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<東京怪談ウェブゲーム ゴーストネットOFF>


咲かない紫陽花

+オープニング+

紫陽花って何色?
色を色々と変える…と聞いたのだけれど……
『ここ』からは何も見えないの。

……一度でいいから見たいな。
誰か、ここに来て見せてくれるといいのに。

ぼんやりと、少女は小さい世界の中で呟いた。
暗く、冷たい部屋の中で。
夏の時期になるとどうしても見たくて、けれど見れない花を思いながら。
寂しげな場所だと思う、ここで少女は息をついた。

…息をついた場所には、夏特有の色とりどりの花が咲いているのに。


*ちょこちょこと、お久しぶりですの秋月です。
今回のは夏だけに「幽霊」と言うことで。
けれど、私の書く幽霊ですから怖くもなんともありません。
何処かの公園と言うか庭園に少女はいます。
参加希望の方は、プレイングに色々やってみたいことなど書いてくだされば♪
では、皆様の参加を心よりお待ち申しております。


+此処ではない何処かへ+

紫陽花は土により微妙に色合いを変える。
雨に濡れる、ここの紫陽花は赤い色をしている、後に紫へ変化するように
赤から紫がかった色になっている花びらもあり賑やかだ。

「けど、この子には見えないのね……」

女は傍らに座る少女の髪をゆっくりと慈しむように撫でた。
ぱっと見、日本人形のような外見の少女である。
が、少女の目は硝子玉の様に動かない。
まるで、『こころ』ごと何処かに持っていかれたように。

…雨が降り出す。
少しだけ涼しくなるのを感謝しながら女はクーラーの設定温度を少し、あげた。


+それは晴れた日の+

「紫陽花を見たがる幽霊?」

ある日のこと。
ゴーストネット経由で、この噂を聞いた綺羅・アレフは微妙に、人に気付かれぬ範囲で
眉を顰めた。
奇妙な噂ではある。
何故、部屋から出れないのか?
霊ならば(喩えそれが生霊であろうとも)空間を離れることは容易な筈。
なのに、何故?

(…記憶、に囚われているのか?)

それならば開放してやりたい。
もし、地縛されているのだとしても。

綺羅は窓から見える空を見上げた。
このように長く生きている身でも、世界にある色は様々に美しい。
美しい世界は、その目前に広がっているのだと――教えてやりたい。


+籠の鳥+

『ねえ、どうして出れないの?』
『貴方はね、出ちゃ行けないの…ほら瞳にも負担がかかるでしょう?』
『大丈夫…だから…出ていいでしょう?』
『駄目よ』

どうして、出れないのか。
目前の女――母親、だっただろうか?は、いつも繰り返し少女にそう教えた。
瞳に負担がかかる。
だが、このようにモノクロの部屋の風景ではなく違うものを見たくて。
鮮やかな色。
何でもいい、黒と白以外の色で感覚を満たしたくて。
見たかった、失った色。
紫陽花。
夏の花。
色合いを変えるという形を変える月の様な花。
少女の世界の色は、夏の前の季節に全ての――黒と白以外消えていた。


+庭園+

(…ふむ)

綺羅は、「幽霊」の少女に逢うべく庭園へと足を踏み入れた。
夏場だと言うのに、妙に風はひんやりと緩やかに流れる。
夏、特有のからり、とした空気はここには無かった。

『誰?』

頭に声が響く。
その声は攻撃的ではないが何処か疲れたような色合いを醸しだしたかのような声で
綺羅は、その様な声を出す人物を探すべく視線を動かした。

…東屋。
綺羅が居る位置から随分離れた東屋の方に一つの影がある。
いや、正確には影、ではなく人なのだけれどまるで影のようにその姿は黒すぎた。
綺羅はその人影のいる東屋へと歩く。
怯えさせない様に、ゆっくりと。

「私か?私は…そう、来訪者だ。こちらにいるという、少女に逢うべくやってきた」
『少女?』
いぶかしげに少女の顔が変わる。
黒い衣装、黒い髪の少女はモノクロの印画紙に撮影されたかのように
この場所に貼り付けられているように綺羅には見えた。
紫陽花を見たがる少女は多分目の前のこの人物だ。
だが、どのように連れ出したものだろう?
「紫陽花を見たがる少女だ…どうやら庭園と言う場所に縛られてるようなのでな。
一緒に見に行こうと思うのだが…」
『縛られてる…?だって、ここからは出れないのでしょう?』
「誰がそのようなことを言った?」
『…お母さんだと…思う…』
「そうか…では出たいとは思わないか?」
出たいと望むなら連れ出してやる。
言外に綺羅は少女にそう告げた。
恐怖ではなく、羨望がその身にまだあるのなら、見に行こう、と。
『出たい…この場所は…凄く涼しくて気持ち良いけど…でも…』
「ならば出よう。…一緒に紫陽花を見に行かぬか。
色の変わりは時がもたらすもの故摘み取ってみせることは出来ぬ。
幻影で良いと言うならそれを見せることはできようが…咲いているものを見に行かねば
そなたの望むものは見られぬのだ。望むなら見られるまで付き合ってやろう」
『見れるまで…?』
「ああ…さぁ、出よう。此処ではない、何処かの場所へ」

『幽霊』と聞いていた少女の手が綺羅の手に触れた。
生きている人間にしては不思議な手触り。
まるで水のように柔らかく、冷たい。
モノクロ写真の少女の姿は、そっと微笑んでいる…嬉しそうに。

『うん…誰かが…そう言ってくれるの…待ってた』

"ここから外へ出たくはないか?"
出たかった。
出たかったよ、ずっと。
此処ではない何処かへ繋いでくれる誰かを…ただ、待ってた。


+消えぬ花+

「見えるか?」
連れ出すことに成功した綺羅は少女に紫陽花を見せていた。
あの暗い感じのする庭園から、少々はなれた教会に咲く紫陽花。
光を受け、まばゆいばかりに花はきらきらと輝いている。
『うん…綺麗だね…色はなくても……』
「色がない?」
『白と黒しか見えないの…けどね、光の所為かな。何もかもが綺麗』
「…では…ひと時であるが見せてやろう、望む色を。
世界は…沢山の色に彩られているのだから」

"それを見せてやりたい。"

幸福に、彩られる全ての色を。
夏の陽の強さ、明るさ。
萌える緑、花々は陽により上を向く――前向きに。
息吹を。
全てのものが息づき語る息吹の色。

綺羅は、そっと少女の瞳の部分に手をかざす。
一時的に幻影による鮮やかな色を見せるためだ。
戸惑うような少女の表情に吉良は薄く笑んで答える。

「…大丈夫だ、怯える事はない…色々な色が見えるようになるだけだ」
『……え?』

ざぁっ……。
風が祝福するようにそよぐ。
梢が風に揺れる。

『………!!』

少女の瞳にいつしか蘇るもの――それは遠い昔に無くした筈の色彩。
幻を色彩に変換した事によって見えているとは気付いていないが
それでも、喩え一瞬だけのものだとしても少女はこの光景を
忘れることはないだろう。

鮮やかな光を。
陽に当たる葉の生き生きとした様々な緑を。

そして綺羅自身の明るい光の中で見た優しげな微笑を。

「どうだ?白と黒以外の久しぶりの色は」
『綺麗…私は本当に色々な色を無くして…居たのね』
「ああ、世界は様々な色合いで出来ている。…長く生きている、この身でさえ
世界は美しく彩りを無くさない…真に美しいものだ」
『うん…』

世界はこれほどまでに美しく優しかった。

『…見せてくれて…本当に有難う…お礼しか…言えないけど…』
「それで充分だ…見たいと望んでいたものを一緒に見ることが出来たのだから」
『有難う…』

瞳をゆっくりと閉じると少女は夢見るように綺麗に大気へと溶けた。

「…ゆっくり、お休み」

大気へと溶けた少女に微笑むように綺羅は、呟きを一つ落とす。
今はただ、見たかったものを見て惑うことなくゆっくりと休めるように。
もし、また。
そう、またいつか逢える時があって見たいものがあるのならば。
いつでも付き合ってやろう。

――それは変わることのない永遠の約束だ。



―End―

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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【0815 / 綺羅・アレフ / 女 / 20 / 長生者】
【0428 / 鈴代・ゆゆ / 女 / 10 / 鈴蘭の精】
【0588 / 御堂・譲 / 男 / 17 / 高校生】
【0818 / プリンキア・アルフヘイム / 女 / 35 / メイクアップアーティスト】
【0835 / 須賀原・藍 / 女 / 26 / 司書教諭】
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■         ライター通信          ■
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初めまして、こんにちは!ライターの秋月 奏です。
なんと言うか今年の夏は本当に猛暑ですよね。
暑い日々が続きますが涼しくなるのを心待ちにしつつ
日々を頑張っていきましょう!
で、今回の依頼文は珍しく個別文、となっております。
参加していただいた方それぞれ微妙に少女の形等が
違いますので興味がありましたら見てみるのも一興かと♪
随分久しぶりに個別文を書いたのですが嫌に楽しくて楽しくて
初めて仕事を頂いた時のことを思い出したりしてしまいました。
初めての参加本当に有難うございます!
綺羅さんは本当に凄く素敵な方で私が書いて良いんでしょうかっ?と
思いつつ楽しんで書かせていただきました(^^)
拙い文章ですが少しでも楽しんで頂けたら幸いです。
ではでは、また何処かでお会いできることを願って。