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<東京怪談ウェブゲーム アトラス編集部>


調査コードネーム:白物語?「西瓜」
------<オープニング>--------------------------------------
「暑い……。」
顎の先から滴り落ちる汗を首にかけた手ぬぐいで拭うが、汗は次々に吹き出してとても追いついたものでない。
 貸して貰った麦わら帽子の幅広のつばが、へろりと垂れて強い日差しに作る濃い影を顔と肩に落としながら、三下忠雄は己が四方に首を巡らした。
 見渡す限り、地を這う緑…その中にゴロゴロと転がる西瓜。
 農道に積まれたコンテナの中にも西瓜。
 彼の手の中にも西瓜。
 まるまると育って大きく、戯れに固い皮を叩いてみれば「ポン♪」と身の詰まった音がする。
「ホントにこの中にあるのかなぁ…踊るスイカなんて…。」
読者コーナーに寄せられた投書、この広大なスイカ畑に自ら転がり回る愉快な西瓜が居るという。
「皆さん、お昼ですよー!ご飯にしましょうー!」
現存の危ぶまれるような年代物のオート三輪、そのエンジン音をぬう呼びかけに、三下はずっと屈んでいた為か痛む腰をさすりながら立ち上がった。
 てんでばらばらな位置で同道して来た人々が、同じように腰に手をあてながら立ち上がる様が見える。
 日は高く、雲の一片も見えぬ晴天。
「午後からも暑そうだなぁ…。」
 取材条件とはいえ、収穫を手伝うなんて条件に二つ返事で応じた碇編集長を思い…東の山の向こうを遠く見つめ、遥か南の熊本の地で溜息をつく三下であった。
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 スイカ畑に散っていた面々が、一画に濃く樹影を落とす常緑樹の下に集まって来た。
「皆さん、お疲れ様です。まずは冷たいおしぼりをどうぞ♪」
地面にレジャーシートを敷き、待ちかまえていた少女がクーラーボックスから人数分のおしぼりを取り出して配っている。
「お♪待っとったでー♪」
パチン、と農業用の鋏でスイカを蔓から切り離し、鈴宮北斗は素晴らしいバランス感覚で新体操のボールよろしくスイカを持った…一時に、実に六個。
 まず腕の間に一つずつ挟み込み、左右の肩に乗せた二つを両掌にそれぞれ乗せたスイカで軽く支える。
 平衡感覚と共に腕力も求められる大技だ。
 それを容易にしているのは、彼の額のバンダナ…今は汗止めの役も果たしているそれは、北斗のとんでもない運動能力、平素は自己暗示によって眠らせてあるその能力がオンになっている事を示す。
 その全能力が今、スイカ収穫にのみ向けられていた。
「ど〜こや〜踊る西瓜〜♪」
と、元気に歌いながら労を惜しまぬ姿は、頭が下がる思いだ。
 好奇心旺盛な北斗、目的は飽くまでも「踊るスイカ」であるが、都内であまりお近づきになる機会のなかった農作業にも興味を覚え、酷暑に汗しながらも労働を楽しんでいる。
 三下にとって彼が今回の取材に同行してくれたのは僥倖だろう…なんと言ってもスイカ一つ抱えて運ぶのがやっとなお日様に縁のない編集員と、騙し討ちで連行されてやる気の皆無な陰陽師の労働力の穴を埋めて余りある。
 抱えたスイカを農道に積まれた空のコンテナに放り込み、午前中に収穫した分(内、三分の二は北斗の手による)の積み込みまで手伝う北斗、早々に木陰に退避してしまった大人達が昼食を広げる様を横目に、欠食児童の誉れも高い彼の腹の虫が盛大に鳴く。
 大小様々、タッパーに詰められたおかずと大皿二つにどんと積まれた塩むすびが所狭しと並び、巨大な薬缶に詰まった麦茶はこれでもかというほどに冷やされ、涼しげに露を結んでいる。
 仲良く隣合って座る浅田幸弘と真由がほのぼのとした会話を交わす横で、
「三下さん、おしぼりお使いになって…?」
影に入って気が抜けたのか、大の字に転がる三下の顔にぺとり、と巳主神冴那が広げたおしぼりを乗せてやっている。
「あれ?彼、暑さでとうとう儚くなったの?」
なんて事を言いながら、革靴を脱ぐのはライティア・エンレイ…彼の作業着は、あろう事か上下共にレザーで黒尽くめだ。
 横のスペースに腰を下ろすライティアに、真名神慶悟はげんなりとした色を隠せない。
「暑くないのかお前?」
「そういうキミも人の事言ってられないんじゃ?」
 二人並んだダークカラーが視線と熱を吸い込んで、体感温度が二割り増す。
「うわ、めっちゃ旨そうー!」
それでなくとも人3倍働いている北斗が、瞬く間にコンテナを積み上げながるのに手を出す間があまりなかったオート三輪を運転して来たオジさんが呵々と笑って北斗の肩を叩いた。
「ヒダルカタイ、オモサン食べナッセ。」
陽にこんがりと焼け、白髪を短く刈り上げていかついが、人好きのする笑顔だ。
 ちなみに彼が西瓜畑の持ち主である。
「アータガタ、ガマダシナハルバイタイギャ助かったバイ。」
西瓜の詰まったコンテナの数に感心しながら、彼は朗らかに頷いた。
「話ャ聞いたときャ、ソーニャ西瓜ヨートワカランゴツッテ悪戯カ思たバッテン、ソーニャムサンヨカナジンバ来ヨッテオッタマゲタバイ。」
言いながら、直前まで冷やしてあった西瓜を二玉、運転席から取り出すと北斗に手渡す。
「ワシャア別カ畑アルバッテン、ココん任せっタイ。ヨケ取れたバ土産ニヨカシコ持ってイキナハリ!」
そうオジさんが最後に白い歯を見せ、トタタタタ…とオート三輪が去って行った。
「今の……解ったか?」
「あんまし。」
バリバリの熊本弁は、標準語からあまりに遠い。
 首を傾げる慶悟と北斗に、冴那に麦茶を注いでもらいながらライティアが言う。
「訳すとそうだね…お腹が空いただろうから、沢山食べなさい。」
冴那が魔法瓶の口を閉じながら後を受ける。
「あなた達はよく働いてくれるから助かった……かしら。」
塩むすびを囓りながらの幸弘。
「話を聞いたときはそんな西瓜全く知らないから悪戯かと思ったけど格好良い人ばかり来て驚いた…かな?」
悪魔召喚師であるライティアの使い魔、半蛇の女悪魔ネイテは胡瓜の漬け物を両手に。
「私は別の畑があるからここは任せる…いっぱい取れたらお土産に好きなだけ持って行きなさいってトコね。」
 真由が両手を併せて感嘆の声を上げる。
「うわぁ、ミンナ熊本弁に詳しいんですね、すごいなぁ。」
って、普通わかんねぇって。
 慶悟と北斗のツッコミは少数派の遠慮からか、心内でのみに止められた。


 さて、午後も元気に農作業である。
 とはいえ、午前中の内に収穫ノルマのほとんどを終わらせている為、踊るスイカ探しに専念できるので自然とメンバーは二人一組になった。
「どこや〜踊るスイカ〜♪」
北斗は鉢巻き…基、バンダナをキリリと締め直すと、熱中症寸前の三下の肩をバンバンと叩いた。
「なんや三下さん、まだ腹減っとんか?しゃっきりせんとスイカ捕まえられへんで〜♪」
別に捕獲が目的ではないのだが。
 鼻歌交じりな北斗を虚ろに見上げる三下。
「北斗くん、何でそんなに元気なんですか〜?」
「はじけそな位に昼メシ食ったさかい♪」
半袖のTシャツの袖を捲り上げ、腕の全部を晒してガッツポーズな北斗と、日光から逃れる如くその影にしゃがみ込む三下、明暗の対比と言う点で実にいいコンビである。
「そりゃそうと、どいつもこいつもコソとも動かへんけど、どないな風に踊るん?」
天秤のように一本の棒を肩にかけた北斗の質問に、三下は汗を拭いた手ぬぐいでそのまま眼鏡のレンズを磨きながら首を傾げた。
「さぁ…投書にはただ『踊る』としか書かれて居なかったので何とも…。」
「頼りにならへんなぁ…まぁえっか♪楽しみは後にとっといた方がええし♪」
トントンと肩を叩く北斗、その手にした棒を三下が指差す。
「北斗くん、それは…?」
「ん?相手が西瓜やったらこれしかないやろ!」
ビシッとサムシングを決める北斗の意図する所はただ一つ、夏の風物詩、浜辺の王道、『スイカ割り』。
「まぁそれだけが目的ちゃうねんけどな。」
背丈ほどもあるその棒で、北斗は地面を覆うスイカの蔦の間を叩いた。
「さっき冴那さんが蛇放しとったさかい…やっぱお互いに気ぃつけんとアカンやろし。あ、ホラそこそこ。」
言う北斗が棒先でスイカの葉を返すと、影に潜んでいたまむしが一匹、「何か用?」とでもいう風に顔を上げた。
「へへへ、蛇ぃ〜〜〜ッ!」
愉快に笑って飛び上がる三下、が、突然動いた為に立ちくらみというお嬢様スキルを発揮して目を回し、北斗にしがみつく。
「うわッ、三下さん、ちょうしっかりしてぇや!」
慌てふためく北斗…故にその頭上に影が出来たと同時に響く異音に気付くのが遅れた。
 パカラッ、パカラッと…まるでお忍びと称しては城下に繰り出し重臣の胃に穴を開けるのが趣味な将軍様が颯爽と浜辺を白馬で駆る時代劇のオープニングシーンのような蹄の音だ。
 顔を上げた視界いっぱいに、光を通して透明な水があった。
「のわッ?」
水で出来た馬…とはいえ、下半身は魚のそれである…の前脚がスコーンッと小気味よい音を立て、北斗の額を蹴ると同時、馬の姿はゴポリと音を立てて解け、大量の水が二人の頭上に降り注いだ。
「いきなし何しよんねん〜ッ?」
頭の先が足の先まで。
 ボタボタと水も滴る濡れ鼠になった二人に向かって、遠くから黒尽くめの人影が、呑気に手を振ったりなぞしていた。


「探すとなると居ないものだね。」
夕暮れが、空の色を染め変え始めている。
 赤さに目立つ長く影を引いた…影だけをみるとなんだかでこぼこと丸い突起が生えたような不気味さを持つ…北斗がスイカを抱えて少し残念そうだ。
「めっちゃ楽しみにしとったねんけどなー。」
本日の収穫のほとんどを担った彼等、本来の目的を忘れ去っていると思っていたが、ちゃんと覚えて居たらしい。
「ダメだ。式神にもひっかからない。」
渋面の慶悟が、手持ち最後の煙草を銜えたまま「お手上げ」と両手を上げて見せた。
「一旦引き上げますか?」
幸弘の言…けれどそれに抗したのは結局熱射病で倒れた三下だった。
「ボクはらいりょうぶれす…ろうしても…スイカ…スイカだけは撮って帰…ッ。」
呂律が回らぬ舌でカメラを手に起きあがりかけるも叶わず、そのままもう一度頭を落とした…ちなみにその足の高さを確保の為に提供しているのは冴那の膝である。
 日射病だったら膝枕だったのに…残念だったな三下よ。
「無理はしない方がいいですよ、三下さん…だってほら、このスイカ、幾つに見えます?」
心配げに真由が土産用に取って来たスイカを示す。
「1つ…いや、3つ?5つ…?」
幸弘が沈痛な面持ちで首を左右に振った…こんな大きな物がブレて見えるようではとてもじゃないがドクターストップをかけるしか…。
「………あら?貴方は…何者…?」
冴那がふと漏らした呟き。その眼差しの先。
 コロン、コロンと…土産用スイカの内で特に大きな物が転がった。
 一見、僅かな傾斜にその動きになったようにも見える自然さで…だが、明らかに異様な。
『スイカ』
と、縞模様が自己主張していた。
「そうね…スイカね……。」
自然に納得をする冴那。
「わー、ホントにこれが踊るスイカ!?」
真由が目を輝かせるが、微妙に目的に外れた喋る?スイカである。
「真由!」
近付いちゃいけません!とでもいうように、スイカに手を伸ばそうとした真由を背後から抱き止めてしっかと抱える幸弘。
『ニンゲ、ンタベ、ル』
ゴロゴロと、どこからともなくもう二つ、転がってきたスイカで一文が完成される。
 何故だか一玉につき三文字ずつの表示なので、句読点の読みにくさはご容赦願いたい。
「出てきたって?」
「やっとか……。」
「ホンマに動いとるー♪」
真由の声に戻ってきたライティア、慶悟、北斗が並ぶスイカを眺める。
「けどやっぱスイカはスイカやなー文法ちゃうやん。」
何処から出したか油性マジックで北斗は最後の『ル』を浮かび上がらせたスイカをひょいと取り上げると大きな×で『ル』を消し、『テ♪』と書き直した。
「こいで完璧や♪」
曰く。
『ニンゲ、ンタベ、テ♪』
「こいなら愛嬌が出て、可愛ぇで♪」
「……気が合いそうね…私は踊れないけれど。」
が、彼等は気に入らなかったらしい。
 訂正を食らった一個がコロコロと避けると、新たなスイカが加わってまた『ル』の一文字を加えて頑強な主張をする。
「もしかすると…。」
真由を放さないまま、幸弘が思案に眉を寄せた。
「俺たちに食べて欲しいんじゃなくて…スイカが俺たちを食うつもりなんじゃ…?」
どうやって。
 冷たい視線が幸弘に集中する。
「俺だって馬鹿馬鹿しいとは思うけど!」
赤くなった幸弘だが、その意見は肯定された…他ならぬスイカ達によって。
『ソノト、オリ』
スイカが不気味に笑った………ような気がした。
 そしてその時既に周囲を巨大なスイカの群れが埋め尽くしていた。
「ふ…上等や!スイカのなんたるかを骨の髄まで叩っこんだる!勝負や!」
「スイカに骨はない。」
京劇の孫悟空よろしく見得を切る北斗に、慶悟のツッコミが入る。
『クラエ、ローリ、ングス、ペシヤ、ルアタ、ツク』
技名の申告までする律儀なスイカ達…はおもむろに彼等の周囲を回り始めた。
 次の動きを警戒して身構える面々…だが、スイカは右に左に、円を描いて時折石にあたって跳び、そりゃもう凄い勢いでゴロゴロと………ただひたすら転がり続ける。
「………なんやねん、それ?」
ある意味スペシャルな技ではあるが。
 最初にキレたのは慶悟だった。
「………行け。」
静かな声音に滲んだ怒りに応じた式神が、スイカ達が地面に接するタイミングで弾き、一応それなりの法則があった動きに乱れを生じさせた。
 互いにぶつかり合い、動きが取れなくなった一群に向ける刀印、その指に挟んだ符が白光に尾を引いて燃え上がる。
「我、汝が在るが様を禁ず!」
キン、と空気が硬質な音に震え、スイカ達がピタリと動きを止めた。
「動き止めてもたら、おもろないやん!」
そこで慌てる北斗、動くスイカが標的などという愉快なスイカ割りの機会を逃すまいと、猛然とスイカの群れの中に突っ込んでいく。
 が、敵もさるもの、伊達や酔狂で自立行動に至っているのではないらしく、素直に叩かれてはくれない。
「それじゃボクも。」
名乗りを上げた悪魔召喚師、得意の召喚術で如何に対処するのかと思いきや、その手には30cm程の筒が握られていた。
 その一方に口をつけ「フッ」と軽く息を吹き込むと、先端から飛び出した針が少しへろへろけと放物線を描いてどうにかスイカの一つに突き立った。
「………ライティア?」
ネイテの疑問符に、主は頭を掻いた。
「スイカには麻酔が効かないという事が証明できたよ、ネイテ。」
元気に跳ねるスイカはすぐに仲間に紛れて見えなくなる。
 一転、樹下に落ち着く幸弘と真由、冴那、おまけに三下はのんびりとしたものである。
「隆之介が喜びそうな光景だな…。」
東京に残してきた親友の顔を思い浮かべつつ、レジャーシート内に入り込むスイカが入れば、有無を言わさず氷付けにしている…炭化させてもいいのだが、食べ物は大切にしなければ真由に示しがつかない。
「………踏まれそうだから、あなた達は非難してなさいな…。」
乱闘状態に、そう蛇に言い聞かせる冴那…聞き分けの良い彼等はおとなしくとぐろを巻いたり伸びたりしている…三下の上で。
 冴那は声無く気絶している三下の足を膝に乗せたまま、
「よく眠っているわね……。」
と、親切にまたタオルを顔に乗せてやっていた。


 そんな騒ぎも時間をかければ納まるもので。
 慶悟の禁呪と幸弘の氷結で動きを取れなくなった大半にスイカ達は劣勢に追い込まれていた…そりゃ転がるしか出来ないなら当然の結果と言えよう。
 その残、10程。
 敗退を喫した彼等は腹(?)をくくったのか、ライティアの問いに人間を襲うに至った経緯を語り出した…曰く、彼等はその巨大さ故に市場に流通規格外とされ、食べ頃を過ぎようというのにいつまでも収穫されないのが遣りきれなかったのだと。
「なるほどね…。」
「なんで納得出来んねん。」
頷くライティアに北斗がビシリとツッコむ。
「ユーゴスラビアのジプシーの間では、スイカが吸血鬼化するという伝承が残って…いや、本当だよ?」
白い目を向けられてしまうライティア…冗談のようだが、事実である。
「栄養を吸収しようにも蔦もなければ消化器官もない…で、どうやって俺たちを食べるつもりだったんだ?」
幸弘の指摘にスイカ達は初めてその事実に思い至ったらしく『ムネン、…』とその心持ちを文字で現した。
「後はどうする。」
動こうと頑張るスイカを靴の下に押さえつけながらの慶悟に、真由が幸弘を見上げる。
「ね、ちょっと可哀想だよ…どうにかしてあげよう?」
「せやったら簡単やん♪」
北斗がニカッと笑った。
「スイカの本懐を遂げさせてやりゃえぇねん♪」
「それも、そうね…。」
冴那が包丁とまな板を取り出す。
 じり、と。
 スイカを囲む包囲網が小さくなった。


 翌々日、熊本から直接編集部へ戻った面々を、機嫌の良い碇が出迎えた。
 お土産と称し、トラックで持ち込まれた巨大なスイカはお裾分けとして出版社全域に配られ、人間関係の円満化に一躍かっていた。
「やっぱり旬の野菜は土地の物に限るわね。お疲れ様。」
碇の机の上にも、重量級がひとつ、存在感も大きく鎮座在している。
「空気と水が美味しくて良い場所でしたー。取材先の方がまたいい人で…」
取材の後半はほとんど人事不省に陥っていた三下だけが元気に労いに預かる。
「お、俺…なんや顔がスイカの縞模様になっとう気がする……。」
「大丈夫みたい…まだ。」
アトラス編集部の来客用ソファに転がった北斗に、ライティアの肩の上から不安の滲む返答をするネイテ、無言で胃薬を飲む慶悟、顔色の青い幸弘が心配そうな真由と、困惑する冴那…彼女に常に添う錦蛇の胴が、丸い三つの連なりに団子を彷彿とさせる形状と化している為だ。
「消化に時間がかかりそうね…。」
持って運ぶにも重い。
「ウチに寄って行く?」
世を忍ぶ仮の獣医は、さり気なく顧客確保に勤しんでみたりしている。
「………で、記事にはなりそうなの?」
「えーと、ハイ、証拠に写真も……。」
続く碇と三下の会話に全員が首を傾げた…誰か写真を撮っていただろうか?
 答えは否、である。
 フィルムの残数を確かめる三下の顔から、サーッと血の気が引く。
「………三下?」
笑顔の碇…背後に赤黒いオーラが立ち上っている…ような気がした。
「記事にならなければ熊本まで出掛けた意味がないでしょう!出張旅費は全額アンタの給料から引くわよ!」
「えぇッそんな編集長、ご無体な〜ッ!」
泣きの入る三下の前で。
 スイカがゴロンと回ってみせた。
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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【0476/ライティア・エンレイ/男/25歳/悪魔召喚士】
【0767/浅田・幸弘/男/19歳/大学生】
【0389/真名神・慶悟/男/20歳/陰陽師】
【0262/鈴宮・北斗/男/16歳/高校生】
【0376/巳主神・冴那/女/600歳/ペットショップオーナー】

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■         ライター通信          ■
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ホントに奇妙な依頼にご参加頂き…それにしてもどうしちゃったの北斗サンってば!こんなに早く仕上がるなんて鬼の霍乱!?…なーんて笑いに飢えてただけだったり…いや、いつもこんな早く上げれたらいーんすけどね…(遠い目)
ちなみに元ネタは読んでた資料にあった「吸血鬼の使い魔は西瓜」という記述。
西瓜がどうやって人を襲うよ、とか血を吸おうにも歯がないのにどうするよ、とか悶々と考えていたのでいっそ書いてしまいました。
そして一番苦労しました熊本弁!調べながら書いたので、用法に誤りが御座いましたら北斗までご指摘下さい。

ご参加ありがとうございました。
それでは、また時が遇う事を願いつつ。