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咲かない紫陽花
＋オープニング＋
紫陽花って何色？
色を色々と変える…と聞いたのだけれど……
『ここ』からは何も見えないの。
……一度でいいから見たいな。
誰か、ここに来て見せてくれるといいのに。
ぼんやりと、少女は小さい世界の中で呟いた。
暗く、冷たい部屋の中で。
夏の時期になるとどうしても見たくて、けれど見れない花を思いながら。
寂しげな場所だと思う、ここで少女は息をついた。
…息をついた場所には、夏特有の色とりどりの花が咲いているのに。
＊ちょこちょこと、お久しぶりですの秋月です。
今回のは夏だけに「幽霊」と言うことで。
けれど、私の書く幽霊ですから怖くもなんともありません。
何処かの公園と言うか庭園に少女はいます。
参加希望の方は、プレイングに色々やってみたいことなど書いてくだされば♪
では、皆様の参加を心よりお待ち申しております。
＋此処ではない何処かへ＋
紫陽花は土により微妙に色合いを変える。
雨に濡れる、ここの紫陽花は赤い色をしている、後に紫へ変化するように
赤から紫がかった色になっている花びらもあり賑やかだ。
「けど、この子には見えないのね……」
女は傍らに座る少女の髪をゆっくりと慈しむように撫でた。
ぱっと見、日本人形のような外見の少女である。
が、少女の目は硝子玉の様に動かない。
まるで、『こころ』ごと何処かに持っていかれたように。
…雨が降り出す。
少しだけ涼しくなるのを感謝しながら女はクーラーの設定温度を少し、あげた。
＋第一夜・夢に見るは＋
プリンキア・アルフヘイムは、ある日不思議な夢を見た。
不思議な、というより奇妙な、と言うべきなのだろうか？
…誰かが呼んでいる夢だ。
年の頃は「少女」と呼ばれる微妙な年代で印画紙に焼き付けられたような
モノクロの姿をしている。
顔色も肌も抜けるように白く、黒髪は鴉のように艶やかで服装は
まるで喪服を着こんでいるかのように黒一色。
『見たいの…』
何を？
何を見たいデスカ？
『一面に咲く……』
黒髪が、鞭の様に鮮やかに翻り黒くも無い微妙な色彩の瞳をプリンキアの前に示した。
見える者が持つ色ではない微妙な、瞳。
色の無い唇がゆっくりと開いた。
『紫陽花』
声は、そこで途切れた。
プリンキアは、あまりの暑さで目が覚めてしまった自分を悔やみながら
この夢は今日だけでは無いだろうことに、何処かで気付いていた。
＋第二夜・夢の名＋
プリンキアの職業はメイクアップ・アーティストだ。
人々を美しく、鮮やかに彩るのが自分に出来る最良の仕事であると思うし
誇りを持っている。
けれど、昨日夢に見た少女は…どういう事なのだろうか「彩り」と
いう物が一つもなかった。
全てが白と黒で統一されている完全なモノクロの世界。
瞳の色だけが別世界にあるように微妙な色合い。
…ミーに語り掛けるアナタは誰デスカ？
もし、良ければ誰なのか、名を教えて欲しい。
この現実でも。
…夢だけではなく。
だが、その願いを言う前にプリンキアは眠りへついていた。
いつ眠ってしまったのか解らないほど深く。
そして、また夢が訪れる――。
白と黒で統一された夢。
花々は決して白い花、白と黒が混ざった葉でしか再現されずに咲き誇る、夢。
『アナタは誰デスカ？ どんなネームか教えテ下サイませんか？』
『私は…香苗。鷹屋香苗…と言う名前だったと…思う』
『香苗サンデスネ？…では何故見たいモノがあるのか教エテ下さーイ。
確か紫陽花と言ってマシタネ？』
『うん…私はどうしても見たいの…ううん、見なくちゃ眠れないの…。
けれど…ここから動けない…だから…出して欲しくて…』
『…ソレは可哀想デスネー。ミーがそこにいけば貴女を出してあげられますカ？』
『うん……私は一人では歩けないから』
『ソウですか…良かったらドコなトコロにいるかも教エテ下さーイ』
一瞬少女の表情が曇った。
どう場所を伝えて良いか解らないようなそんな表情。
『涼しいところ…とても…夏なのに木陰ばかりが多いところ…』
『エ？ …それはトテモ難儀デスガ…大丈夫、お任せ下サイ♪』
『うん…でも、どうするの？』
『幸い、私が住む近所のガーデンには紫陽花がありまス☆勿論今は散っていますケド。
少しディフィカルトですが一応お願いシテみまショーか。…誰にッテ？
ミス、貴女は『森は生きている』というロシアのお伽話を知っテまスか？』
『ううん…？ その話に関係があるの？』
『勿論デス。この庭園にも『季節を司る精霊』がちゃーンと存在してイるデスよ？
今この庭園にいる『７月の精』と話をして、よければ他の季節の精も呼び出し相談しテミマース。
出来れば誰もイナイ深夜、ほんの少しの間このガーデンの中を『６月』に戻して貰えバ、
ビューティフルな紫陽花を愛でるコトが出来マスヨー？ですガコレは自然の掟に反するコトでース。
…解りマスか？』
『…何となく…は…』
『…ですガコレは自然の掟に反するコトでース。その代わリ『この世にいてはいけない魂』の貴女、
主の許に召されるコトを、どうかミーとプロミスして下さいますネ？』
『……うん…私からもお願いがあるの…どうか私を見つけて』
『貴女を？』
『…凄く、この場所は寒くて涼しすぎるの…お母さんも…あのままでは…』
"壊れてしまう"
香苗はその言葉を言うことが出来ず夢の世界から消えた。
＋第三夜・夢の後＋
「木陰ばかりある庭園？ ああ、あそこじゃねえかな…ほら、プリンキアさんが
住んでる近くに庭園あったろ？」
「ハイ」
「そこが建つ前にあった庭園でさ…今は寂れてて…おっと、場所は…ここな？」
「アリがとうゴザいまス。…これで守れまス」
「なにを？」
「…それは、内緒でース」
同業者の男性から場所を書いたメモを受け取るとプリンキアはにっこり、微笑んだ。
場所は変わり。
庭園。
此処に一人の女が佇んでいた。
佇むその前にある物は小さな墓標。
本当に擦れたような小さな文字で「鷹屋香苗 没年2002年5月」とだけ記されている。
没日が記されてないのは、その死亡した日にちが解らない為だ。
女の傍には等身大の人形が車椅子に座っている。
「…………」
女は、声を出すことも表情を変化させることも無いまま人形が乗った車椅子をひくと
墓標を後にした。
見えぬ娘がそこに居ることも気付けないまま、虚ろな瞳をした女は、ただ歩いた。
"お母さん"
もう呼べぬ声で香苗が何度呼んでも母に聞こえない事に気付いて香苗は瞳を伏せる。
此処ではない、何処かに自分の身体があるのに誰も気付いてくれないのと同じように。
「…此処、デスね……」
夜。
プリンキアは約束の通りに、ガーデンへと赴いていた。
この場所から、連れ出すためと紫陽花を見せる為に。
紫陽花の花達は、快く了承してくれた、自分たちの姿を見せることで誰かが救われるなら、と。
ガーデンにいる7月の精たちも同様に夜の間だけ見せることを快諾してくれている。
『連れてってくれるの？ ありがとう…』
薄ボンヤリとした身体が夜目にも鮮やかに浮かび上がる。
プリンキアは触れられぬ香苗の手を引く様にここからプリンキアの言っていたガーデンへと連れ出した。
これも精霊たちの力を借りているからこそ、出来ることだ。
『わぁ…』
「気に入りマシたカ？」
『うん』
夜に咲く不思議な色合いの紫陽花だった。
月夜にさらされているが故の微妙な色合い。
輝く夜露の美しさも全てが別格で。
最後ににこり、と香苗は本当に嬉しそうに微笑んだように見えた。
が。
その姿は本当に一瞬で、消えた。
まるで風に攫われたかのように儚くも。
印画紙で映し出されたような少女の姿は、探してももう何処にも無い。
プリンキアは静かに十字を切る。
ゆっくり休んでと祈るように。
そして後日。
五月に既に死亡しているだろうと決断を下された行方不明の少女が、
ある川でで遺体となってうちあげられたニュースが流れ……この話は幕を下ろした。
娘に近寄ろうとして泣き崩れる母親の顔は、確かに香苗と同じ様に
印画紙で映し出された姿を持って。
プリンキアは、精霊との力を持って香苗との約束を、果たした。
―End―
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■ 登場人物（この物語に登場した人物の一覧） ■
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【0818 ／ プリンキア・アルフヘイム ／ 女 ／ 35 ／ メイクアップアーティスト】
【0835 ／ 須賀原・藍 ／ 女 ／ 26 ／ 司書教諭】
【0815 ／ 綺羅・アレフ ／ 女 ／ 20 ／ 長生者】
【0588 ／ 御堂・譲 ／ 男 ／ 17 ／ 高校生】
【0428 ／ 鈴代・ゆゆ ／ 女 ／ 10 ／ 鈴蘭の精】
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■ ライター通信 ■
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初めまして、こんにちは！ライターの秋月 奏です。
なんと言うか今年の夏は本当に猛暑ですよね。
暑い日々が続きますが涼しくなるのを心待ちにしつつ
日々を頑張っていきましょう！
で、今回の依頼文は珍しく個別文、となっております。
参加していただいた方それぞれ微妙に少女の形等が
違いますので興味がありましたら見てみるのも一興かと♪
随分久しぶりに個別文を書いたのですが嫌に楽しくて楽しくて
初めて仕事を頂いた時のことを思い出したりしてしまいました。
初めての参加本当に有難うございます！
プリンキアさんは書いていて楽しかったです♪
今まで書いた中で、女性では最年長かしら？と思ったりしたのですけれど
それを差っ引いても可愛らしく味のあるキャラで。
拙い文章ですが少しでも楽しんで頂けたら幸いです。
ではでは、また何処かでお会いできることを願って。
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