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<東京怪談ウェブゲーム ゴーストネットOFF>


甘露
◆店の名は『OPERA』
『最近のお気に入りの店です。
 場所がチョットわかり辛いけど、いいお店ですよ。お勧めです。』

BBSにそんな書き込みがされていた。
場所は新宿の繁華街にあるようだ。
店は良くあるBARのようでオーナーが一人で切り盛りしているらしい。
雫は良くある宣伝書きこかな?と思って削除しようとしたが、最後の一文が目に入った。

『噂では死んだ人に会えるらしいです。』

僕はまだ会えたことないんですけどね(笑・・・と書き添えてあったが、そんな噂のある店のようだった。
「死んだ人に会えるって・・・どんな人にでも会えるのかしら?」
それとも意味もなく幽霊が出る店?
「何となく興味があるわね。」
そしてその書き込みは削除を免れた。

店の名は『OPERA』
同じ名前のオーナーがやっている店だと言う。

◆オペラ座の怪人
宮小路はモニターを見つめ深く考え込んでいた。
雫のBBSに書き込まれていた店のことが気になり、ネットを使って情報を集めていたのだ。
「前に行ったあの店に間違いないようだが・・・どういうことだ?」
OPERAという店はこの街だけでも数え切れないほどあり、条件を絞って検索をかけていって最後に自分の記憶に当てはまる店の情報が数件残った。
以前、宮小路はとある事件を調べていた時に同じ名前の店に行ったことがある。
検索で残った情報はどれもその店と今回書き込まれた店が同じ店であることを示している。
しかし・・・
「主人が二人居る・・・?」
ネットで引っかかった情報は二つに分かれた。
一つは、女主人。顔の右半分を被う白磁の仮面をつけた美貌の女主人。
もう一つは男のバーテンダー。顔の左半分を被う白磁の仮面をつけた美貌の青年。
宮小路が以前行った時は女主人に出迎えられた。

噂話はいくつか書き込まれていた。
『死んだ人に会える店』
『探している人の情報を教えてくれる。』
『人ではない客が居る。』
何処となく疑わしい話ばかりだが、悪意を持って書かれたものは少ない。
皆一様に「いい店だった。」と結んでいる。
「確かに悪い店ではなさそうだったが・・・」
しかし、自分が以前行った店と同じなのかどうかは良くわからない。
「行ってみるしかないか・・・」
宮小路は静かに立ち上がると、外出するために上着に袖を通した。

◆The Opera
地図に書かれた場所を求め、繁華街を通り抜け寂しい裏路地へと入り込む。
路地を進むと、薄闇の中に仄かな明かりが見える。
灯りに照らされた古びた木の扉。銅板に美しい書体で刻まれた看板。
『The Opera』
見覚えのある看板を確かめてから、宮小路 皇騎は静かに店の扉を開いた。

◆バーテンダー
軽やかなドアベルが来店を告げ、宮小路は店の中へ一歩踏み入った。
真面目そうな青年がグラスを磨く手を休めて、自分の方を振りかえった。
「いらっしゃいませ。」
青年は確かにネットの情報にあった通り、顔の左半分を白磁の仮面で被っている。
「何に致しましょう?」
「スコッチを。」
勧められるままにカウンターのバーテンの立ち位置に近い場所に腰掛ける。
「銘柄は?」
「ラフロイグかマッカランでも・・・」
「ラフロイグでしたら30年がございますが?」
バーテンは超高級・・・というわけでもないが中々の銘柄を選んできた。
癖がある酒だが中々に美味い。
「この店は・・・まえは女性のご主人がいらっしゃいませんでしたか?」
宮小路は気になっていることをバーテンに聞いてみた。
店の場所、店の作りは間違いなく以前来たのと同じ店だった。
しかし、以前来た時には女主人が一人居るだけの店だった。
「お客様は彼女の時にお出ででしたか。今日は彼女はお休みさせていただいております。」
日替わりの出勤。
なぜ、そう言う発想がすぐでなかったのか不思議なほど納得できる話だった。
「あぁ、そうでしたか。確か、オペラさん・・・でしたよね?」
差し出されたグラスを傾けながら、宮小路はバーテンの行動を目で追っている。
バーテンは見苦しくない程度にテキパキとグラスを磨くなど何かしら作業をしている。
「はい。彼女も私もオペラと申します。」
「同じ名前?」
「いえ・・・」
バーテンは手を止め、宮小路と目線を合わせる。
「私たちは同じなので。」
にっこりと微笑んではいるものの、その言葉にはどこかゾクリとさせるものがあった。
「同じ?」
「はい。同じでございます。」
バーテンは自分がつけている仮面の縁に軽くなぞるように触れると、唇に笑みの形を作った。
それはまるで生身の顔であるのに仮面のように整えられ美しい。
宮小路はその様子に深く興味を覚えた。
自分の前に難題を突きつけて「さぁ、解いてみろ!」と挑まれているようだ。
「面白いですね。仮面の女性と仮面の男性・・・」
「この店が人を選びます。そして求められる方の前に私が現れます。」
「私があなたの出現を望んだ・・・と?」
「はい。」
バーテンはにっこりと微笑む。
「お客様はこの店に興味を持たれた。謎がある。何か情報が欲しい・・・と。ですから私がこうしてお相手させていただいております。」
「あなたが私の望む情報をくれるというのですか?」
宮小路の涼しげな目元がすっと細くなる。
グラスを持って止まり木に座るその姿は酷くストイックな雰囲気をもっている。
それでいて心底楽しそうでもある。
酒を享楽として楽しんでいると言うよりは・・・何か学術的な議論を酌み交わしているようだ。
バーテンはそんな宮小路を見て綺麗な笑みを作る。
営業用には見えないが、心から笑っているのとも違う。
楽しんでいる笑みだった。
「ええ、この店はお客様の前に現れ、私はお客様とお話をする為にここに居ります。」
「解けない数式の説明を哲学的に聞いているような気分ですね。」
「それは申し訳ございませんでした。」
宮小路が軽い苦笑いで言うと、バーテンは芝居がかった仕草で手を胸にあて頭を下げる。
おどけている様には見えなかったが、嫌味にも見えない。
「では、何なりとお尋ねください。」

◆胸の中の解答
「この店は死んだ人間に会える店だと噂を聞きました。」
宮小路は今回書き込まれていた話をストレートに切り出した。
「私も望めば死者に会うことができるのですか?」
宮小路の言葉を聞いて、バーテンは軽く思案するように黙る。
そして真面目な顔で宮小路を見ると言った。
「幽霊に会いたいと言うならば簡単です。お客様には「見る眼」がある・・・後ろをご覧いただけますか?」
宮小路の背中の壁の方を指差し、バーテンはパチンと一回指を鳴らした。
「あ・・・」
後ろの壁にはたくさんの鏡がかけられており、当然宮小路とバーテンが映っているのだが、それ以外の人影がその鏡の中を過ぎってゆく。
「しかし、お客様の求める死者とは違いますね?」
「えぇ。」
「・・・では、こちらを。」
バーテンはポケットの中から懐中時計を取り出す。
繊細な金細工の蓋を開くと、宮小路に差し出して見せた。
時計の文字盤が鏡になっている。
宮小路が覗き込むと自分の顔が映し出された。
「・・・?」
「そこに映ってらっしゃるのが、現在のお姉様のお姿ですよ。」
バーテンはニコリと微笑むとそう言った。
「つまり、私の心の中に・・・ということですか?」
宮小路はバーテンの言葉の意味を理解し、同じように微笑んで見せた。
姉の姿は思い出と共に自分の中にいるものなのだ・・・と。

◆終幕
「ご馳走様。楽しいひと時と美味い酒をいただきました。」
宮小路は笑ってそう言うと会計を済ませる。
「どうぞ、またいらしてください。」
バーテンも微笑んで返す。これは心からの満足の笑みのようだ。
その笑顔に見送られ、宮小路は古びた木の扉を押して外に出る。
そして、扉が閉まる瞬間、ふと後ろを振り返った。
「!」
木の扉は静かにその空間を閉じた。
扉を照らしていた街灯が消え、薄暗い路地に戻る・・・

扉が閉じる瞬間、店の中に見覚えのある面影の女性が目に入った。
幼いころ死に別れた姉・綾音に良く似た・・・
「綾音姉さん・・・?」
生きていれば丁度あのくらいかもしれない。
少し大人びたその女性は、カウンター席に座りこちらを見ていた。

「・・・まさか・・・」
宮小路はそう呟いて苦笑いすると、店内へは戻らず、もと来た方へと踵を返す。
夏の夜には涼しい風が吹き、ほろ酔いの肌に気持ちよかった。

The End ?
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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

0461 / 宮小路・皇騎 / 男 / 20 / 大学生(陰陽師)

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■         ライター通信          ■
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今日は。今回も私の依頼をお引き受けいただき、ありがとうございました
いつも忙しく行動している宮小路さんの今回はしっとりと?落ち着いた雰囲気のお話でしたが如何でしたでしょうか?
女主人・オペラも不可解な人物でしたが、男・オペラも怪しい存在であるようですが、どちらのオペラも宮小路さんのまたのご来店をお待ちしております。
また、どこかでお会いしましょう。
お疲れ様でした。