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<東京怪談ウェブゲーム 界鏡線・冬美原>


噂を追って【1】
●オープニング【0】
 その日、鏡綾女は『情報研究会』部室にて頭を抱えていた。
「うーん……どうしてこんなに噂が多いんだろ。ここ最近、急に増えてきた気がするよ〜」
 綾女の言うように、ここのところの冬美原では様々な噂を耳にするようになってきていた。中には解決した噂もあるが、意味不明なままで流れ続けている噂もある。
 綾女たち、情報研究会の部員も噂について調べてはいるようだが、手が回り切っていないのが現状であった。
「うーん……」
 綾女がちらりとこちらに視線を向けた。……何だか嫌な予感がする。
「……何だか暇そう、だよね?」
 くすっと笑みを浮かべる綾女。もうターゲット・ロックオンされてしまったようだ。
「よかったら、噂について調べてきてくれないかなあ? 調べる内容は、そっちに任せるから☆」
 綾女が笑顔で言い放った。部員たちの視線が集まってくる。どうやら断れそうにない雰囲気だ。
 まあ、内容を自由に選べるのが救いだけども……さて、何について調べてみようか?
 気になることは色々とあるのだから。

●冬美原の歴史【2B】
 鈴丘新聞社の資料室。夏休みに入ったせいもあってか、小中学生の姿がちらほら見られた。きっと夏休みの自由研究か何かで、自分の住む街の歴史を調べているのだろう。
 そんな中に1人の青年の姿があった。卯月智哉である。手元には『わたしたちの街 冬美原』と題された本があった。智哉も冬美原の歴史を調べに来ていたのだ。
(ふうん、元々は戦国時代に開かれた街なのか)
 智哉はしばらく本をぺらぺらと捲っていたが、調べることは調べ終えたのか、やがて本を閉じた。
 智哉がここへ冬美原の歴史を調べに来たのには、もちろん理由があった。この間から智哉はエミリア学院の裏の森でしょっちゅう寝ていたのだが、ふと思い立って天川高校へ向かったのがそもそもの発端だ。そこで入り込んだ情報研究会の部室で、たまたま耳にしたのが噂の話だった。ちなみに、その時の智哉は実体化していなかったので、智哉がその場に居たことを知る者はまず居ないだろう。
(どうしようかな)
 頬杖を突き、思案する智哉。これからどこへ行くべきかを考えているようだ。
 やがて智哉はすくっと立ち上がると、すたすたと受付に向かった。そして受付に居た者にこう尋ねた。
「ねえ、冬美原で一番歴史ある建物ってどこなのか、キミ知ってる?」

●噂の仕組み【3C】
 麗安寺――旧市街北東部に位置する、旧城主・榊原氏の菩提寺である。ゆえに、榊原氏の墓を訪れる者も少なくはない。
 智哉が麗安寺に足を踏み入れた時、人影はそう見られなかった。これが週末、もしくはお盆であれば状況はまた違うのだろう。
 智哉はまっすぐに木造の本堂へと向かった。いや、何も中に入るためではない。事実、智哉は本堂の裏手へと回ったのだから。
 智哉が麗安寺を訪れたのは、鈴丘新聞社でこう聞き込んだからだ。『一番歴史ある建物は麗安寺の本堂ではないか』と。個人の言うことなので多少の誤差はあるのかもしれないが、麗安寺の本堂が古い部類に属するのは間違いないとみていいだろう。
(生命が宿っているといいんだけど)
 古い物には魂が宿るとよく言う。建物もしかり。本堂に生命が宿っていたならば、智哉は話を聞くつもりだった。もちろん冬美原についての話だ。
 辺りに人気のないことを確かめると、智哉は本堂にそっと手を触れ、言葉をかけた。
「……聞こえるかな? 聞こえてるなら、返事してほしいんだけど」
 蝉が鳴き、風に木々が揺れた。ややあって返事が返ってくる。どうやら本堂には生命が宿っていたようだ。
「なんじゃ、お主は? 珍しいのぉ、わしに話しかけてこようという人間……ふむ? お主は違うようじゃな。まあ、そんなことはどうでもいい。わしに用件があるなら、手短かにな」
「冬美原について聞きたくてさ。ここだけの話、この街の噂は本当にならないか?」
 前置きなしに、智哉は本堂に尋ねた。冬美原を何度か訪れて疑問に思ったこと、それは噂と真実の立場が逆になっていないかということだった。
 本来は真実が主で噂が従だ。けれど、智哉の目には噂が主で真実が従に写っていた。何しろ以前には、噂を利用して真実を導き出した少女が居たのだから。
 本堂はしばらく無言のままだった。
「……それを聞いてどうするつもりじゃ?」
「興味があるだけだよ。あ、噂が本当になると思ったから、内海監督の噂も流してみたけど」
 さらりと言う智哉。噂が本当になるのなら、このような芸当も出来るはずだろうと考えていた。
「ふーむ、内海とやらがどういう者かは知らぬが、お主も感じておったか。確かに、冬美原にはそういう傾向があるようじゃのぉ。全てが全てとは言わんが……」
「やっぱりそうか」
 智哉は嬉し気な笑みを浮かべた。とすれば、内海の噂を流し続けていれば、そのうち冬美原で出くわす可能性もあるということだ。
「じゃが覚えておくがいい。噂を真実と思い込むようになると、いつか手痛いしっぺ返しを喰らうことになるでの。そうして滅んだ者どもを、わしは何人も知っておるからなぁ……」
 本堂はしみじみと語った。

●酒飲み教授【4E】
 夕方、街中をうろついていた智哉は駅近くの酒屋へとやってきていた。この酒屋は普通に酒を売っているだけでなく、立ち飲みのスタンドも併設していた。
 ふらりと中へ入る智哉。立ち飲みスタンドでは、すでに1人の中年男性が酒を飲んでいた。
「酒がなくて何が我が人生か……っと。おーい、もう1杯!」
 男性は高らかに空になったコップを掲げた。
「先生、毎度のことですけど、飲み過ぎですぜ?」
 酒屋の主人はそう言いながらも、男性のコップになみなみと日本酒を注いだ。
「わはは、大丈夫だとも! この坂上史朗、酒は飲んでも飲まれはせん!」
「たく、先生にゃかなわねぇや……と。いらっしゃい!」
 智哉に気付いた主人が声をかけた。
「おっ、見ない顔だ。これこれ君、駆け付け1杯どうかね? 今日はいい酒が入っていてな」
 手招きする坂上。智哉はくすりと笑って坂上の隣に行った。
「先生、そりゃあっしの台詞でしょうが」
「どっちでも構わんだろ。彼の分も僕が払うから、サービスしてやってくれ!」
 坂上はすっかりご機嫌な様子だった。コップへと坂上と同じ酒をなみなみと注ぐ主人。
「ところで君は観光客かね?」
 坂上が智哉に尋ねてきた。
「僕は……」
 と智哉が話し始めたその刹那――ぐらりと地面が揺れた。
「おおうっ!」
 主人が激しく驚いた。揺れたのはほんの1、2秒だったが、それは強い揺れだった。残念ながら、店内の酒瓶がいくつか床に落ち割れてしまった。
「ああ、ああ……形ある物、いつかは壊れるとは言うが……何とも勿体無い」
 しみじみと語る坂上。何とも残念そうな表情であった。
「君! これら割れた酒のために、今日はとことん飲もうじゃないか!」
 坂上が智哉の肩に手を回してきた。それから智哉は、坂上と一緒に何軒か店を回ることになった。
 詳しい話こそ聞けなかったが、坂上が色々と情報に詳しそうだということは分かった――。

●アサギテレビニュース【5】
「今日夕方、午後6時47分頃に起きました地震についてのニュースです。冬美原では震度4を記録しましたが、周辺都市では揺れの観測はありませんでした。また今回の地震による被害ですが、コンビニ等の商品が床に落ちるといった被害はあったものの、人的被害および家屋の被害はなく、火災の報告もありませんでした。以上、アサギテレビニュース、唐沢敦がお伝えいたしました」

【噂を追って【1】 了】


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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【 整理番号 / PC名(読み) 
                   / 性別 / 年齢 / 職業 】
【 0516 / 卯月・智哉(うづき・ともや)
                 / 男 / 21? / 古木の精 】
【 0035 / 倉実・鈴波(くらざね・りりな)
                 / 男 / 18 / 大学浪人生 】
【 0249 / 志神・みかね(しがみ・みかね)
                    / 女 / 15 / 学生 】
【 0461 / 宮小路・皇騎(みやこうじ・こうき)
        / 男 / 20 / 大学生(財閥御曹司・陰陽師) 】
【 0576 / 南宮寺・天音(なんぐうじ・あまね)
           / 女 / 16 / ギャンブラー(高校生) 】
【 0670 / 倉実・一樹(くらざね・かずき)
                   / 女 / 16 / 高校生 】


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■         ライター通信          ■
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・冬美原へようこそ。
・『東京怪談ウェブゲーム 界鏡線・冬美原』へのご参加ありがとうございます。本依頼の担当ライター、高原恵です。
・高原は原則としてPCを名で表記するようにしています。
・各タイトルの後ろには英数字がついていますが、数字は時間軸の流れを、英字が同時間帯別場面を意味します。ですので、1から始まっていなかったり、途中の数字が飛んでいる場合もあります。
・なお、本依頼の文章は(オープニングを除き)全20場面で構成されています。他の参加者の方の文章に目を通す機会がありましたら、本依頼の全体像がより見えてくるかもしれません。
・お待たせしました、冬美原の噂を追いかけるお話をお届けします。範囲が広すぎてプレイングを書くのも大変だったと思いますが、いかがだったでしょうか? 冬美原ではこのような依頼をこれからも出してゆく予定です。
・さて、今回はほぼ皆さん個別の内容になっています。調査内容が分散するとこのようになる訳で、人によってはシリアスに、また別の人はコミカルにお話は進んでいます。
・調査結果ですが、プレイング内容によって浅く広くか深く狭くかに分かれていると思います。調べる際には1つのことに絞った方が、より深い結果を得られることになるかもしれませんね。
・地震については本文最後にあるような状況です。被害はほぼ0と言って差し支えないと思います。ただ、この影響で一部公共施設の閉館時間が繰り上がってたりするのですが。
・卯月智哉さん、7度目のご参加ありがとうございます。いい所を突いてきましたね。噂と真実の関係については本文にある通りでしょうね、恐らく。上手く利用することは可能でしょうが、本堂の警告を忘れると……?
・感想等ありましたら、お気軽にテラコン等よりお送りください。
・それでは、また別の依頼でお会いできることを願って。