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<東京怪談ウェブゲーム ゴーストネットOFF>


◇◆秘密の薔薇園◆◇

◆オープニング
 インターネットの普及は近年めざましいものがある。我が家にいながらにして、世界に発信することも出きるし、世界中とメールのやりとりをすることができる。ネットカフェは巷のあちこちにあり、手軽に楽しむことができる。彼らがここ『ゴーストネットOFF』に集まってくるのは何が目的なのだろう。確かにここにくればネットではキャッチすることの出来ない種類の『情報』を手に入れることが出来るからだろうか。

「ちょっと前に騒ぎになった月子って人の友達のこと、知ってる?」
「あぁ、派手に遊んでいるってあいつでしょ?」
「そうそう。なまじ親が金持ちじゃん。新宿のやばいトコで随分やらしちゃって、かなり目ぇ、つけられてるって」
「嘘ぉ、怖〜」
 全然怖がってなさそうな様子でその娘は言った。むしろ面白がっているようだ。
「でもさ、月子って人もいなくなる前に雪乃と一緒に遊んでいたんでしょ?」
「え〜、あたしそれ初耳だよ。そうなんだ」
「うん、あんま遊び慣れてないみたいで結構カモられてたみたい」
「利用されちゃってたわけか。雪乃って月子が消えた事件、色々知ってるんじゃないの?」
「そうかも。でも口が堅いみたいだよ。なんか弱みでも握ればゲロっちゃうかもね」
「なんか刑事みたいじゃん」
 娘達は笑いながらネットカフェを出ていった。

 雪乃がよく出没するという店は新宿でちょっと聞きこみをしたら幾つかピックアップすることが出来た。どれも『ギリギリ』な感じの店で、外部から接触しても埒があかない。月子の消息を北岡家に連絡すれば、多額の報奨金を手にすることが出来る。また、一連の事件の謎を解くこともできるだろう。ここはひとつ『臨時従業員募集:委細面談』の張り紙に掛けて見るしかなさそうだった。

 そしてあなたは新宿ホストクラブ『ローズガーデン』の臨時雇いのホストになった。

◆薔薇園の裏側へ
 新宿にあるホストクラブ『ローズガーデン』は、新宿通りをずっと御苑方向にむかった場所にある。新宿とはいえ、かなり閑静な場所といえるだろう。女性客が店に入りやすいように、外観は洒落た高級フランス料理店といった風になっている。ただ、看板もないので一見のお客は入りに下ろう。『ローズガーデン』は新宿では後発の店だけに、様々な心理的工夫を凝らしているらしかった。それが、今日はじめて『ローズガーデン』を訪れた臨時従業員達の感想だった。今日から仕事に入る3人は、殺風景な事務室に通された。ここでもう10分程待たされている。
「僕、こういうトコは初めてなんや。なんか、妙に緊張しはりますな」
 今野篤旗はなんとなく重苦しい雰囲気に耐えかねて、そう言った。同じ募集を見て、そしてもしかたら同じ手順でここに来ているのかもしれない。
「よかった。なんかボクだけ浮いてるんじゃないかって、心配していたところなんです。あなたも初めてなんですか」
 まだ固さの残る笑顔を見せ、神坐生守矢が言った。普段とは随分と勝手が違う。それが圧力となって今にも押しつぶされそうだった。学生時代の受験にも似た感じだ。篤旗と守矢は低い声で自己紹介をする。けれど、もう1人‥‥一番奥に座っている男は黙ったままだった。そもそも他人がいることも気にしていないような、傲然とした様子だ。
「やぁ、失礼。お待たせしたね」
 その時、この部屋でたった1つしかない扉が開いた。入ってきたのは40歳台中頃の男だった。どことなく堅気ではない妖しい雰囲気がある。
「わたしがここのオーナー内藤功一だよ。あ、済まないけど全員立ってくれるかな」
 功一はごつい指輪のはまった左人差し指でくいっと合図する。言われるままに3人ともスチール椅子から立ち上がった。彼らは皆、背が高かった。標準的な体格の功一より、頭1つ程抜きんでている。功一は満足そうにうなづくと席に座れと言った。
「3高なんてバブルの頃だけの事かと思ったかもしれないけど、やっぱり女性は背の高い男が好きなんだよ。特にこういう場所に来るヒトはね、見てくれは第一条件なんだ」
 功一は3人の採用を即決で決めた。
「とにかく、1週間は店から渡す服を着てボーイの仕事をしながら慣れて貰うよ。その後は見込みがありそうならお客様のお席に入って貰うから。そのつもりで頑張って」
 功一はそれぞれに鍵を渡す。ロッカーの鍵だった。
「じゃ、服を渡すから着替えてすぐに店のフロアに来なさい。君たちが来たらミーティングをするからね」
 功一はこの部屋にたった1つだけある備え付けのロッカーから、3着のスーツを出した。どれも同じ黒い服だ。服のカバーにはそれぞれ名前を書いたメモが貼ってある。『今野篤旗』『神坐生守矢』そしてもう1着には『城之宮寿』を書き記されてあった。

◆薔薇のつぼみ
「みんな、集まってくれ」
 店のオーナー、内藤功一は開店直前のミーティングで従業員達総勢50人程を集めると、今日から仕事に就く3人の新人を紹介した。功一が彼らをが厨房でも清掃でも事務でもなく、ホスト候補として入店したと告げると、20名程のホスト達は様子が変わった。従業員達は、ホストとそうでない者とは歴然とした差があった。明らかに人の気を惹く魅力を持ち、それを周囲に発散しているのはホスト達だけだった。彼らにはまるで大事な『何か』を消耗しながら無理に輝く様な、そんな不自然さが感じられる。黒のスーツを着た臨時採用の3人は、それぞれの魅力の片鱗を覗かせている。それが彼らを触発するのだろう。
「とりあえずはボーイの仕事をしてもらう。その様子を見てから今後の仕事を決めていく。まずは色々と面倒をみてやってくれ。わかったな」
「はい!」
 思惑はどうであろうと、オーナーの前でそれを表に出す者はいないらしい。従業員達は即答した。
「よし。あと15分で開店だ。皆、今夜も気合いを入れていくぞ!」
「はい!」
 功一の言葉にかぶさるように、大きな声が響く。皆、きびきびとした動きで持ち場についた。最初の1週間は問題なく過ぎた。前からの従業員達も安っぽいドラマの様な嫌がらせなどはしない。黙々と、そして静かに試用期間は過ぎた。その間、彼らのターゲットであるところの『藤堂雪乃』は来店しなかった。
「おつかれさん! じゃ明日からは3人とも私服でいいよ。特に決まりはないけど、お客様商売だって事は忘れないで。この1週間でどんな服にすればいいかはだいたいわかったと思うから‥‥」
 功一は1週間分の給料袋を渡しながら、上機嫌でそう言った。

◆篤旗の挑戦
 篤旗は『あつし』と名乗り、ナンバー3と言われている『ともき』のサポートに廻された。童顔でパッと見中学生の様だ。ふざけて店に学ランやブレザーを着てくる事もあるらしい。それもお客にはウケるのだという。
「俺のお客様って結構ババァなんだよ。いつもはいいんだけどさ、疲れちゃった時なんて結構クルよ。まぁ覚悟しときなよね」
「‥‥はい。わかりました」
 神妙に篤旗は言った。まだ開店したててで客はいない。ともきは笑って篤旗の耳元に唇を寄せる。
「でもさ、ババァの方が金は持ってる。貢がせる気なら頑張りな。俺、邪魔しないし怒らないからさ」
 ともきの『好意』になんと言って良いかわからず、篤旗は一瞬とまどう。その時、ハタと自分の目的に思い至った。
「あの‥‥若い人でもお金持ちだったらどうなんですか? 僕、ここにあの藤堂家の令嬢が来るって聞いたことがあるんですけどぉ‥‥」
 ともきの様子を窺いながら、篤旗はゆっくりと言った。
「あ〜、知ってるよ。良く来るよね、あの子って。でも俺はあんまりお薦めしないよ。若いしそこそこ可愛いけど、中身がちょっとな‥‥『あきら』のお客だけどぶんどっちゃえば? 俺、そう言うことなら応援するから」
 ともきは楽しそうに篤旗をたきつける。『あきら』はこの店のナンバーワンホストだ。そのあきらから客を奪えば、ともきとしては日頃の溜飲が下がるのだろう。
「ややなぁ‥‥ともきさん。そんな物騒な事を僕に押しつけはるなんて‥‥」
「キミから言ったんじゃない、藤堂雪乃が欲しいって」
「そこまでは言ってません!」
 情けない風情を装ってなきつくと、ともきは機嫌良さそうに大笑いした。
「じゃあマジで教えてあげるよ。あきらは関係ない。あの子は絶対に手を出しちゃ駄目。ヤバイ感じでまるぼうの付き合いがあるからね。下手に関わるとホントの意味で消されちゃうよ」
「もしかして‥‥暴力団‥‥?」
 篤旗は小さな声で言った。それでもともきに頭を小突かれる。
「そうあからさまに言わない。この店だって全然関わりがないわけじゃないんだから。そもそも『おみず』なんてどこもそうなんだけどね」
「は、はぁ‥‥そういうもんなんですね」
「そういう事。さ、お客様だ‥‥行くよ。‥‥前田様、ようこそいらっしゃいました」
「ようこそいらっしゃいました」
 ともきの後に従って、篤旗も50歳ぐらいのご婦人に挨拶をした。

◆守矢の作戦
 守矢は『もりお』として店に出る。サポートに入ったのは『あきら』というこの店のナンバーワンだった。年は20歳半ばから後半だろうか。落ち着いた様子とスーツ姿が似合いの渋めの男だ。若い客から高年齢まで、幅広く人気があるらしい。なるほど、守矢から見てもホテルのバーでバーボンなど飲んでいるのがサマになりそうな男だ。
「俺のサポートはお前か?」
「はい。よろしくお願いします」
 守矢は日頃の営業スマイルが発動して、あきらにも人好きのする笑顔を向ける。どうやら店のオーナーは、見込みがありそうな臨時採用をモノにするため、売れっ子ホストに面倒を見させる作戦なのだろう。
「俺はあまり助言は得意じゃない。俺のスタイルが誰でも客に支持されるとも保証できない。だから、お前はお前が思った様にやってくれ。それでいいか?」
「はい‥‥わかりました。ただ、2,3、教えて頂きたいことがあるのですが、よろしいでしょうか?」
 丁寧に守矢は言った。あきらは顎の動きでその先を続けろと合図する。そんな横着な仕草が似合うのだから始末に悪い。
「若い女性のお客様はどういった事がお好きなのでしょうか? ボクにあきらさんの真似が出来ないのは当然ですが、それとは別にどういったモノが受け入れ安いのでしょう‥‥たとえば‥‥ほら、あの方とかは‥‥」
 守矢は今まさに店に入ってきた若い娘をそっと示した。ふんわりとした髪が歩くたびに揺れている。服も鞄も靴も時計も‥‥身につけている全てが高価そうだ。守矢はその人が『藤堂雪乃』だとわかってあきらに聞いた。じっと雪乃を見つめるあきらの様子を観察する。
「ロマンスだな。嘘でもいいからとびきりの夢。あのコ‥‥あのコに限らず女性は現実を嫌な人が多い。日頃の憂さを忘れる夢をここに買いにくるんだ」
「‥‥夢‥‥ですか」
「あぁ、その為にならなんでもするだろう。親の言いなりに結婚もすると言うし、仲の良い友達も売る。無邪気でしたたかな女だ」
「‥‥あきら、さん」
 雪乃はまっすぐにあきらに向かって歩いてくる。長身でガタイの良いあきらが雪乃のすぐ前でひざまずき、雪乃の手の甲に口づける。まるで中世の騎士と姫君の様だ、と守矢は思った。そして、雪乃がそのシュチエーションに酔いしれているのがよくわかった。

◆寿の忍耐
 寿はオーナーの功一から、誰にも着く必要はないと告げられた。
「寿君‥‥『ひろし』でいいね。キミの売りはその仏頂面だからね。下手に客に媚びてもその魅力が失われちゃうから。だからその辺、坐っていてよ。多分すぐに指名が入るから」
「‥‥わかりました。指名されたらどうしますか?」
 日頃の寿から考えれば他人に何か支持を仰ぐなど、それこそ1000倍も譲歩している。
しかも敬語を使っている。このやりとりだけで『信じられない』と卒倒する者が山ほどいるだろう。
「お客に酒を勧めて、飲ませて、話聞いていればいいよ。あ、水割りとかはボーイに作らせればいいから」
「‥‥努力します」
 寿には出来ないと思っている。或いは失敗するだろうからやらせたくない、という功一の魂胆は見え見えだった。そこまであからさまだと、胸の奥から沸々と闘志が湧いて来るような気がする。俺も不本意とはいえ、契約をして仕事を請け負ったのだ。受けたからには完璧にこなす必要がある。いや、そうあるべきだ。絶対にやってやる。見事、ホストの仕事をやり遂げて見せる。表情は少しの変化の見えないのに、寿は心の中で固く誓っていた。
「『ひろし』さ〜ん。ご指名です」
 ボーイがコールする。スクッと立ち上がると、寿は呼ばれた席へとゆっくりと歩き始めた。行き過ぎる席のお客様が寿を見るとさざめき出す。だが、そんなものは無視して先を目指す。寿を指名したのはごく若い娘達5人だった。会社の同僚同士といった感じだろう。年齢は23歳から28歳というところで、予算も低そうだ。
「いらっしゃいませ、お客様」
 尋常に寿が頭を下げる。長身の男が深々と礼をすると、途端に悲鳴の様な客達から歓声があがった。
「きゃ〜、うそっぉ‥‥なんかステキ!!」
「うん、超ステキですよぉ」
「なんかすっごく気分いい〜」
「お客様だって〜、お客様だって! ねぇ、もう一度言ってよ」
「うん、最初から‥‥ほら、あっちから歩いて来て」
「あ、それイイ。ほら、早くぅ」
「や〜、や〜」
「早く、早く。あっちからね」
 背中を押される様にして、身体を半回転させられる。わずかに10秒ほどだったが、既に寿の忍耐は臨界点を突破しそうだった。
「わ、かぁり‥‥ました。お、きゃく‥‥さま」
 胸を内側から押す様な怒りに、発生もどこかぎこちなくなる。
「きゃ〜」
 もう一度悲鳴があがる。寿は顔の表情筋を無理に歪め殺伐とした笑みを刻ませた。もし、この時本当に服の下に得物があったら‥‥店は大虐殺の場を化していただろう。

◆Appendex〜追記〜寿
 雪乃はあきらと楽しく遊んだ後、店を去った。けれど、寿は雪乃に接触する事が出来なかった。その余裕が少しもなかったからだ。」
「ねぇねぇ、ひろしさん。ひろしさんって外国の人?」
「決まってるじゃん。先輩、ひろしさんの髪とか目とか、見てないですか?」
「見てるわよ。だけどさ、だからって日本人じゃないって事にはならないでしょ?」
「そうそう。帰化とかね」
「ううん、整形!」
「やだ〜ぎゃははは」
「それ、イイ。あははは」
「ひ〜ん。ひ〜ん」
 寿など言葉をはさむ隙もない。ただその場にいて、他愛ない話題を提供し続けるだけだ。
本気で控え室から銃を取ってくるか。たった2時間の間に50回も寿は思った。
 『ローズガーデン』のバイトはその週で辞めた。
「予想通りだったけど、もし何かあったらいつでもまた来なさい」
 功一は額面通り給料を寿に渡してくれた。

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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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0763:城之宮・寿/男/21/ひろし
0564:神坐生・守矢/男/23歳/もりお
0527:今野・篤旗/男/18歳/あつし

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■         ライター通信          ■
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お待たせいたしました。ノベルをお届けいたします。書いてみますと、『ローズガーデン』の皆さんはいい人ばかりでした。慣れない仕事で色々とお疲れさまでした。少しだけお金持ちになりましたから、これからの軍資金(生活費?)にしてください。