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<東京怪談ウェブゲーム アトラス編集部>


真夏の夜の夢〜中編〜
◆途中報告
「なんだか、バタバタやってるみたいねぇ・・・」
体育大学心霊研究会の降霊会合宿を取材に言っている三下から送られてきたFAXを眺めながら、碇は呟いた。
合宿所になっている別荘は神社を取り壊して作った上に心中事件もあった曰くつきな別荘であること、そこで夜に降霊会が行われること、などが簡単にまとめられて報告されていた。
「ちゃんと記事になるのかしら?」
どうも、三下はワタワタして仕事になっていない気配がする・・・
このFAXも三下の名前できてはいるが、書いたのは別の人物のようだ。
誤字も無く理路整然とまとめられている文章を見て溜息をついた。

「翠麗荘に行った連中は、のんびりしているのかしらね?」
碇はFAXを書類ケースにはさみ、側にいた編集部員の一人に声をかける。
「さっき電話がありましたけど、のんびりしてるみたいですよ。あ、でもなんか色々あるみたいなことを言ってたな。屋敷にある祠がどうとか・・・」
「祠?」
「ええ、なんでも取り壊された神社のご神木が祭られてた祠だったようですよ。それがどうとか言ってたなぁ・・・もしかしたら記事になるかもって連絡だったんですけどね。」
「ふうん、降霊会に人形だらけの別荘に祠・・・ねぇ。」
碇はしばし考えるように目を伏せて、それから言った。
「よし、ちょっと気合入れて取材するか。手があいてる奴がいたら軽井沢へ向かって。もちろん現地の連中にも様子は知らせるように言ってね!」
「えっと、増員は合宿の取材の方ですか?」
「こうなったら両方取材対象よ。まぁ、別荘の人には迷惑をかけないように避暑にきたってことで行くようにしてね。」
碇はテキパキと取材の準備を指示した。
何かある。この勘が彼女を編集長にまで押し上げたものの一つでもあるのだ。

間違いなく軽井沢には何かある。
そう勘が告げているのだった。


◆地獄という名のカレーライス
「うぅむ。馨しき香りよ!」
海塚 要は鍋から漂ってくる香りを胸一杯に吸い込むと言った。
地獄に住まう兵卒たちに命じて世界各地から取り寄せた珍味の極みが入れられたカレーは、なんとも形容しがたい凄まじい香りを放っていた。
「このフルーティーな香りはドリアンであろうか・・・そして、コクのあるこの香りはワニの肉であろうか・・・?」
「うふふふふ、すごいですねぇ。こんなに色々入れたのは初めてですよ♪」
鍋の係りをしている学生は先ほどキノコの味見をしてから何故か饒舌だ。
「見栄えもまた素晴らしい。七色に輝く玉虫の羽根のようだ。」
海塚は蓋を開けて覗き込みながら満足げにうなずく。
「さぁ、食卓へ運ぼう!皆が待って居るぞ!」
「はーいっ♪」
妙な笑い声を響かせながら海塚と学生たちはカレーを更に盛り付けると、皆の待つテーブルの方へと運び始めた。

「うわ・・・」
運ばれてきた皿の上に乗るものを見て、一同の口から思わず溜息が漏れる。
「名物料理ってなぁコレか?おい?」
思わず黒月は三下の胸倉を掴む。
「その手を放せっ!」
正義のヒーロー然として湖影は黒月をビシッと指差し言った。
「俺の三下サンに手を出す奴は許さないっ!!」
「なんだと、コラァ・・・」
一気に緊張関係が高まる二人。
「こんな所で止めてよう〜!」
三下が半泣きで黒月にしがみつく。
「何で俺に泣き付くっ!つーか、俺にさわんなっ!!」
「三下サン!どうしてそんな奴にっ!!」
湖影は三下にガバッと抱きつく。
「うわーーっ!なんでーっ!」
「こここここ湖影クンっ!放して!」
「何やってんだ!こら!ホモ!」
「三下さーーーーーんっ!」
テーブルに並んだ料理も地獄なら、それを取り囲む人たちもある意味地獄のようであった。
「どうして自分がここにいるのかわからなくなりそぅ・・・」
美貴神は目の前の男三人地獄絵図とお皿のカレーを交互に見つめながらそう呟いた。

そしてその隣りでは水野 想司が器用にスプーンで具をより分けて口に運んでいた。
「ん〜、珍味だなぁっ☆」
「好き嫌いをしてはならーんっ!!」
その様子を影から観察していた海塚がいきなり飛び出してくる。
しかも何故かご丁寧にセーラー服の上に白いフリルのエプロンを羽織って頭には白い三角巾をしている。
「なんと貴様!豚肉とジャガイモとニンジンしか食べていないではないか!ドリアンもワニも蝦蛄もバッファローもガラガラヘビもマルメタピオカガエルも食べてないではないかっ!!!」
海塚の叫んだ材料名を聞いて周囲の人間が一斉に吹き出す。
美貴神は何も言わすに気を失った。
「お前こそニンジンとたまねぎをぬいて食べてるのを知ってるんだぞっ!」
想司はビシッと海塚を指差していった。
「まったく子供なんだからもうっ☆くすくすっ♪」
「うぬぬぬぬ・・・魔王である我輩を子ども扱いするとは何たる奴っ!ゆるさんーーっ!」
「やーいっ☆魔王の癖にニンジン食べらんないなんて恥ずかしいーーっ!!」
「黙れーいっ!!!」
海塚は目から怪光線を発してテーブルの上に立ち上がった!
「ニンジンなぞ食べんとも大きくなったからいいんだーーーっ!!!」
「それって大きくなったって言うより、太ったんじゃない?」
想司の言葉に海塚はさらに激昂する。
「変態」に続いて禁句の一つなのだろうか?
「言ってはならぬことをぉぉぉぉっ!!!!」
「わーいい、デブがおこったぁっ!!」
想司もテーブルの上に上がって海塚をからかう。
収拾もつかず、魔界大戦争に突入かと思った瞬間。
スパーーーンッ!!という切れのイイ音と共に、二人が頭を抱えてうずくまった。
「何やってるんだっ?二人ともっ!!!」
怒り形相でハリセンを手に仁王立ちの矢塚 朱姫だ。
「食事の時は行儀良くっ!」
「はぅ・・・」
想司も海塚も何故か矢塚に頭が上がらない。
二人はすごすごとテーブルを降りると椅子にちょこんと座った。
「好き嫌いは言わずに、残さず食べるっ!」
「はーい。」
「はーい。」
矢塚の喝に二人はいい子の返事でスプーンを握って食べ始める。
「う、改めて食べると怪しい味・・・」
「ニンジン・・・」
想司も海塚も涙目でカレーを黙々と食べる。
「ちゃんと、いい子にできるんじゃないか!ダメだぞ!わがまましちゃ!」
ニコニコしながらそう言うと矢塚は自分の席へ戻っていった。

結局、二人は残りの鍋のカレーも全て平らげ、一晩中腹痛に苦しむこととなってしまった。

◆夢か現か・・・
「うぅん・・・」
気絶から意識を取り戻すと、美貴神は涼しい木陰に寝かされていた。
「大丈夫?」
矢塚が心配そうに覗き込んでいる。
「あ・・・みんなもうお食事は終わったの?」
「終わったよ・・・っていうか、あんなの食べちゃダメだって。何が入ってるのかわからないんだから。」
矢塚はどうやら危機を感じて食べなかったらしい。
「美貴神はなんだか食べちゃってたみたいだけど・・・大丈夫か?」
「うん。すごい味あったけど・・・何とか平気みたいよ。」
美貴神はそう言って微笑んで見せた。
蟲使いである彼女は自分の中に宿っている蟲の浄化の力で事なきをえたのだが・・・
それは秘密にしておいた。
「とにかく良かった。夕方になったら降霊会だそうだから、もう少し休んでるといいよ。」
「はーい、そうさせてもらうわ。」
そう言って美貴神は涼しい木陰でそっと目を閉じた。
一人で幽霊屋敷の中へ入るのは怖いし、ここはとっても気持ちが良かったから。
そして夕暮れまで涼しい風と心地よい木々のざわめきを堪能したのであった。

◆失われた社と巫女
「ここかぁ・・・」
合宿所からしばらく歩いたところに翠麗荘はあった。
ほんのわずかな距離しか違わないのに、自分が泊まっているところとどうしてここまで違うものかと矢塚は皮肉そうに笑った
「あら、お客様かしら?」
屋敷の裏手から老婆が顔を出す。
ニコニコと人好きのする笑みを浮かべ、庭仕事の最中だったのか麦わらの帽子をかぶってタオルで汗を拭いている。
「あ、あの、向うにある別荘から来たものなんですけど・・・」
矢塚は自分が来た場所を説明し、そこに元々あったお社のことを尋ねたくて来たことを説明した。
「まぁ、あのお社のことを調べているのね。」
「あなたが翠さんですか?」
矢塚の話に翠はにっこり笑ってうなずいた。
「ええ、そうよ。私は元々そのお社で巫女をしていたの。」

二人は翠麗荘の中庭の居心地の良い木陰へと移動し、そこにあるテーブルのところで話を始めた。
「元々何を祀っていたお社だったんですか?」
矢塚は翠に入れてもらった冷たい緑茶で喉を潤しながらいった。
「昔話なのだけれど・・・」
そう言うと翠は社に伝わる昔語りをしてくれた。

昔この辺り一体は「人食いの森」と呼ばれ、森に踏み入った者はみな森の主である大樹に食われてしまうと言われていた。
ある時、この森の側を通った修験者がその大樹を神として社に祀る事で鎮めた。
そして建てられたのが「社」で、その祀られた大樹こそがご神木だった。
ご神木は荒ぶる神だが、きちんと祀ってからは森に豊穣を与え、農耕を見守る神として、人々は信心し、社を守り続けてきたのだという。

「それが、別荘の建築なんかで森はすっかり姿を変え、お社は心無い人間に取り壊されてしまったのよ・・・」
翠はまるで自分を切られるように苦しそうな顔で言った。
「私はそのお社の最後の巫女だったの。お社が取り壊される時にせめてご神木だけでもお守りしたかったのだけれど・・・その木も切られてしまったわ・・・」
「そう言えば・・・このお庭の向うに祠があるって聞いたんですが、それもお社とかかわりがあるのですか?」
矢塚は小耳にはさんだ祠のことも尋ねてみた。
「あの祠は私がご神木の切り株をここへ持ってきてお祀りした祠なのよ。」
翠は大きな溜息をついた。
「あのお社が取り壊されてしまっては、やはり意味がなかったようなのだけれどね・・・」

◆御霊降ろしの儀式
「では、これより・・・体育大学心霊研究会恒例・夏の大降霊会を執り行います!」
「オッス!!!」
心霊研究会会長の挨拶に、なんともいえぬ体育会ノリで部員たちが気合を入れる。
しかし、部屋に備えられた祭壇等は中々に本格的な代物だった。
「・・・何もないといいけど・・・」
部屋の中でちょこんと正座している美貴神が呟いた。
「そうだね。」
それに矢塚がうなずく。
事前にこの部屋の異常さに気づいていたアトラス一行は居心地悪そうに部屋の中でもぞもぞしている。
実際部屋の中へ入ったのは初めてなのだが、なんとも居心地が悪い。
地面の下に何かいるような感じだ。

黒月はじっと部屋の様子を見ていた。
(おかしい・・・違う・・・)
確かに居心地の悪い嫌な部屋だが、この幽霊屋敷にはじめてきた時に見たあの濃密な黒いものの姿がない。
(勘違いだったか・・・?)
一瞬そうも考えたが、アレだけのものを見まちがえるとは思えない。
では今までこの部屋にいたものがいなくなった?
しかし、この屋敷から邪気が移動した気配はない。
相変わらずの禍々しさが辺りに漂っている。
(薄まった・・・いや、広がっちまったか?)
今や屋敷中に黒いものが広がっている。
この屋敷自体が禍々しいものに成り果てている。
そんな感じだ。
しかし、根源となるものがわからなくては手の出しようもない。
降霊会はいいチャンスかもしれなかった。
(これで化けの皮がはがれてくれりゃぁな・・・)
黒月は油断のない目でじっと進行を見守っていた。

そして、一同が見守る中、事件は起こった。

◆神様
「あなたたち何をやっているのっ!?」
儀式が中盤に差し掛かった頃、いきなり部屋の中に飛び込んできた人物があった。
翠麗荘の女主人・高梨 翠だった。
いきなりの登場に一瞬部屋の中の全員が驚きに硬直した。
その一瞬だった。
「影が!」
叫んだのは誰だったかわからない。
部屋の中央の床、ちょうど祭壇の作られていたところから物凄い勢いで黒煙が立ち上り、それが一気に翠へと吹きつけたのだ。
「翠さんっ!!」
面識のあった矢塚が慌てて翠に駆け寄るが、黒煙は全て翠の中へと吸い込まれてしまった。
「翠さんっ!しっかりっ!」
翠はぐったりとしたまま動かない。
「どけ、影が取り付いちまったんだ。俺が祓う。」
黒月がそう言って矢塚の腕から翠を引き受けようとした時、翠は薄っすらと目を開けて言った。
「祓ってはダメ・・・これは神様なの・・・」
「神様!?」
矢塚が聞いた話を思い出す。
「もしかしてココが建てられる前に取り壊された社の神様なのか?」
「そうよ・・・今はこんなになってしまったけれど・・・神様なの・・・祓ったら神罰が下るわ・・・」
翠は弱々しく言う。どうやら体を動かすことも出来ず、話すのがやっとのようだ。
「神罰って・・・でも・・・このままじゃ翠さんが・・・」
「私はいいのよ・・・これも巫女のお役目・・・お社も御神体もない今・・・もう・・・」
「翠さんっ!しっかりして!」
矢塚は自分の腕の中でぐったりとしている翠をなす術もなく抱きしめていた。

他の人間にもこの状況をどうにかできる人間はいなかった。

To be continued...
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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

幽霊屋敷宿泊組
0218 / 湖影・龍之介 / 男 / 17 / 高校生
0442 / 美貴神・マリヱ / 女 / 23 / モデル
0550 / 矢塚・朱姫 / 女 / 17 / 高校生
0424 / 水野・想司 / 男 / 14 / 吸血鬼ハンター
0759 / 海塚・要 / 男 / 999 / 魔王
0599 / 黒月・焔 / 男 / 27 / バーのマスター

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■         ライター通信          ■
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今日は、今回も私の依頼をお引き受けくださり、ありがとうございました。
社の曰くが明らかになったと同時に、こんな展開になってしまいましたが、如何でしたでしょうか?
矢塚さんは結構いい所をついて話を探っていると思います。
今後の展開を楽しみにしております、頑張ってくださいね。

えっと、それとちょっとお知らせです。
次回で真夏の夜の夢は完結いたしますが、依頼公開日をちょっと延期いたします。
依頼の公開日は8月24日の23時となります。
もしよろしければご参加お待ちしております。

それではまたお会いたしましょう。
お疲れ様でした。