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<東京怪談ウェブゲーム 界鏡線・冬美原>


ウェイトレスの多い料理店
●オープニング【0】
 夏休みに入って間もない日のことだった。
「多すぎるね」
 ぼさぼさの髪に分厚い眼鏡、そして白衣を羽織った制服姿の少女、『科学部』副部長の松戸里香は『情報研究会』の部室に入ってくるなり、鏡綾女にそう言った。
「ほえ?」
 間抜けな返事を返す綾女。多すぎると言われても、何が多いというのか?
「昨日寄ったファミレスのウェイトレスがさ。規模を考えると多すぎる」
 里香は空いていた椅子にどっかと腰を降ろし、話を続けた。
「旧市街の神薙南神社近くに『金澤亭』ってファミレスが出来たのは、あんたも知ってるだろう?」
「あ、ウェイトレスさんの制服が袴な所だよね? 先週開店したんだっけ?」
「そう、そこさ。料理の味はよかったんだけどねえ、どうにもそれが気になってさ。テーブル席20に対して、店に居るウェイトレスが10は理屈に合わないだろう?」
 確かに……それは多すぎる気がしないでもない。
「料金が高めなら納得も出来るけど、それも普通だからねえ。悪いけど、そっちで調べてくれないかい?」
「別にいいけど」
 綾女がちらりとこちらを見た。
 ……はいはい、ウェイトレスの多い理由を調べてくればいいんですね。

●普通に推測【3A】
 神薙南神社の前を通り過ぎ、細い道をしばらく歩くとファミレス『金澤亭』はある。建物は平屋造りで、専用の駐車場はない。まあ旧市街という立地上、それは仕方のないことかもしれないが。
 すでに店内に居た志神みかねは、パンケーキとアイスティーを注文してからきょろきょろと店内を見回していた。
(本当に多いんだ……)
 店内には矢絣に袴姿という制服のウェイトレスたちが居る。里香が言ってたように、その数は10人。そしてウェイトレスの制服は紫と緑とに色分けされていた。その比率は8対2、紫の方が多い。
(でも何でこんなに多いのかなぁ?)
 実際にこうして10人居る姿を目の当たりにすると、里香の疑問も理解出来るような気がした。店の規模とのバランスを考えると、確かに妙なのだ。
(お店の御主人さんがいい人で『働きたい〜』って言ってきた人をみんな雇っちゃうのかなぁ……。それとも家族経営でみんな一族とか? くノ一さん1人で分身の術……は違うよね、顔が全然違うし)
 推測の方向性が微妙にあれな気もするが、自分なりにあれこれと考えてみるみかね。考えに没頭していたせいだろうか、みかねは声をかけられるまで親友の七森沙耶がやって来たことに気が付かなかった。

●過激に推測【4A】
「このチョコパフェ美味しいですよ」
「私のパンケーキも美味しい♪」
 注文した品を食べながら、感想を言い合う七森沙耶と志神みかね。3分の1くらい食べた所で、相手の注文した品を味見してみることになった。
「あ、こっちも美味しい……」
「わあ……チョコの苦さと甘さがちょうどいい感じ」
 結果、どちらも美味しいということの分かった2人。調査はもう別にいいかな……なんて考えが一瞬頭によぎったが、そういう訳にもいかない。
「可愛い制服の人がたくさん居ますね〜」
 みかねがそばを通りがかった、紫色の制服姿のウェイトレスに声をかけた。この質問を糸口に、少しでも情報を引き出そうというつもりらしい。しかしそのウェイトレスは、にっこりと微笑んで会釈を返すだけ。特に言葉を発することなく、戻っていった。
「……何で返事してくれないのかなぁ」
 みかねは首を傾げて思案を始めた。無闇に返事を返してはいけないと決められているのだろうか?
 みかねが思案している間に、沙耶はウェイトレスたちに対して霊視を行っていた。もしかしてウェイトレスは幽霊ではないかと思ったからだ。
(…………?)
 霊視で何か妙なことでも分かったのか、目を細める沙耶。何やら指折り数えている。
「数がぴったり……」
 沙耶がそうつぶやいた時、みかねが思案を終えて口を開いた。
「……もしかして何か妙なお薬を使ってウェイトレスさんに洗脳……?」
「……大丈夫?」
 またもや妖し気なな推測に走っているみかね。沙耶に心配されてしまう程に妖しい推測であった。

●話を聞くために【4E】
「えっ?」
 みかねは驚きで大きな声を出してしまいそうになり、慌てて口を押さえた。そしてひそひそと沙耶と会話を続ける。
「紫の制服のウェイトレスさんがおかしいって、どういうこと? まさか幽霊……?」
「ううん、幽霊じゃないみたいだけど……」
 怯えの表情を浮かべるみかねに、沙耶が説明を始めた。どうも、紫の制服のウェイトレスたちは人間ではないようなのだ。
「人間でもなくて、幽霊でもなくて、その中間のような……。一応、店長さんにお話を聞いた方がいいのかも」
 沙耶がそんな提案をした。頷くみかね。
「うん、直接聞いた方が早いよね……」
 このままここで調査を続けるには限界がある。ならば、店長に直接疑問をぶつけてみるのも1つの手だ。
 善は急げとばかりに、2人はウェイトレスを呼んで店長に会わせてほしいと頼んだ。断られたなら、それはそれで仕方がない。
 それからしばらくして、ウェイトレスが戻ってきた。何と店長に面会出来ることになり、2人はウェイトレスの案内で店の奥へと移動した。

●驚愕【5B】
「君たちが何を聞きたいのかは分からないけれど、部屋で話を聞かせてもらおうか」
 人のよさそうな中年男性が、みかねと沙耶の前に立ってそう長くない廊下を歩いていた。中年男性は藤森と名乗っていた。『金澤亭』のオーナー兼店長で、先程外出から帰ってきたばかりだという。何ともタイミングのよいことであった。
 そして藤森がある部屋の扉をガチャッと開けた。すると――そこには人形を手にした戸隠ソネ子の姿があった。
「……うわあっ!!」
 藤森が激しく驚き、叫び声を上げた。恐らく、誰も居ないと思っていた所にソネ子が居たものだから、驚いてしまったのだろう。
「あっ、あれ……」
 みかねがソネ子の手にしていた人形を指差した。その人形は、この店のウェイトレスと同じ姿をしていたのだ。
 そうこうしているうちに、藤森の叫び声を聞いた九尾桐伯と宮小路皇騎が何事かと後ろから駆け付けてきた。
「ウェイトレスさんここに居た……」
 ソネ子はそうつぶやいて、ニィ……っと藤森に微笑んだ。

●真相【6】
 10分後――『金澤亭』のオーナー兼店長である藤森は、5人を相手に事情の説明を始めていた。
「実は私には人形に生命を吹き込む能力があるんだ。といっても、1回につき半日程度が限度だけれども。それに気付いたのは2年前、私がまだおもちゃ屋を営んでいた頃だよ。店には売れ残りの人形が多くてね、人形たちが不憫に思えていた時に、この能力だ。私はすぐに人形に生命を吹き込んで、人形たちと会話をしたよ、何度も何度も」
 しみじみと語る藤森。5人は黙って話を聞いていた。聞きたいことは色々とあるが、まずは藤森の話があらかた終わってからにするつもりのようだ。
「人形たちは、自分たちが売れ残っていることに罪悪感を感じていてね。私の役に立ちたいと、何人も話してくれたよ。そう思ってくれるのは嬉しいけれど、人形たちがそう感じるのは実は違う。売れ残ってしまうのは、人形たちが悪いんじゃなくて、私の経営が悪い訳だからね」
 藤森はそう言って苦笑した。
「私はどうにか出来ないかと考えた。そこで行き着いたのが、ファミレス経営だよ。人形たちに従業員として働いてもらい、罪悪感を感じることのないようにしようと思ってね。役に立ってるぞって、人形たちに言ってあげたかったんだよ」
「あの……それで、お人形さんたちに言ってあげることは出来たんですか?」
 みかねが藤森に尋ねると、藤森はにっこりと笑ってこう答えた。
「もちろん。人形たちが働いてくれるおかげで、人件費を他の部分に回すことが出来る。結果的にサービス向上に繋がって、お客さまの反応も上々な訳だから」
「しかし……皆が皆、人形だとは思えないが」
 皇騎が疑問を口にした。やろうと思えば人形のみで従業員は賄えるはずなのに、店の前にだけ求人広告を貼っている。これはどういうことなのか。
「それは苦肉の策だよ。人形たちは、実は咄嗟の反応に弱いみたいでね。厨房は何とかなるが、ホールはそうもいかない。それを補うために、人間の娘に何人か入ってもらっているんだよ。もちろん事情を話してね。今うちで働いてくれている娘は、全員納得してくれた上で働いてくれているんだ。区別しやすいように、人間の娘には緑色の制服を着てもらってね」
 藤森のその言葉で、皆思い当たることがあった。店内に足を踏み入れた時、最初に出迎えてくれたのは緑色の制服姿のウェイトレスだったなと。
「制服はいったいどうされたんですか」
 桐伯が藤森に尋ねた。
「人形用の服の在庫がたくさんあってね、それを着てもらっているよ。確か……大正の女学生の物だったかな」
 なるほど、だからこの制服な訳か。別に何かを狙ったという訳ではないらしい。それにしても、こうして1つ1つ謎を片付けてみれば、そう難しい問題でもなかった訳だ。
「……あの、私、ここでアルバイトとして雇ってもらえないですか?」
 話も一段落した所で、沙耶が藤森にそんなお願いをしてきた。
「だって、制服が可愛いし……」
 照れた笑みを浮かべる沙耶。見ているうちに、自分も着てみたくなったようだ。
「ええ、構いませんとも。いつでもいらっしゃい、歓迎しますとも」
 藤森が微笑んで言った。一同の顔にも笑みが浮かぶ。
「ウェイトレスさん、思われていて幸せ……」
 ソネ子がぼそっとつぶやいた――。

【ウェイトレスの多い料理店 了】


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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【 整理番号 / PC名(読み) 
                   / 性別 / 年齢 / 職業 】
【 0230 / 七森・沙耶(ななもり・さや)
                   / 女 / 17 / 高校生 】
【 0249 / 志神・みかね(しがみ・みかね)
                    / 女 / 15 / 学生 】
【 0332 / 九尾・桐伯(きゅうび・とうはく)
                / 男 / 27 / バーテンダー 】
【 0461 / 宮小路・皇騎(みやこうじ・こうき)
        / 男 / 20 / 大学生(財閥御曹司・陰陽師) 】
【 0645 / 戸隠・ソネ子(とがくし・そねこ)
           / 女 / 15 / 見た目は都内の女子高生 】


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■         ライター通信          ■
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・冬美原へようこそ。
・『東京怪談ウェブゲーム 界鏡線・冬美原』へのご参加ありがとうございます。本依頼の担当ライター、高原恵です。
・高原は原則としてPCを名で表記するようにしています。
・各タイトルの後ろには英数字がついていますが、数字は時間軸の流れを、英字が同時間帯別場面を意味します。ですので、1から始まっていなかったり、途中の数字が飛んでいる場合もあります。
・なお、本依頼の文章は(オープニングを除き)全17場面で構成されています。他の参加者の方の文章に目を通す機会がありましたら、本依頼の全体像がより見えてくるかもしれません。
・今回の登場人物一覧は整理番号順で固定しています。
・お待たせしました、高原が趣味に走ってしまったお話をお届けします。ええっと……『金澤亭』の制服の元ネタは説明が不要かと思いますので、割愛させていただきます。
・今回のお話ですが、実は行動次第では『ウェイトレスは確かに多いけど、普通のファミレスだよな』で終わってしまう可能性がありました。その場合は、多くの謎が残ったままになるはずでした。結果的にそれは回避されていますけれど。
・本文では明確に触れていませんが、厨房スタッフも人形です。こちらはまだ人間は居ませんけれど。
・志神みかねさん、16度目のご参加ありがとうございます。怪し気ですねえ……推測。最終的に、直接聞いてみようとしたのはよかったと思いますよ。
・感想等ありましたら、お気軽にテラコン等よりお送りください。
・それでは、また別の依頼でお会いできることを願って。