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真夏の夜の夢〜中編〜
◆途中報告
「なんだか、バタバタやってるみたいねぇ･･･」
体育大学心霊研究会の降霊会合宿を取材に言っている三下から送られてきたＦＡＸを眺めながら、碇は呟いた。
合宿所になっている別荘は神社を取り壊して作った上に心中事件もあった曰くつきな別荘であること、そこで夜に降霊会が行われること、などが簡単にまとめられて報告されていた。
「ちゃんと記事になるのかしら？」
どうも、三下はワタワタして仕事になっていない気配がする･･･
このＦＡＸも三下の名前できてはいるが、書いたのは別の人物のようだ。
誤字も無く理路整然とまとめられている文章を見て溜息をついた。
「翠麗荘に行った連中は、のんびりしているのかしらね？」
碇はＦＡＸを書類ケースにはさみ、側にいた編集部員の一人に声をかける。
「さっき電話がありましたけど、のんびりしてるみたいですよ。あ、でもなんか色々あるみたいなことを言ってたな。屋敷にある祠がどうとか･･･」
「祠？」
「ええ、なんでも取り壊された神社のご神木が祭られてた祠だったようですよ。それがどうとか言ってたなぁ･･･もしかしたら記事になるかもって連絡だったんですけどね。」
「ふうん、降霊会に人形だらけの別荘に祠･･･ねぇ。」
碇はしばし考えるように目を伏せて、それから言った。
「よし、ちょっと気合入れて取材するか。手があいてる奴がいたら軽井沢へ向かって。もちろん現地の連中にも様子は知らせるように言ってね！」
「えっと、増員は合宿の取材の方ですか？」
「こうなったら両方取材対象よ。まぁ、別荘の人には迷惑をかけないように避暑にきたってことで行くようにしてね。」
碇はテキパキと取材の準備を指示した。
何かある。この勘が彼女を編集長にまで押し上げたものの一つでもあるのだ。
間違いなく軽井沢には何かある。
そう勘が告げているのだった。
◆黒い部屋
「本気でここでやるつもりなのか･･･？」
司は２階の部屋の前に立ち、扉を見つめて呟いた。
結界が強く中へ入ることどころか、霊体の司には扉にふれることも出来ない。
こうして扉を見ているだけでも弾き飛ばされそうな威圧感を感じている。
「今更中止･･･というわけには行かないだろうな。」
大学生たちの多くはここの異常さに気がついていない。
ここの異常さに気がついているのはアトラスから取材に来た面々ぐらいのものだろう。
「さて、どうしたものなのか･･･」
司が少し途方にくれていると、階下から人の足音が聞こえてきた。
すっと司は姿を隠す。姿を消しただけで気配を消さずとも、彼らは司に気がつくことはなかった。
「おい、誰にも見られなかったか？」
「大丈夫。みんなはまだ外で騒いでるよ。」
上がってきたのは学生二人。
なにやら手に荷物を持って心中があったというこの部屋へやってきた。
どうやら、降霊会の準備･･･というよりは仕込みにやってきたようだ。
なんの躊躇いもなくドアを開けて中へ入る。
部屋の中は２回にあるほかの客室と大差はない。
質素なテーブルと椅子、そしてシングルサイズのベッドが二つ並んでいる。
ただ、部屋は相当な間使われていなかったらしく黴臭い空気が充満していた。
司はやはり部屋に入ることは出来ずに、開かれた扉から中をうかがった。
（まったく平気なのか･･･？）
目に見えそうなくらいの瘴気が渦巻く部屋の中で、学生たちはごそごそと何かをやっている。
そして、彼らの目には映っていないようだったが、床にはっきりと何かの術でも行ったような形跡があり、魔方陣のような結界の印が床一面に描かれていた。
「あっ！」
司は思わず声をあげた。
学生たちが部屋の中を歩き回るたびに結界の印が薄れて行き、所々消え始めたのだ。
（どうしたものか･･･）
学生たちは気づかず作業を続け、司はその場から中へ入ることが出来ない。
（結界が切れる･･･！）
動けずにいると、結界の一部が間然し消失してしまった。
司は襲いくる衝撃を予期し、咄嗟に身構える！
しかし、それはあっけなくも裏切られた。
「･･･？」
何の衝撃も変化もなく、ただ部屋の中だけが静かになった。
司は恐る恐る顔をあげ、部屋の中へと入る。
もう威圧してくるモノは何もない。空気もスッキリとしている。
（抜け出してしまったのか･･･？）
何処に行ってしまったのかはわからない。
ただ、そこに何もないことだけが事実だった。
◆商売敵？
黒い気配を失った部屋をあとにして、何かほかに変わったことはないかと当たりを見回っていると、司は覚えのある気配を見つけた。
「おや、アレは･･･」
小嶋 夕子である。
「やぁ、またお会いしましたね。」
司は小嶋を見とめると、わざわざ側へ寄って声をかけた。
「お会いしたもなにも、わたくしを見ていたのではないですか？」
小嶋も皮肉な笑みで答える。
同じ幽霊でありながら、幽霊を食す者と幽霊を祓う者である二人は、いわは商売敵のような立場なのかもしれない。
「いえいえそんな。私のような若造があなたを監視するようなことは･･･」
司はそう言って笑ったが、どうも目が笑っていない。
「女に歳の話とは･･･あなたも相当なもののようね。」
ビシッと二人の間に火花が散るような視線が交わされる。
二人とも魂魄のみの姿になって長い時を生きてきた。なかなか互いが食えるわけではない。
「まぁ、良いわ。わたくしの邪魔だけはしないで頂きたいわ。」
そう言って小嶋はついっと横を向く。
「その時は例え顔見知りとは言え手加減は致しませんよ。」
つまり。
邪魔をしたらお前を食らうこともできるのだぞ･･･と。
「いえ、その台詞はそのままお返ししましょう。」
司も唇だけの笑みで返す。
行過ぎる行いがあれば、自分も手加減はしない･･･と。
そして、二人は互いにビシビシと火花を散らしながら別の方向へと飛び去った。
◆御霊降ろしの儀式
「では、これより･･･体育大学心霊研究会恒例・夏の大降霊会を執り行います！」
「オッス！！！」
心霊研究会会長の挨拶に、なんともいえぬ体育会ノリで部員たちが気合を入れる。
しかし、部屋に備えられた祭壇等は中々に本格的な代物だった。
「･･･何もないといいけど･･･」
部屋の中でちょこんと正座している美貴神が呟いた。
「そうだね。」
それに矢塚がうなずく。
事前にこの部屋の異常さに気づいていたアトラス一行は居心地悪そうに部屋の中でもぞもぞしている。
実際部屋の中へ入ったのは初めてなのだが、なんとも居心地が悪い。
地面の下に何かいるような感じだ。
司は姿を隠し、じっと降霊会の様子を見ていた。
万が一にもなにか起こったときにはすぐに飛び出していく覚悟だ。
司は今日一日、消えた禍々しい気配と、翠麗荘の方でいなくなったと言うご神木の神気を探し続けていたが、ついに見つけることが出来なかった。
大きな力を持つものは、またその力を完全に隠すことができるのかもしれない。
己の爪を見せぬこともまた力のうちであるから･･･
ゆえに、何が起こるかわからないと司は踏んでいた。
素人のやる降霊会とはいえ、これだけのお膳立てが整えられていれば話は別だ。
そして、一同が見守る中、事件は起こった。
◆神様
「あなたたち何をやっているのっ！？」
儀式が中盤に差し掛かった頃、いきなり部屋の中に飛び込んできた人物があった。
翠麗荘の女主人・高梨 翠だった。
いきなりの登場に一瞬部屋の中の全員が驚きに硬直した。
その一瞬だった。
「影が！」
叫んだのは誰だったかわからない。
部屋の中央の床、ちょうど祭壇の作られていたところから物凄い勢いで黒煙が立ち上り、それが一気に翠へと吹きつけたのだ。
「翠さんっ！！」
面識のあった矢塚が慌てて翠に駆け寄るが、黒煙は全て翠の中へと吸い込まれてしまった。
「翠さんっ！しっかりっ！」
翠はぐったりとしたまま動かない。
「どけ、影が取り付いちまったんだ。俺が祓う。」
黒月がそう言って矢塚の腕から翠を引き受けようとした時、翠は薄っすらと目を開けて言った。
「祓ってはダメ･･･これは神様なの･･･」
「神様！？」
矢塚が聞いた話を思い出す。
「もしかしてココが建てられる前に取り壊された社の神様なのか？」
「そうよ･･･今はこんなになってしまったけれど･･･神様なの･･･祓ったら神罰が下るわ･･･」
翠は弱々しく言う。どうやら体を動かすことも出来ず、話すのがやっとのようだ。
「神罰って･･･でも･･･このままじゃ翠さんが･･･」
「私はいいのよ･･･これも巫女のお役目･･･お社も御神体もない今･･･もう･･･」
「翠さんっ！しっかりして！」
矢塚は自分の腕の中でぐったりとしている翠をなす術もなく抱きしめていた。
他の人間にもこの状況をどうにかできる人間はいなかった。
◆その目に映るモノ
結局、動けなくなった翠を翠麗荘に運んだ後、一人、黒月は現況の部屋を訪れた。
「災難でしたね。」
「！」
また、ふいに声をかけられ振りかえる。
「てめぇは･･･」
ここに来た時に顔を合わせた司 幽屍だった。
「封じられていたものが神様とは思いませんでしたね。」
司は床を見ながらそう呟く。
「なぁに、さっきはしくじったが、俺が何とかする。神様だろうがなんだろうが、俺の呪縛に逆らえる奴はいねぇよ。」
そう言ってサングラスを外す。
その瞳は美しい紅。
全身に彫られた龍の刺青が象徴するように、黒月は龍の目を持つ人間だった。
「龍の瞳ですか。」
司は興味深そうに黒月を見る。
「そうだ、バァサンから奴を引き離して俺の使役にしてやるぜ。」
黒月は自信満々の笑みで言う。
「お手並み拝見ですね。」
司はふっと微笑むとそう言った。そして自分が見聞きした情報を黒月に教えた。
「あの神様はどうやらこの部屋に行者の男女によって封じられていたようです。元はこの建物が壊される前にあったという社のご神木。新しく宿るものを探していたようですね･･･」
「へぇ、ご神木ねぇ･･･」
「翠さんは元々そのお社に使えていた巫女だったそうで、それで波長が合ったのかもしれませんね。」
そう言ってから司は壊れた祠を思い出した。
「そうか、新しく何か宿るものが必要なのか･･･？」
ご神木の根元にあった祠だけでは、神の移動は不完全だったのだ。
この部屋に封じられていたものと合わさって一つ。
そして、合わさって一つになった神は自分の宿るモノを探していた･･･
「なるほど。新しい器を見せてそいつに憑依させようってことか。」
司の言葉に黒月もうなずく。
少しづつ解決の糸口は見えてきている。
だが、まだ相手は得体の知れぬ「神」だ。
どこまで出来るかはわからないが、まったく敵わぬ相手ということもあるまい。
二人は部屋の窓から向うに見える翠麗荘の明かりをじっと見つめてそう思った。
To be continued...
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■ 登場人物（この物語に登場した人物の一覧） ■
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【整理番号 ／ ＰＣ名 ／ 性別 ／ 年齢 ／ 職業】
幽霊屋敷宿泊組
0599 ／ 黒月・焔 ／ 男 ／ ２７ ／ バーのマスター
？？？
0382 ／ 小嶋・夕子 ／ 女 ／ ６８３ ／ 無職？
0790 ／ 司・幽屍 ／ 男 ／ ５０ ／ 幽霊
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■ ライター通信 ■
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今日は。今回も私の依頼をお引き受けくださり、ありがとうございました。
色々な場所で色々な事が起こっている今回の展開ですが、如何でしたでしょうか？
司さんは結構重要な場面の目撃者であり、また人と関わりやすい立場に居ると思えます。
幽霊ならではのものでしたね。なぞも残って居ると思いますが、ヒントを全て握っても居ます。次回も行動制限等一切ありませんので頑張って下さい。
えっと、それとちょっとお知らせです。
次回で真夏の夜の夢は完結いたしますが、依頼公開日をちょっと延期いたします。
依頼の公開日は８月２４日の２３時となります。
もしよろしければご参加お待ちしております。
それではまたお会いたしましょう。
お疲れ様でした。
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