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<東京怪談ウェブゲーム ゴーストネットOFF>


■真夜中の遊園地 悲しみの回転木馬■

■はじめに
 雫がいつものように自分のHPの掲示板を開くと、そこには新しい書き込みがあった。
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投稿者:ゆき

 Y遊園地の噂を知ってる?
 ボクのお父さんはY遊園地がつぶれた後、そこを買い取ったんだ。そしてリニューアルして
再オープンさせる予定だったんだけど、遊園地にいろいろなことが起こるものだからとても
困ってるんです。
 よかったら調べにきてもらえませんか?
 解決してくれたらお父さんもボクもとても嬉しいです。

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 Y遊園地ってどこだろう?
 雫は指を止めて少し考えたが、特定が難しい。
 メールボックスのメールをチェックすると、そのゆきくんから管理人あてのメールが一通届いていた。
「Y遊園地は山中遊園地です。これは嘘でも冗談でもいたずらでもありません。証拠にボクの住所と電話番号を書いておくね」
 山中遊園地なら聞いたことがある。少し離れてはいるが、雫の家からでも行ける距離だ。
 確かに去年、経営していた親会社が倒産し、別な会社に売却されたというニュースを聞いた覚えがある。
 インターネットのHPも調べてみたが、現在はリニューアルのため半年間の休業中らしい。 

 返信をうった。
「具体的にはどんなことが起こっているの?」
 1時間もせずに返事が来た。
「お返事ありがとう。本当にいろいろあるんだけど・・。でもいちばん今ボクが気にしてるのは・・。夜中に一度回転するメリーゴーランド。
 夜中の12時を回ると、メリーゴーランドが一度だけ勝手にまわるんです。音楽も鳴りだして、照明もその時だけ点灯するんです。電源は当然落としてあるのに。
 ボクの家から遊園地は近いので、夜中に光っているメリーゴーランドを見たこともあります。
 それに、そのそばで男の子の幽霊を見たって話もあるみたい。
 昔から遊園地で働いてる人に聞いたんだ。その人が言うには、その男の子は妹を捜しているんだって。見つからない妹を招くために毎晩夜中にメリーゴーランドを回すそうです。
 でも、遊園地のリニューアルでそのメリーゴーランドは古いし撤去する予定なんだよね。このまま壊してしまったら、その男の子は困るんじゃないかなって思うんだ」
 雫はゴーストネットに出かけて、会った友達に相談することにした。
「夜中の12時に遊園地に出かけるのはちょっと大変だけど、よかったら誰か行ってみてくれないかな〜」

■8月13日午前0時00分。
 山中遊園地は東京と隣接する県に所在していて、小高い山に囲まれた土地の中にあった。
 広大な敷地は遊園地と動物園に区切られている。現在、遊園地の方はリニューアルのために休園中にしてあるが、動物園は一般開放を続けていた。そのため今でも休日などは親子連れで賑わいをみせているという。
 しかし真夜中ともなれば、その中に昼間の賑わいを感じることは不可能だ。
 ホウホウと檻の中の梟が鳴く声が闇に響き渡り、それに答えるようにウォーウォーと獣が遠吠えをあげている。
 ふと訪れた一瞬の静寂は、蛙達の単調な鳴き声でまたもやかき消される。
 突然、その暗闇の中に明かりが点った。
 明かりの中心は遊園地の中央にある古いメリーゴーランドだった。
 当然、その遊園地には誰も存在していないはずだった。
 だがその明るく輝くメリーゴーランドの前で、ひとりの少年が白く光り輝きながらぽつりと立っていた。
「・・・みぃ。どこにいるの?」
 少年は寂しそうにつぶやく。そしてうなだれて、メリーゴーランドを振り向いた。
 同時にメリーゴーランドが楽しげな音楽を鳴らし始めて、ゆっくりと回転を始めた。
 白馬や馬車が華やかに上下に揺れながら、少年の前を横切っていく。
 少年はその映像をとても悲しそうな瞳で見つめていた。
 そして、メリーゴーランドがちょうど一周ぐるりとまわった瞬間、音楽は止みライトは消え、再び闇へと消えた。
 少年の姿ももうどこにも見当たらない。

■8月14日午後0時30分
 新宿区立図書館の玄関の側で煙草をゆっくりとくゆらせて、ひとり佇んでいるのは真名神・慶悟(まながみ・けいご)に間違いなかった。あの金髪、耳元のピアス、派手な格好。長谷川・豊(はせがわ・ゆたか)はバスを降りると、彼の姿を見つけて小走りに駆け寄った。
「お待たせしましたっ」
 慶悟はゆっくりと振り返る。さらさらとした黒髪の笑顔の似合う大学院生の少女。見知った顔だ。
「まだ時間よりも早い」
 慶悟は瞳で微笑むように見つめた。豊が時計を見上げると待ち合わせの時間よりも10分も早かった。
「真名神さんはお早いんですね」
「時間を間違ってね」
 建物に寄り添って立つ慶悟が煙草の煙を一つ吐いたとき、豊が降りてきたバス停に再びバスが止まり、背の高い男性が降りてきた。 
 緩いウェーブをかけた髪を一つにくくりにこやかに微笑みながら、九尾・桐伯(きゅうび・とうはく)は慶悟と豊に軽く頭を下げた。
「時間とおりには来たつもりでしたが、皆様早いですね」
「いいことね」
 豊はにっこり微笑み返す。
 待ち合わせているのは確かあと一人。
 三人は雑談を交わしてあと一人を待った。だが時間を過ぎてもなかなか相手は現れない。
「・・・遅いな」
 慶悟が吸い殻を図書館の入り口の灰皿に捨て、戻ってきて辺りを見回しながらつぶやいた。
「そうですね…そろそろ10分過ぎますね」
 桐伯もバス停のほうを見て、それから豊を見つめてつぶやいた。
 そのとき。
「ごっめ〜ん☆もしかしてお待たせしちゃった?」
 何故か図書館の中から現れたのは水野・想司(みずの・そうじ)だった。
「早く着きすぎちゃって、中の方が涼しいかなぁ〜ってごめんね。そのかわり、ちゃんと検索していろいろ調べておいたから許してね」
 両手をあわせて謝るポーズをとり、そして可愛くウインクを決められたりしたら文句は言えない。
 彼らは軽く苦笑めいた笑みを浮かべて、それから仲良く図書館の中へと入っていった。

■8月14日午後0時55分
「遊園地周辺は事故ばっかりなんだよね〜」
 想司が新聞記事検索で調べていた事故データのその膨大さはちょっと笑えてしまう程だった。
 テーブルの上にこんもりと置かれたファイルの山に慶悟は苦笑を浮かべた。
 事故多発地帯の霞峠を中心に、その近辺には高速道路の急カーブの連続地点もあり、交通事故の話題には尽きないところらしい。
「さらに言えば、この場所は昔の古戦場らしいし、戦時中には空襲も受けてるし、幽霊が出るのにはもってこいの場所みたいだね☆」
 想司が明るく言う。皆はげんなりとなって、その資料をつついてみたりする。
「その男の子が何年前から出てるのか、ってこと、雫ちゃんからゆきくんに聞いてもらったんだけどね、ゆきくんは今年からあの遊園地の側に引っ越したらしくてあまり知らないみたいなんだよね〜。で、話を教えてくれた遊園地のおじさんは10年くらい前から働いてるそうだから10年前から調べてみたんだけどね☆」
 にこにこと想司が続けて言うのを聞いて、豊は肩をすくめて笑ってみせた。
「10年前からでこんな量なのね」
「この中から男の子が亡くなった事件に絞ってゆきましょうか」
 桐伯は優しく助言する。納得する一座の前で、慶悟は突然席を立ち上がった。
「ちょっと他の方法も当たってみよう」
 山中遊園地は開園して30年以上も歴史のある古い遊園地だ。遊園地の敷地内で事故があったこともあるかもしれない。
 慶悟は三人が手分けして新聞記事を当たっているそばで、遊園地の安全性に関する専門書を見つけて手にとった。建築関係の本で、遊園地の乗り物で実際に起こった事故のレポートなどもあるらしい。
 慶悟はその本を手に取り、目次の欄をゆっくりとめくる。そして、その指はある項目を見つけてぴたりと止まった。
『回転木馬の支柱に挟まれ12歳少年死亡(昭和33年)』
 (まさか)
 何かひらめくものを感じて、慶悟は急いでページを開いた。
 特定できるようには書いてはなかったが、その本に書かれていた立地条件や営業年数から考えて山中遊園地と断定してもよさそうだった。

■8月14日午後2時12分
 慶悟が本で見つけた事件の新聞記事も、想司が集めていた新聞記事の中に見つけることができた。山中遊園地にそれは間違いなかった。
 桐伯はテレビ局にアナウンサーとして勤めている寒河江・深雪に連絡をとってみることにした。
 彼女もまたこの事件の調査のために、報道局で当たってみると話していたからだ。
「九尾さん?」
 電話口の彼女の声は少しはずんでいた。
 桐伯と深雪はとても最近親しくなっていた。桐伯は優しく用件を告げる。
「そうですか。…ちょうど今私も、もしかしたらその事件に関わった人がテレビ局にいるみたいっていうのを聞いたんです。…報道部の局長さんなのですけど、これから聞きに行こうと思ってました。何かわかりましたら連絡しますね」
「よろしくお願いします。期待していますよ」
 桐伯は電話を切ってしばらく待った。
 彼女からしばらくして再び届いた連絡は、「その少年の住んでいた家の住所がわかった」というものだった。
 深雪の上司である報道部の局長はその事件が起こった時、現役の記者でその事件を取材していたのだという。
「すごいわね。…これで妹さんに会いに行けるわ!」
 豊がはしゃぐように喜んで、桐伯に笑いかけた。桐伯も頷く。
「深雪さんもこれから合流できるそうです。早速そちらに向かってみましょうか」

■8月14日午後4時50分
 深雪と合流した一行は、深雪が局長から教えてもらった住所を訪ねていた。
 山中遊園地からは車で一時間くらいの距離の閑静な住宅街である。
「あそこのようだな」
 慶悟が「真田」の表札を見つけて指をさした。局長のメモのおかげで被害者の少年の名前が真田彰吾というこ
ともわかっていた。
「妹さんに会えるでしょうか。お元気だといいですね」
 深雪が桐伯を見上げながら微笑む。優しく頷く桐伯の横で想司がつぶやいた。
「でも昭和33年って44年前だよね。ということはー、仮に6歳としても50歳か…」
「妹さんがいきなり大人になってて彰吾くんも驚くかもしれないわね」
 豊が笑った。
「とりあえず訪ねてみるか」
 慶悟は皆を振り返って、その家に向かっていった。

■8月14日午後5時25分
 お盆ということもあって彼らに話を聞かせてくれたのは、その家を訪れていた彰吾の従兄弟になるという中年
の女性だった。
 彼女はここではなくてうちにいらっしゃい、とそこからあまり離れていない彼女の家へと一行を招いた。
 深雪に、「あなたの番組は毎朝見てるわよ」と微笑みながら、応接間に通してお茶を出してから彼女は小さく
ため息をついた。
「邦子おばさんにそんな話をするのは気の毒だと思うからねぇ」
 邦子おばさんというのは、少年の母親のことらしい。 
「今、邦子おばさんは一人暮らしなんですよ。旦那さんにも先立たれてしまって」
「彰吾くんの妹さんはご健在ですか?」
 深雪が訪ねた。
 彼女は首を横に振った。
「亡くなったんですか?」
 豊が身を乗り出す。彼女はええ、と頷いた。
 そしてゆっくりと話し始めた。

■記憶 
 美千子ちゃんは生まれつき体が弱くてね、3歳の誕生日に一日だけ入院していた病院からおうちに帰してもらえたの。
 彰吾くんは遊園地に行くんだってその前から言っていて、その日は空が真っ黒に曇っていた日だったから、邦子おばさんは嫌だっていったんだけど、どうしてもと彰吾くんが言うからしぶしぶ連れていったのよ。
 美千子ちゃんを雨に濡らしたりしたら命取りだから、雨が降ったらすぐに帰るっていう条件つきでね。
 彰吾くんも可哀想な子なのよ。美千子ちゃんが生まれて以来、ご両親は美千子ちゃんの世話と心配に追われて、彰吾くんは家族で遊びに出かけたことなんて一度もなかったのだから。
 そのうち案の定、雲が出てきて寒くなってきちゃってね。邦子おばさんが車に美千子ちゃんの上着を取りに戻ったとき、ふたりはメリーゴーランドの前で待っていたんだけど、そのうち彰吾くんだけ、メリーゴーランドに乗り込んでしまったらしいの。多分美千子ちゃんはまだ小さかったから一人で乗れなかったか、怖がったりしたんじゃないかしら。
 彰吾くんがそのメリーゴーランドに乗っている間に、さらに雨まで降り出しはじめてしまって邦子おばさんは美千子ちゃんを連れて車に戻ったのね。彰吾くんにも呼びかけて知らせたつもりだったんだけど、彰吾くんはそれにどうやら気づかなかったらしくて、乗り物から降りた後、雨にぬれながら妹を探してたらしいわ。
 邦子おばさんは美千子ちゃんを車に乗せてまたすぐに戻ってくるつもりだっただけど、そうもいかなくなっちゃったの。
 美千子ちゃんがひきつけを起こしてしまってすぐにでも病院に連れてゆかなくちゃならなかったのね。
 病院がそんなに離れてなかったこともあって、邦子おばさんは彰吾くんのこと気にしながら、そのまま病院に
向かったのよ。美千子ちゃんは一命をとりとめたのだけど、遊園地に戻った邦子おばさんは、彰吾くんが事故で
死んだのを知ったの。美千子ちゃんが雨に驚いてどこかに隠れたんだと思った彰吾くんはメリーゴーランドのパ
ネルがはがれてる場所から中に入ってしまったのね。そこで機械にはさまれちゃったのよ。

 彼女は話し終えると、お茶をひと口飲み、それからぽつりぽつりと続けた。
 「もうあのときは、邦子おばさん自分を責めてねぇ…。そのうえ美千子ちゃんもしばらくして風邪をこじらせ
て亡くなったんだけど、可哀想で見ていられなかったわ。今は落ち着いてるけど、彰吾くんのことは思い出させ
たくないの」
「そうですか…」
 深雪は頷いた。
 メリーゴーランドで妹を待っている少年は妹の死を知らないのだろうか。
「もしよかったら…、写真か何か貸していただけないですか?」
 桐伯が言うと、彼女は快く美千子の写真を貸してくれた。
「彰吾くん、あれからもう何十年もたっているのにまだ成仏してなかったなんてねぇ…気の毒だわ。どうか宜しく
お願いします」

■8月14日 午後11時00分
 ゴーストネットに投稿をした「ゆきくん」こと里中雪斗は彼らを遊園地の入り口で待っていた。
 感じのよさそうな12歳の少年で、執事のような黒い背広でサングラスをかけた青年がその後ろに立っている。
「本当にきてくれたんだね。ありがとう」
 雪斗は慶悟に握手をして、それから背後の青年に遊園地の門扉を開いてくれるように命じた。
 サングラスの青年は門扉を開き、その右手の事務所に入って、真っ暗闇の遊園地の中の外灯を点灯させると戻ってきた。
「さあ中に入ろうか」
 雪斗は皆に笑いかけると先に一人で奥に向かった。
 外灯はついているものの、やはり普段が賑やかな場所という印象を持っているせいだろうか、人気のまるでない闇に沈む遊園地というものはとても不気味に見えた。
 隣の敷地にある遊園地からさらに猿が吼えるような甲高い声が闇を切り裂くように響いた。
「なんとなく怖いね」
 豊はぎゅと自分の身を抱いた。
 『守ってやろうか』そんな声が耳元で囁かれた気がしてびくりとする。
 駄目駄目。あなたに守ってもらわなくても大丈夫。
 胸に下げている逆十字のついたネックレスを握りしめ、自分の中に住むもうひとりに言い聞かせて、豊は前方
を見つめた。
「あ。あれかしら…」
 あまりよくない視界の中で、前方に古びたメリーゴーランドを見つけて指をさした。
 白い馬や黒い馬、華やかな装飾のかぼちゃの馬車、闇の中にひっそりとあるメリーゴーランドは細やかな装飾
にかざられたとても綺麗なものだった。
「そういえばこのメリーゴーランドを新しく作りかえるとおっしゃってましたね。これだけ綺麗なものを勿体無
い」
 桐伯がつぶやく。雪斗も頷いた。
「ボクもそうと思うんだけどね、父さんはここに巨大なジェットコースターを作りたいらしいんだ。テーマパー
クになるからどちらにしてもほとんどの乗り物は作り直しするみたい」
「じゃあほとんど壊しちゃうんですね…」
 深雪は辺りを見回した。
 そこにあるのはロケットコースターやティーカップなど、遊園地では定番の子供向けのアトラクションの方が多いようだった。
 昨今の遊園地のブームは、派手で客を驚かせるようなものが多い。昔ながらのものばかりだと客はだんだんよりつかなくなる。この遊園地はその流れに乗り遅
れてしまった印象が強い。だから倒産してしまったのだろうか。
 そう思いながらやはり古そうなミラーハウスの方に視線を反らせていくと、その前をはだしの少年が駆けていく姿が目の端に映った。
「九尾さん…」
 隣に立っていた桐伯の服の裾をぎゅっとつかむと、桐伯がそっと背中に手をあてる。桐伯も気づいたのか、それとも別なものを目撃したのか、遠くを見つめながらつぶやくように言った。
「ここは…子供が多いようですね」
「みたいですね…」
 そこかしらから何者かに見られている気配が突き刺さるようでとても居心地が悪い。
「ここは出る遊園地としても有名なんだよね〜」
 想司がにこにこしながら答える。いつのまにか魔法使いのような姿に着替えているのは何故だろう。
 彼はミラーハウスの方に駆けだし、その看板の影に隠れていた裸足の少年を捕まえて、先端に星のついたスティックで空を指差す。
「きみは迷子? おうちに帰らなくちゃだめだよ〜。きみのおうちは多分あっち☆ あっちにまっすぐ行けば大丈夫」
 少年は頷いてすっと光になり、想司の指差した方向に飛んでいった。
「想司すごーい」
 ぱちぱちと豊が拍手をする。
 慶悟が眉を寄せて想司に尋ねた。
「なんであっちの方向なんだ?」
「ん。勘ってやつ☆」
 ・・・いい加減なことを言わないように。微妙に左眉のあたりが怒っているような。
 そんな慶悟の表情を見て、想司は笑いながら続けた。
「そろそろ時間前だよ。美千子ちゃんの霊をここに連れだすんでしょ」
「ああ…言われなくてもな」
 慶悟は眉をぴくぴくさせながら、うなずいた。

■8月14日 午後11時57分
 紙コップに水を注ぎ、メリーゴーランドに向かって立つ。紙コップの側には借りてきた美千子の写真を置く。
 慶悟は呪を口にし、彼女の霊を召還しようと集中して瞼を閉じたその時。
 突然彼らの視界が明るくなった。
 メリーゴーランドの照明が突然点灯したのだ。色とりどりの照明が暗闇に宝石のように光輝いている。
「まだ時間より少し早いけど…」
 豊が腕時計を見てつぶやいた。
「彰吾くんが気づいたのかも…」
 深雪が隣で言う。桐伯もそうでしょうね、とつぶやいた。
 明るく光り輝くメリーゴーランドの正面に一人の少年が白く光り輝いていた。
「み・・ぃ?」
 想司が慶悟の前に魔法使いルックで躍り出るように出て、そっと写真の方に手をさしのべた。
「ふっふっふっ。僕は通りすがりの魔法使いっ♪ さあお姫様、王子様がお待ちかねだよ♪」
 そのさしのべた手に小さな掌がそっとつかまった。
 淡い光に包まれた幼い少女…美千子は、写真の中から抜け出てきたように姿を見せると、想司に微笑みかけた。
「みぃ!?」
 彰吾が叫んだ。
 美千子はそれを聞くとはっとしたように彰吾の方を見つめた。想司も導くようにそっと手を引いて彼のほうに
招いた。美千子は想司の手から離れて彰吾の方に走り出した。
「お兄ちゃん」
「みぃ…よかった。良かった。お兄ちゃんずっと探してんたんだよ。ひとりにしてごめんね、ごめんね。一緒に
待っていればよかったのに…僕が」
「みぃもお兄ちゃんに会いたかったよぉ」
 二人はひしと抱き合って固まった。
 桐伯がそっと側に歩み寄る。
「今度は一緒にメリーゴーランドに乗ってごらんになるのはどうですか?」
 二人の幼い兄弟はこくりと頷きあって微笑んだ。
 雪斗が連れの男性にメリーゴーランドを動かすように指示すると、彰吾と美千子は手を繋ぎながら仲良くメリ
ーゴーランドに向かっていく。
「僕も乗せてもらおうっと☆」
 星のスティックを降りながら想司も乗り込む。豊もせっかくだしね、といいながらこっそり乗る。
 どうしようと頬を赤らめながら考えていた深雪に桐伯が微笑んだ。
「私たちも乗ってみましょうか」
「え、…は、はいっ」
 深雪はさらに顔を赤らめ、少しうつむきながらメリーゴーランドに向かった。
 一人外に残った慶悟は、煙草に火をつけ、幼い兄妹たちに目を移す。
 二人乗りの馬車に乗ったふたりはぎゅっと手を握り何か小さく囁きあっていた。
「動かしまーす」
 雪斗の声が響いて、メリーゴーランドから華やかなメロディが流れ始める。同時にゆっくりと回転が始まる。
 馬や馬車が揺れて揺れながら向かう先はどこだろう。
 想司は兄妹の乗っている馬車の隣の白馬にまたがっていた。
 魔法使いが星のスティックを振りながら白馬で揺れている様子を、兄妹は面白そうに見上げていた。
 想司は彼らにウインクを見せる。
 それから他の景色にも目をやった。
(そういえば、滝沢百合子さんと約束をしたのでしたね…)
 想司は輝くメリーゴーランドから、暗闇の中のほかの乗り物に目を移しながらふと思い出した。
(まあ…またチャンスはあるでしょう)
 誰にも気づかれないような小さな吐息をつき、想司はメリーゴーランドの音楽に耳を傾けていた。
 夢の世界に誘うオルゴールが奏でるようなメロディを響かせて、白馬は走り続ける。そう夢の国へとたどりつくまで。
 
■8月15日午前0時8分
 ガタン。
 現実に引き戻す金属音をたてて、メリーゴーランドは静かに動きを緩めていく。
 想司や豊が馬車から降りて振り向くと、幼い兄妹の姿はさっきまでのそこから消えていた。
「…いってしまったのね」
 豊はぽつりと言って、想司を見た。想司は頷いて、にっこりと微笑んだ。
「二人で一緒に天国に行けたんだ。あれだけ仲がいいんだから、きっとまた生まれ変わっても兄妹かもしれない
ね」
「そうね」
 豊はかすかに浮いてきた涙をこぼれるまえに拭って、空を見上げた。
 再び闇に沈んだメリーゴーランドの上空の空は、東京の空では想像できないほどたくさんの星がきらきらと輝いていた。

終わり

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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】
0174/寒河江・深雪(さがえ・みゆき)/女性/22/アナウンサー(お天気レポート担当)
0226/真名神・慶悟(まながみ・けいご)/男性/20/陰陽師
0332/九尾・桐伯(きゅうび・とうはく)/男性/27/バーテンダー
0424/水野・想司(みずの・そうじ)/男性/14/吸血鬼ハンター
0914/長谷川・豊(はせがわ・ゆたか)/24/大学院生
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■         ライター通信          ■
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 お待たせいたしました。
「真夜中の遊園地〜悲しみの回転木馬〜」をお届けいたします。
 寒河江様、九尾様、水野様、お初にお目にかかります。
 長谷川様、二度目の参加ありがとうございました。
 真名神様、四度目の参加、ありがとうございます。
 今回はヒントを少なく出したつもりでしたが、皆様のプレイングは見事的を得たものばかりでありました。
 皆様のご想像と違いはいかがだったでしょうか?

 水野想司様
 はじめまして。鈴猫(すずにゃ)と申します。ご参加ありがとうございます。
 元気で明るい、どこかずれている男の子という認識でよかったかな? とても楽しく書かせていただきました。ありがとうございます。
 物語の中で成仏させた男の子は無事におうちに帰りついたらしいということです。彼の分まで礼を言わせてくださいませ。
  
 それでは機会がありましたら、他の依頼でお会いしましょう。ありがとうございました。