」
 充の問いかけに合わせるように、みゆきも猫の指人形をアルマースに向けてその様子を見守った。
「わたしね、『かみさま』から、もらったのよ」
 その言葉に、全員が目を丸くさせる。いち早く気を取り直した充が「すごいねー」と言い、言葉を続けるように促す。
「ゆうかちゃんのゆめにね、『かみさま』といっしょにきたの」
「どんな神様?」
 みゆきも同じように問う。
「くろいふくをきてたけど、とてもやさしい『かみさま』よ。ゆうかちゃんが、からだよわいから、おまもりに‥‥って」
「‥‥神様‥‥?」
 緋生の小さな呟きに、充が振り返って小さく頷いた。
「‥‥この人形を造るよう依頼した、『彼』だと思う」
 彼は二度ほど『彼』に関して話を聴いた事がある。三月の人形の時は、実際にその目で存在を見た。ネット上での文章だったが、それは明らかに人形制作依頼人だと理解したのだ。
 その『彼』が結香に人形を与えたとなると、優治と同じように『持ち主』として選ばれた者なのではないかと緋生に告げる。
「だが、夙は返してもらいたいんだろ。本当に持ち主なら、一度返してもらって‥‥それからまた渡すって事もできるんじゃないのか?」
 彼女がそう反論すると、充は少し首を傾げ‥‥それから小さく頷いた。
 二人がそう話をしている間、みゆきは後ろに聞き耳を立てながらも結香の相手をしていた。
「この子、真っ白できれいだよねぇ」
「うん。めも、しろいのよ」
 そう言ってアルマースを近付けて見せてくれる。確かに、目は無色透明で透き通っていた。ぱっと見ではガラスか何かだと思うだろうが、宝石の専門家が見たならばこれはダイアモンドだと見抜くだろう。
 充としばらく話をし、代わるように緋生が少女に近付いた。すると、打ち解けていた結香が身体を震わせて怯えたように見上げる。
 その空気を緩和しようと、彼女は口を開いた。
「その人形はダイヤの精‥‥さながら、あたしはルビーの精? ‥‥なんつって‥‥」
 無理矢理でしょう、それ。‥‥と充とみゆきの顔がそう言っている。だが、結香は彼女の全身を見、それから自分の手の中にあるアルマースを見て、何かに納得したように頷いた。
「おねえちゃん、このこといっしょで、ぜんぶあかいのね」
「‥‥でしょ?」
 無理矢理でも、言えば何気に通じる。
 警戒が少し解けたような少女の様子に、緋生は胸を撫で下ろした。だが、何かを思い出したように結香は人形をきつく抱きしめる。その様子を見て、充が首を傾げた。
「どうかしたの?」
「‥‥すこしまえにね。まっかなおじちゃんに、あったの」
「真っ赤な‥‥?」
「そのひとね。わたしに『こんにちは』って、こえをかけたの。でも、こわくて‥‥」
 アルマースを強く抱きしめる少女に、三人は顔を合わせて首を傾げた。みゆきが彼女の方に向き直り、問いかける。
「ねぇ、それはいつの事?」
「‥‥すこしまえ。なかにわで、あったの。せのたかい、おじちゃん」
 全員が、その言葉に合う人物を思い浮かべた。少し前、彼女に中庭で声をかけた人物。他にもいるかもしれないが、それは三人とも同じ人物に行き当たった。
「‥‥まさか、マスター?」
「夙さん?」
「人形師‥‥か?」
 そう呟いた所で、病室にノック音が響いた。外から看護婦の声が聞こえる。
 緋生は振り返って、結香の頭を撫でて言った。
「あたしたちは、その人形を探してたんだ」
 そう言うと、充とみゆきの二人が目を見開いて彼女を見た。結香も同じように目を丸くさせたが、すぐに放すまいとアルマースを抱きしめる。少女の様子を見て、緋生は苦笑して言葉を続けた。
「でも、無理矢理取ろうとは思わない。心臓の手術が終わるまで御守として持ってな。神様が言ったように」
 しばらく警戒のこもった目で見つめていた結香だが、ゆっくりと頷いた。
「よし。‥‥『金剛不壊』と言ってさ、ダイアってのは決して壊れない頑丈なものなんだ。それが御守として傍にある‥‥だから、あんたの手術だって無事に終わる。だから、手術が終わって元気になったら‥‥その人形、渡してもらえるか?」
 真っ直ぐに少女の目を見つめて話す。その様子を不安げに見守っていた充とみゆきだが、結香が頷くのを見て溜息を漏らした。
 ちょうど看護婦が病室に入り、結香の名前を呼んだ。
「検診のお時間ですよ。お話に夢中だったの?」
 笑う看護婦の顔を見て、それから三人の顔を見て‥‥結香は笑って頷いた。

【肆:わからないひと。】
 三人から話を聞き、夙は溜息を吐きながら頷いた。
「そしたら、矢蔦さんと同じように所有者なのかもしれないね」
 どういう事なのか、と緋生が問うと、二月の誕生石・アメシストで作られた人形の所有者は優治なのだという。この一件に関しては、充も関わっていたので彼が説明した。
 説明が続いている間、みゆきはじっと夙の服を見ていた。視線に気付いた彼も、微笑を浮かべて振り返る。
「どうかしたのかい?」
「え、あ、ううん。‥‥夙さんて、赤い服持ってます?」
 唐突な質問に、夙は目を丸くさせた。
「いや、私は白い服しか持っていないよ。何故?」
 今度は夙が問う番になった。みゆきは曖昧に手を振って、なんでもないと答える。
 それからしばらくして、優治の話をしていた充がふと思い出したように呟いた。
「‥‥そう言えば、優治さん‥‥どうしたんだろう?」

 その頃、優治は。
「‥‥遅いな〜‥‥」
 三人が帰った事も知らされず、待合室の椅子に腰掛けてぼんやりと呆けていた。

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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

【0076 : 室田・充(むろた・みつる) : 男 : 29 : サラリーマン兼ドラァグクイーン】
【0085 : 杉森・みゆき(すぎもり・−) : 女 : 21 : 大学生】
【0566 : 紅臣・緋生(べにおみ・ひおう) : 女 : 26 : タトゥアーティスト】

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■         ライター通信          ■
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 遅くなりました。かなり。‥‥あぁ、石投げないで下さいー(汗)
 申し訳ないです(汗)
 今回も皆さん共通文章です。
 申し訳ないといえば、OPに出した『マスターより』の中の一文。何かおかしいなーと思ってたら思い切り脱文してましたね。意味不明で済みませんでした‥‥(平伏)

 紅臣さんは初めまして。へっぽこな遅筆ライターの『西。』です。
 今回はご参加、有難う御座いました。なかなかとっつき難い依頼で、少し戸惑われたのではないかなと思ってます(汗)
 『ルビーの精』ネタ、有難く使用させて頂きました。こういう何気ないネタがヒットするもので、プレイングを見た時に思わずニヤリ。「使わなきゃ罰が当たるね、これは」と思いつつ文章打ってました。(笑)
 今回のご参加、本当に有難う御座いました。
 挨拶短くてすみません(汗) また機会があれば宜しくお願いします。