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<東京怪談ウェブゲーム 界鏡線・冬美原>


噂を追って【1】
●オープニング【0】
 その日、鏡綾女は『情報研究会』部室にて頭を抱えていた。
「うーん……どうしてこんなに噂が多いんだろ。ここ最近、急に増えてきた気がするよ〜」
 綾女の言うように、ここのところの冬美原では様々な噂を耳にするようになってきていた。中には解決した噂もあるが、意味不明なままで流れ続けている噂もある。
 綾女たち、情報研究会の部員も噂について調べてはいるようだが、手が回り切っていないのが現状であった。
「うーん……」
 綾女がちらりとこちらに視線を向けた。……何だか嫌な予感がする。
「……何だか暇そう、だよね?」
 くすっと笑みを浮かべる綾女。もうターゲット・ロックオンされてしまったようだ。
「よかったら、噂について調べてきてくれないかなあ? 調べる内容は、そっちに任せるから☆」
 綾女が笑顔で言い放った。部員たちの視線が集まってくる。どうやら断れそうにない雰囲気だ。
 まあ、内容を自由に選べるのが救いだけども……さて、何について調べてみようか?
 気になることは色々とあるのだから。

●伝承を求めて【2A】
「通い詰めですね」
 神薙南神社、古文書を納めてある部屋の外から男性の声が聞こえてきた。神社の職員だ。
「あはは、まあ色々とー」
 南宮寺天音は当たり障りのない返事を返した。古文書を、片っ端から見ている最中だった。
「冷たい飲み物、ここに置いておきますんで」
「あ、おおきにー」
 礼を言う天音。やがて男性の気配が消えた。
「……もう顔を覚えられてしもたなあ」
 作業の手を止め、天音は苦笑した。今日ここを訪れるなり、何も言っていないのに向こうから『古文書ですか?』と言われてしまったのだ。訪れた目的はその通りだったので、天音は何も言い返せなかったのだが。
「ま、ええわ。伝承、伝承っと……」
 再び古文書を見てゆく天音。今日ここを訪れたのはもちろん理由があった。
「ふふふ……夏休みの自由研究も兼ねて、城址公園の幽霊を全員コンプリートしたる」
 天音はそう言って不敵な笑みを浮かべた。
「アリスという実例もあることやし、30人は固いな。幽霊は1人見たら30人居る言うし」
 少し何か違うような気もするが、他にも幽霊の居る可能性は否定出来ないだろう。それを実証出来るかはまた別の問題だが。
「……ないなあ。何で城址公園での伝承がないんやろ。他の場所には幽霊の出てくる伝承もあるっちゅーのに」
 しばらく古文書を調べていた天音が、ぼやくように言った。けれど、それも仕方のないことかもしれない。今は城址公園だが、元々は城があったのだ。城主がわざと伝えさせていない可能性もあるのだから。
「空振りやろか……ん?」
 別の古文書を開いた天音の動きが一瞬止まった。そこに書かれていたのは旧城主・榊原氏の一族の家系図だった。恐らく明治維新頃までの物と思われる。が、天音の目はある一点に向いていた。
「何やこれ」
 家系図の一番下、幕末頃と思しき辺りに横にいくつか名前が並んでいたが、1人だけ名前が墨で塗られて消されていたのだ。天音は裏からも見てみたが、残念ながら名前は分からなかった。
 天音はノートを取り出すと、その家系図を一言一句漏らさず写し始めた。

●微妙な違い【3B】
 冬美原図書館――次に天音が訪れたのはここだった。もちろん幽霊伝承を調べるためである。
「うー……あらへんなあ」
 天音は難しい顔をして、冬美原について書かれた本を読んでいた。テーブルの上には同様の本が何冊も積まれている。これらは天音がすでに読み終えた分だ。
(城内での幽霊伝承ってないんやろか)
 そんな考えが天音の頭をよぎる。やがて本を読み終えた天音は、がっくりと肩を落とした。
「ほんまあらへんやん……」
 冬美原での幽霊伝承はいくつか載っていたのだが、城内となると全く載っていなかった。元々伝承が存在しないのか、それとも握りつぶされているのかは分からないが。
 天音は諦め切れずに再びパラパラと本を捲り出した。と、榊原氏の家系図が書かれたページで天音の手が止まった。
「ん?」
 その家系図は神薙南神社で天音が写した物と同一……いや、違う。僅かに違っていた。家系図の一番下、幕末頃と思しき辺りに並んでいる名前の中で1つだけ抜けているのだ。
 天音はすぐに他の本も見直したが、他の本にも載っている家系図も同様だった。名前が抜けているのだ、古文書では墨で塗り消されていた部分がすっぽりと。そこに誰かしら居たのは明白であるというのに。
(瓢箪から駒やろか。うち、ええネタ拾ったのかもしれへん……)
 本筋では空振り気味のようだが、そこから派生した部分で面白い情報を手に入れることが出来たのは、ある意味収穫だと言えるだろう。もし墨で塗り消された部分の名前が判明したのならば、出版物に記載されている家系図は全て変更が加えられることになるのだから。
 天音は図書館を後にしてから、次に鈴丘新聞社へ向かった。資料室で、幽霊に繋がりそうな事件の資料を調べるためだ。
 ところがこちらも空振りで、城址公園にまつわり、かつ幽霊に繋がるような事件は見当たらなかったのだ。痴漢が出たとか、デモ集会が行われたという事件はあったが、事故・自殺・殺人といった事件は城址公園では起こっていなかった訳だ。まあ、それ以外の地域では起きているのだが、それでも他の街と比較するとぐっと少ない。
「30人は固いはずなんやけどなあ……」
 さすがの天音も、こうも空振りが続くと自信が揺らいできたようである。

●ファーストコンタクト【4A】
「ふっふっふ……やっぱり実地調査に勝るもんはないはずや」
 不敵な笑みを浮かべる天音。夕方、天音は冬美原城址公園を訪れていた。ただ不思議なのは、背中にとても大きなリュックを背負っていたことだろうか。今からどこぞの山にでも登ろうかといった格好だ。
「食料も寝袋も用意しとるし……泊まり込みで幽霊コンプリートや!」
 ぐっと両手の拳を握る天音。かなりの意気込みである。
「さーて、まずはアリス見付けて、今夜の寝床を確保しとこかなあ。猫の集まってる場所を探したら、すぐに見付かるやろ……」
 猫の姿を探して歩き出す天音。前回の例を踏まえるなら、前回程ではないにせよアリスのそばには猫が集まっているはずである。探すのは容易といえるだろう。
(色々とアンケート取りたいしなぁ)
 天音は単に幽霊を探すだけでなく、幽霊から様々なことを聞き出そうと考えていた。例えば今一番言いたいことや、焼失した東西の神薙神社についてのこと等を。上手く古くから居る幽霊に出会ったら、その謎が解けるかもしれないからだ。
「謎が解けたら、整理してその情報を売り込んで……ふっふっふ、いったいいくらで売れるやろなぁ」
 こういうのを『取らぬたぬきの皮算用』と言うのだろうが、天音は指折り数えて算段していた。
 やがて天音は猫たちの姿を見付けた。その後を追っていこうとした天音だったが――。「……くすくすくす……」
 ぴたっと足を止める天音。怪訝な表情を浮かべている。今、少女の笑い声のような物が聞こえたからだ。
「くすくすくす……真っ赤なお花……とっても綺麗なお花……」
 空耳ではない、はっきりと聞こえた。そして背後に何やら冷たい物をも感じていた。
「誰や!」
 天音はばっと背後を振り返った。そこに居たのは――天音と同じくらいの年頃の、鮮やかな色の着物に身を包んだ姫君だった。
「くすくす……あなたこそだぁれ?」
 姫君は幼女のような、それでいてどこか妖艶な笑みを浮かべた。唇は妙に紅く、色白の肌ゆえに余計に唇の紅さが際立っていた。
「うちは……って、うちのことはどうでもええねん! あんた……幽霊なんか?」
 天音は自然と身構えていた。目の前の姫君から、ただならぬ物を感じていたのだ。
「幽霊? 幽霊ってなぁに? 私は私だよ?」
 そう言ってくすくすと笑う姫君。と、突然姫君の目が紅く光った。
(あかん!)
 反射的に目を背ける天音。身につけていた護符が、ぼうっと光った。しばしの沈黙。
 天音は恐る恐る姫君の居る場所へと視線を戻した。が、そこにはもう誰も居なかった。
「消えた……」
 天音は周囲を見回したが、やはり誰も居ない。居るのは猫たちくらいだ。
 大きく息を吐く天音。安堵した刹那――ぐらりと地面が揺れた。
「うわっ!」
 揺れたのはほんの1、2秒だったが、それは強い揺れだった。幸い見える範囲では木や物が倒れるということはなかった。
「何なんやろ……これ」
 あまりにものタイミングのよさに、天音は神妙な表情でつぶやいた。
 さて、それから天音はアリスに会って東西の神薙神社のことを聞いてみた。しかしあいにくとアリスが来たのは焼失以降のことなので、情報を手に入れることは出来なかった。
 さらに幽霊を探し求めて歩き回っていた天音だったが、地震で見回りに来た警官や冬美原の市職員に見付かってしまい、散々説教されてしまったのだった……。

●アサギテレビニュース【5】
「今日夕方、午後6時47分頃に起きました地震についてのニュースです。冬美原では震度4を記録しましたが、周辺都市では揺れの観測はありませんでした。また今回の地震による被害ですが、コンビニ等の商品が床に落ちるといった被害はあったものの、人的被害および家屋の被害はなく、火災の報告もありませんでした。以上、アサギテレビニュース、唐沢敦がお伝えいたしました」

【噂を追って【1】 了】


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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【 整理番号 / PC名(読み) 
                   / 性別 / 年齢 / 職業 】
【 0576 / 南宮寺・天音(なんぐうじ・あまね)
           / 女 / 16 / ギャンブラー(高校生) 】
【 0035 / 倉実・鈴波(くらざね・りりな)
                 / 男 / 18 / 大学浪人生 】
【 0249 / 志神・みかね(しがみ・みかね)
                    / 女 / 15 / 学生 】
【 0461 / 宮小路・皇騎(みやこうじ・こうき)
        / 男 / 20 / 大学生(財閥御曹司・陰陽師) 】
【 0516 / 卯月・智哉(うづき・ともや)
                 / 男 / 21? / 古木の精 】
【 0670 / 倉実・一樹(くらざね・かずき)
                   / 女 / 16 / 高校生 】


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■         ライター通信          ■
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・冬美原へようこそ。
・『東京怪談ウェブゲーム 界鏡線・冬美原』へのご参加ありがとうございます。本依頼の担当ライター、高原恵です。
・高原は原則としてPCを名で表記するようにしています。
・各タイトルの後ろには英数字がついていますが、数字は時間軸の流れを、英字が同時間帯別場面を意味します。ですので、1から始まっていなかったり、途中の数字が飛んでいる場合もあります。
・なお、本依頼の文章は(オープニングを除き)全20場面で構成されています。他の参加者の方の文章に目を通す機会がありましたら、本依頼の全体像がより見えてくるかもしれません。
・お待たせしました、冬美原の噂を追いかけるお話をお届けします。範囲が広すぎてプレイングを書くのも大変だったと思いますが、いかがだったでしょうか? 冬美原ではこのような依頼をこれからも出してゆく予定です。
・さて、今回はほぼ皆さん個別の内容になっています。調査内容が分散するとこのようになる訳で、人によってはシリアスに、また別の人はコミカルにお話は進んでいます。
・調査結果ですが、プレイング内容によって浅く広くか深く狭くかに分かれていると思います。調べる際には1つのことに絞った方が、より深い結果を得られることになるかもしれませんね。
・地震については本文最後にあるような状況です。被害はほぼ0と言って差し支えないと思います。ただ、この影響で一部公共施設の閉館時間が繰り上がってたりするのですが。
・南宮寺天音さん、8度目のご参加ありがとうございます。えっと、調査場所なんですが、神社については少し厳しく見ています。単に『神薙神社』と書かれていた場合には、どちらか一方にランダムで決めさせていただきますのでご注意を。旧冬美原城にまつわる幽霊伝承は皆無でしたが、本文にもある通り面白いネタを拾っています。本当に、いい所を突いていると思いますよ。ちなみにコンプリートはしてます……城址公園の幽霊はあの2人だけですので。揺り戻しはもちろん、お説教です。
・次のアイテムをお送りします。次回以降冬美原でプレイングをかけられる際、臨機応変にアイテムをご使用ください。
【10:旧城主・榊原氏の家系図写し】
・効果時間:所持中永続
・外見説明:ノートに写された家系図
・詳細説明:榊原氏の家系図を一言一句漏らさず写した物。幕末頃の部分に、名前を墨で塗り消された者が存在している。非売品。
・感想等ありましたら、お気軽にテラコン等よりお送りください。
・それでは、また別の依頼でお会いできることを願って。