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納涼お化け大会
------<オープニング>--------------------------------------
雫のサイトに、不思議な書き込みがあった。
『怖い話大好きの皆さん! 逆に誰かを怖がらせたい! と思ったことはありませんか?!』
BBSを全画面表示にし、雫は目を通す。
『そんなあなたに嬉しい情報。しかも夏のお小遣にもなっちゃう☆
完全日払い・交通費支給! 詳しくはメールでご連絡を!!』
「へんなの……」
投稿者名は、(株)BD企画とある。
BD企画といえば、イベントの設営や交通管理などをこなす企画屋だ。
雫もいくつかのイベントで目にしたことがある。
ジーンズに青いパーカー、それから銀のプレートがついた黒いキャップを付けている。
バイトも社員も仕事中はその服装なので、一発で解るのだ。
だが、雫は別の方法で会社名を知った。
この会社、イベントに出す企画には定評がある。
何より『お化け屋敷』がめちゃくちゃ怖いのだとか。
都市伝説では本物の幽霊を雇っている噂もある。
「面白そう☆ きっと誰か申し込むんだろうなー♪」
×
どうやら忙しいらしい。
掲示板からコンタクトを取り、バイトの面接まではこぎ着けたのだが。
司幽屍は目の前で忙しそうに働く人々を眺めていた。同じような服装の人間が右に左にと急いでいる。幽屍は本日行われる納涼瀬戸際花火大会の会場に立っていた。
現在時間午前十時。河川沿いには屋台を組み上げるテキ屋の姿があった。雇われたガードマンは、規定以外の場所に店を広げない用にや、混雑時の人の流れの相談などをしている。
どこもかしこも躍動的な生に満ちていた。
しかし、当日にバイトの面接をするなんて随分急な話である。
人手足なのだろう。
組み立てたばかりのテントに、幽屍は入った。
「バイトの面接に来たのですけれど」
入り口近くにいた女性に話しかける。女性は薄い眼鏡の向こう側で瞳を細めた。
「話は聞いています。お名前と履歴書を」
「司幽屍です」
几帳面で丁寧な字で書かれた履歴書を、手渡す。女性は履歴書を見、幽屍を頭の先から足元まで見る。そしてまた履歴書を見る。
「生年月日を間違えていない?」
「僕、幽霊ですから」
がっきと女性が幽屍の手を握った。
「素晴らしいわ。こういう人材を求めていたの! もううちで働いてたやつら、祓われちゃったり成仏しちゃったりで大変だったのよ!!」
瞳を輝かせて女性は続ける。
「頑張りましょう!!」
「……はぁ」
どうやら面接は合格したようだった。
×
突貫工事なのだろう。ひどい打ち合わせだった。
仕事内容はたった一つ。やってくる客を驚かすことだ。道具は何を使っても良いらしい。
文字通り体が資本の幽屍にとって楽な仕事だ。仕事というよりボランティア・レクリエーション気分で参加している。
幽屍はふわふわとお化け屋敷テント内を浮遊した。と、すでにターゲットが来ている。三人の少年が笑い合いながら道を歩いていた。
「幽霊屋敷なんてビビるかよ」
一人の大柄な少年が言う。
では、ビビっていただこう。
幽屍は床をすり抜け、右手を出した。大柄な少年の足首を床から掴む。
「ううわぁぁぁ!!」
少年にしてみれば、突然地下から手が襲ってきたのだ。驚くだろう。他の二人は素晴らしい速さで走っていった。一人、足を囚われて残される少年。
「ま、待ってよー!」
ふっと幽屍は手を離す。少年はよろよろとしながら走っていった。顔が半泣き状態である。
「なんだかわくわくしますね。驚かせるのも楽しい」
次は壁の中に隠れる。壁には雰囲気を盛り上げるために、謎の札が無数に貼られていた。
壁の前を少年が通りがかる。幽屍は壁から顔と両手を出し、抱きしめた。
「ぎゃあああっー」
「あれ?」
さっき足首を掴んだ少年だった。可哀想に二度目の餌食となったのだ。少年は涙を零し鼻水を垂れている。幽屍が壁の中に潜った。
運のない子だ。幽屍は思わず笑ってしまった。
さて、次は何をして驚かそうか。
幽屍はふわふわと移動すると、脅かすのに絶妙なポイントを発見した。
竹やぶのがあった。。竹は本物で、根本が重り結びつけてある。中途半端に臨場感たっぷりだ。近くのスピーカーからは細くすすり泣くような音楽が流れ、ゆるい風がクーラーからやってくる。
「あ、こんにちは」
竹やぶの中に入ると、少年が座っていた。人目見て普通ではないとわかる。体を取り巻くオーラが常人とは異質なのだ。
少年は釣り目がちな瞳で、幽屍を睨んだ。
「僕は司幽屍。キミは?」
「……御崎月斗」
無表情に言い放つ。愛想こそないが顔立ちは可愛い。後ろ髪が一房だけ金髪なのが印象に残った。
「よろしくね」
排他的な雰囲気を受けても、幽屍はへこたれない。人好きのする笑顔を浮かべた。
「人が増えてきたね」
騒がしくなってきた入り口方向を見やり、言う。
幽屍は自分の両手を重ね合わせ、瞳を閉じた。空気中を漂っている力無き浮遊霊が集まり、小さな空気の渦を形成し始めた。
「そんなに集めていいのか?」
月斗が問う。浮遊霊と言っても、数が集まれば厄介だ。
「大丈夫。責任を持って祓うよ。お仕事が終わったら」
幽霊が集合し、テント内の雰囲気が変わる。空気の肌触りがぬめり、古い血の匂いが漂う。
これを霊感のない人間はなんだかいやな雰囲気、と表現するのだろう。お化け屋敷のムードを盛り上げるのに、これ以上の手はない。
ちょうど一番最初の獲物が、隠れている場所を横切った。
「……毘羯羅」
月斗は右手の中指と人差指をそろえ、空気中に梵字を描く。
十二神将の一人、鼠の体現である毘羯羅を呼び招いた。
なかなかの能力の持ち主である。
小さく鼠のようにすばやい毘羯羅は、前を歩いていた客の足元を走り抜けた。半ズボンから剥き出しの足に、毛皮の感触がし、客は悲鳴を上げる。
暗がりでかつ普段感じなれない感触とくのは、かなりの恐怖を煽る。
「うわっ! 何かいるぞ!」
「やだー!」
悲鳴半分笑い半分。客は走り出し、姿を消した。
こんなものか。やりすぎてはいけない。怖すぎると客は逃げるし、つまらないと客が来ないのだ。
「すごいんですね、キミ」
「キミじゃない。月斗だ」
睨まれ、幽屍は首をすくめた。
次の客が現れる。
幽屍は少しだけ視線を動かした。すると、集まっていた霊たちが客の周りを取り囲む。客には見えないだろうが、誰かに囲まれているという雰囲気は感じるはずだ。
「……苦しい」
「助けて……」
「畜生……死にたくない……」
取り囲んだ幽霊は輪を描き、じりじりと客に押し寄せる。
「誰かの声聞こえない?」
浴衣姿の少女が、隣に立っていた恋人らしき男性に問う。
「そうかな?」
得てして男性のほうが鈍感なのだ。少女は顔を青ざめる。
「いやー!! やっぱ聞こえる!!」
耳を押さえて走り出す。
「え? ちょっと待てよ!」
男も少女を追いかけていった。
月斗を物質的な恐怖だとすれば、幽屍のものは精神的な恐怖を煽る。
「ちょろい仕事ですね」
極悪なことをしてのけるのだが、にこにこ笑顔である。
続々と客が前を通り過ぎる。客の入りはまずまずのようだった。幽屍たちの前を通り過ぎる度、絶叫があたりを覆う。
「……ああ……」
今にも倒れそうなほど血の気の引いた少女がやってきた。線が細く髪が長い。繊細な顔立ちの美しい少女だ。花火をモチーフにした浴衣を着ている。
「因達羅」
印を書き、月斗は蛇の化身を呼び出す。
巨大な白蛇は鎌首をもたげながら、少女の道をふさいだ。
「蛇……!!!」
大声をあげる余裕もないらしく、少女はその場にへなへなと座り込んだ。
「い……いやぁぁぁっ!!」
「なんだ!?」
少女の体から一瞬まばゆい光が炸裂する。光はすぐさま消えたが、竹やぶや墓石などちゃちなセットが空中を飛びまわり始めた。
サイコキネシス。
ぱしゃっと。
月斗の小さな頭にプラスチックのヤキソバの入れ物がぶつかってきた。サイコキネシスがふっ飛ばしてきたらしい。髪の間にソバが入ってきて、変なカツラをかぶっているようだ。
幽屍は言葉を捜す。
「美味しそうですね……」
「フォローするつもりがあるのか?」
鋭い殺気を向けられた。
「因達羅、真蛇羅、取り押さえろ!」
呼び出し、指示をする。その様子を幽屍はスポーツを観戦するように眺めていた。
「蛇いや! 蛇いやぁぁぁっ!!」
巨大な白蛇が襲ってきて、少女はパニックを起こす。
爬虫類が嫌いらしい。
人選を誤ったようだ。
月斗は唇を噛む。
こうしている間のもどんどんテントの中は壊れていく。セットが飛び、セットにぶつかり、セットが壊れる。
「では僕が」
幽霊らしくふわり、と空中を飛ぶ幽屍。サイコキネシスにより凶器と化したセットもなんのそのである。当たらないからだ。体をすり抜けていく。
「落ち着いてください、お嬢さん」
優しく包容力のある笑顔を浮かべ、少女の肩に手を置く。
「あなたは……」
「自己紹介が遅れました。僕は司幽屍。こう見えても立派な幽霊なんです」
「ゆ……れい」
瞳一杯に涙をためていた少女。ぎゅっと目をつぶる。
「きゃぁああっ!!」
余計驚かせたらしい。
幽屍はふわふわと月斗の元に戻ってきた。
「失敗しちゃったみたいです」
「……馬鹿か、こいつ……」
頭痛を覚え、月斗は額に手を当てた。
×
花火大会も終わり、深夜。
ぼろぼろになったお化け屋敷テントを眺めつつ、幽屍は集めた霊の退治を進めていた。
大量の霊魂を空へと送り、やっと一息。
騒いだり、霊を使ったり、エキサイティングな一日だった。
「来年も呼んでもらおうかな」
幽屍は星空を見上げ、ふふっと笑った。
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■ 登場人物(この物語に登場した人物の一覧) ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】
0790 / 司・幽屍 / 男性 / 50 / 幽霊
0249 / 志神・みかね / 女性 / 15 / 学生
0778 / 御崎・月斗 / 男性 / 12 / 陰陽師
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■ ライター通信 ■
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和泉基浦です。こんにちは。
今回の依頼はいかがだったでしょうか?
初参加の方ばかりでしたので、どたばたのまま仕上げさせていただきました。
和泉は今後、界鏡線をメインに活動させていただきます。
都市に遊びに来た際は、ぜひご参加ください。
それでは、またご一緒できることを祈って。 基浦。
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