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<PCシナリオノベル(シングル)>


記録映画

 海岸の洞窟。そこは、ホラー映画の舞台として格好の場所だった。
 当然、誰からともなく声が上がる。
「ドキュメンタリー映画を撮ってみない?ビデオを回しっぱなしにして、洞窟の中の一部始終を撮るだけでも、面白い映画になると思う」  …うーん、なんだかそんな映画があったような気がするけど…。
 ともあれ、月刊アトラスの三下から首尾良く取材用のビデオカメラと撮影用ライトを借りてきた一行。
 …え?
 これって家庭用ビデオカメラと懐中電灯じゃあ…?
 まあ、そんなことは気にしない。バッテリーもテープも異常なし。
 やがて日は暮れ、いかにも何か出そうな気配に。
 求めていたのは、こんなシチュエーション。さあ、撮影に出発だ!

「ホラーなら、やっぱコレがないとね☆」
 と、ノリノリのファレル・アーディン君(14)が取り出したのは、ロウソクだった。
「岩の上にロウたらして固定してー、これで懐中電灯消せば雰囲気ばっちし☆」
 が、ここで気付いた。ホームビデオじゃ、光量足りない。絶対足りない。
「…」
 仕方ないので付ける。背に腹は代えられないし。
「何が出るかな何が出るかな」
 しかし、相変わらずノリノリだったりするのである。

「結構奥まで来たけど、まだ何も出てこないなあ。まあ、出てきても、中和能力あるから全然平気なんだけどねー」
 しかし、そんな彼に忍び寄る影…。
「うーらーめーしーやー…」
「ぎゃあああああああああああああ!」
 ナイスリアクション☆いますよね、こーゆーの。「全然余裕、肝試し上等、怖いモンなんてないもんねー」とか言っておきながらビビりまくり、挙げ句泣いて帰ってくる奴。
 少なくとも、クラスに一人はいるはずです、実は怖がりの奴。しかも、男子に限って多いのがお約束。
「む、あいつらじゃないのか。驚かせて済まなかったな」
 あ、意外といい人。
「お兄さん、何者さ…」
「俺か?俺は早見という。実は仲間同士でこの島に来て、洞窟で肝試しをしていたのだが、奴ら迷ったのか、いつまでたっても来ないから暇だったんだ」
 こういうのもいますよね。例えば、肝試しに限らず、かくれんぼとかで、適当にかくれて鬼が見つけてくれるの待っていてもいつまでも来ないから、おかしいなと思って出てみたら、みんなは他の遊びをしていたという…あの時の孤独感は、子供心にはかなり痛いはず。
 逆に、隣の家に隠れたふりをしてちゃっかりお菓子とかごちそうになって、しかも仲間たちにはしらっぱくれる奴もいるかな。
「…お兄さんが気がつかないうちに通り過ぎたんじゃないの?」
「そんな馬鹿な」
 ファレルは仕方ないな、と溜め息をついて、早見がいたあたりを指差した。
 そこには、大量の牛丼(特盛)弁当の残骸が。
「…」
「お兄さんがご飯食べている間に先に行っちゃったとしか思えないんだけどさ」
 これも、よくありますよね。お弁当食べていたら、気がついたら午後から始まる移動教室で遅刻とか。
「この先、どうなってるのかな」
「さあ…まあとりあえず気をつけて行ったほうがいいぞ。本物が出るらしいからな」
 出るんか、本物。
「そっかあ。お兄さんありがとねー」
 そしてファレルは、カメラと懐中電灯を持って歩きだした。

 しばらく行くと、真っ青になって引き返してくるカップルと遭遇。
「さっきのお兄さんの仲間かな?」
「おい!何やってんだガキ!今すぐ引き返した方がいいぞ!」
 男の人が言う。
「一体何があったんですか?」
「本物が出たのよ!」
 どーやら、本物の幽霊が出たらしい。
「まあ、普通の幽霊なら逃げたりしないけど…ありゃ悪霊だな。しかも力が、ケタ違いだ」
 ファレルには、その言葉を言った男の人が『鬼よりも、はるかに強いなんて』と付け足すように呟いたように聞こえた。
「へえ、本物かあ。見てみようかな」
 幽霊なら、中和能力のおかげで怖くないし。
「おいおい…興味本位で近付ける相手じゃねーぞ」
「大丈夫ですよ」
 そしてファレルは更に奥に進んだ。

 オオオオオオン…。

 何かのうめき声が聞こえた。
「これは…」
 洞窟の最深部にあったのは、巨大な地下基地の跡。
 そして、その中心には巨大な亡霊。
「さっき言ってたのは、コレか。確かに強そうだけど…」
 空間に、光が、満ちた。
「お休みなさい」
 光が、巨大な亡霊を浄化する。
「ここで死んだ人たちの霊が固まって、あんな巨大な亡霊になったのか…」
 おそらく、霊たちは、太平洋戦争の時の兵士たちのものだったのだろう。
 「お国のため」に、派遣された彼らは、二度と故郷の土は踏めず、さらに故郷の土の中で眠ることすらできなかった。
 どんなに、苦しかったことか。口惜しかったことか。ファレルには、判らない。
 ただ、判るのは、彼らが『悲しみ』を抱えて死んでしまったこと。
「お休みなさい…」
 次の瞬間、ファレルは後頭部に激痛を感じ、そのまま気絶した。

「や、やべ…幽霊が出たと思ってつい…」
 ファレルを気絶させたのは、以前料理大会で、海藻に命を奪われそうになった彼を助けた双子の、姉の方だった。
「あーあ、完全にノビてるね」
「引き返すぞ。このままじゃ絶対俺たちだってバレる」
「どっちにしろバレるんじゃないの?」
「ゆ、幽霊のせいということで…」

「霊の気配が弱まったって本当か?」
 しばらくして、早見たちが何人か仲間を連れて下に降りてきた。
「ああ。弱まった、じゃなくて、完全に消滅している?」
「霊の気が判るの、日下くんだけだもんねえ…」
「まあ、氷鬼の子孫で霊の気配判らなかったら笑っちゃうけど」
「うるせーぞ、唯」
 そして最深部に辿り着いた彼らが見たものは、気絶してるファレルだった…。
「おい、結局気絶しているんじゃねーか」
「どーするの?」
「とりあえず、上に運ばなきゃな」
「誰が運ぶのよ」
 おもむろにじゃんけんをしだす彼ら。
「はい、麻城決定」
「ひっどーい!女の子に力仕事させるの!?」
「何甘えてんだよ。つーかお前、男じゃん」
「…」

 そして、気絶から回復したファレルは、早速上映会を行なう。
 途中までは、普通に映っていた。しかし、悲しいかな。この手の話には、必ずお約束通りのオチがあるのである。
「!?」
 突然画面が揺れて、真っ白になり、お約束の法則に従ってか、何が起きているかわからなくなった。
 しかも、画面が真っ白になったのは、肝心の、ファレルが亡霊を浄化するところの直前だったりして…。
「ちょ…故障!?」
 しかも、一番のハイライトシーン直前で!これもまた、お約束の方程式の解なのか。
「あ、戻った…って何じゃこりゃあ…」
 ファレルが泣きたくなるのも無理はない。
 ハイライトシーンも消え、ファレルが気絶した原因も判らなかった。
 ただ、流れたのは、早見たちのショートコントとしか思えない会話のみであった…。

 頑張れファレル、頑張れファレル。こんなことでくじけるな。
 きっと明日はいいことあるさ。
 今日が駄目でもいいトゥモローだ。
 何はともあれ、若い君には明日があるさ。