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<東京怪談ウェブゲーム 草間興信所>


浜辺の水着のお嬢さんコンテスト

オープニング

「浜辺の水着のお嬢さんコンテスト☆」
 東京近郊のある海岸を舞台に毎年行われている水着コンテストがある。
 若者に人気のあるファッション雑誌「ruru」が主催で、上位に入賞した者は雑誌に写真が載ることもあって、毎年多くの参加者があると聞いている。
 草間武彦は、そのコンテストのチラシを手に取り、眉を寄せる。
 目の前に腰かけている「ruru」編集部から来た編集者舘野は、緊張しているのかなかなか言葉を発さない。

「それで?この水着コンテストがどうしたのです?」
 しびれを切らせて草間は彼に尋ねた。
 月刊アトラス編集部の碇麗香の紹介で来たという。依頼内容は簡単には麗香から聞いてはいるものの、やはり本人からちゃんと聞いておきたい。
「この水着コンテストを陰ながら警備して欲しいんです」
 舘野はようやく口を開いた。
「・・・私は幽霊とか妖怪とかUFOとか、その類は全く信じないクチなのですが、どうしても編集長が行けというもので・・」
「つまり、何かあったというわけですね」
 やれやれ、と思いながら草間は身を乗り出して、舘野の話に聞き入った。
「コンテストは、今年で3回目なんです。毎年たくさんのご好評を頂いていて、今年も準備を早くからしていたのですが、よくないことが続いたりして、編集長が本番でこのようなことがないように万全を尽くしたいということなのです」
「よくないことというと?」
「第一回の優勝した女の子が芸能界デビューしたこともあって、たくさん参加の希望があるものですから、一次審査として写真を送ってもらって、それに通った子だけが参加できるんです。ですが、その一次審査に通った中で、編集部でも注目する子ってありますよね。その子のうちの何人かが、夜中道を歩いていたら頬をナイフで切られるとか、急病で倒れたとかいうことがあったのですよ。それに、写真選考の担当の編集者も、交通事故に遭いまして入院することになりました」
「ふぅむ」
「写真選考の結果は雑誌には載せていませんし、怪我をした女の子も大怪我って程ではないので、報道などはされていません。ただ、本番で何かあるんじゃないか、と編集長が心配してまして・・それで、怪奇探偵と呼ばれる草間さんにお願いしてみようといった具合で」
「・・怪奇探偵・・」
 なにやら反論したそうな表情を向けてから、草間は灰皿の縁に置きっぱなしだった煙草を口に含んだ。
「それにおおっぴらには知られていないはずなのに、読者の中に、去年の優勝者の真中碧が祟っているんじゃないかという噂までたってしまって・・」
「祟るような理由があるんですか?その人には」
「まあ前回の優勝者が芸能界デビューしてますし、彼女も可愛い子だったしで、いくつかの事務所から誘いの声があったみたいなんですよ。だけど、コンテストが終わってひと月くらいたった頃かな、彼女、電車のホームに落ちて亡くなったのですよ」
「・・ふむ」
「酔って誤ってホームに落ちたんです。もちろん事故なんですが。まあ、ここまで色々重なるとね」
 草間は煙草の煙をゆっくりと吐き出し、うなずいた。
「・・わかりました。そのコンテストが無事に終わるように警備をするのですね。力になれるようやってみましょう」

■白い浜辺
 水着コンテストが開催される白浜のビーチは、リゾートホテルの建ち並ぶ名所でもあった。
 その中の一つ白亜のホテル「ロワイヤル」の中の一室「鬼灯の間」を、草間探偵は編集部から与えられていた。
 割と広く小綺麗な部屋で、真名神・慶悟(まながみ・けいご)は応接間にあるソファの角を気に入り、そこに腰掛けて煙草に火をつけた。
 黒いスーツに派手な色のシャツ、金に染めた髪に片耳だけのピアス。端正な派手な外見も含めてとても目立つ青年だ。
「事前に手分けして調べてきた情報をまとめてみるわね」
 同じく部屋に集まっている探偵の関係者達に飲み物を運んできて配った後、シュライン・エマという女性が綺麗な姿勢で立ち上がり、辺りを見回す。
 中性的な容姿に切れ長の美しい青い瞳。長い黒髪を後ろで一つにまとめ、シュラインは手元のレポートに視線を移す。
「いいかしら?読み上げさせてもらうわね。 
 山上瑞樹 17歳 6月13日 急性腎炎で入院。
 近藤明菜 18歳 6月28日 深夜路上を歩行中 突然自転車で走ってきた男にナイフで頬を切られる。
 田代百合 16歳 7月5日 近所の歩道橋を渡ろうとした時に転倒。肘などの複雑骨折。入院中。
 それと、ruru編集部の担当だった尾上武治。帰宅途中で交通事故に会い半年の入院。事故を起こした車と
その持ち主は現在も見つかっていないわ。
 噂では昨年事故で亡くなった真中碧って子の呪いだっていう噂もあるようだけど」
「幽霊説は反対」
 はい、と小さく手を上げて、長谷川・豊がシュラインに言った。
 豊は名前は男性のようだが、大学院生のとても綺麗な少女である。彼女は立ち上がり、言葉の先を続けた。
「犯人は生きてる人間だと思うの。このコンテストの出場者がライバルを減らすためにやってるんじゃないかな。
だってナイフでしょ?霊だったらそんな面倒臭い事する?」
 聞いていた慶悟は足を組みなおし、煙草を手に持ったまま豊を見上げた。
「それも一つの可能性とは思うが」
 部屋の隅で椅子に腰掛けていた慶悟が豊の方に表情を向けた。
「彼女達がこのコンテストに出場するということを犯人はどこで知ったんだ」
「そ…それは」
 その情報は編集部の中だけしか知られてないはずだった。そのうえ被害者は編集部の人間も混ざっている。
「可能性として被害者達には共通点が一つあるわ」
 シュラインが慶悟を振り向きつけ加えるように告げた。
「彼女達は全員去年もコンテストに出場していたの。それに碧さんが亡くなった日、一緒に電車のホームにいた
子達なのよ」
 
■開始
 シュラインはレポートを持って編集部の者たちが集まっているスタッフルームに向かって歩いていた。 
 去年もコンテストに参加し、さらに碧が事故に遭った時居合わせた少女達のうちの三人が、今日のコンテストに参加しているのだ。彼女達の警備方法についての相談や、今日のプログラムなどを受け取りに行くためである。
 しかし舘野の姿はそこになかった。
「あれぇ…舘野さん、さっきまではいたんですけどねぇ」
 かわりに他の編集部員がプログラムを手渡しながら、頭をかいた。
「帰ってたりしてな」
 違う部員が背後でからかうように言った。
「まさか。舘野さんは担当ですよ?」
「…舘野にとっちゃいろいろあるからねぇ」
「どういうことですか?」
 シュラインは奥にいた編集部員にたずねる。中年の彼は苦笑しつつ頷いた。
「去年の優勝者の真中碧さんは彼の恋人だったしな。前の担当者が交通事故で入院して、まさか彼がその後の担当に立候補するなんて思いもしなかったさ」
「恋人…」
 シュラインは驚いて彼に聞き返した。
「それだけ舘野さんにとっちゃ思い入れが深いってことでしょう」
 プログラムを渡してくれた若い編集部員が微笑んで言った。
「舘野さんがこのコンテストを盛り上げようとして必死なのは見ていたらわかります。去年に参加した女の子達にまで電話をかけて積極的に誘ったりしてね」
「そうだな…」
 シュラインは何か胸騒ぎがするのを感じて、ホテルの中をそれからも舘野の姿を求めてしばらく歩き回っていた。
 だが舘野の姿はホテルのどこにもなく、そして会場となるビーチにいる仲間達も舘野の姿を目撃したものはいなかった。


■衝撃
 シュラインがホテルの中を歩き疲れてようやく部屋に戻ってくると、そこには意外な来客があった。
 草間がシュラインの姿を見つけてにやりと笑う。
 彼の隣のソファには楓・司という京都から来たという退魔師の金髪の青年が腰掛けている。
 ふと違和感を感じよく目をこらすと、その青年の隣にはワンピースを着たストレートの長い黒髪の少女が遠慮深そうに腰掛けているのだ。人間ではない。それはすぐにわかった。
 だが、それが真中碧の幽霊と気づくのには、しばらく時間が必要だった。

 司は早朝のうちに彼女が亡くなった渋谷駅へと出向き、彼女が成仏しているのかどうかを調査をしにいったのだという。
 そこで彼女を呼び出すと、なんとなく意気投合したというか、彼女が行きたいと自分から言ったので、連れてきたのだという。
「まあ」
 シュラインは呆れるというか驚くというか、複雑な思いで彼らを見つめ、それから「お茶は出すべきなのかしら」と悩んだりもした。
 そしていろいろ考えたあげく、最初にすることをようやく思い出した。
 「とりあえずこれが今までにわかってる情報よ」
 シュラインは司にレポートを手渡した。
 司はそれを受け取るとその表面を眺める。シュラインははっと気がついた。司は部屋に入って初めてみたときからずっと瞼を閉じていたのだ。「心眼」で物を見るとは聞いていたが、もしかすると。
「あ…ごめんなさい。読みましょうか?」
 シュラインは、司の手元からレポートを取り戻そうとすると、彼は微笑んで首を横に振った。
「大丈夫や。見えとる」
 その証拠にというように、司は小さく声に出してレポートを読み出した。
 その内容を司の隣で聞き、碧が痛ましそうに眉を寄せる。
「…あなたの仕業ではないのね?」
 シュラインは碧に尋ねた。碧は強く頷く。
「私じゃありません…。私…じゃ」
 碧は首を横に振る。
 綺麗なストレートの長い黒髪を持つ素直そうなかわいらしい顔立ちの少女だった。 一年前に突然事故で亡くなったというのに、その彼女を包む魂の光の色は美しい。
 やはりソファの角の席についている真名神・慶悟が、ポケットの煙草を探りながら碧に尋ねた。
「では誰なんだ?」
「まあ…ええやん。…言いたくないならそれで…」
 レポートを読み終えた司が、碧を庇うように言った。
 慶悟は煙草に火をつけて、しばらく黙った。

 その時ポケットに入れていた携帯電話が着信メロディを突然奏でる。
 シュラインはその電話に出る。電話の声は綺羅・アレフだ。彼女の話を聞いてシュラインはみるみる顔色をかえた。 
「大変!」
「どうした」
 振り返っていた草間がシュラインに尋ねる。シュラインは答えた。
「浜辺の林で、持田美幸さんがエアガンで撃たれたらしくて怪我をしたらしいわ」
「何っ」
 慶悟は叫んで、上着の内側のポケットから持田美幸の名の書かれた人型の符を取り出す。その符はいつのまにか腕や胸の部分が千切れてしまっていた。
 それは彼が先に用意しておいた襲われる可能性のある少女達の名前の刻まれた式神の符だった。
「怪我は軽傷らしいけど、アレフさんと光さんで病院に連れていってくるそうよ」
「どうやら依り代が役にたったらしいな」
 慶悟がそのぼろぼろになった符を手にひとりごちる。その符には「持田美幸」と書かれている。
「しっかしエアガンで女の子を狙うなんて穏やかやないな」
 司が拳を握りつぶやく。
 部屋の中に空気はとても重くなっていた。

■少女
 しばらくして長谷川豊が、探偵の部屋に連れてきた少女はショートカットのまだ幼さがかなり残るおとなしそうな少女だった。
 彼女を驚かさないようにと、司は碧を連れて部屋の奥へと移動する。
 幽霊の少女を彼女が見ることができるのかどうかはわからなかったが、もし見えてしまったらひどく動揺させるだろう。
 豊が言うには狙われている可能性のある三人の少女のうち、かの子だけは彼女に助けを求めてこようとしてたのだという。
 だが他の二人がそれを許さずにいたのだが、そのうちの一人美幸が襲われたことを知り、豊の説得もあって皆に事情を話す気もちになってくれたらしい。
「もう…大丈夫だから、ね?」
 豊がソファに腰掛けたかの子の隣に腰掛け
て、そっとその手を握ってあげながら優しく告げる。
 かの子はこくりと小さくうなずいた。
「…私達みんな去年の水着コンテストで知り合って、それ以来すごく仲良くなったの。それまで読者モデルの募
集とかもよくみんな送ったりしていて、お互い初めて見た顔ではなかったし…。
 それに碧ちゃんが優勝したのは実は編集部の人が票をごまかしたんじゃないかっていう噂がその頃あったん
だけど、みんなそれを信じちゃって、いつもぶうぶう言ってたんです。
 そんな時編集部の人から「飲み会があるから来ない」って話が私たちのところにあって出かけたら、そこに碧
ちゃんがいたの。それって碧ちゃんが事務所に入ることになったからお祝いしようって飲み会だったんですよ。
 編集部の人は私たちも来年がんばれって励ましてくれたんだけど、私たち碧ちゃんのこと嫌ってたから全然嬉しくなくて…
でも、その帰り道…」
 かの子は急に黙り、うつむいて瞼を閉じた。
「どうしたの?」
 豊が尋ねる。彼女の前にジュースの入ったコップを置きながら、シュラインも心配そうに見つめた。
 かの子は深呼吸するように大きく息を吸い込み、それを吐き出すように一気に告げた。
「…私は違う。違うけどっ…でも、あの時たぶん誰かが碧ちゃんの背中を押したの。…ホームの上から」
「…まさか」
 豊は口元を押さえた。
「あなたたち、碧さんを…」
「わからないんです、…でも。あとから警察の人にいろいろ聞かれたけど、みんなで誰も碧ちゃんには触ってないって言おうねって話し合って…」
「…」
 シュラインと豊は視線を合わせた。
 黙っていた草間がようやく口を出した。
「だが犯人は幽霊ではないようだし…君は、彼女の復讐を果たそうとしている人物がいるとしたら誰だと思うかい?」
「……」
 かの子はうつむいた。
「…コンテストに出るの本当は嫌だったの。…でも電話がかかってきて。「君は当然出るだろう?」って。怖くて断れなかった…。あの人は私たちに復讐するためにコンテストに出場させたのかな…」
「誰だい、そいつは」
 かの子は草間を見つめた。
 そして小さくつぶやいた。
「編集部の…舘野さん。碧ちゃんは舘野さんの恋人だったから」

■罠
 (あの子…もしかしてみんな話しちゃったりしてないでしょうね…)
 金本秋はかの子の後を追って、探偵たちがいる部屋「鬼灯の間」の扉を見つめていた。
 かの子は白状してしまっただろうか。碧を自分達が死なせてしまったかもしれないということを。
 あの時全員に狂気があった。全員「私はやっていない」と言っていたが、お互いに信じられなかった。
「怖い顔してどうしたの?」
 後ろからぽんぽんと頭に手の平が置かれて、秋は声を出して振り返った。
「あっ…」
 そこにいたのは雑誌などでもよく見かける顔…本物の芸能人、湖陰・虎之助だ。どうしてこんなところで。と
いう疑問と、声をかけられた驚きから秋はぱくぱくと口をあけたり閉じたりしている。
 虎之助はなるべく穏やかに彼女に尋ねた。
「…君も何か知ってるの?」
「知りませんっっ」
 秋は虎之助を押すようにしてそして廊下を駆け出していった。
「待って!」
 虎之助は彼女の後を追って駆け出す。
 だが追えば追うほど秋は必死になって走り続ける。
 廊下の角を秋が曲がっていった直後だった。激しい悲鳴と物音が聞こえて、虎之助は顔色を変えた。
「どうしたっ!!」
 続けて角を曲がると、そこは階段の踊り場でそして、階下に転がり落ちた秋の姿が無残に転がっていた。
 虎之助は彼女に駆け寄ろうとして、あっと叫び、後ろに退いた。踊り場の端に何故か竹ホウキがつきだしてお
いてあるのである。目立たないように足元のほうに、階上に向かう階段の隙間から丁寧に横倒しになっている。
 秋がそれに足をからませ、転げ落ちたのは明らかだった。
「……なんてことを」
 虎之助は階段を飛び降りるようにして秋の元に駆け寄った。
「しっかりしろ! …女の子にこんなことしやがるなんて…なんてやつだ」
 怒りで頭の血が沸騰してしまいそうだ。虎之助は怒鳴るように叫んだ。
「絶対許さない!」 
 
■合図 
 水着コンテスト開催の合図を告げる花火がぽんぽんと小気味よく空に響く。
 会場周辺の警備を担当した司は、光と一緒に会場の方を見つめた。
「始まるな。気ぃしめてゆかんと」
「そうですね…」
 光は頷いた。
 コンテストの会場からも不幸の気配がしている。若さと美しさと夢をぶつけて少女達が美しさを競うコンテス
トなのに、彼女達は不幸なのだろうか。
 否。
 そんなことは無いと思いたい。
 オープニングの音楽が鳴り響くと同時に虎之助は舞台に踊り出た。
 告知にも無かった大物ゲストに観客席からは黄色い声援が飛び交う。
 虎之助はアシスタントの女性と二人明るく話しながら、舞台の隅々と観客席をチェックするのを忘れなかった。
(あの野郎・・・見つけたらただじゃあすまねぇ)
 舞台裏では、豊とアレフが与えられた水着を大急ぎで着けていた。
 直前まで舘野を探したり、怪我をした少女達の看病をしたりと大忙しだったのだ。
 二人の容態は、慶悟が先にたてておいた式神の依り代のおかげで受けた衝撃から比べればずいぶん軽いものだ
った。
 だがショックの方がかなり強くとてもこの舞台に今すぐたてるような感じではなかったのだ。
「うーん、こんな感じかな」
 白と黒のボーダーのタンクトップビキニを身につけ、豊は鏡の前でポーズをつけてみる。
 スタイルのよさがとても際立つスポーティーな感じだ。
「すごくお似合いです」
 迷彩色のワンピース水着を身につけたかの子が隣で微笑む。元気、という感じではないが、変わったデザイン
のそれを着こなしてさらにチャーミングに見せる魅力はさすがなものだ。
「アレフさんは、大丈夫ですか?」
「…ああ…着るには着たが…」
 更衣室から白い足がすっと出てくる。
「わぁ」
 豊とかの子は思わず頬を赤く染めた。
 アレフが身につけていたのは、金色のビキニ。腰から下は足元まである長いパレオ。ビキニといってもトップ
の布地の面積は少なく、布で隠してあるだけというような印象だ。
 しかしアレフが身につけると、それは水着というよりどこかの宮殿の王族がつけているドレスのようにも見え
た。
「…そうだ。こういうのつけてみたらいかがですか?」
 かの子が自分の衣装ケースの中から水色と金の輪のついたネックレスをアレフの首にかけた。さらにイヤリン
グ、アームレット、ブレスレットと貸してあげる。
「…綺麗だけど泳ぐのは大変そう…」
 豊の率直な感想にかの子はにこにこと微笑む。
「いいんですよ。水着コンテストなんですから」
「…水着とはこのように肌を露出させるものであったとはな…」
 気恥ずかしそうにアレフはつぶやく。
 コンテストに出たのは。あの人が私をもし探しているのなら、見つけてくれるかもしれないからだ。
 もし転生して地上に再び命を得ているならぱ。
 ……我慢。
 アレフは自分に言い聞かせて、二人のあとを追って会場への通路を歩いていった。
「始まったようね」
 シュラインは草間と二人、舞台袖から見守っていた。
 舘野は先ほどから姿を消したままだ。自分が疑われていることを気づいたのか、それとも潜み何かを企んでい
るのか。
 慶悟が式神を操って捜索しているが、なかなか見つからない様子である。
「…おや」
 草間がふと何かに気づいたように呟き、シュラインをみつめた」
「どうしたの?武彦さん」
「なんでお前ここにいるんだ? コンテストは?」
「…怒るわよ」
 ぷいと視線を反らしてシュラインは舞台に目を移す。
「ん。なんで怒るんだ」
「もうそんな年じゃないもの」
 失礼なこと言って、と少し不機嫌になるシュラインに草間がぽつりと呟く。
「楽しみにしてたんだけどな」
「…もう」
 シュラインは口元で小さく微笑む。でも怒ったふりはそのままだ。

 真名神慶悟は舞台の裏手にいた。
 舘野を探すために新たに飛ばした式神、会場周辺の警備をさせている式神たちからの情報をまとめるために人気のない場所で集中したかった。その隣には碧の霊も立っている。
『舘野さん…』
「そんな悲しそうな顔をするな。…すぐに見つかる。ここから離れてはいないはずだからな」
 碧は舘野の姿を探すことができない
 多分、彼女と舘野の思いは既にかけ離れたものになっている。彼女の知っている彼ではないし、彼の思っている彼女ではないのだ。
 だから碧の気持ちは舘野には通じない。舘野の場所も見つけられないのだろう。
 けれど舘野はきっとこのあたりにいるはずだ。これは慶悟の確実な予感だった。彼にとってのターゲットがもう一人いるのだ。舞台の上にいる長崎かの子に彼が手を出さないはずはない。
『…真名神さん…』
 碧が慶悟を呼んだ。
『あそこに…』
 碧の指差す方向に舞台の裏の木組みのところで何かをしている舘野の姿が見えた。

■舞台裏
「何をしているっ」
 慶悟が舘野につかみかからんばかりにたどりついたとき、舘野の体からは火薬の臭いがぷんぷんしていた。
「…お前っ」
 舘野が振り返る。その顔は狂気で満ちていた。
「…もうコンテストなんて終わりだ。俺が終わらせてやるんだ!」
 慶悟はその舘野の頬を一撃で殴り飛ばした。舘野の体は舞台の裏に叩きつけられ、地面に崩れた。
「貴様の勘違いとわがままのせいで、何人を傷つければ気がすむんだ!!」
「お前には関係ないっっ」
 舘野は立ち上がると、慶悟に向かって飛び掛ってゆく。慶悟はそれを交わす…だが、その時、視界に閃光が走った。
 ドォォォンッッ。
「何っ」
 あまり大きな爆発ではなかった。だが、それは舞台のセットの柱の数本を破壊していた。
 同時に舞台の上で悲鳴があがる。
「ははは…。火薬の量がやはり足りなかったか。吹っ飛ばしてやろうと思っていたのに」
「なんだと!?」
『舘野さんっっ』
 様子を見ていた碧の霊が舘野の前に現れた。
 だが舘野は彼女の姿を見ることができないようだ。
「碧を…俺の碧を殺したようなチンケでクソクラエな女どもなんか…みんな死んでしまえばいいんだ…」
 舘野は薄笑いを浮かべて慶悟を見つめる。
 慶悟が再び拳に力を込め、符を握りしめたそのとき。
「おまえかぁ!!」
 彼に飛びつき横っ面をさらに激しく殴りつけたのは、舞台から飛び降りてきた虎之助だった。
 舘野は舞台に再び打ち付けられ、座り込んだ。
「…警察に電話! 話なんか聞いてやる必要ない!」
 その声で後からかけつけたシュラインが携帯電話を手にする。
『虎之助さん…』
 碧が虎之助を見つめた。
『お願い…彼と話させて』
「何を話すんだよ」
 虎之助は碧を見つめた。
『こんなクズと話してどうすんだよ』
 碧はとても悲しそうな瞳でただ虎之助を見つめた。虎之助は唇を噛み、うつむいた。
「来いよ…」
『ありがとう…』

 虎之助の中に入った碧は、そっと舘野の手をとった。
「舘野さん…私がわかりますか」
 舘野は額を押さえてかぶりをふる。頭を打ったらしくまだくらくらしているらしい。だが、ぼんやりと虎之助を見上げ、不思議そうな顔をした。
「…碧?」
「はい…」
 碧は優しく微笑んだ。
「私は殺されてなんかいません。…それに誰も恨んでないです。…ただこのまま罪を重ねるのはやめてください。私、天国に行けません」
「…碧。俺はおまえのために」
「私は死んだの。…舘野さんは舘野さんのために生きて…」
 それは優しい口調であった。だが、きっぱりとした別れの言葉でもあった。
 舘野はがっくりと肩を落として、うなだれるとそのまま気を失った。
 その彼の前にからん、と何かが落ち、金属音を立てた。
 それは古びたネックレスだった。ネックレスのトップには写真が入っている。舘野と碧二人でとった記念の写真だ。

■エピローグ
 警察車両が到着し、舘野は連行されていった。
 これは後ほど判明したことだが、舘野は最初に腎炎で入院した少女以外の全ての犯行を認めたらしい。彼は恋人の碧を彼女達が共謀して殺したのだと思い込み、その復讐の機会を狙っていた。そして偶然ひとりの少女が急病になりコンテストに出られなくなったという話を聞き、今回のを思いついたのだという。
「理不尽に舞台に立てない苦痛を味わせてやりたかった」
 これが事件の動機であった。また彼は水着コンテストの担当であった尾上を怪我させることによって、自分が担当になり、より積極的に参加をしぶっていた少女のもとにも電話をかけ誘い出していた。
 コンテストも中止になり、集まっていた客たちもいつの間にか四散していく。
「あーあ。せっかくの大舞台だったのに」
 豊は笑って、記念にもらった水着の入ったビニールのバッグを叩く。
「娘たちも無事であったし、何よりではないか」
 綺羅が慰めるように微笑むと、隣で光も頷いた。
「いい日でした」
「それはどうかなぁと思うぞ」
 虎之助が笑う。
「まあ解決できたしいいんじゃないかしら? 編集部もちゃんと調査費用は下さるってことだし、ね、武彦さん」
 シュラインに小突かれて、草間もああ、と苦笑した。
「それでおまえはこれからどうするつもりだ」
 慶悟は碧を見つめた。
 碧は遠くを見つめるような視線で、彼らを見つめ返した。
「駅に帰る、なんて言わへんな」
 司が言うと、碧はくすりと微笑んで頷いた。
『皆さんどうもありがとうございました。私、もう行きますね』
「生まれ変わってまた同じ道を目指すといい」
 慶悟は彼女のために、小さく祈る。その横で虎之助や司も彼女を送る道を開こうと力をもつ言の葉を紡ぐ。
 碧にはその扉が空に見えたのだろう。もう一度ありがとうとにっこり微笑んでその場からすうっと姿を消していった。
「終わったな」
 誰ともなくそう呟き、彼らは長い一日がようやく終わったことを知るのだった。

 
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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)       ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】
 0086/シュライン・エマ(しゅらいん・えま)/26/翻訳家&幽霊作家+時々草間興信所でバイト
 0389/真名神・慶悟(まながみ・けいご)/20/陰陽師
 0689/湖影・虎之助(こかげ・とらのすけ)/21/大学生(副業にモデル)
 0815/綺羅・アレフ(きら・あれふ)/20/長生者
 0886/楓・司(かえで・つかさ)/男性/23/退魔士
 0905/ 神前・光(かんざき・ひかり)/20/大学生
 0914/長谷川・豊(はせがわ・ゆたか)/24/大学院生
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■         ライター通信          ■
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 大変お待たせいたしました。依頼を出した時にはこんなに難産になるとは露知らず。
鈴猫(すずにゃ)と申します。「水着コンテスト」のお話をお届けいたします。

 真名神慶悟様3度目の参加ありがとうございます。
 もうすっかり書きやすい方になってしまっていて、勝手にいろいろ使ってしまって
ごめんなさい。
 
 その他の皆様とは初めまして。お会いできて嬉しいです。
 水着コンテストの参加依頼でしたが、参加する方は二人きりで、なんとなくサスペンスチックなお話になってしまいました。
 かなり全体的な話が長くなってしまいましたので、今回はおひとりずつ話を組み立てなおしたり書き足したり、ラストが違う展開になっていたり、いろいろしています。
 もしお暇がありましたら他の参加者のノベルもご覧いただければ、意外なシーンがあったりするかもしれません。

シュライン・エマさま
 お初にお目にかかります。鈴猫(すずにゃ)と申します。
 ずっと憧れだったシュラインお姉さまとライターとして出会うことができて、感激してしまいました。
 プレイングの方、スタッフを疑うと書かれていたのはシュライン様だけでございました。人間の犯行なら犯人舘野、幽霊の犯行なら碧というつもりでありましたが、
両方のプレイングをいただきましたのでこんなお話になりました。
 またどこかの依頼でお会いできたら大変嬉しく思います。 ご参加ありがとうございました。