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真夏の夜の夢〜中編〜
◆途中報告
「なんだか、バタバタやってるみたいねぇ･･･」
体育大学心霊研究会の降霊会合宿を取材に言っている三下から送られてきたＦＡＸを眺めながら、碇は呟いた。
合宿所になっている別荘は神社を取り壊して作った上に心中事件もあった曰くつきな別荘であること、そこで夜に降霊会が行われること、などが簡単にまとめられて報告されていた。
「ちゃんと記事になるのかしら？」
どうも、三下はワタワタして仕事になっていない気配がする･･･
このＦＡＸも三下の名前できてはいるが、書いたのは別の人物のようだ。
誤字も無く理路整然とまとめられている文章を見て溜息をついた。
「翠麗荘に行った連中は、のんびりしているのかしらね？」
碇はＦＡＸを書類ケースにはさみ、側にいた編集部員の一人に声をかける。
「さっき電話がありましたけど、のんびりしてるみたいですよ。あ、でもなんか色々あるみたいなことを言ってたな。屋敷にある祠がどうとか･･･」
「祠？」
「ええ、なんでも取り壊された神社のご神木が祭られてた祠だったようですよ。それがどうとか言ってたなぁ･･･もしかしたら記事になるかもって連絡だったんですけどね。」
「ふうん、降霊会に人形だらけの別荘に祠･･･ねぇ。」
碇はしばし考えるように目を伏せて、それから言った。
「よし、ちょっと気合入れて取材するか。手があいてる奴がいたら軽井沢へ向かって。もちろん現地の連中にも様子は知らせるように言ってね！」
「えっと、増員は合宿の取材の方ですか？」
「こうなったら両方取材対象よ。まぁ、別荘の人には迷惑をかけないように避暑にきたってことで行くようにしてね。」
碇はテキパキと取材の準備を指示した。
何かある。この勘が彼女を編集長にまで押し上げたものの一つでもあるのだ。
間違いなく軽井沢には何かある。
そう勘が告げているのだった。
◆再会
守崎 啓斗は台所で食事の支度を終え、みんなに食事を知らせに行こうと扉を出た途端。
「啓ちゃぁーーーーんっ！！」
どかぁんっと体当たりをかまされるように抱きつかれた。
「うわーーっ！何だ何だ何だっ！」
「啓ちゃーん！」
「うわっ！おめ、夏菜じゃんっ！」
そう叫んだのは啓斗の声を聞いて台所から飛び出してきた守崎 北斗だ。
「あ、北ちゃんも！久し振りなの〜っ！！」
啓斗に抱きついていた石和 夏菜は北斗の姿を見ると、ぱぁっと北斗にも抱きついた。
「うわーーっ！くっつくなっつーの！」
「いやーっ！だって久し振りなんだもんーっ！」
十年ぶりになる幼馴染との再会に、言葉は乱暴でも北斗も啓斗も顔がほころんでいる。
「おっきくなったなぁ、夏菜も。」
啓斗は幼い顔しか記憶にない夏菜を見てしみじみと言う。
「んもーっ！敬ちゃん！夏菜は敬ちゃんたちと同い年だよっ！」
「あははは、そうだったっけ？」
（ボケてるなぁ･･･兄貴･･･）
北斗は心の中でひそかに突っ込みを入れる。
「あれ？でも、どうしてここへ？」
啓斗は再び抱きついてきた夏菜を何とか引き剥がし、ふと気がついてたずねた。
「アトラス編集部で聞いて来たのっ！お兄ちゃんは出張で居ないし、つまんないんだもんっ！」
「もしかして黙ってでてきたのか？」
「置手紙してきたもんっ！」
えっへんと胸を張って言う夏菜に北斗は眉間を押さえる。
「それは黙ってでてきたのと一緒だろ。」
「えーーっ！そんなことないもんっ！」
「まぁまぁ、夏菜、後でちゃんと電話しとけよ。･･･あっ！ヤバイ！」
啓斗はそう言ってから、はっと気がついて慌てた。
「どうした？」
北斗も心配そうにたずねる。
「夏菜が来るんじゃ、お昼が足りないや。翠さんに言って追加してこないとっ！」
そう言うと啓斗は慌てて台所へと戻っていった。
「いや･･･そうじゃねぇだろ、兄貴･･･」
北斗はどこかとぼけた兄を呆然と見送ったのであった。
◆昔語り〜祠〜
昼食後、後片付けを申し出た大塚と大矢野にお願いし、啓斗と北斗そして夏菜の三人は庭の向うにある祠へと向かった。
「慰霊碑･･･って書いてあるだけだねぇ･･･」
祠に収められた石碑に何か書いてないかと覗き込んでいた夏菜が、何も見つけることができすに呟いた。
「･･･何もいねぇぞ、この祠。」
北斗が訝しげにあたりを見回して言う。
昨日来た時はかすかに霊気らしきものを感じたのだが、今日はすっかりそれがない。
超霊媒体質な兄の啓斗をつれてくるのに少し不安を感じていたくらいだったのだが、この状態ならばそんな心配もなさそうだ。
「確かに･･･空気が綺麗だな･･･この辺･･･」
啓斗もそう言って目を閉じる。
確かに、きちんとお祀りされていた祠ならではの清浄な気を感じる。
「しっかし、これだけ念入りに祀ってるってことは、何かあったんだろうなぁ？」
北斗は疑問を口にした。
これだけ清浄な状態を保つには日々欠かさず祀り、それを永い間行ってこなくてはこうはならない。
「しかも、祠から「居なくなった」のはつい最近･･･」
啓戸もそう言って眉をひそめる。
これだけきちんと「祀る」ことのできる人物が、中身のない空の祠をいつまでも祀っていたりはしないだろう。
祀るのをやめれば、気はすぐに濁る。
故に、中身が空になったのは本当に最近･･･もしかしたらついさっきとかの事なのかもしれない･･･
「ねぇ、あのおばぁちゃんに聞いたら何かわからないかな？」
夏菜が難しい顔をして考え込んでいる二人に持ちかけた。
「やっぱり、ここに住んでるわけだし、きっとここのことも知ってると思うのよね。」
「そうだな･･･」
翠ならば何か知っているかもしれない。
「じゃぁ、翠麗荘の方へ戻ってきいてみようぜ。ばぁちゃん、玄関で人形の世話してたから。」
そう言うと北斗はすたすたと踵を返して歩き出した。
「あー、待ってよ！ほらっ、敬ちゃんも行こうっ！」
夏菜が啓斗の手を引っ張って後に続く。
「はいはい。なんか、子供の頃と変わらないな、夏菜は。」
苦笑いしながら啓斗もそれに続いた。
三人は別荘に戻ると、ちょうど玄関ホールのところで人形たちの面倒を見ていた翠を捕まえることが出来た。
「あの祠のこと？」
話を切り出すと、翠は少し暗い顔で祠の話を聞かせてくれた。
昔この辺り一体は「人食いの森」と呼ばれ、森に踏み入った者はみな森の主である大樹に食われてしまうと言われていた。
ある時、この森の側を通った修験者がその大樹を神として社に祀る事で鎮めた。
そして建てられたのが「社」で、その祀られた大樹こそがご神木だった。
ご神木は荒ぶる神だが、きちんと祀ってからは森に豊穣を与え、農耕を見守る神として、人々は信心し、社を守り続けてきたのだという。
「それが、別荘の建築なんかで森はすっかり姿を変え、お社は心無い人間に取り壊されてしまったのよ･･･」
翠はまるで自分を切られるように苦しそうな顔で言った。
「お社っていうのは何処にあったんですか？」
「ちょうどこの別荘の反対側･･･森の向うに見えるお屋敷よ。」
「それって･･･」
啓斗と北斗はすぐにそれがどこか思い当たった。
「あの、アトラスの連中が来てる合宿所のことか！」
君の悪い建物だとはきいていたが、そんな謂れのあるところに建てた別荘によく宿泊する気になどなるものだ。
「私はそのお社の最後の巫女だったの。お社が取り壊される時にせめてご神木だけでもお守りしたかったのだけれど･･･その木も切られてしまったわ･･･」
「それじゃぁ、あの祠はそのご神体か何かをうつしたものなんですか？」
夏菜はちょっと考え込むようにたずねた。
「あ、でもご神体は樹なんでしたっけ･･･？」
「あの祠は私がご神木の切り株をここへ持ってきてお祀りした祠なのよ。」
翠は大きな溜息をついた。
「あのお社が取り壊されてしまっては、やはり意味がなかったようなのだけれどね･･･」
「あの祠に何も居ないのは･･･ご存知なんですね？」
啓斗がそうたずねると、翠は深くうなづいた。
「気がついたのは昨日の事よ。それまでは確かにあそこには御神気が宿っていたのに･･･」
昨日ということに北斗は眉をひそめる。
「その祠に何年も神様って居たんだろ？なんでまた急に･･･」
壊された社、そこに建てられた別荘、何も居ない祠･･･
それらをまとめて考えているうちに、啓斗はふっと気になることに気がついた。
「もしかして、あの別荘でやるって言う降霊会に関係してるんじゃ･･･」
「降霊会？」
翠が首をかしげる。
「ああ、あそこでどっかの大学生が降霊会をやるって行って、それの取材に知ってる連中があそこに来てるんだよ。」
北斗が翠に向うの別荘に来ている連中のことを簡単に説明する。
「なんてことを･･･」
翠はそれを聞いて青ざめた。
「そんなことをしたらどんなことになるか･･･！止めなくちゃいけないわっ！」
「ばぁちゃん・・っ！？」
北斗が呼び止めたのも聞かずに、翠は慌てて屋敷を出てゆく。
「ちょっと、マズイかも！」
「止めなきゃ！北斗、夏菜！」
三人は翠の後を追って別荘を飛び出したが、夕闇迫る森の一本道に翠の姿はすでになかった。
◆神宿り
息を切らせて啓斗、北斗、夏菜の三人が降霊会の会場となっている別荘にたどり着くと、三下に背負われて翠が運び出されてくるところだった。
「あ、守崎クンたち！ちょうど良かった！」
三下は翠を背負ったまま、三人を見ると駆け寄ってきた。
「ばぁちゃん！」
「一体どうしたんです！？」
翠はぐったりとして動かない。どうやら気を失っているようだ。
三下は三人に事の次第を説明した。
降霊会を行っている時に、翠がいきなり現れ、それと同時に現れた黒い煙のようなものが翠の中に憑り付いてしまったらしい。
「浄化の力のある人がすぐに払おうとしたんだけど、この人がこれは神様だから祓っちゃいけないって･･･」
「ご神木が取り付いたのか･･･！」
やはり降霊会によってご神体が動いてしまったのだ。
それが翠に取り付いてしまった。
ご神体は荒ぶる神だと言う翠の言葉を思い出す。
このままでは緑がどうなるかわからない。
「とりあえず、ばーちゃんを運ぶぞ！」
「うんっ！」
三下から翠を抱き取ると、北斗がその体を背中に背負った。
夏菜が自分の着ていた夏物のカーディガンをそっと翠にかけてあげる。
そして、三人は森の中を翠麗荘に向けて駆け出した。
To be continued...
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■ 登場人物（この物語に登場した人物の一覧） ■
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【整理番号 ／ ＰＣ名 ／ 性別 ／ 年齢 ／ 職業】
翠麗荘宿泊組
0554 ／ 守崎・啓斗 ／ 男 ／ １７ ／ 高校生
0568 ／ 守崎・北斗 ／ 男 ／ １７ ／ 高校生
0921 ／ 石和・夏菜 ／ 女 ／ １７ ／ 高校生
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■ ライター通信 ■
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今日は。今回も私の依頼をお引き受けくださり、ありがとうございました。
こんな展開になってしまいましたが･･･如何でしたでしょうか？
啓斗クンも無事、憑依されず、幼馴染の夏菜さんと合流できた様子です。
祠の情報も入手できました。今は翠さんがいる翠麗荘に居ますが、幽霊屋敷こと合宿所のほうへ行くことも出来ます。行動に制限はないので、頑張ってください。
えっと、それとちょっとお知らせです。
次回で真夏の夜の夢は完結いたしますが、依頼公開日をちょっと延期いたします。
依頼の公開日は８月２４日の２３時となります。
もしよろしければご参加お待ちしております。
それではまたお会いたしましょう。
お疲れ様でした。
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