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<PCシナリオノベル(シングル)>


朝まで生合コン!?
●メールに誘われて
 夜――波の音を聞きながら、松本純覚は海沿いの道を歩いていた。夜の海を見に来た……訳ではない。あくまでここは通過点に過ぎず、純覚の目指す場所は違っていた。
「んと……」
 携帯電話をぱかっと開き、メールを確認する純覚。正確にはメール本文ではなく、メールに添付されていた地図の確認なのだが。
「……キャンプ場で合コンなあ」
 訝る純覚。このメールが届いて数時間経っているが、未だに引っかかる物を感じていた。
 そもそもの発端は夕方に次のような文面のメールが届いたことだ。『合コンメンバーに飢えたそこのあなた! 出会いを求めるそこのあなた! 一緒に朝まで盛りあがりませんか? 会費はタダです。ぜひ奮って参加下さい♪』、この文面と共に会場を示した地図が添付されていた。その場所は何とキャンプ場。純覚が訝るのも無理はなかった。はっきり言って思いきり怪しいのだから。
 けれども怪しいと思っていながらも、純覚がキャンプ場へと向かうのには理由があった。といっても深い物ではなく、単純な理由。『島での長い滞在期間の暇潰しに』という理由だ。中ノ鳥島は静かだし、海も空気も綺麗な島だが、いかんせん退屈を紛らわせる物に乏しかった。
 ガセネタならそれはそれで仕方がない。けれども本当に合コンが行われているのなら、暇を潰すにはもってこいだ。しかも会費がタダなのだから、純覚が何か損をする訳でもないのだし。
 やがてキャンプ場へと到着する純覚。辺りをきょろきょろと見回すと、キャンプ場の一角に明かりが見えた。
 純覚が近付いてゆくと、そこにはどこから持ってきたのか分からないテーブルを囲む若い男女たちの姿があった。
「おっ、1名様ご案内〜!」
「ようこそ、合コン会場へ〜☆」
 現れた純覚を拍手で出迎える合コンメンバーたち。まだ酒が入ってはいなさそうだが、テンションは高い。純覚はこのテンションに少し戸惑いつつも、空いている場所へと座った。
「よーし、人数はこんなもんかな? それじゃそろそろ……」
「あっ、待って! もう1人来たよっ☆」
 合コンを始めようとした矢先、闇の中からもう1人現れた。
「……本当にやってたんだな」
 現れたのは眼鏡をかけた男だった。純覚はその男の顔を見て驚いた。
「草間……!? あんた、何でっ?」
 そこに居たのは草間武彦、その人だったからだ。当然ながら草間も純覚に気付く。
「何でって、まあ暇だからな。どうせそっちも似たような理由だろ?」
 さらりと言い放つ草間。そう言われてしまうと、言い返すことも出来ない。何しろ図星なのだから。
 草間が純覚とは反対側の空いた場所に座ると、この合コンを仕切っている青年が高らかに宣言した。
「じゃ、そろそろ合コン始めまーす! 俺、一応この合コンの幹事で青木です、どうぞよろしく〜!」
 手をぐるぐると回して拍手を要求する青木。他のメンバーもそれに気付き拍手をする。純覚もおざなり程度に拍手をしておいた。
 ともあれ、こうして合コンは始まった――。

●BGMは高らかと
 男女共に5人ずつという合コンは、まず各々の自己紹介から始まった。青木から始まって時計回りで自己紹介をしてゆく。純覚も草間も無難に自己紹介を済ませた。
 自己紹介が終わると、ようやくビールの缶が開けられて各々の紙コップへと注がれてゆく。手の空いている者は、お菓子の袋を開けたり缶詰を開けたりしてつまみの準備をしていた。
 ただ静かなので何か盛り上がりに欠ける。それに気付いた井上という女性がこう提案した。
「あっ、そこにラジカセあるんだから、音楽かけよ♪ 誰かテープ持ってないの?」
 純覚の後ろを指差す井上。純覚が見ると確かにラジカセがあった。
(ん? さっきこんなのなかったんちゃう?)
 純覚がここに座る時、ラジカセがあったような記憶はなかったのだが……まあ、うっかり見落としてしまったということもあるかもしれない。
「テープだったら、俺持ってんぜ」
 そう言って手を挙げたのは植村という青年だった。横に置いていたバッグから、何本もテープを取り出す植村。
「んじゃ、ラジカセ回せ回せ〜」
 純覚は青木に言われるままに、植村へとラジカセを回した。植村はラジカセを受け取ると、テープのうちの1本をラジカセへとセットした。
「ミュージック、スタート!」
 再生ボタンをガチャンと押す植村。数秒の無音状態の後、大音量で流れ出したのは――何と軍艦マーチであった。
「ありがとうございます、ありがとうございます! 本日は御来店誠にありがとうございます! 出ます、出します、出させます! ジャンジャンバリバリ、ジャンジャンバリバリ、張り切って参りましょう! ありがとうございます、ありがとうございます!」
 太田という青年が、声色を使ってパチンコ屋店員の物真似を始めた。これがまた上手く、純覚は密かに感嘆した。
「ちょっとぉ、他の音楽にしようよぉ」
 遠藤という女性が不機嫌そうに言い放った。
「あ、そう? んじゃこっちかな」
 植村はテープを止めると、別のテープと入れ替えて再生ボタンを押した。数秒の無音状態の後で流れ出したのは、聞き覚えのある明るく懐かしいメロディーだった。
「これ……マイムマイムちゃうん?」
 苦笑しつつ言う純覚。この曲がくるとは、ちょっと意表を突かれたようだ。
「俺、これ歌えるな」
 ぼそっとつぶやく草間。何で歌詞を知っているんだという疑問はさておき。青木が笑いながら言った。
「おいおいおい、他の曲はないのかよ〜」
「あ? やっぱオクラホマミキサーの方がよかったかな」
「何でやねん!」
 皆が一斉に植村へ突っ込みを入れた。そして起こる大きな笑い声。結果的に場が和むこととなった。

●王様っゲェェェェェェェムッ!!
 酒も入り、次第に赤らんでゆく合コンメンバーの顔。それは純覚や草間も同様だった。 そして程よく酒の回り切った所で、唐突に青木が言い出した。
「それではそろそろ行きましょうかぁっ! 合コンといえばこれ! 王様っゲェェェェェェェムッ!!」
 わあっと拍手が起こり盛り上がる他のメンバー。酒の回った頭では反対意見の出るはずもなく、一同はそのまま王様ゲームへと雪崩れ込んでゆくことになる。純覚はちらりと草間を見たが、黙々とビールを飲み続けているだけだった。
 王様ゲームのルールは単純だ。くじを引いて、王様になった者が他の者たちに様々な命令をしてゆくのだ。具体的には『5番が3番にケーキを食べさせる』というように、その番号のくじを持つ者に、指定した行為をさせるということになる。
 さっそくくじが作られてゆく。割り箸に1つだけは『王様』と書き、他の割り箸には番号を書いてゆく。全部で10人なので、番号は9番までとなる。
 くじが出来ればすぐにゲーム開始だ。一斉にくじを引き、自分の番号を確認する。純覚のくじには『8』と書かれていた。
「王様、だ〜れだっ!?」
 お決まりのかけ声と共に、手を挙げたのは遠藤だった。
「あたしが女王様よぉ☆ じゃあねぇ……1番に3番がぁ、このビールを飲ませてあげるのぉ!」
 缶ビールを手に、命令する遠藤。いよいよ番号の確認だ。
「1番は?」
 太田が手を挙げた。
「で、3番は?」
 苦笑しながら青木が手を挙げる。たちまち笑いが沸き起こった。
「見たくねー!」
「新しい世界が開けるかもよぉ?」
 冷やかし茶化されながらも、青木が太田へと缶ビールを飲ませてゆく。その様子を純覚は笑って見ていたが、忘れてはいけない。この手のゲームは、次第に指示が過激になってゆくということを。
 それを純覚が身を持って体験することになったのが、ちょうど10人目の王様が誕生した時だった。ここまで命令を上手く避けていた純覚のくじは『5』と書かれていた。
「王様、だ〜れだっ!?」
 お決まりのかけ声と共に、手を挙げたのは青木だった。
「ふっふっふ、王様ゲームの定番をここいらで。5番に、9番が、キィィィッス!!」
 シャウト気味に言い放つ青木。ヒートアップする他のメンバー。
(えっ?)
 純覚は戸惑った。命令されるのはまだしも、まさかキスを指示されるとは思わなかったからだ。
「5番は?」
 純覚が手を挙げた。さて、相手はというと……。
「で、9番は?」
 そこで手を挙げたのは。何と草間だった。ますます戸惑う純覚。何せ相手が草間なのだから。
 草間はすっと立ち上がると、純覚のそばへとやってきた。かなり酔っているのか、足元が少しふらついている。他のメンバーは、わざわざ草間のために席を空ける始末だ。
「純覚……」
 純覚の首筋に手をかけ、迫ってくる草間。その目は真剣そのものであった。
(この目……マジや……)
 草間の様子に混乱した純覚は、周囲を見回した。他のメンバーはキスコールではやし立て、どこから現れたのか人魂まで出る始末だった。
「ほらほら、幽霊さんたちも楽しみにしてますよ〜」
 井上が楽しそうに言った。そういう問題かという気もするが、混乱に拍車のかかっていた純覚にそう言う気力は残っていなかった。
 やがて草間の顔が純覚の至近距離に近付き――静かに唇が重なった。大きな拍手と歓声が沸き起こる。
 純覚の記憶があるのはここまでだった。

●朝を迎えて
 さて、翌朝。
「つ……つつ……」
 すでに日が高く昇っている頃、額を押さえながら起き上がる純覚。頭も痛いが背中も痛い。どうやらキャンプ場でそのまま眠ってしまったようだった。
「飲み過ぎてもうた……」
 純覚は何気なく周囲を見回した。が、変だった。いや、確かにそこはキャンプ場なのだが、居るのは純覚1人だけ。しかも合コンの痕跡が全く見当たらないのだ。チリ1つさえ残っていない。
 しばし事態の飲み込めない純覚だったが、やがてくすくすと笑い出した。何がどうなっているのか、純覚なりの結論が出たようである。
「……まぁ、幽霊も色んな人間と騒ぎたい時があるんちゃう? いつも脅かすだけやったら面白うないもんねぇ……」
 そうつぶやきながら、純覚は笑い続けた。他のメンバーは恐らく『あれ』に違いない、純覚はそう考えたのだ。恐らくはその考え、当たっていることだろう。痕跡が何も残っていないことが、それを物語っている。
 余談だが――旅館に戻っていた草間は、激しい二日酔いでその日は1日中寝込むことになってしまったという話だ。ああ、何とも情けない――。

【了】