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<東京怪談ウェブゲーム ゴーストネットOFF>


甘露
◆店の名は『OPERA』
『最近のお気に入りの店です。
 場所がチョットわかり辛いけど、いいお店ですよ。お勧めです。』

BBSにそんな書き込みがされていた。
場所は新宿の繁華街にあるようだ。
店は良くあるBARのようでオーナーが一人で切り盛りしているらしい。
雫は良くある宣伝書きこかな?と思って削除しようとしたが、最後の一文が目に入った。

『噂では死んだ人に会えるらしいです。』

僕はまだ会えたことないんですけどね(笑・・・と書き添えてあったが、そんな噂のある店のようだった。
「死んだ人に会えるって・・・どんな人にでも会えるのかしら?」
それとも意味もなく幽霊が出る店?
「何となく興味があるわね。」
そしてその書き込みは削除を免れた。

店の名は『OPERA』
同じ名前のオーナーがやっている店だと言う。

◆The Opera
地図に書かれた場所を求め、繁華街を通り抜け寂しい裏路地へと入り込む。
路地を進むと、薄闇の中に仄かな明かりが見える。
灯りに照らされた古びた木の扉。銅板に美しい書体で刻まれた看板。
『The Opera』
オペラ座・・・その名前の通りどこか浮世離れした雰囲気に、思案深げな笑みを浮かべると綺羅・アレフは扉を押した。

◆静かな時間の中で
「いらっしゃいませ。」
軽やかなドアベルの音が来客を店内に告げる。
店内に客の姿はなく、カウンターの向うから女主人の笑みが綺羅を出迎えた。
美貌の女主人は何故か顔の右半分を白磁の仮面で覆っている。
しかし、それを違和感と感じさせないものが店の雰囲気にはあった。
綺羅はゆっくりと店内を見回す。
店内はそう広くはない。カウンターと奥に小さなテーブルが二つあるだけだ。
古きころの英国を模したシックなつくりの店内には、壁のいたるところに鏡が幾つも飾られている。
その鏡を見ていると、歌劇の舞台裏を見ているような気持ちになった。
「初めてのお客様ですわね。」
「うむ。話を聞いたゆえ立ち寄らせてもらった。」
綺羅は女主人が勧めるままにカウンターの椅子に座る。
カウンター席か・・・と思っていたが座ってみるとなかなかに心地がよい。
「何にいたしましょう?」
女主人は優雅に微笑んで綺羅にたずねた。
こうしてみるとこの女主人は商売を商う人間には見えなかった。
客商売の割には媚びたところがなく、威風堂々とした感じがする。
悪い感じではないのだが、水商売を商う女性というよりは大舞台を張るプリマの様だ。
「酒と料理を貰おうか。適当に頼む。」
しかし、綺羅の存在も負けてはいない。
ゆったりと腰を据え、カウンターに肘を預けるその肩には豊かな銀髪が月光の輝きを湛えて流れている。
女主人の美貌を暗闇のしとやかさとするなら、綺羅の風情は月影の鋭い静けさに似ていた。
いずれにしろ二人とも妖艶と言う言葉に相応しい美貌の主だ。

◆過去
「どんなお話をお伺いになられました?」
多種の酒瓶が並ぶ棚から瓶を取り、美しいカットのグラスに注ぎながら女主人は話し掛けてきた。
先ほど、綺羅が話を聞いて・・・という件のことのようだ。
「面白いお話がいろいろ流れているようですわね。」
綺羅は気だるげに女主人に目線を向けて答えた。
「彼の国の者ども集いし場所、姿なき者の姿ある場所・・・そう聞いた。」
「まぁ、それではうちの店は幽霊屋敷のようですわね。」
女主人は愉快そうに笑う。
「では、お客様は何方かにお会いにいらっしゃいましたの?」
そう言われて綺羅はふと懐かしい面影を胸に過ぎらす。
遠い昔に死に別れた愛しい人。
転生を誓い、来世に会うことを約束し、いまだに会えぬ恋人。
教会の教えを信じず、遠方の神官の言葉を信じ、綺羅に待っていて欲しいと告げ死んだカイン。
しかし、その思いは口にせず、冷ややかな眼で綺羅は女主人を見つめた。
「さぁな。長い時を過ごしていると、時に酔狂な趣を楽しみたいと思うこともあるのだ。」
金色の瞳がチロリと光る。
それは無言の圧力にも見えたが、どこか諦めに似たものでもあった。
この店に対するものか・・・会えぬ恋人に対するものか・・・
「随分と長い時間を渡ってお出でですのね・・・」
女主人は綺羅のことを知ってか知らずかそう呟いて、綺羅に酒の注がれたグラスを渡した。
綺羅は差し出されたグラスを手に取る。
「BloodyMary(血まみれのメアリー)か。皮肉な品を選んでくれるな。」
グラスに注がれた深紅の液体を飲み干す。
血まみれという毒々しさからは思いもよらぬ爽やかな息吹が体内に流れ込む。
「カトリック復興のためプロテスタントを多数迫害したイングランドの女王の名か。」
そのカクテルが綺羅に味あわせているのは、異教とされた教えを支えに戦う女王の姿か、または恋人カインの紅の瞳か。
「姿の見えぬロマンスの主に会いたいと思いまして?」
「紛い物や曲芸は好まぬ。私が求めるものはただ一つであるが故に、真実のものでなくてはならない。」
幻覚を作るのは容易いことだ。過去を呼ぶものも居る。
しかし、綺羅にとって必要なのは紛い物の幻覚や過ぎ去った幻影ではない。
転生し自分に会いに来るという約束を交わしたカインというその人だけなのだ。
「潔いですわね。それでいて情け深い・・・長生の方は皆さん長い年月磨かれて魂まで美しくていらっしゃる。」
女主人は意味ありげに呟き、芝居がかった仕草で言った。
「ここはオペラ座、そして私はお客様にお望みの舞台をお見せするのが役目。ほんのひと時ですが夢をご覧になってくださいませ。」
「私は手先のごまかしなど要らぬ。」
「手先のごまかしではありません。ですが、それはほんの一瞬。いつ来るやも知れぬが、必ず来る未来のほんの先払い。」
女主人はそう言って胸に飾っていたエメラルドの宝玉をそれをつなぐ豪奢な鎖から外した。
それを魔術師のしなやかさで指先から床へと落とした。
カシャーンッ・・・
宝玉は涼やかな音を響かせて細かく砕け散った。
そして・・・

◆未来
「カイン!」
綺羅は驚きに眼を見張り、椅子から立ち上がった。
宝玉が割れたその場には幾歳月も待ち焦がれた恋人の姿があった。
『キラ・・・』
その声は違えようもなくカインのものだった。
ゆっくりと恐る恐る綺羅は手を差し伸べ、そこに居るカインへと触れる。
服を通してもわかる。暖かな血の感触。生きるもののエナジー。
幻覚でも手品でもない。
全てにおいて唯一の真実がここに立っているのだった。
『待っていてキラ・・・少しの辛抱だ。必ず、必ずキミの元へ迎えに行くから。』
「カイン・・・」
カインの言葉が深く胸に染み入る。
全てが変わるほどの時間を経て再び交わされた約束。
「待っている。必ず待っている・・・カイン・・・」
綺羅も再び約束を交わす。
その言葉を聞いて、カインは安心したように静かに微笑むと、暗がりに溶けるように姿を消していった。

「今のは・・・」
姿を消したカインを思いのほか冷静な気持ちで見ていた綺羅は、足元に落ちているエメラルドを拾い上げた。
宝玉は割れては居らず、傷一つ無い。
「この先にお客様が巡り逢われる未来ですわ。その未来の姿をほんの少しだけ今にお呼びしました。」
女主人は綺羅から宝玉を受け取り、再び胸に飾る。
「でも、私にはこれで精一杯。この未来がいつ来るのかはわかりませんし、再び未来をお呼びすることは出来ません。」
「真夏の夜の夢・・・ひと時の逢瀬というわけか。」
綺羅は再び椅子に腰をおろす。
カインとの再会はほんの一瞬であったが、千年も時を経たような重みが倦怠感となって残っていた。
「まこと、酔狂な趣であった。」
そう言って深くため息を落とした。

◆終幕
ため息をつき黙ってしまった綺羅に女主人は新しいグラスを差し出した。
「これは、メアリー女王より未来のイングランドの女王へ成婚祝いの為に奉げられたカクテル。どうぞ、未来の恋の成就の為に。」
カクテルの名前はAlexander(アレキサンダー)イングランドへ嫁いだ王女の名前。
綺羅はグラスを取り、静かに唇にあてた。
クリーミーな甘いカクテルがゆっくりと喉を潤わせてくれる。
乙女のように夢見ようとも、決してその潔さと気高さを失わない。
綺羅はまた今夜から待ち人を待って長い旅路につく。
綺羅は苦く笑うと女主人に言った。
「私の恋には少し甘すぎるかもしれんな。」
そして、静かに椅子を立った。

「またのお出でをお待ち申しあげております。」
女主人の言葉に見送られ、綺羅は店をでた。
外はすっかり日が沈み、冴え冴えとした月が顔を覗かせている。
綺羅は心地よい酔いを感じながら、明日から始まるまた長くなるかも知れぬ旅路へと思いをはせながら家路についたのだった。

The End ?
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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

0815 / 綺羅・アレフ / 女 / 20 / 長生者

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■         ライター通信          ■
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今日は。今回は私の依頼をお引き受けくださり、ありがとうございました。
今回はなんだか夢か現かわからぬほんのりとした話でしたが、如何でしたでしょうか?
綺羅さんがみた人物が本当にカインだったのかは綺羅さんだけにしかわからないことなのかもしれません。綺羅さんのこれからを楽しみにしております。頑張ってください。
それではまた、どこかでお会いしましょう。
お疲れ様でした。