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<東京怪談ウェブゲーム 界鏡線・仮面の都 札幌>


調査コードネーム:キモダメシ奇譚
執筆ライター  :水上雪乃
調査組織名   :界鏡線シリーズ『札幌』
募集予定人数  :1人〜2人

------<オープニング>--------------------------------------

「‥‥‥‥」
 紙片を眺めて溜息をつく。
 北斗学院大学心理学研究所。新山研究室。
 部屋の主が、鏡に向かったガマガエルのようにダラダラと汗を流している。
 新山綾。
 新進気鋭の助教授で、それなりの美貌の持ち主であるのだが、
「むむむぅ‥‥」
 鬱陶しいこと、この上ない。
 いくら必死に睨みつけても、紙に書いてある内容が変わるわけでもないのに。
 肝試し大会の告知だった。
 彼女のゼミの学生が計画したもので、ゼヒ、綾にも参加して欲しいという。
 担当教官としては、出席しなくてはなるまい。
 たとえ大の恐がりでも。
 一応、コセイに属することなので笑ってはいけないのだが、黒髪の魔術師は心霊現象が苦手なのだ。
「うぅ‥‥いやだなぁ‥‥」
 なにしろ女性の少ない新山ゼミのこと、かなり年齢差のある彼女にまで誘いがかかってしまう。
「場所は野幌森林公園かぁ‥‥ホントに出るって噂のトコだし‥‥」
 いっそ、腹痛を起こすか。
 あるいは、捻挫とか。
 教育に奉じるもののクセに、けっこう姑息なことを考えてみたりもする。
 まあ、切羽詰まっているのだろうが、情けないことおびただしい。
 それに、じゃあ延期という運びにでもなったら目も当てられないだろう。
 相手は暇をもてあましている夏期休業中の大学生だ。
「と、とにかく。誰かに協力して貰わないと‥‥」
 呟いた綾が、脳裡の人名録をめくる。
 少しだけ湿った風が、そよそよと研究室に吹き込んでいた。



※特殊シナリオです。
※綾の精神力は10点です。残りポイントが3点以下になると気絶します。マイナスになると、パニックを起こして物理魔法が暴走します。
 頑張ってゴールまで導いてください。
 恐怖ポイントは、5ヶ所設定されています。
 受けるダメージは、それぞれ1点から5点です。
 未然に防ぐも良し。驚いた後のフォローでダメージを軽減するも良し。です。
※脅かす側の参加もOKです。
 その場合は、綾を気絶させるとクリア。物理魔法を暴走させてしまったり、ゴールにたどりつかれてしまうとゲームオーバーです。
※水上雪乃の新作シナリオは、通常、毎週月曜日と木曜日にアップされます。
 受付開始は午後8時からです。


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キモダメシ奇譚

 淡く輝く夜の姫が、眷属たちをしたがえて鬱蒼とした森を照らす。
 野幌森林公園。
 札幌市、江別市、北広島市にまたがる広大な野幌丘陵に造成された公園である。
 境域は二〇〇〇ヘクタールを越えるというから、ばかばかしいほどの広さだ。
 いま、この公園に二〇名ほどの男女が集まっている。
 北斗学院大学宗教学部新山ゼミの面々だ。
 肝試し大会である。
 まあ、夏の風物詩ともいえる行事なのだが、
「東京から呼び出される身にもなってもらいたいものね」
 シュライン・エマが嘆息した。
 夏の空を思わせる瞳には、呼び出した本人が映っている。
 茶髪の助教授どのだ。
 死にそうな声で、
「助けてぇ〜 シュラインちゃん〜」
 などと電話を寄越すから、心配になって文字通り飛んできてみれば、このていたらくである。
 私ほどばかばかしい理由で北海道にきた人間っていないわね。きっと。
 やや情けないような気もする。
 とはいえ、放っておくというのもまずいのだ。
 恐慌に陥った魔術師が、のべつ幕なしに物理魔法など暴走させたら、このあたりの地形が変わってしまう。
 青い瞳の興信所事務員は、自然環境と野生動物を守る光の戦士なのだ。
 っと、ここまでいうとさすがに嘘である。
 まあ、腐れ縁というヤツだ。仕方なかろう。
 それに、肝試しなど随分と久しぶりだ。
 納涼を兼ねて参加するのも悪くない。
 なんとなく、理由付けに苦労しているようなシュラインであった。
 幾つになっても、友情などという単語を思い浮かべるのは照れくさいものである。
 一方、そんな恥ずかしさとは無縁の男もいる。
 巫灰滋だ。
 黒い髪と紅い瞳をもつ浄化屋は、当然のように綾のとなりにたたずんでいた。
 腋に長い包みを抱えて。
「‥‥呆れた。灰滋ったら貞秀(あんなもの)まで持ち出して‥‥」
 苦笑するシュライン。
 巫が携えているのは日本刀である。刃は潰されていて斬撃には使用できないが、それ以上の能力を持つ霊刀だ。
 むろん、たかが肝試しなどで霊刀を用いる機会などない。
 登場するのは学生が扮した幽霊だけなのだ。
 格好つけの小道具に使われたインテリジェンスソードこそ、良い面の皮といえる。
 もっとも、貞秀自身(?)は不快感を示してはいない。
『格好の良いところを見せるのだぞ。愚孫』
「言われるまでもねぇぜ。義爺さん」
『それにしても、綾も情けない。良い年をして肝試しが怖いとはの』
「可愛いじゃねえか。クールなのもいいけど、こういうのもいい感じだぜ」
『節操なしめが‥‥』
 浄化屋と霊刀の間で交わされた無言の会話である。
 戯けているのか真剣なのか良く判らない巫だが、武器を持参した理由は他にもあった。
 それは、つまり、圧倒的に数の多い男子学生どもへの牽制だ。
 暗闇に紛れて、彼の恋人に不埒な振る舞いをしないとも限らない。
 この点、幽霊よりも血肉を持った存在の方が厄介だ。
 普段なら、そういったことに敏感な綾だが、どうにも余裕がないらしく、先程から何やらぶつぶつと呟いている。
「‥‥コースは一キロちょっとよね‥‥人間の歩行速度は時速四キロくらいだから‥‥一五分くらいかかるのね‥‥目を瞑って息を止めて‥‥無理か‥‥死んじゃうもの‥‥」
 目はともかくとして、息を止めるのにどれほどの意味があるのだろう。
 浄化屋も興信所事務員もそう思ったが、賢明にも口に出さなかった。
「‥‥一五分だから無理なのよね‥‥だったら時間を短縮しちゃうとか‥‥あ、そうだ。浮舟つかって二〇秒で駆け抜ければ‥‥」
「ばか」
「やめろって」
 左右から綾の頭を小突くシュラインと巫。
「あうぅ‥‥」
 恨めしそうに魔術師が睨みつけるが、お構いなしだ。
 だいたい、始まりもしないうちから暴走してどうするのだ。
「うー」
 唸っている。
「ほらほら綾さん。これでも食べて落ち着いて」
 苦笑しながら、シュラインが何かを渡す。
「わぁ☆」
 嬉しそうに綾が頬張る。
 一口サイズに切ったアップルパイだ。綾の大好物である。
 これぞ、事務員の秘策その壱「餌付け作戦」だった。
 ‥‥まるで子供か動物のようだが。
「終わったら、美味しいのを焼いてあげるから、ね」
 保母さんか?
 巫が内心でツッコミを入れる。
 まあ、シュラインの心境としては近いものがあるかもしれない。
 クールな魔術師。各国諜報機関と戦い、この国の日常を影から支え続けた冷血の女傑。異形の怪物相手に一歩も退かない鋼の心。
 そんな綾の苦手が「お化け」とは。
 おかしいを通り越して哀しくなってくる。
 しかも、三人のなかでは綾が最年長なのだ。
 情けないこと夥しい。
 でも、と、シュラインは語る。
「初めて会った頃よりは、ずっと良いわよね」
「まったくだ」
 巫が頷いた。
 真冬の日比谷公園。
 寒風に茶色い髪をなびかせる魔術師。
 次々と地に這わされる仲間たち。
 ワインに血を滴らせたような綾の声。
 それは、恐怖と屈辱の記憶。
 あの頃は、このような未来図など思い浮かべなかった。
 青い瞳の事務員は友情を結び、紅い瞳の浄化屋は愛を育む。
 変遷とはよくいったものだ。
 感慨に浸るような性格の二人ではないが、ときとして自らの人生航路を振り返ることもある。
 幾多の出会い。幾多の別れ。
 多彩なのは、喜ぶべきなのだろう。きっと。
「さて。そろそろ行こうぜ」
「了解」
「あうぅ‥‥」
 巫とシュラインに左右から手を引かれ、綾が歩き出す。
 月の光と森の闇が織りなす舞台へと。

☆★残り精神力ポイント 10☆★


 遊歩道を歩む三人を、静かに見つめる緑の瞳。
 悪戯っぽい光が宿ったそれは、日常を日常を知るものには奇異に映るだろう。
 草壁さくらである。
 肝試しへの参加の仕方は色々あるが、脅かす側に回るのも一興なものだ。
 まして、彼女にとって人を驚かすのは本領である。
 白い顔に刻まれた微笑が異様に艶めかしい。
 この世のものとは思えないほどに。
 それこそ、綾などこの微笑だけで気絶しそうだ。
 つまらなすぎるが。
「‥‥でも、少し計算が外れました‥‥シュラインさままで一緒とは」
 声に出さず呟く。
 巫が綾と行動をともにするのは判っていた。
 至極当然のことだ。
 ただ、シュラインも一緒ということになれば、事態は少々異なってくる。
 ある程度以上は接近できないのだ。
 興信所事務員の武器は、その聴覚だ。
 どれほど足音や息づかいを消そうとも、超聴力から逃れることは叶わない。
「五メートル以内に接近しないようにするのが賢明ですね‥‥」
 くすりと笑い、さくらは再び闇の中へ消える。

 一方そのころ、巫、シュライン、綾の一行は第一関門に差し掛かっていた。
「学生さんたちがいるわよ。綾さん」
「う、うん」
「何人かわかるか?」
「三人。息遣いからして、なんか被り物をしてるみたいね」
 学生たちの隠れ方など、興信所事務員にとっては、子供騙しにすらならぬ。
 肝試し程度で能力全開というのも大人げないが、物理魔法を暴走させないためには、楽しさが減殺するのは仕方なかろう。
「ま、場所と人数が判れば怖くねぇだろ? 綾」
「う、うん‥‥」
 自信なさげな綾の返事。
 それを遮るように、怪物たちが躍り出す!
「ケーッケッケケケケー!!」
 吸血鬼。フランケンシュタインの怪物。狼男。
 奇声をあげながら三人を取り囲むモンスター。
「ザマスーーーー」
「フンガーーーー」
「ガンスーーーー」
「‥‥なんちゅうベタな‥‥」
「‥‥帽子を被った少年がいないわね‥‥」
「あわわわわ」
 呆れかえる浄化屋と事務員。慌てる助教授。
「おっと危ない危ない。ほら綾さんこれ食べて」
 魔術師の口にパイの欠片を放り込む。
「むぐむぐ」
 綾が目を白黒させる。
 巫が学生を追い払う。
 こうして、一行は難なく第一関門を突破した。

◇ダメージ軽減4ポイント◇
☆★残り精神力ポイント 9☆★


 なんだか不気味な効果音が流れる。
 お化け屋敷のアトラクションなどでよく流れているあの音だ。
「あうぅ」
「テープだからね。一応言っとくと」
「ふと思ったんだが。綾はレングとかも見れなかった口だろ?」
「ソダコいや〜」
「‥‥あれ‥‥怖かったっけ?」
 シュラインなどが不思議に思ってしまうのは、銃弾や魔術が飛び交う戦場を平然と闊歩する綾が、なぜ作り物と判っている映画などを怖がるのか、ということだ。
 かつて対峙した陰陽師軍団、そして不気味なインスマウスたち。
 それらの方が余程怖いではないか。
 まあ、このあたりは理性よりも感情が支配する領域なのだろう。
 おそらく本人にも論理的な説明はできまい。
 カミナリを怖がるようなものだ。
 と、闇の中から何かが飛来する。
 しゅうしゅうと音をたてて。
 蛇の威嚇音ではない。導火線が燃える音だ。
 爆竹!?
 いち早く悟ったシュラインが自らの手で綾の耳を塞ぐ。
「わーーーー!!」
「うきゃーーー!」
 音を聞かせないために大声を出すシュラインと、わけも判らず叫ぶ綾。
 かしましいことこの上ない。
 彼らの周囲で小さな爆発が連続する。
「ち! やりすぎだぜ」
 沸き上がる煙の中を巫が駆ける。
 森の中から伝わる動揺の気配。
 そこか!
 剣光一閃。
 ばたばたと倒れ伏す学生たち。
 むろん、充分に手加減している。
 一〇分もすれば目を覚ますだろう。ヤブ蚊に刺される程度のことは覚悟しておくがよい。
 軽い音をたてて霊刀が鞘に収まる。
 視線の先では、女性二人が肩で息をしていた。
 どうやら叫びすぎて疲れたらしい。
 苦笑を浮かべる巫。
 第二関門は、無事に通過できたようだ。

◇ダメージ軽減4ポイント◇
☆★残り精神力ポイント 8☆★


「いやぁぁぁ! ひとだま〜〜〜!!」
「‥‥最近はいろんな色のが売ってるのね‥‥」
「‥‥怖いってより、カラフルで綺麗だな」
 目前を人魂が飛び交っている。
 赤。ピンク。緑。青。紫。
 実に多彩だ。
 そして、怖くはない。
 所詮、花火の一種。そもそも吊っている針金が見えるではないか。
「こ、怖くないもん‥‥ひとだまってのは、リンやメタンガスが自然着火して起こる現象よ‥‥こわくないんだから‥‥」
「‥‥‥‥」
「‥‥あのな綾。ご高説はもっともだが、そんな大層なモンじゃねぇぞ‥‥」
 巫が丁寧にツッコミを入れる。
 あきれ果てているシュラインとは大違いだ。
「あぅぅぅ‥‥」
「埒が明かないわね‥‥」
「まったく‥‥」
 溜息をついた巫が、貞秀で針金を断ち切る。
 ぼとぼとと地面に落ちる人魂。
「ハ、ハイジぃ‥‥呪われちゃうよぅ‥‥」
 情けない声を出す綾。
 処置なしという言い方もできる。
「‥‥綾さん。目を瞑って灰滋の背中におぶさって」
 海より深い溜息をつきながら、シュラインが指示する。
 一応、作戦その弐であった。
 最後の手段ともいう。
 これならば怖いも何もない。浄化屋の俊足によってゴールまで運ばれるだけだ。
 まあ、なにが肝試しなのか判らない方法だが、この際は手段を選んでいられない。
 ビヒりまくっている綾が鬱陶しい、という説もある。
「う、うん‥‥」
 おとなしく背負われる綾。
「しっかり掴まれよ」
 巫が声をかけた。
 どことなしか、弾んだ声である。
 双丘の感触が布地越しに伝わってくる。まあ、男としては当然の反応であろう。
 幾度身体を重ねても、良いものは良いのだ。
「じゃあ、ちゃっちゃと進むわよ」
 浄化屋の表情はさりげなく無視して、シュラインが促した。
「了解!」
「おー‥‥」
 駆け出す巫。
 しがみつく綾。
 人ひとり背負っているとは思えぬ俊足だった。
 やや遅れてシュラインが続く。
 うやむやのうちに突破された第3関門では、人魂の残骸が虚しく燃えていた。

◇ダメージ軽減3ポイント◇
☆★残り精神力ポイント 5☆★
 

「ふむ。そうきましたか」
 こっそりと三人を尾行していたさくらが苦笑を浮かべた。
 なかなか思い切った手段に訴えたものである。
 この分だと、第四関門は無傷で突破されよう。
 残すは最終関門だけだが、おそらくここでもナイトたちが機転を効かすだろう。
 となると、綾は無事にゴールする確率はかなり高い。
 本来、それでかまわないのだ。
 さくらの目的は、物理魔法を暴走させないことなのだから。
「ただ、それだと、ちょっと面白くないと思うのですが‥‥」
 せっかくの納涼肝試し。
 少しは背筋の凍る思いをした方が楽しかろう。
 ふつふつと悪戯心が沸き上がってくる。
 本能、というのだろうか。
 普段は清楚でおとなしやかな彼女も、DNAの呼び声には勝てないのかもしれない。
 嫣然たる微笑を浮かべ歩調を速める。
 金の髪が夜風になびいた。


 一瞥すら与えずに第四関門を突破した巫が、唐突に足を止める。
「‥‥‥‥」
「どうしたの?」
 追いついてきたシュラインが声をかけた。
 目配せをする浄化屋。
 口には出さぬ。表情にも出さぬ。
 だが、黒髪の事務員は正確に意図を察した。
 いるのだ。
 なにか。そう、この世のものならざる何かが。
 むろん、綾に悟られるわけにはいかない。
 ゴールは間近だ。
 このまま突っ切ってゆく方が良いだろうか。
 微妙な判断だった。
 単なる地縛霊ならば無視しても問題ない。だが、明確に悪意を持つ霊なら‥‥。
「綾、ちょっと降りてくれ。疲れちまった。シュライン、頼む」
「判ったわ。綾さん、根性なし灰滋は放って置いて、私たちは進みましょう」
「う、うん‥‥わかった」
 わけがわからないまま綾が頷く。
 仲間たちの演技には気が付いていない。
 普段ならば、表情や仕草から絶対に気が付くだろうが、いまの彼女はそのあたりの中学生と一緒である。
 論理思考力や観察眼など、月の向こう側まで放擲してしまっている。
 シュラインが微笑、巫が声を立てて笑った。
「根性なしってのは酷いぜ。綾を背負って走ったんだから当たり前だろ」
「うー わたしそんなに重くない‥‥」
「はいはい。のろけるのは後にしてね。行くわよ綾さん」
「あ‥‥うん」
 こうして、巫ひとりだけが残された。
 さくらの予測通りに。
 浄化屋の性格は良く知っている。その為人も。
 積極攻撃型に属する彼は、自らを囮として恋人の安全を確保するつもりなのだ。
 見上げた心意気である。
 愛のなせる業、ということであろうか。
「だからこそ、ちょっとだけ悪戯をしたくなるというものですけれど‥‥」
 微笑する美女。
 濃密な夜気が、深さと暗さを増してゆく。
「‥‥すげぇ氣だぜ‥‥アイツを先に行かせてよかった。な、義爺さん」
『ああ。じゃが‥‥』
「なんだ?」
『この気‥‥どこかで‥‥』
 貞秀が言葉を濁す。
 と、目前に何かが出現した!
「くぅ! 実体化までできるのか!?」
 霊刀を構え直す巫。
 金色の風が吹き付ける!
「‥‥あ‥‥れ?」
「ごきげんよう。巫さま」
「さくら!?」
 金色の髪。緑の瞳。白磁の肌。たおやかな和装。
 見慣れた姿に、浄化屋が面食らう。
「今宵は、脅かす側で参上いたしました」
 謎めいた笑い。
 首を傾げた巫だったが、一瞬後、美女の意図に気づく。
「あ‥‥!」
「はい。分断させていただきました」
「あちゃ〜 してやられたかぁ〜」
 頭をかきながら振り返ると、遙か前方に倒れ伏す綾が見えた。
 慌てているシュラインも。
 参ったな。完全に裏をかかれたぜ。
 巫が笑う。
 笑うしかないという状況だ。
 上空の月と、さくらも、おかしそうに笑った。


「わー! ちょっと綾さんしっかりしてぇ!?」
 シュラインが叫んでいる。
 どうして助教授がいきなり倒れたか、まったく理解できない彼女だった。
 それもそのはずで、綾は幻術の虜にされていたのだ。
 魔術師が見たのは、黒い髪で白い和服を着た女性である。
 ご丁寧に三角巾までつけた。
 まあ、かなりわざとらしい幽霊だが、これは仕方がない。
 あまりに怖すぎるモノを見せると、それこそ恐慌を起こしかねないのだ。
 このあたりのかねあいが、さくらにとっても苦労のしどころだった。
「Q〜〜」
「綾さぁ〜ん」
 やがて、二人の前にさくらと巫が現れる。
「あー!!」
 それよって、シュラインも真相を悟った。
 判っていないのは、無意識の野に逃亡してしまった綾だけである。

◇ダメージ軽減1ポイント◇
☆★残り精神力ポイント 1☆★
♪げーむおーばー♪


  エピローグ


 終日営業の喫茶店。
 なんだかムクれている綾に、さくらが笑いかけていた。
「ごめんなさい。こっそり参加した方が面白いと思いまして」
「うー 電話したとき、さくらちゃん来れないって言ってたのにー」
 結局、伏兵の存在によって魔術師一行は敗北してしまったわけだが、そもそも誰に電話したのかきちんと仲間に伝えなかった綾が悪い。
「それにしても、見事な分断策だったぜ」
 コーヒーをすすりながら巫が誉める。
「賭けの要素が強かったんですけどね。シュラインさまが残留したら成立しませんし」
 応えるさくらの前には、チョコレートパフェの器が鎮座している。
「でも、いい迷惑よね。わざわざ東京から呼び出されて」
 アイスティーのグラスをストローで掻き回しつつ、毒のない口調で言うシュライン。
「判ってるわよぅ。だからこうして奢ってるんじゃない」
 綾も笑う。
 どうやら、ほぼ復調したようだ。
「あ、そうだ。知り合いから十勝牛が届いたのよ。四キロも。良かったらお土産に持っていって。さくらちゃん。シュラインちゃん」
 まあ、これでも反省しているのだろう。
 苦笑して頷く二人の美女。
「俺には?」
 問いかける巫。
「ハイジはいつでも食べれるでしょ。明日からステーキ三昧させたげる」
「そいつは豪気だ。楽しみにしてるぜ」
「‥‥なんだか、やたら暑くなってきたような気がしない? さくら」
「そうですね。体感気温五一度というところでしょうか?」
 シュラインとさくらがからかい、魔術師と浄化屋が赤面した。
 窓の外に白磁の月が輝く。
 たおやかな夜の姫は、無言のまま人々の営みを見つめていた。



                      終わり


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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

0086/ シュライン・エマ /女  / 26 / 翻訳家 興信所事務員
  (しゅらいん・えま)
0134/ 草壁・さくら   /女  /999 / 骨董屋『櫻月堂』店員
  (くさかべ・さくら)
0143/ 巫・灰慈     /男  / 26 / フリーライター 浄化屋
  (かんなぎ・はいじ)       with貞秀

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■         ライター通信          ■
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お待たせしました。
「キモダメシ奇譚」お届けいたします。
えーと、ちょっと変わった書き方をしてみました。
楽しんでいただけたら幸いです。

それでは、またお会いできることを祈って。