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<東京怪談ウェブゲーム 草間興信所>


骨貝の夢
◆夢に囚われしモノ
『骨貝の貝殻で髪を梳いて眠ると、見たい夢を見ることができる。』
そんなおまじないめいた事が広く噂に囁かれていた。

「最初は半信半疑だったんです。」
草間興信所の事務所を訪ねてきた依頼人・三島 結衣はそう切り出した。
「たかがおまじないだし、これで紗江子の気持ちが晴れるならいいかなって思ったんです。」
結衣の友人・高嶋 紗江子は失恋して酷く落ち込んでいた。
眠ることもままならぬほど思い悩み、振られた男性のことで落ち込んでいたのだという。
「だから、寝るときくらいイイ夢でも見なよって、このおまじないを教えたんです。」
結衣の話を聞いた紗江子は、帰りに小物屋で骨貝の貝殻を買い、喜んで家に帰った。
そして、そのまま眠りから覚めることなく一月が過ぎてしまった。
家族は紗江子を病院に入院させたが回復の気配はなく、医者もなす術がなく途方にくれる有様だった。
「きっと、おまじないのせいで紗江子は眠りつづけているんです・・・」
おまじないを勧めた本人として、また友人として紗江子のことが気になるのだろう、結衣は深く項垂れたまま言った。
「どうか、紗江子を眠りから覚ましてください。お願いします。」
草間は一瞬それは管轄外かもしれないと思ったが、思い返せばこのところそんな管轄外な依頼ばかりである事に気がついた。
「特殊なお話なので、何処までお力になれるかわかりませんが・・・全力を尽くしましょう。」
草間はそう言って舞い込んできた依頼を引き受けた。

◆決して覚めない夢。
「眠りから覚めない患者がいる。」
知人の医師からその話を聞かされたのは数日前。
その患者は多種の検査の結果、何処にも異常が無いのに睡眠状態からさめないのだと言う。
もちろん起こすためにいろいろ手を尽くしたが目を覚ますことは無かった。
今は食事もせず眠りつづける患者の生命を保つために点滴と注射だけを毎日行っていると言う。
家族から事情を聴取しても原因は一切わからない。
ある日、いきなり自分の娘が目覚めなくなったのだと言う。
「何か神経系統の病気と言うことは考えられませんか?脳腫瘍とか・・・?」
結城 凛はそう言う病気が時として植物状態を引き起こすことがあるので確認したが、医師はCTスキャンにしろレントゲンにしろとにかく異常が無い。脳波の状態も特別異常は無く「普通に眠っている状態」なのだと言う。
「わかりました。近いうちに病室へうかがいます。」
邪眼を使えば患者が取り込まれている「眠り」の原因がわかるかもしれない。
(いずれにしろ、異常が無いのに眠りから覚めないって言うのは普通じゃないわ。)
医師から託されたカルテを眺めながら結城は溜息をついた。

結城が病室に向かう途中、結城は意外な人物に声をかけられた。
「おや、この病院の先生だったのですか?」
「あなたは・・・司さん。」
以前、一度あったことのある司 幽屍だった。
司も意外なところで会うものだと驚いているように見える。
「今日は・・・どうして?」
結城には幽霊の司が病院へ来る用事と言うのが咄嗟に思いつかなかった。
まさか、治療に来たと言うことはあるまい。
「実はここの病院に眠りから覚めない患者さんがいるとお伺いしてそれで・・・」
司は簡単に草間興信所に入った依頼の話を結城に説明した。
「霊体の私ならば、意識の出来ないものでも話ができるだろうと思いやってきたんですよ。」
「そうでしたか・・・私も同じ患者さんに用があってきたんです。知人が担当医なので。」
結城も患者の状況を簡単に説明した。もちろん医療者の秘守義務に触らない程度に。
その話を聞いて司も結城と同じような事を思ったようだ。
「医学的問題は何も無いのに覚めない眠りですか・・・やはり、尋常ならざるものが絡んでいるようですね。」
「それはおまじないのことですか?」
「もしくは呪詛。」
「呪詛?」
司の言葉に結城は目を丸くする。
「このまま眠りつづけても患者の命は何の危険も無いかもしれない。しかし、患者の人生はそこで途絶えてしまう。殺してしまわなくても、呪詛として成り立つ。」
「そんなことを・・・一体誰が・・・」
結城は苦い顔で呟くように言った。
人の命を預かる医療に携わるものとして、そのように命を人間を弄ぶようなことは許されない。
「とりあえず、病室のほうへ行って見ましょう。患者さんに会えば何かわかるかもしれませんから。」
「そうですね。行ってみましょう。」
そして、結城と司は連れ立って患者・高嶋紗江子の病室へと向かった。

◆小さな悪魔
結城と司が高嶋の病室を訪ねるとそこには先客がいた。
依頼人の三島 結衣だった。
「先生・・・」
結衣は入ってきた白衣姿の結城に深々と頭を下げる。
「紗江子の様子はどうなんですか・・・?」
「担当の先生からご説明があった通り、今はまだなんともいえない状況です。」
結城はカルテを眺めながら、眠っている紗江子を覗き込む。
外見的な変化は一切無い。
本当にただ寝ているだけに見える。
「紗江子は・・・目が覚めるんですか・・・?」
結衣が身を乗り出すようにして結城の一挙一動を見ている。
よほど紗江子のことが心配なのか・・・
「私が憑依しましょうか?」
司が小声で言う。
司は自分が紗江子に憑依して深層にまで潜ろうと思っていたのだ。
「いいえ、多分、私の方がいいかもしれない。」
結衣に聞かれないように結城も小声で答える。
「深層心理のことなら専門家よ。まかせて。」
司はそれに少し微笑んで答えると患者のベッドから一歩後ろへ引いた。
結城は改めて結衣の方を見ると、できるだけ安心させるように優しい笑顔で言った。
「大丈夫、きっと目を覚ましますよ。」
「そんな・・・」
結城の大丈夫と言う言葉に結衣は顔色を変えた。
安堵と喜びではなく、失望と恐れの色に。
「え?」
結城と司も結衣の意外な態度に訝しい顔をする。

「まったくもうっ!」
いきなりドアを開けて小さな女の子が入ってきた。
「あなたが余計な事するからじゃない!バカっ!」
少女はつかつかと結衣の側に歩み寄り、結衣に罵声を浴びせ掛ける。
「だって、あたしが疑われるのは嫌だったんだもの・・・」
結衣は泣きそうな顔で少女を見て言う。
「だからってこんな連中に頼むなんてどうかしてるわ!」
「あ、あなたココは病室よ、少し静かにしなさい。」
二人のやり取りを呆然と見てしまった結城だったが、病室であることを思い出し少女をたしなめる。
「うるさいわねっ!」
「危ない!」
少女の声と司が結城の腕を思い切り引っ張ったのはほぼ同時だった。
ビシッ!
腕を引かれて後ろによろけた結城の目の前に閃光が走る。
「危なかった・・・」
司の声に結城が元居た場所を見ると床が黒くこげて煙を出している。
「な、なんなのっ!?」
「気をつけて、あの少女は危険だ。」
司は結城を庇うように前に出る。
霊体とは言え、今は姿を晒し形を持っている。
この未知数の少女に何処まで通用するだろうか・・・
「あなたは・・・スリープウォーカーにやられてまだ懲りないの?」
少女・アリスは片眉を上げて皮肉な笑みを作り司を見る。
見かけは12〜3歳の幼い少女なのだが、仕草の端々に大人びた様子が見られる。
「年長者には敬意を払うものだと学校で教わりませんでしたか?アリス。」
司は注意を自分にひきつけるために挑発的な台詞をぶつける。
確か自分の記憶ではこの少女は呪詛等の特殊なの応力を使ったと言う記録は残されていない。
報告されている殆どはコンピューターに関することだ。コンピューターを介さずに何ができるのはわからないが、そう言う場面の時はいつもスリープウォーカーが出てきていた。
(ならば勝機もあるかもしれない・・・)
スリープウォーカーが駆けつけるまでに何とかしなくては。

その時、再び勢いよく扉が開かれ、二人の人間が飛び込んできた。
シュライン・エマと大塚忍だった。

「そこまでだ。ベッドから離れろ!アリス!」
大塚とシュラインはベッドを庇うように部屋の中へ飛び込んできた。
「大丈夫?」
シュラインが部屋の中でアリスと対峙していた二人に声をかける。
そして改めてアリスのほうを見て驚きの声をあげた。
「こんな小さな子があの「アリス」?」
「小さくて悪かったわね。」
アリスはシュラインに毒づく。
「小さいからって馬鹿にしてると痛い目を見るわよっ!」
そう言ってアリスが虫でも追い払うようにふわっと手を振る。
ビシャンッ!
物理的な勢いを感じる閃光が走る!
「きゃっ!」
その煽りをモロに食らいそうになったシュラインを司がすかさず回り込んで庇う。
「電撃ですか・・・私には大して効きませんね。」
やや苦しそうだが、司はそう言うとアリスに笑って見せた。
「何をっ!」
「あなたの攻撃は私には通用しないと言うことです。」
そう言って司は構える。
何とかしてこの少女をおさえなくては・・・

「待って。」
動き出そうとした司を今度は結城が呼び止めた。
「結城さん?」
「キミ・・・紗江子さんが眠りつづけている理由を知っているのね。」
結城は静かに一歩前に出た。
そして、まっすぐにアリスと結衣を見つめる。
「し、しらないわっ!私は紗江子が目を覚ますようにって・・・」
「知ってたらどうだって言うの?」
動揺する結衣に比べて、怖いくらい静かな口調でアリスは言った。
「その子はそこでただ寝てるだけよ。ビンタでも食らわせば目が覚めるわ。」
「なんですって・・・でも、検査ではどうにも・・・」
「検査?機械でした検査ね。そんなもの私には何とでもできるわ。」
「検査結果を改ざんしたのか?」
大塚はハッと思い当たる。
天才的なハッカー・・・資料にはそうあったはずだ。
「検査結果だけじゃないわよ。点滴だってそうよ。コンピューターを通じて処方されている薬は栄養剤なんかじゃなくて麻酔薬。」
アリスはくすくす笑いながら自慢げに言う。
「その子は病院で麻酔をかけられつづけて衰弱して死ぬところだったのよ。」
「何故そんなことを・・・」
理解できないと言う顔で結城が言う。
「この子がキミに何をしたって言うの?何の関係があって・・・」
「関係ならあるわよ。」
アリスはにやっと笑う。酷く冷たい笑い方だ。
「やめて!」
耳を塞ぐようにして結衣が座り込む。
「やめて言わないで!」
「私は依頼されたんですもの。高嶋紗江子をわからないように消してくれって。」

◆嫉妬の影
「え・・・」
予想だにしていなかった言葉に一同は絶句する。
目を覚まさせて欲しいと依頼に来た三島 結衣が、実は紗江子を眠りにつかせた本人?
「だって・・・だって悔しかったのよっ!」
結衣が叫ぶように泣き崩れる。
「先輩は紗江子なんか選んでっ・・・!私じゃなくて・・・紗江子なんか・・・っ!!」
「じゃぁ、何で草間興信所に依頼になんか来たんだ・・・?」
呆気に取られたまま大塚が問う。
「怖くなったのよ。おまじないを勧めた自分が疑われたり責められたりするのがね。」
「じゃあ・・・依頼は・・・」
「自作自演よ。」
アリスは床に伏せて泣き崩れる結衣を見ながら吐き捨てるように言う。
「まったく、バカな事をしてくれたわ。たいした覚悟も無く人なんか殺そうとするからよ!」
「だって・・・だって・・・」
一同も呆然と結衣を見つめる。
恋に破れた結衣と勝ち取った紗江子。
その紗江子を憎み・・・死に至らしめようとするほど憎み・・・
「なんてバカな事を・・・そんなことで人の命を何だと思ってるんだっ!」
大塚が結衣を一喝する。
「本当よ。それにそんなことをしたって人の気持ちは変わらないわ。」
少し哀れみを感じる目でシュラインも結衣を見た。
「とりあえず、もうこんな馬鹿げたことは終わりにしましょう。」
結城は何も知らずに眠っている紗江子の側へ行き、結衣に向かって言った。
「紗江子さんを起こしましょう。」

「そうはさせないわ。」
紗江子を起こすためにベッドを覗き込んだ結城にアリスが言った。
「こんなツマラナイ終わり方させないわよ。」
「何を・・・きゃっ!」
結城はびりっと走った電流に思わずベッドから体を引いた。
「ここはハイテク病院だって忘れてなかった?」
アリスはにやっと笑う。
「機械が制御している以上、私が全てを握っているといっても過言じゃないわ。そこの幽霊さんも迂闊に動かないことね。紗江子の体についてる生命維持装置がいつギロチン台になるかわからないわよ。」
アリスの動きを止めようと動き出そうとした司は、その台詞にぐっと体をこわばらせる。
アリスは指輪の形をして手にはめられているしいさなマイクを見せて言った。
「私がこのマイクに命じれば、紗江子の命は無いんだから!」
「やってご覧なさいよ!」
そう言って一歩前に踏み出したのはシュラインだった。
「何ですって?」
アリスが険しい顔でシュラインを睨みつける。
「ハッタリじゃないんだからね!」
「だから、やれるならやりなさい。」
アリスに言い返したシュラインの言葉に・・・いや声に一同はハッとする。
シュラインが発しているのはアリスの声だったのだ。
「音声入力で声紋でも判別しているのでしょうけれど、私はあなたの声でその機械に命令することができるのよ。」
コレはシュラインの特殊技能だった。物や人に関わらずあらゆる音を声帯模写することができる。
シュラインは見事にアリスの声をコピーした。それは機械であっても判別は出来ない。
「ぐっ・・・」
「高嶋紗江子についている機械を全て無効化しなさい!」
一際大きな声でシュラインは言った。
その声はアリスの手にあるマイクを通し認識されたようだ。全ての機械が静かにその動きを止めた。
酸素吸入器なども動きを止めたが、眠っているだけの紗江子に影響はない。
「くぅっ・・・」
アリスは悔しそうに唇を噛んだ。

◆Game Over.
「だから言っただろう?もっと手早くやらなくちゃダメだって。」
ふいに天井から暢気な男の声が響く。
「スリープウォーカー・・・」
天井を見上げると、そこにぽっかりと口をあけた暗がりからニコニコ笑った青年・・・スリープウォーカーが病室を覗き込んでいる。
スリープウォーカーはすっと足を伸ばして病室の床に飛び降りると、自分を睨みつけているアリスを軽々と抱き上げた。
その様子を一同は息を詰めてみている。
スリープウォーカーの危険性はその気配に十分ににじみ出ている。
死に近い場所である病院ですら感じることのない、異常なまでに濃厚な死の匂い。
特に彼が今までどんなことをしてきているか知っている司と大塚は痛いほど緊張している。
直接は知らない結城やシュラインですら迂闊に動くことは出来ないと本能が感じている。
その緊迫した一同をスリープウォーカーは気が抜けるようなニコニコ顔で眺める。
「今回のゲームは皆さんの勝ちですね。この女の子は死なずに済みました。おめでとう。」
愛想だけは良いが、ひどく事務的な言い方だ。
「それでは。また。どこかでお会いしましょう。」
そう言うと、芝居がかった仕草でアリスを腕に抱いたままペコリと頭を下げると、二人は壁に溶けるように消えた。

「はぁ・・・何なのアレは・・・」
スリープウォーカーたちの姿が消えると、一同は呼吸を取り戻すように溜息をついた。
悔しい話だが誰も一歩も動けなかった。
何かの術が発動していたというわけでもない。
ただ、ひたすらに本能的な恐怖から動くことが出来なかった。
スリープウォーカーという邪気そのものに対峙するには心積もりが足りなかったのかもしれない。
「それより、高嶋さんは!?」
シュラインが我に返ったように、慌てて紗江子の眠るベッドを振り返る。
結城が素早くチェックして紗江子の無事を確認する。
「大丈夫、シュラインさんがシステムを止めてくれたのでなんともないです。」
「良かった・・・あ・・・」
一同が見守る中、紗江子の瞼がかすかに動き、ゆっくりと開かれる。
「ここは・・・?」
見慣れぬ病室と見知らぬ人間たちに困惑しながらも紗江子は目を覚ました。

◆そして・・・
病室を出た結城は、人間の振りをして共に出てきた司に礼を言った。
「あの・・・さっきは助けてもらって・・・」
腕を引いてくれなかったら、電撃に打たれて黒焦げになっていたかもしれなかった。
司はちょっと驚いたように眉を上げたあと、ふっと微笑んで言った。
「いえ。どうということはないですよ。」
「あ、でも、ありがとうございましたっ。」
結城はぺこっと頭を下げる。
「本当に今回は何事も無くてなによりでした。」
病院の通路に人がいないのを確認すると、司はすぅっと朧な姿に変わる。
「では、私はここで失礼を。」
そして、窓の外の景色の中に吸い込まれるように姿を消した。
(幽霊の知人というのは変わった存在だけれど、またどこか出会うかもしれないな・・・)
司の消えるのを見送った結城は、そんなことを考えながら病室を後にした。

後日。
小嶋 紗江子は再度の検査の結果問題なしと判断され翌日無事退院した。
三島 結衣はキツイ説教をされた後に、紗江子に直接事情を話した上で謝罪し、紗江子の許しもあって、今は再び友達同士として付き合っているようだ。

The End ?
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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

0795 / 大塚・忍 / 女 / 25 / 怪奇雑誌のルポライター
0884 / 結城・凛 / 女 / 24 / 邪眼使い
0086 / シュライン・エマ / 女 / 26 / 翻訳家&幽霊作家
0790 / 司・幽屍 / 男 / 50 / 幽霊

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■         ライター通信          ■
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今日は。今回も私の依頼をお引き受けいただき、ありがとうございました。
おまじないシリーズはどうも展開が意地悪くなってしまっておりますが、如何でしたでしょうか?
今回、骨貝と関係ないところに原因があるのでは?と読んだのは司氏だけでした。大分読まれてきてしまっている気がしますね。これからの活躍を期待しております。頑張ってください。
それでは、またどこかでお会いしましょう。
お疲れ様でした。