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<東京怪談ウェブゲーム ゴーストネットOFF>


甘露
◆店の名は『OPERA』
『最近のお気に入りの店です。
 場所がチョットわかり辛いけど、いいお店ですよ。お勧めです。』

BBSにそんな書き込みがされていた。
場所は新宿の繁華街にあるようだ。
店は良くあるBARのようでオーナーが一人で切り盛りしているらしい。
雫は良くある宣伝書きこかな?と思って削除しようとしたが、最後の一文が目に入った。

『噂では死んだ人に会えるらしいです。』

僕はまだ会えたことないんですけどね(笑・・・と書き添えてあったが、そんな噂のある店のようだった。
「死んだ人に会えるって・・・どんな人にでも会えるのかしら?」
それとも意味もなく幽霊が出る店?
「何となく興味があるわね。」
そしてその書き込みは削除を免れた。

店の名は『OPERA』
同じ名前のオーナーがやっている店だと言う。

◆The Opera
地図に書かれた場所を求め、繁華街を通り抜け寂しい裏路地へと入り込む。
路地を進むと、薄闇の中に仄かな明かりが見える。
灯りに照らされた古びた木の扉。銅板に美しい書体で刻まれた看板。
『The Opera』
結城 凛は軽く深呼吸すると、木の扉を押し開けて店の中へと一歩踏み込んだ。

◆Classic
「いらっしゃいませ。」
ドアベルが軽やかに来客を告げると、カウンターの向うに居る女主人が微笑みで出迎えた。
ちょっと圧倒されるような美貌の女性だな・・・と凛は思った。
客商売の割には媚びたところがなく、威風堂々とした感じがする。
悪い感じではないのだが、水商売を商う女性というよりは大舞台を張るプリマの様だ。
「初めてのお客様ですわね。」
女主人はそう言って凛にカウンターの席を勧める。
凛のほかに客の姿はなかった。
店はあまり大きな店ではなかった。
カウンター席が大部分を占め、奥に2つばかりテーブルが用意されているだけだ。
人もどうやらこの女主人だけらしい。
「私はオペラと申します。以後お見知り置きくださいませ。」
「あ、よろしくお願いします。」
オペラにつられて、凛も思わず頭を下げる。
「何に致しましょう?」
「え?」
「お好みを言っていただければ、何なりとお作り致しますわ。」
オペラはそう言って並べられた酒瓶を示す。
凛はついうっかりここがBARであることを失念していた。
BBSに書き込まれた幽霊のことばかり考えていたせいなのかもしれない。
「あ、じゃあ軽めのものを。」
数え切れないほどの酒瓶から選ぶのもよくわからないので、凛は好みをオペラに告げた。
「少し辛口でもよろしいかしら?」
そう言って、オペラは棚の上からビンを取り優雅な仕草でカクテルを作り上げる。
「どうぞ。」
差し出されたグラスにはさわやかなグリーンがそそがれている。
そっと口をつけると柔らかな甘さの中に目の覚めるような涼しさが感じられた。
「美味しい・・・これ、何て言うんですか?」
「Gimlet(ギムレット)」
「へぇ・・・これが・・・」
凛も聞いたことのある名前のカクテルだった。
もうひとくちグラスに唇をつける。
素直に美味しいと感じる味だ。
「ギムレットとは錐のことで、その刺すような刺激からつけられた名前なのだそうですわ。」
オペラが妖艶な笑みを浮かべて言う。
錐というのは比喩なのだろうか?
それとも考えすぎだろうか・・・?
凛は当初の目的を思い出し、少しこの女主人と話をしてみようと思った。

◆噂話
「私、このお店の噂を聞いて来てみたんですよ。」
凛は少しストレートに話を切り出した。
この女主人相手に回りくどい事を言っても無駄・・・そんな気がしていた。
「まぁ、どんな噂ですか?」
「死んだ人に会える店・・・だと。」
そう言って凛は手にしたグラスに口をつけ喉を潤わす。
「それを信じていらっしゃいます?」
オペラはグラスを磨く手を休めて、凛を見つめた。
凛は一瞬、答えに戸惑う。
何と答えるべきか。
凛は幽霊というものの存在を知っている。それを呼ぶのを生業とする者が居ることも知っている。
しかし、オペラのこの言葉の裏にあるものはなんだろう?
肯定か・・・否定か?
そんなことを考えていると、新たな来客を告げるベルの音が軽やかに店内に響いた。

「いらっしゃいませ。噂をすれば・・・ですわね。」
オペラは意味ありげな笑みで入ってきた司 幽屍を出迎える。
「何か噂されておりましたか?」
中年の落ち着いた風情の男性はそう言って笑うとカウンターの凛から2つばかり離れたところに座った。
「こちらのお客様と幽霊のお話をしていたところでしたの。」
オペラはカウンターに座った凛を紹介する。
凛は軽く会釈して答えた。
「結城 凛と申します。初めまして・・・。」
そう言ってから凛は司を正面から見て驚いた。
「あ、あなたは・・・」
「司と申します。ご覧になられた通り「幽霊」です。」
司はにっこり微笑んで言った。

◆幽霊の心の中
「では、あなたもBBSの書き込みをご覧になっていらっしゃったのですか。」
司はカウンターに置かれたグラスを弄びながら言う。
オペラは幽霊の司にも注文を聞き、普通の客に接するのと同じように注文の品を差し出した。
当然、司が幽霊であることは知っているのだが、何か特別なものを見せる様子はない。
案外、幽霊のお客にはなれているのかもしれない。
「あの、あなたも幽霊に会いに来たのですか?」
凛が失礼にならない程度にたずねる。
司はそれに機嫌よく答えた。
「まぁ、それもありますが・・・この店に興味がありまして。」
「それは嬉しゅうございますわ。」
オペラは司の言葉にころころと笑う。
「どうぞ、これからもご贔屓にお願いいたします。」
「それで・・・私以外の幽霊はお見えになりましたか?」
司はオペラにたずねた。それは凛も聞いてみたいことだった。
「姿無きお客様でしたら・・・ほら、今もおいでですわ。」
すっと、大きなエメラルドの指輪が飾った指で二人の背後を指差す。
背後の壁には幾つもの鏡が飾られており、二人とオペラを映していた。
「あ・・・」
そして、時折、おぼろげな姿が鏡の中を通り過ぎる。
鏡の中に居るお客のようだ。
「このお客が噂になっているのかな・・・」
凛は軽く思案するように目を伏せる。
「この店は人を選びます。そして求められる方の前に私が現れます。」
オペラはそう言って再び妖艶な笑みを浮かべる。
その笑みはなにかゾクリとさせるものを含んでいる。
嫌なものではない。だが、何か感じさせるような笑みだった。
「人を選ぶ?」
凛はその話に興味を覚えた。
「そんな感じがしますね。人を選び、目的を選ぶ・・・漠然とですが。」
司はこの店に感じていたことを言葉にした。
司は以前一度この店に来たことがあったが、そのときは色々と取り込んでいてバタバタと店を出ることになってしまった。
その時から感じていたことだったが、こうして落ち着いて腰をおろすと、より一層興味は深まった。
「オペラ座は夢をかなえる場所。望みの夢を差し上げるための店。私はその夢を差し上げるために皆様の前にこうしてお邪魔させていただくのです。」
「オペラ座に住まう者はプリマドンナとプリモウォム、そしてファントムだけだと仰ってましたね。」
「そして私は音楽の天使。夢をかなえるためにここに。」
司とオペラの会話を聞いて、凛もはっと思い当たる。
(オペラ座の怪人・・・)
幻想的な舞台
愛をかなえるために奔走するファントム
確か、ファントムの名は「音楽の天使」
よく見かける芝居のポスターを思い出す。
白磁の仮面のオペラ座の怪人・・・
「オペラさんの望みはなんなのですか?オペラさんがかなえるべき夢って・・・」
凛はそう言うとオペラの瞳を深く覗き込んだ。
黒いコンタクトをして多少弱められてはいたが、彼女には瞳を通して相手の奥底を見る能力があった。
邪眼・・・邪と称されるがそれを悪いものにするのも良いものにするのも、持つもの次第なのだと彼女は思っている。
凛は深く深く意識してオペラの瞳の奥からオペラという人物を知ろうとした。
しかし、その瞳の暗い奥底には何もない。いや、見えている手ごたえがなかった。
暗闇に満ちているのでもなく、何もないのでもない、見えないのだ。
(どうして・・・)
まるで鏡の虚像を相手にしているようだ。
紙に描かれた美しい肖像画の瞳の奥を覗き込もうとしているようだ。
そんな凛の様子を静かに見ていたオペラが静かに言った。
「私は鏡と同じなのですわ。誰も居なければ何も映らない。故に、私は映るものを求める。」
背後にかけられた鏡のひとつを指差す。
「オペラ座に芝居がかかる日を夢見るが如く。」
示されるままに鏡を見て凛は息を飲んだ。
「グラン・マ!」
その鏡には懐かしい祖母の笑顔が浮かんでいる。
凛の中にある昔の記憶。懐かしい大好きだったグラン・マ。
「これは・・・私の中の記憶が映し出されているの?」
「はい。こうして少しお客様の中のドラマを鏡に頂戴する為に、私はここで店をやっておりますの。」
オペラは再びそう言って美しい笑みを浮かべた。

◆終幕
凛は鏡の中だけれども懐かしいグラン・マの顔を見てほんのりと暖かい気持ちを抱いて店を出た。
幻影ともまた少し違う、凛の中の祖母の姿。
「グラン・マは私の中に居るということなのね・・・」
幽霊となったグラン・マに会いたいと思っていたが、姿を確認せずとも自分の中にグラン・マは居るのだと静かに思う。
自分を導き育ててくれたグラン・マ。
「私は幸せよ。仕事も・・・この瞳のことも誇りを持って生きているよ。」
胸にそっと手を当て呟く。

そして、凛はその暖かい気持ちを胸に宿して、静かな裏路地を帰路についたのであった。

The End ?
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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

0884 / 結城・凛 / 女 / 24 / 邪眼使い
0790 / 司・幽屍 / 男 / 50 / 幽霊

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■         ライター通信          ■
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今日は。今回は私の依頼をお引き受けくださり、ありがとうございました。
なにやら謎めいた雰囲気を残したまま、物語は一旦幕を閉じましたが如何でしたでしょうか?
仕事とも生活ともチョット違う、少し浮世離れした一息ついたお話に感じていただけたら幸いです。凛さんのこれからの活躍と発展を期待しております。頑張ってください。
それではまた、どこかでお会いしましょう。
お疲れ様でした。