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<東京怪談ウェブゲーム 草間興信所>


骨貝の夢
◆夢に囚われしモノ
『骨貝の貝殻で髪を梳いて眠ると、見たい夢を見ることができる。』
そんなおまじないめいた事が広く噂に囁かれていた。

「最初は半信半疑だったんです。」
草間興信所の事務所を訪ねてきた依頼人・三島 結衣はそう切り出した。
「たかがおまじないだし、これで紗江子の気持ちが晴れるならいいかなって思ったんです。」
結衣の友人・高嶋 紗江子は失恋して酷く落ち込んでいた。
眠ることもままならぬほど思い悩み、振られた男性のことで落ち込んでいたのだという。
「だから、寝るときくらいイイ夢でも見なよって、このおまじないを教えたんです。」
結衣の話を聞いた紗江子は、帰りに小物屋で骨貝の貝殻を買い、喜んで家に帰った。
そして、そのまま眠りから覚めることなく一月が過ぎてしまった。
家族は紗江子を病院に入院させたが回復の気配はなく、医者もなす術がなく途方にくれる有様だった。
「きっと、おまじないのせいで紗江子は眠りつづけているんです・・・」
おまじないを勧めた本人として、また友人として紗江子のことが気になるのだろう、結衣は深く項垂れたまま言った。
「どうか、紗江子を眠りから覚ましてください。お願いします。」
草間は一瞬それは管轄外かもしれないと思ったが、思い返せばこのところそんな管轄外な依頼ばかりである事に気がついた。
「特殊なお話なので、何処までお力になれるかわかりませんが・・・全力を尽くしましょう。」
草間はそう言って舞い込んできた依頼を引き受けた。

◆おまじない
「ふぅん、おまじない・・・ねぇ。」
草間興信所の事務所で、目の前に置かれた白い骨貝の貝殻を指先で弄びながら大塚 忍は呟いた。
「依頼者たちが貝殻を買ったという店も調べてみたけど、ただの小物屋だったわ。でも、噂が流れてから骨貝の売上が上がったのは確かなようよ。」
シュライン・エマが書類に目を通しながら続ける。
二人はこの依頼を引き受けるにあたって、少々気になることがあり事前調査をして後、打ち合わせをしているのだった。
「噂の出元は?」
「わからないわ。インターネット、口コミなんかで漠然と広がっているみたいね。年代層も10代から20代中頃まで、一番噂に振り回される年代よ。」
「20歳越しておまじないなんて信じるなよ。」
大塚は不機嫌に言い捨てる。
元々この話を聞いたときから機嫌が悪かった。
辛い現実から目を背けて、夢の中に逃げ込んだ少女。
「純なのねぇ。大塚さん。」
その様子を見てシュラインはふふんと笑った。
「どういうことだ?」
大塚がキロッとシュラインを見上げる。
「世の中、強い人間ばかりではないと言うことよ。」
シュラインには何となく逃げ込んでしまった少女の気持ちがわかるような気がした。
それが良いとは言わないけれど、逃げ込みたい事だってあるだろう。
そう言うものを内包して人間は成り立っている。
「そんなのは俺だってわかってるさ。」
大塚もシュラインの言葉はわかる。
でも、やはりいつまでもグズグズしていられないのだと思う。
自分の足で歩かないことには何も始まらないのだ。
「そうね。それに見たい夢を見ているのが幸せとは限らないし、何とか起こしてあげたいわ。」
「あぁ・・・」
そして二人にはこの依頼に関して気にかかることがもう一つ別にあった。
このところ。草間興信所の報告書に何度か出てくる名前。
おまじない絡みだと必ずと言ってよいほど出てくる名前だった。
スリープウォーカーとアリス。
この二人の主体は知れない。呪詛師とハッカーと言う奇妙な組み合わせで、人の命をなんとも思わない愉快犯たちだ。
「キミも気になっていたのか。」
「えぇ、何度か報告書で見ていたから。」
シュラインは草間興信所で書類整理などの仕事もしているために、報告書に接する機会も多かった。
度々名前の出てくるこの二人を怪しんでいたのだ。
「俺も似たようなもんだ。あいつらは面白半分で人を弄ぶ。こういうおまじない関係の話なんかは・・・あいつらが好きそうな話だからな。」
大塚は苦い顔で言う。
スリープウォーカーと対峙したことのある大塚には、何となく感じるものがあった。
「危険人物には間違いなさそうね。」
「ああ。絡んでこなければいいけれど・・・」
「そうね。」
そう言って二人は目線を落とした。
「今回のこれが呪詛であるかも・・・とは私も考えたわ。貝で髪を梳くことで呪いが発動するような何かがあるのではないかしら?」
シュラインの言葉に大塚もうなずく。
「たかがおまじないで目が覚めなくなるなんてのはおかしいな。」
「でも、それには接点がないと・・・」
シュラインが調べた限り、貝を売っていた店も噂が流れている環境も呪詛とはあまり関係がなさそうだ。
「逆に、流れている噂を奴が利用してるとも考えられる。」
「なるほどね・・・」
「そう考えると迂闊に手を出すのは危険だと思うんだ。」
大塚は言う。その言葉にシュラインもうなずく。
「かといって、このままにも出来ないわ。用心は必要だけど、とりあえず病院のほうへ行ってみましょう。」
シュラインは手にしていた資料を大塚にも一通渡し、自分の分はバッグにしまいこんだ。
「了解。」
そう言って大塚も立ち上がる。
「俺、車で来てるから俺の車で行こう。」
そして二人は事務所をあとにした。

◆眠り姫の現実
「結構大きな病院なのね。」
車から降りたシュラインが白い建物を見上げて言った。
少し郊外にあるこの病院は、個人経営だがハイテク化の進んだ医療と施設で話題になることの多い病院だった。悪い噂は少なく、遠方からわざわざ通院する人が来るぐらいの評判だ。
「ちょっと待って!病院の中へ入る前にちょっと様子を探ろう。」
大塚が建物へと向かうシュラインを呼び止める。
「少しの間、体が無防備になるから見ていてくれ。」
そう言うと、すうっと目を閉じて車にもたれかかった。
「ワンマンなんだから!」
ブツブツいいながらもシュラインは大塚の体を見守る。
本当に呪詛なのだろうか?
でも、これだけの規模の病院で調べてわからないとなると、超常現象の可能性は高いように思う。
「でも、もし呪詛だとしたら一体誰が何の目的で・・・?」
被害者は失恋したばかりの女の子だ。同情こそすれど呪うほどことがあるだろうか?
シュラインは何だかとても不自然なものを感じている。
シュラインが調査した結果、今回の依頼に類似する事件はまったく見当たらなかった。
もし例の二人組みが面白半分に呪詛をばら撒いているとしたら、類似した事件が他にも起こっていいはずだ。
しかし、それはまったくなかった。
呪詛だってただそこに転がっているモノではなくて、呪うものがいて初めて呪詛が成り立つのではないのだろうか?
「キミ、なかなか頭が良いみたいだねぇ。」
ふいに声をかけられ、シュラインははっと我に返る。
顔をあげると目の前にいつの間にか一人の青年が立っている。
「誰?」
夏だと言うのに赤い手袋をした青年は、ニコニコしながらシュラインを見ている。
「僕の名前はスリープウォーカー。キミが思っているとおりの人間だよ。」
シュラインははっと身構える。
(油断した・・・!?)
自分ひとりならまだしも、大塚の体が無防備なままだった。
(迂闊に手出しは出来ない・・・どうする?)
二人をはさむ空気がキリッと緊張する。
それを打ち破ったのは・・・スリープウォーカーのほうだった。
「僕はキミと戦う気は無いんだけど。戦いたい?」
「え・・・?」
「今日の僕の狙いはキミたちじゃないんだ。どちらかと言うと君たちの味方・・・かな?」
スリープウォーカーは飄々と言いのける。
「味方ですって・・・?」
この男は今までのこと何とも思っていないのだろうか?
報告書で見ただけでも調査しているメンバーを何度も殺そうとしていると言うのに。
「そう、今回のキミたちの敵はアリスだよ。」
「どういうこと?」
「僕らはゲームをしているんだ。眠っている女の子の命を奪えたらアリスの勝ち・・・」
「ふざけたことを・・・」
「まぁ、せいぜい頑張ってよ。早くしないとあの女の子死んじゃうかも知れないからねぇ。」
そう言ってケラケラと笑いながらスリープウォーカーは建物とは反対の方へと歩いていってしまった。
「なんなの・・・あれは・・・」
まったくえたいが知れないとしか言いようのない男だった。

大塚は自分の体から意識を切り離すと、ゆっくりと外から病院の中を探った。
建物の中へ入って、高嶋紗江子に近づけばもっとわかりやすいのだろうけど、それは逆に発見される危険度も増す。
それにもし呪詛であればそれらしい気があるだろうから遠くてもわかるはずだ。
しかし・・・
『何も無い・・・』
確かに病院と言う場所柄「死」の気配はある。
そこはかとなく人の中にそれを感じる。
しかし、呪詛のような強制的な死を感じさせるものはまったく無いのだ。
『それとも呪詛自体を隠すような術をかけているのか・・・?』
能力の高いものなら呪詛を秘密裏に行うためにカモフラージュすることもある。
それでもここまで綺麗に気配を消せるものだろうか・・・
大塚は一通り様子を探ると自分の体へと戻った。

「どうだったの?」
ふぅっと大きく息を吐くと意識を取り戻した大塚にシュラインがたずねる。
大塚は首を振り、何もつかめなかったことを告げる。
「ダメだ。何も無い。感じなかった・・・」
「そう・・・」
「ん?俺がいない間に何かあったのか?」
思案げに眉をひそめるシュラインを見て大塚が問う。
「スリープウォーカーって名乗る男が来たのよ。」
「なんだって?」
「それで今回は敵ではなく君たちの味方だって・・・」
シュラインの話に今度は大塚が眉をひそめる。
「なんだそれは・・・」
「でも、高嶋の命をアリスって言う子の方が狙ってるって言ってたわ。」
「急ごう!」
シュラインの言葉に大塚は弾けるように体を起こし建物の方へと走り出す。
「ちょ、ちょっと!」
「アリスってのはスリープウォーカーの片割れだ!呪詛は使わなくても十分危険だ!」
そして、二人は全速力で病棟へと走り出した。

◆小さな悪魔
「そこまでだ。ベッドから離れろ!アリス!」
大塚とシュラインはベッドを庇うように部屋の中へ飛び込んできた。
「大丈夫?」
シュラインが部屋の中でアリスと対峙していた二人に声をかける。
そして改めてアリスのほうを見て驚きの声をあげた。
「こんな小さな子があの「アリス」?」
「小さくて悪かったわね。」
アリスはシュラインに毒づく。
「小さいからって馬鹿にしてると痛い目を見るわよっ!」
そう言ってアリスが虫でも追い払うようにふわっと手を振る。
ビシャンッ!
物理的な勢いを感じる閃光が走る!
「きゃっ!」
その煽りをモロに食らいそうになったシュラインを司がすかさず回り込んで庇う。
「電撃ですか・・・私には大して効きませんね。」
やや苦しそうだが、司はそう言うとアリスに笑って見せた。
「何をっ!」
「あなたの攻撃は私には通用しないと言うことです。」
そう言って司は構える。
何とかしてこの少女をおさえなくては・・・

「待って。」
動き出そうとした司を今度は結城が呼び止めた。
「結城さん?」
「キミ・・・紗江子さんが眠りつづけている理由を知っているのね。」
結城は静かに一歩前に出た。
そして、まっすぐにアリスと結衣を見つめる。
「し、しらないわっ!私は紗江子が目を覚ますようにって・・・」
「知ってたらどうだって言うの?」
動揺する結衣に比べて、怖いくらい静かな口調でアリスは言った。
「その子はそこでただ寝てるだけよ。ビンタでも食らわせば目が覚めるわ。」
「なんですって・・・でも、検査ではどうにも・・・」
「検査?機械でした検査ね。そんなもの私には何とでもできるわ。」
「検査結果を改ざんしたのか?」
大塚はハッと思い当たる。
天才的なハッカー・・・資料にはそうあったはずだ。
「検査結果だけじゃないわよ。点滴だってそうよ。コンピューターを通じて処方されている薬は栄養剤なんかじゃなくて麻酔薬。」
アリスはくすくす笑いながら自慢げに言う。
「その子は病院で麻酔をかけられつづけて衰弱して死ぬところだったのよ。」
「何故そんなことを・・・」
理解できないと言う顔で結城が言う。
「この子がキミに何をしたって言うの?何の関係があって・・・」
「関係ならあるわよ。」
アリスはにやっと笑う。酷く冷たい笑い方だ。
「やめて!」
耳を塞ぐようにして結衣が座り込む。
「やめて言わないで!」
「私は依頼されたんですもの。高嶋紗江子をわからないように消してくれって。」

◆嫉妬の影
「え・・・」
予想だにしていなかった言葉に一同は絶句する。
目を覚まさせて欲しいと依頼に来た三島 結衣が、実は紗江子を眠りにつかせた本人?
「だって・・・だって悔しかったのよっ!」
結衣が叫ぶように泣き崩れる。
「先輩は紗江子なんか選んでっ・・・!私じゃなくて・・・紗江子なんか・・・っ!!」
「じゃぁ、何で草間興信所に依頼になんか来たんだ・・・?」
呆気に取られたまま大塚が問う。
「怖くなったのよ。おまじないを勧めた自分が疑われたり責められたりするのがね。」
「じゃあ・・・依頼は・・・」
「自作自演よ。」
アリスは床に伏せて泣き崩れる結衣を見ながら吐き捨てるように言う。
「まったく、バカな事をしてくれたわ。たいした覚悟も無く人なんか殺そうとするからよ!」
「だって・・・だって・・・」
一同も呆然と結衣を見つめる。
恋に破れた結衣と勝ち取った紗江子。
その紗江子を憎み・・・死に至らしめようとするほど憎み・・・
「なんてバカな事を・・・そんなことで人の命を何だと思ってるんだっ!」
大塚が結衣を一喝する。
「本当よ。それにそんなことをしたって人の気持ちは変わらないわ。」
少し哀れみを感じる目でシュラインも結衣を見た。
「とりあえず、もうこんな馬鹿げたことは終わりにしましょう。」
結城は何も知らずに眠っている紗江子の側へ行き、結衣に向かって言った。
「紗江子さんを起こしましょう。」

「そうはさせないわ。」
紗江子を起こすためにベッドを覗き込んだ結城にアリスが言った。
「こんなツマラナイ終わり方させないわよ。」
「何を・・・きゃっ!」
結城はびりっと走った電流に思わずベッドから体を引いた。
「ここはハイテク病院だって忘れてなかった?」
アリスはにやっと笑う。
「機械が制御している以上、私が全てを握っているといっても過言じゃないわ。そこの幽霊さんも迂闊に動かないことね。紗江子の体についてる生命維持装置がいつギロチン台になるかわからないわよ。」
アリスの動きを止めようと動き出そうとした司は、その台詞にぐっと体をこわばらせる。
アリスは指輪の形をして手にはめられているしいさなマイクを見せて言った。
「私がこのマイクに命じれば、紗江子の命は無いんだから!」
「やってご覧なさいよ!」
そう言って一歩前に踏み出したのはシュラインだった。
「何ですって?」
アリスが険しい顔でシュラインを睨みつける。
「ハッタリじゃないんだからね!」
「だから、やれるならやりなさい。」
アリスに言い返したシュラインの言葉に・・・いや声に一同はハッとする。
シュラインが発しているのはアリスの声だったのだ。
「音声入力で声紋でも判別しているのでしょうけれど、私はあなたの声でその機械に命令することができるのよ。」
コレはシュラインの特殊技能だった。物や人に関わらずあらゆる音を声帯模写することができる。
シュラインは見事にアリスの声をコピーした。それは機械であっても判別は出来ない。
「ぐっ・・・」
「高嶋紗江子についている機械を全て無効化しなさい!」
一際大きな声でシュラインは言った。
その声はアリスの手にあるマイクを通し認識されたようだ。全ての機械が静かにその動きを止めた。
酸素吸入器なども動きを止めたが、眠っているだけの紗江子に影響はない。
「くぅっ・・・」
アリスは悔しそうに唇を噛んだ。

◆Game Over.
「だから言っただろう?もっと手早くやらなくちゃダメだって。」
ふいに天井から暢気な男の声が響く。
「スリープウォーカー・・・」
天井を見上げると、そこにぽっかりと口をあけた暗がりからニコニコ笑った青年・・・スリープウォーカーが病室を覗き込んでいる。
スリープウォーカーはすっと足を伸ばして病室の床に飛び降りると、自分を睨みつけているアリスを軽々と抱き上げた。
その様子を一同は息を詰めてみている。
スリープウォーカーの危険性はその気配に十分ににじみ出ている。
死に近い場所である病院ですら感じることのない、異常なまでに濃厚な死の匂い。
特に彼が今までどんなことをしてきているか知っている司と大塚は痛いほど緊張している。
直接は知らない結城やシュラインですら迂闊に動くことは出来ないと本能が感じている。
その緊迫した一同をスリープウォーカーは気が抜けるようなニコニコ顔で眺める。
「今回のゲームは皆さんの勝ちですね。この女の子は死なずに済みました。おめでとう。」
愛想だけは良いが、ひどく事務的な言い方だ。
「それでは。また。どこかでお会いしましょう。」
そう言うと、芝居がかった仕草でアリスを腕に抱いたままペコリと頭を下げると、二人は壁に溶けるように消えた。

「はぁ・・・何なのアレは・・・」
スリープウォーカーたちの姿が消えると、一同は呼吸を取り戻すように溜息をついた。
悔しい話だが誰も一歩も動けなかった。
何かの術が発動していたというわけでもない。
ただ、ひたすらに本能的な恐怖から動くことが出来なかった。
スリープウォーカーという邪気そのものに対峙するには心積もりが足りなかったのかもしれない。
「それより、高嶋さんは!?」
シュラインが我に返ったように、慌てて紗江子の眠るベッドを振り返る。
結城が素早くチェックして紗江子の無事を確認する。
「大丈夫、シュラインさんがシステムを止めてくれたのでなんともないです。」
「良かった・・・あ・・・」
一同が見守る中、紗江子の瞼がかすかに動き、ゆっくりと開かれる。
「ここは・・・?」
見慣れぬ病室と見知らぬ人間たちに困惑しながらも紗江子は目を覚ました。

◆そして・・・
小嶋 紗江子は再度の検査の結果問題なしと判断され翌日無事退院した。
三島 結衣はキツイ説教をされた後に、紗江子に直接事情を話した上で謝罪し、紗江子の許しもあって、今は再び友達同士として付き合っているようだ。

「まぁ、無事終了って所かしらね。」
報告書のタイプを打ち終えたシュラインがにっこりと微笑んで言った。
今日は依頼終了の報告書を作成するためにシュラインと大塚の二人は事務所に詰めていた。
「俺はなんだか不完全燃焼だけどな。」
大塚はこの依頼を受けた時の不機嫌そうな顔のままプリントアウトされた報告書を眺めている。
シュラインは椅子をくるっと回して、大塚の方に向き直る。
「どうしてよ?」
「依頼は解決したが、根本的なことは何も解決していない。」
「根本的な事って・・・あの二人のこと?」
「そう!」
大塚はそう言うとおもむろに立ち上がり、無人の草間 武彦の机の上にバシッと提出した。
「今度あったときは絶対懲らしめてやる!・・・じゃ、お先に!」
そう息巻きながら事務所を出て行った。
「ホント、純なのねぇ・・・」
シュラインは大塚の後姿を見送ると軽く微笑んで呟いた。
そして、机を片付けると、大塚と同じ場所に報告書をそっと置く。
「でも、私も笑ってもいられないかも知れないわね。」
明日は我が身に降りかかるかもしれない、通り魔のような気まぐれな邪気。
シュラインは事務所の明かりを消すと、無言で事務所を後にしたのだった。

The End ?
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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

0795 / 大塚・忍 / 女 / 25 / 怪奇雑誌のルポライター
0884 / 結城・凛 / 女 / 24 / 邪眼使い
0086 / シュライン・エマ / 女 / 26 / 翻訳家&幽霊作家
0790 / 司・幽屍 / 男 / 50 / 幽霊

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■         ライター通信          ■
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今日は、初めまして。今回は私の依頼をお引き受けいただき、ありがとうございました。
意地の悪い展開になってしまいましたが・・・如何でしたでしょうか?
シュラインさんの技能はかなり応用が利くなぁとしみじみ感じております。今後の活躍も期待しております。頑張ってください。
それでは、またどこかでお会いしましょう。
お疲れ様でした。