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<東京怪談ウェブゲーム ゴーストネットOFF>


納涼お化け大会

------<オープニング>--------------------------------------

 雫のサイトに、不思議な書き込みがあった。
『怖い話大好きの皆さん! 逆に誰かを怖がらせたい! と思ったことはありませんか?!』
 BBSを全画面表示にし、雫は目を通す。
『そんなあなたに嬉しい情報。しかも夏のお小遣にもなっちゃう☆
 完全日払い・交通費支給! 詳しくはメールでご連絡を!!』
「へんなの……」
 投稿者名は、(株)BD企画とある。
 BD企画といえば、イベントの設営や交通管理などをこなす企画屋だ。
 雫もいくつかのイベントで目にしたことがある。
 ジーンズに青いパーカー、それから銀のプレートがついた黒いキャップを付けている。
 バイトも社員も仕事中はその服装なので、一発で解るのだ。
 だが、雫は別の方法で会社名を知った。
 この会社、イベントに出す企画には定評がある。
 何より『お化け屋敷』がめちゃくちゃ怖いのだとか。
 都市伝説では本物の幽霊を雇っている噂もある。
「面白そう☆ きっと誰か申し込むんだろうなー♪」


×


「……少し早かったかしら……」
 携帯電話の画面に表示される時計を見、志神みかねは呟いた。友人との待ち合わせの時間まで、まだ間がある。
 気の合う友人達と花火大会に来たのだ。友人は早めに来て場所を取るのだ、と言っていた。彼女は何度もこの花火を見ているらしく、穴場も知っているらしい。
 時間をどうやって潰すかと、周りを眺めたところ。
 不思議なテントが建っていた。広い川原の上にどん! と。
 しかもテントの入り口にはかなりの人だかりが出来ていた。
 純粋に興味を引かれて、そちらへ行く。
「ちょっとぐらいいいよね」
 いったいなんのテントだろう?


×


 間違ったかもしれない。
 テントへの列へ並んで数分後、みかねは思った。
 どうやらお化け屋敷らしいのだ。
 列が短くなり入り口が近くなるほどに、手が冷たくなってくる。それなのに心臓はどきどきして納まらない。
 ああ、せめて友達と一緒だったら! そう考えているうちに、みかねの番になってしまった。並んでいる列を逆流することもできず、仕方なく中へ入る。
 掌が汗ですべる。
 みかねは花火大会のために浴衣姿だった。それに合わせた巾着袋を抱きしめるようにして、暗いテント内を進む。
「ううわぁぁぁ!!」
 どこからか少年の悲鳴が聞こえる。
 恐ろしいものに出会ってしまったのだろうか。それとも、お化け屋敷内の設備なのだろうか。足元がおぼつかないが、前に進まなければ出られない。お化け屋敷に一生いるなんて怖すぎる。
「ぎゃあああっー」
「きゃああっ!!!」
 遠くでまた悲鳴がする。雷が落ちたように、ぴしゃん、と悲鳴が現れたのだ。みかねは思わず耳を押さえてその場にしゃがんでしまった。
 涙を堪えて前へ進む。
 道は細くなり、左右に墓石が目立つようになる。作り物だとはわかっているが、気分の良いものではない。ひゅーどろどろーっとお決まりのBGMがスピーカーから流れてくる。
 歩いていると、茶店のようなセットが現れた。ご休憩ください、と札が出ている。
 恐さの連続だと主催者も心苦しいのだろう。みかねは暖かい人情にふれてほっとした。ちょうどなれない下駄にも付かれていたので、長椅子に腰を下ろす。
 と。
 背後からいきなり誰かが抱き着いてきた。
 白装束に血の後がある、男性だ。目は落ち窪み血走っている。それがぎゅっとみかねを抱きしめた。
「……!!」
 もういやっ!
 体の中でもう一人の自分が叫ぶ。叫びとともに抱き着いていた幽霊役のバイトが壁までぶっ飛ばされた。
「ごめんなさい!!」
 サイコキネシスが暴走してしまった。謝るが、恐いので助け起こしはしない。何度か頭を下げてその場を逃げ出した。
 また道を進むと、誰かの視線と足音を感じた。
「あのー?」
 誰かいるのだろうか。一緒に出口を目指してくれるとありがたい。みかねは元来た道を振り返り、微笑む。
「一緒に行きませんか?」
「いいですよ」
 後ろに立っていたのっぺらぼうが答えた。
 のっぺらぼう。
 話に聞くと恐怖感はないが、面と向かうとかなり恐い。つるんとした何もない輪郭が、肉色に染まっている。
「……っ!」
 みかねは前言撤回とばかりに走り出した。
 のっぺらぼうで口がないのにどうやって返事をしたのか。そんなことも気にならない。とにかくこの場から逃げ出さなくては!
 走りすぎて息が切れる。
 みかねは足を止め、肩で呼吸を整えた。
 と。
「……苦しい」
「助けて……」
「畜生……死にたくない……」
 誰かの声がする。
 沢山の人間がみかねを中心に輪を作り、みかねにむかって恨み言を繰り返している。血を吐くような引き攣れた声で繰り返す。
 みかねは目を閉じ、耳を押さえた。
「ごめんなさい〜」
 なぜか謝ってしまう。
 そうだ、お経を唱えよう。そう思ったがナンミョウホウレンゲキョウという単語しか知らない。しかもその単語が正しいものなのかも良くわからない。
「……ああ……」
 ふらふらと進む。もう半ば貧血状態だ。
「因達羅」
 少年の声がした。
「あら?」
 目の前に巨大な白蛇が現れた。首をもたげ、口から炎のような舌がはみ出ている。鱗も艶かしい本物の蛇そっくりだ。とても作り物だとは思えない。
「蛇……!!!」
 みかねはその場にへなへなと座り込んだ。腰が抜けてしまったのだ。
 蛇がこちらに向かってくる。みかねなど一飲みに出来そうなほどの口が近づいてくる。
「い……いやぁぁぁっ!!」
 みかねの体から一瞬まばゆい光が炸裂する。光はすぐさま消えたが、竹やぶや墓石などちゃちなセットが空中を飛びまわり始めた。
「因達羅、真蛇羅、取り押さえろ!」
 先刻と同じ少年の声だ。
「蛇いや! 蛇いやぁぁぁっ!!」
 巨大な白蛇がみかねをぐるっと取り囲む。みかねを取り囲んでもあまるほど蛇の体が長いのだ。蛇はじりじりと距離を詰めてくる。
 サイコキネシスで浮かび上がった墓石が、蛇の頭に直撃する。が、蛇は顔色一つ変えない。
「落ち着いてください、お嬢さん」
 突然、肩に手を置かれた。優しく包容力のある笑顔を浮かべた青年が、みかねの隣に立っていた。
「あなたは……」
「自己紹介が遅れました。僕は司幽屍。こう見えても立派な幽霊なんです」
「ゆ……れい」
 瞳一杯に涙をためていたみかね。ぎゅっと目をつぶる。
「きゃぁああっ!!」
 その後はよく覚えてない。
 が、後に思えば青年の足があったのかなかったのか、確認ぐらいしておけば良かった。


×


「ねぇ、カラオケでオールしません?」
「みかねから誘うなんて珍しいね」
 花火大会の帰り、友達を誘った。カラオケ好きな数人が乗ってくる。
「ええ……」
 夜道を帰るのが恐いなんて言えない。みかねは取り繕うように微笑んだ。
 帰り道に白い蛇やのっぺらぼうが居ないと、誰が断言できるのだろう。
 恐いものはすぐ近くに居るのかもしれない。


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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

 0790 / 司・幽屍 / 男性 / 50 /  幽霊
 0249 / 志神・みかね / 女性 / 15 /  学生
 0778 / 御崎・月斗 / 男性 / 12 /  陰陽師

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■         ライター通信          ■
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 和泉基浦です。こんにちは。
 今回の依頼はいかがだったでしょうか?
 初参加の方ばかりでしたので、どたばたのまま仕上げさせていただきました。
 和泉は今後、界鏡線をメインに活動させていただきます。
 都市に遊びに来た際は、ぜひご参加ください。
 それでは、またご一緒できることを祈って。 基浦。