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<東京怪談ウェブゲーム ゴーストネットOFF>


のんきな月
■投稿者:のんきな月
 ゴーストネットOFF、いつも楽しく拝見させて頂いています。
さぞや皆さん、こういう事が好きなのでしょうね。
実は、私困った事がありまして・・・
きっと、皆さんの好奇心を刺激する事に間違いはないと思うのです。
どうか助けて頂けませんか?
私、霊にとり憑かれているのです。
あ、別に害を成すような霊ではないのですが
やはりこのまま、という訳にも参りませんので成仏して欲しいのです。
ですので、私とある島へ行ってくれる方を探しています。
どうですか?
夏休みに島でリゾートも出来ますよ?(笑)

助けてくれる方、メールをお待ちしております・・・


「変な書き込み」
瀬名雫はディスプレイ画面を見ながら呟いた。
「でも、おっもしろそ〜☆」
緊張感の無い文面と同じ様に、緊張感の無い声で言った雫は
画面を見ながら、指だけを動かした。


■投稿者:しずく
 夏の島リゾート行くぞ〜!!
みんなも一緒にいこっ☆
のんきな月さん大丈夫だからね!
しずく達がなんとかしてあげるよ☆

<8/16 am10:17>
「ったく・・・なんで、こんな事に」
だらしなく歩きながら、忌引弔爾は流れる汗を拭いながらぼやいた。
そんな弔爾の頭に声が響く。
『まだ言うておるのか?貴様もいい加減諦めの悪い奴だのう』
「うるせぇ・・・一体、誰のせいで」
ぶつぶつと呟きながら、弔爾は懐から取り出した煙草に火をつけた。
刀のクセに現代科学に興味持ちやがって・・・!
と、弔爾は胸中で相棒(?)の妖刀・弔丸に悪態をつきながら夏の日差しの下、埠頭を歩いていた。

<8/7 pm1:36>
そもそも、何もする事のない弔爾が暑さしのぎで入った場所が悪かったのかもしれない。
フラリと入ったインターネット・カフェは平日の昼間という事もあり、人はまばらだった。
弔爾は日が落ちるまで適当に時間を潰そうと考えていた。
と、そんな弔爾に弔丸が尋ねる。
『のう・・・あの者は何をしておるのだ?あの箱は一体なんじゃ?』
「箱?」
言われて見てみれば、一人の男が置かれているパソコンでどこかのアダルトサイトを開いているところだった。
「・・・ネットしてんだよ」
『ねっと?ねっととはなんだ?』
「いちいちウルセーな・・・」
と、はたっと弔爾は思いついた。
もしかしたら、どこかのサイトで弔丸を祓う方法があるのかもしれない、と。
弔爾は空いているパソコンの前に移動すると、適当にオカルト関連のワードを検索にかけた。
「・・・結構、多いな」
ヒットした件数の多さに目を見張る。
この多さなら一つくらいはコイツをどうにかする方法が載ってるだろ。
と、淡い期待を抱きながら、弔爾は一つのアドレスをクリックした。
画面に写し出されたのは怪奇系ホームページ。ゴーストネットOFF。
『おおっ。これはてれびと言う物に似ておるの』
興味深々といったような弔丸の声を無視し、弔爾はサイト内をさっさと見て回る。
と、ある場所で弔丸が声を上げた。
『待て!今のところ・・・そう。そこだ!』
それは掲示板の書きこみのひとつ。
のんきな月の投稿記事だった。
「霊に、とり憑かれてる・・・ねぇ」
『ぬぅ・・・放ってはおけぬな』
「はぁ?」
弔爾はその刀身を今は幾重にも包まれた布の下に隠している妖刀を見た。
傍らに立てられた妖刀は弔爾の訝しげな視線に気づかず、更に深刻そうに
『これは一刻の猶予もならぬ。早く、この者を救ってやらねばっ!!』
そう言った横で、弔爾は額を抑えた。
だったらお前にとり憑かれてる俺はどうなるんだよ!?と心の中で毒づきながら。
『弔爾!この者に伝えよ。すぐにでも救ってやる、と』
「アホか。勝手にしろ」
『なんだと?!貴様、それでも武士か!!』
「武士じゃねーっつーの」
ギシっと背凭れにもたれ、その長い足を投げ出して煙草を吹かし始めた弔爾に弔丸の怒声が響く。
『馬鹿者が!!そんな事だから貴様はいつまでたっても腑抜けなのだ!』
「はいはい。そうですか」
『・・・おのれぇい!拙者がやる!!』
「おいおい・・・」
お前に出来るのか?と続けようとした弔爾だが、自分の体が意思と離される感覚を感じると、すでにその体は動き始めていた。
『ぬぅ、これはどうすれば良いのだ?おい、弔爾!』
知るかよ。自分でするんだろ・・・
そう心の中でボヤキ、弔爾は諦めとも呆れともつかない深い溜息をついた。
その後3時間余り。弔爾の身体を乗っ取った弔丸は店員を掴まえ、三行ほどのメールをやっとの事で送ったのだった。

返信されたメールには島へと渡るフェリーの出港時刻とホテルへの地図。
それと、ホテルのフロントでお待ちしてますとだけ記されていた。
約2時間ほどの船旅はすこぶる快適で、弔爾は穏やかな潮風と波の音を聞きながら、こういうのも悪くないなとデッキチェアに体を沈めた。
が、やはり面倒事の嫌いな弔爾はフェリーから降り、ホテルへと向かう道すがらぼやいていたのである。
まぁそれでも着いた島は自然の多いところで、弔爾も弔丸もごちゃごちゃとした東京とは違う空気に感嘆の溜息を吐いたし、ホテルは東南アジアを思わせるこじんまりとした洒落た作りで、リゾートには持って来いだった。
「へぇ、ずいぶんとまぁ・・・」
弔爾はどうせおんぼろの民宿だろ、と高を括っていたのだが、小奇麗なホテルのロビーを見渡して、弔爾は場違いな雰囲気に頬を掻いた。
「こんにちは。弔丸さん、ですか?」
穏やかな口調で突然後ろから声を掛けられ、弔爾は振り返った。
柔らかな表情をした、一人の好青年。
「・・・あぁ、そうだが。もしかして」
「はい。のんきな月です。いや、来て頂けて嬉しいです」
にこにこと言った青年は、弔爾をホテルの外へと促しながら歩き出す。
「私、甲田武博と言います。あなたは?」
「・・・忌引弔爾だ。で、こいつが」
『弔丸と申す』
解いた布の間から、弔丸の使い込まれた柄と鍔を甲田に見せた。
甲田青年は目を見開き、弔丸と弔爾を交互に見ていたが、やがて何か納得したのか穏やかな表情に戻ると弔丸に言った。
「そうですか。では、あなたがあのメールをくれたのですね」
『うむ。境遇は似た者同士なのでな・・・他人事とは思えぬのだ』
何が似た者同士だ。だったら離れろ!
と、心の中で悪態をつく弔爾。
「そうなんですか・・うん。この人達なら何とかしてくれそうだよ、しの」
そう言った甲田の背後から、まるで彼の体内から這い出るように白い着物を纏った黒髪の女性が現れた。
長い黒髪に寂しげに伏せた睫毛が印象的な美人は静かに二人に向かって一礼する。
「彼女はしの。この島の元住人です」
「元?」
引っかかる物言いに弔爾が聞き返すと、甲田は沖を指差した。
「あの岩島が見えますか?」
示された島は岩肌が剥き出しで浜辺から少し離れた場所にあったが、その腹にぽっかりと空洞が口を開けていた。
「見えるが・・・?」
「しのは昔、この島が水飢饉になった時に儀式の贄としてあの岩場で命を落としたのです」
『なんと!では・・・』
弔丸の驚きの声に、甲田は慌てて手を振る。
「あ、別に島民を恨んでるとかそういうんじゃないんですよ。彼女は」
「じゃ、なんでまた?」
『あの人の・・・愛したあの人からのかんざし・・・』
目元を多い、か細く呟いたしのを見、甲田もまた自分の事のように辛そうな顔をして言う。
「贄として流される前に恋人から貰った大事なかんざしを、盗られてしまったのです」
『なんという不届き者だ!』
怒り心頭な弔丸の声にうっとうしそうに眉を寄せながら、弔爾は煙草を咥えた。
『では、そのかんざしを取り戻せば・・・』
「はい。彼女はまたゆっくり休めると言ってます」
『あい分かった!ここは拙者に任せられよ!!』
「有難う御座います!」
深々と頭を下げる甲田と幽霊しのに大船に乗ったつもりで任せられよ、と意気込む弔丸。
だが、弔爾はうんざりした顔で火をつけた煙草の煙を肺一杯に吸い込み、吐き出した。
『で、盗人のアジトは?!』
「はい。この島の高校生です。で、あまり事を荒立てずに・・・」
『行くぞ、弔爾!』
弔丸は甲田の話もそこそこに、弔爾の体を操り駆け出していた。
(お、おい!場所はわかんのかよ?!)
『心配無用。しの殿の魂の匂いと同じ匂いを辿れば良い』
グングン小さくなって行く弔爾の後ろ姿を、甲田としのは心配そうに見送った。

<8/17 pm1:03>
「・・・ったく。無茶しやがるぜ」
煙草に火を付けながら、弔爾は海を渡っていた。
岩島までは引き潮になると歩いて渡る事が出来るのである。
ザブザブと水をかき分け歩く弔爾に、弔丸は機嫌の良い声で言った。
『何。少し、お灸を据えただけの事。これで、もう悪さはせぬだろう』
「これで俺が捕まったらどうするつもりだよ・・・」
『何を言うか。武士が本懐を遂げずしてどうする!』
堂々と言い放つ弔丸の手段を選ばずの行動を思い出し、弔爾は頭を振った。
まず弔丸はその女子高校生宅へ無断侵入。
そして、運悪く居合せてしまった女子高生につらつらと罪状を述べ、少々脅しをかけて帰って来たのである。
・・・可哀想に。
「忌引さん!弔丸さん!」
やって来る弔爾の姿を見つけた甲田は、立ち上がり手を振った。
弔爾はぷかりと煙を吐くと、軽く煙草を持つ手を上げた。
「どうでした?」
心配そうに尋ねてきた甲田に、弔爾はポケットからひとつのかんざしを取り出す。
「これか?」
それは、貝で作られた玉飾りと鉄ごしらえのかんざし。
『あぁ・・・っ!』
嬉しさに涙を浮かべ、しのはかんざしを取り、懐かしそうに頬擦りをする。
そして静かにお辞儀をすると、とびきりの笑顔と共に消えて行った。
『うむ!これで、しの殿も成仏されるであろう』
満足そうな弔丸の声に甲田も満足そうに頷いた。
「これで私も安心出来ます」
そう言った甲田の姿がゆっくりと透け始める。
「あ、宿泊代とフェリーのチケット代はフロントに預けてありますから。ゆっくりリゾートを満喫して下さいね」
にっこりと微笑んだ甲田がまるで空気の解けるように消えた後には、空にぽっかりと真昼の白い月が浮かんでいた。

<8/23 pm7:34>
「甲田って奴は1ヶ月前にこの島でダイビング中に事故で死んだ奴だそうだ」
フロントに調べてもらった記事に目を通しながら、弔爾は言った。
「にしてもテメーが死んでるのに、他人の成仏助けるなんざ気が知れないぜ」
『なかなか見上げた心意気ではないか。貴様も少しは見習ったらどうだ?』
「・・ま、タダで泊まれるのは感謝だな」
ごろりと木陰に寝転がりながら、そう言った弔爾に弔丸は溜息をついた。
『まったく、呑気な奴だ』
「それを言うならアイツもだぜ」
『・・・そうだな』
見上げた空には淡く輝く月が東の空へと顔を覗かせ始めていた。

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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

【0845/忌引弔爾/男/25歳/無職】

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■         ライター通信          ■
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初めまして。
ひよっこライターの壬生ナギサと申します。
今回はギャグ要素多めになってしまいました。
あまり、弔丸の活躍の場も見せられず、申し訳ありません!
これに懲りず、気が向きましたらまたヨロシクお願いします(汗)

余談ですが、雫ちゃんは親に反対され、今回は参加断念となりましたとさ(笑)