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<東京怪談ウェブゲーム 界鏡線・冬美原>


ミス鈴浦海岸コンテスト!
●オープニング【0】
 雲1つない青空が広がる鈴浦海岸。その砂浜に作られた特設ステージに、1組の男女が立っていた。
「今年もやって参りました、ミス鈴浦海岸コンテストォォォォッ!!」
 アロハシャツに半ズボン姿という格好の、アサギテレビアナウンサー・唐沢敦はマイク片手に絶叫した。入社3年目、無駄に元気である。
「わたくし、今回の司会進行を務めさせていただきます、唐沢敦でございます!」
「同じく司会の、鏡巴です」
 唐沢とは対照的に、落ち着いた雰囲気の巴。バランスはまあいいのかもしれない。
「ただ今、2時間後に開始されるコンテストの参加者を受け付けております。まだ間に合いますので、奮ってご参加ください」
 巴がそう説明すると、唐沢がすかさず口を挟んだ。
「参加条件は2つ! 水着姿になれること、そして一芸・パフォーマンスを披露出来ることです! 優勝すれば、豪華賞品があなたの物です!」
 テレビカメラに向かってびしっと指を差す唐沢。ともあれ、条件2つをクリア出来れば、出場するのはそう難しくないようだ。
 さて……優勝でも狙ってみますか?

●参加者募集中【1A】
 ステージから少し離れた場所に立てられたテント、そこでコンテストの受付が行われていた。スタッフたちが慌ただしくテントを出入りしていた。
「コンテストの参加受付はこちらでーす! まだ間に合いますので、奮ってご参加くださーい!」
 スタッフの1人――銀枝つばきはそう大声で呼びかけた。真夏の太陽の下でのこと、つばきの格好は重装備であった。
 まあ水着の上からテレビ局のロゴ入りパーカーを着ているのは当然として、つばの大きな白い帽子、パレオ、サングラスを着用していた。もちろん日焼け止めも必須。中には白いビキニを着ているようだが、希にお腹辺りがちらりと見えなければ、それも分かりはしない。
 これに加え、冷たい飲み物の入った水筒や連絡用の無線機等も身に付けているのだから、たいしたものである。唐沢がそんなつばきを見て、『歩く人間重戦車』と評したが、当らずも遠からずといった所だろうか。
 そんなつばきの前に、大きめの籠を手にした背の高い細身の女性がすっと現れた。
「水着を着て……舞台に立つのね?」
 黒髪長髪の女性、巳主神冴那がつばきに尋ねる。その表情は無表情で、何を考えているのかは読めない。
「ええ。それと一芸・パフォーマンスが必須ですけれど」
「一芸……」
 冴那は少し思案したようだったが、すぐに小さく頷いた。
「参加されるんでしたら、こちらの書類に記入をお願いします」
 つばきが冴那に参加申込の書類を差し出す。冴那は近くにあったペンを取ると、すらすらと書き始めた。

●コンテスト開始【2A】
「いよいよ始まりました、ミス鈴浦海岸コンテストォォォォッ!!」
 唐沢の絶叫がその場に響き渡った。無駄に元気で、周囲の気温が1度上がったような気までしてくる。観客席からまばらな拍手が起こった。スタッフである銀枝つばきは、ぐるぐると手を回して観客の拍手を煽った。
「さあ、今年もこの季節がやってきましたね、鏡さん!」
「はい、この季節になりました。元々は江戸時代、浴衣美人を決める催しがあったということに由来するこのコンテスト、浴衣が水着に変わりましたが、今年はどなたがこの栄冠に輝くのでしょうか」
 ごく自然に、コンテストの由来を説明する巴。観客席で見ていた志神みかねは、なるほどと頷いた。
「ところで今年は何名の方が、このコンテストにご参加くださったんでしょうか。鏡さん、説明お願いします!」
「そうですね、今年は何と30名もの方が、ご参加くださいました。これは去年よりも5名多い数字ですね」
 30名、1人当たり5分で単純に見積もっても2時間半。長丁場なコンテストとなりそうだった。
 そして司会の2人は、ステージ脇のテントの中で座っている審査員たちの紹介を始めた。タレントや文化人、冬美原商工会の幹部が並ぶ中、今年から新設された一般審査員枠で宮小路皇騎が紹介された。
 そこにつばきが、箱を乗せた台をステージ上へと運んできた。何故だか知らないが、顔をアサギテレビのマスコットキャラクター・omちゃん(おむちゃん)のお面で隠していた。ちなみにこのomちゃん、白くて丸くて憎めない顔をしていたりするのだが、それはさておき。この箱には何が入っているというのだろうか。
「はいはいはい、今運ばれてきた箱ですが、この中には参加者の名前が書かれたボールが入っています! 今から鏡さんに引いてもらいまして、出てきたボールに書かれた名前の方に登場してもらおうという訳なんですねー! つまり登場順は直前まで分からないという、公正を期したシステムになっております!」
 どの辺が公正を期しているのか、ちと不可解な部分もあるが、試みはまあ納得出来る。さっそく巴が箱の中に手を入れて、ボールを引いた。

●変身ショー【3A】
「ええと……トップバッターは、白雪珠緒さんと小日向星弥さんのペアです」
 巴はにっこりと微笑んで、テレビカメラに名前が見えるようにボールを差し出した。
 巴に呼ばれステージ上に出てきたのは、オレンジビキニを身につけた豊満な女性と、あひるの浮き輪を抱えた金髪の女の子であった。
「はーい、白雪珠緒さんと小日向星弥さんです! いや〜、白雪さんはスタイルもよく、星弥ちゃんも可愛らしいですね〜」
 唐沢がそんなことを言いながら、2人にマイクを向けた。
「当然にゃ。だから賞品の猫缶は、この珠緒さまの物にゃっ!」
 びしっとテレビカメラを指差す珠緒。唐沢は巴の方を振り返った。気のせいか、助けを求めるような視線だった。巴は静かに首を横に振った。
「そ……それでは一芸披露の方、よろしくお願いします!」
 そう言ってステージ脇へと逃げ去る唐沢。珠緒はスタッフから白く大きな布を受け取ると、観客に向かってこう言い放った。
「変身のマジックするにゃ〜! まず布を被るのにゃ〜」
 自らの身体をすっぽりと布で覆ってしまう珠緒。そして合図を送り、星弥に布を引っ張ってもらうことにした。
「タマちゃん、ひっぱるにゃ〜」
 合図を送られ、星弥が布を一気に引っ張った。するとそこには珠緒の姿はなく、1匹の白猫の姿があった。観客が感嘆の声を上げる。が、これには続きがあった。
「アラ不思議。一瞬で白猫になったのにゃ〜」
 何とその白猫が喋ったのだ――珠緒の声で。一瞬にして、その場が静まり返った。
「また布被るのにゃ」
 場の様子に気付かず、白猫は自分で布を被った。観客がざわめき出す。
「アラまた不思議。元に戻ったのにゃ〜!!」
 布がぱっと取られ、今度は珠緒が姿を現した。つばきがぐるぐると手を回し、観客に拍手を煽る。それに応じて、観客から戸惑った様子の拍手が起こった。
「さあ、今度はせ〜にゃの一芸にゃ」
 満足げな表情の珠緒。自分が今、どんなとんでもないことをやってしまったのか、全く気付いていないようである。
「えと……なぁに?」
 小首を傾げる星弥。一芸と言われても、別にやることなんてない。と、珠緒がどこからともなくこよりを取り出して、星弥の鼻をこちょこちょとくすぐり出したのだ。
「ふ……いやん、タマちゃん、お鼻くすぐったらだめなのっ」
 身をよじる星弥。だが珠緒は止めなかった。それどころか、さらにくすぐる速さが増したような気がする。
「だめだったら、く、くしゃみ……」
 ついに耐え切れなくなったのか、星弥が激しくくしゃみをした。すると、ぽんと軽い音とともに、星弥の身体から飛び出した物があった。狐の耳と、狐の尻尾である。観客の、司会者の、審査員の目が点になった。
「むずむずするのぉ〜」
 ぐすぐすと鼻をいじる星弥。まだ耳と尻尾が飛び出したのには気付いていない様子である。隣で珠緒がはしゃいでいる。
「すごいのにゃ。変身にゃ〜!」
 それでようやく星弥も、耳と尻尾が飛び出してしまっていることに気が付いた。
「あっ、お耳出ちゃった……武彦におこられちゃうの……」
 頭を押さえる星弥。すでに遅い。
「こら、何やってるぅぅぅっ!」
 そこに走り込んできた青年、瀧川七星がステージ上へ飛び乗り、2人を有無を言わさず小脇に抱えて、ステージから退場していった。
「……つ、次の方に参りましょうか!」
「そ、そうですね」
 司会の2人は、何事もなくコンテストを続けようとしたのだった……。

●壷振り天音【4】
「続いての登場は、南宮寺天音さんです」
 テレビカメラに名前が見えるようにボールを差し出す巴。恐らくオンエアでは、ボールがアップで映し出されているのだろう。
「南宮寺さん、どうぞー!」
 唐沢に呼ばれ、天音がステージに姿を見せる。天音はゼブラ柄のべアトップ・ハイレグ・モノキニ水着に身を包んでいた。観客席から男性の感嘆の声が聞こえてくる。体型が発展途上なのが少々残念だが、これがもう少しインパクトがあれば、感嘆の声はさらに大きくなっていたことだろう。
「いやいやいや、男性陣盛り上がってきたようです。すみません、くるっと1回転してもらえますか?」
 天音は唐沢に言われるまま、くるっと1回転した。再び男性の感嘆の声が上がる。気付くと、ハンディカメラが近くへやってきていた。
「南宮寺さんは、以前私のラジオ番組の1コーナーに出演されましたよね」
 巴が思い出したように天音に言った。
(へえ、覚えとるんや)
 感心する天音。まあ、少し前の神薙南神社の月例祭でも顔を合わせていたからなのかもしれないが。
「南宮寺さん、一芸の方は何を?」
 唐沢が尋ねる。ちなみに唐沢も神薙北神社の月例祭で天音と顔を合わせているはずなのだが……無反応。
「一芸はこれや」
 そう言って天音が出したのは、サイコロ2個と時代劇の賭博場で出てくるサイコロ振りの壷だった。
「壷を振って、その出目を百発百中させてみせる!」
 その天音の言葉に、今度は年配の者たちから声が上がった。時代劇をよく見ている年代だ。
「そうですか、それではやってもらいましょう。どうぞ!」
「ちょい待ち! うちが壷を開ける訳にいかんから、代わりに開けてんか」
 振りを言いステージ脇に下がろうとする唐沢を、天音が呼び止めた。確かにそうだ、天音が開けるとインチキをしたと思われかねない。
 唐沢が居残ったのを確認すると、天音は慣れた手付きでサイコロを壷の中へ放り込んだ。そして数回壷を回すと、そのまま一気にステージ上に伏せた。
「さあ……こっからはもう、うちは触れてへんで」
 壷からすっと離れた天音に、唐沢がマイクを向ける。
「南宮寺さん、出目はどうでしょう」
「ピンゾロの丁、これで間違いない!」
 きっぱりと言い放つ天音。唐沢はそれを確かめるべく、壷に手をかけた。ハンディカメラがぐっと近付いてくる。
 壷を一気に開く唐沢。サイコロの出目は……1・1。
「おおっと、ピンゾロです! 大当たりです!」
 驚いたように実況する唐沢。得意げに手を振る天音に対し、観客席から拍手が起こった。
 それからサイコロを変える等して5回同じことを行ったが、いずれも天音は出目を適中させていた。

●すっぱりと【5A】
「8番目の登場は……はい、天薙撫子さんです」
 テレビカメラに名前が見えるようにボールを差し出す巴。この動作も、まだまだ先は長い。
「天薙さん、どうぞステージへ!」
 唐沢に呼ばれ、撫子がステージに現れた。その撫子、飾り気はないものの、純白のワンピースに身を包んでいた。惜しむらくは、その上に白のパーカーを羽織っていたことだろうか。観客の一部から、歓声と落胆の声がステレオで聞こえてきていた。
 撫子はステージ上でしばしきょろきょろとしていたが、一瞬審査員席の方を向いて制止した後に、観客席ににこやかな表情を向けた。
「いやあ、清楚なお嬢さまという感じがしますねえ。水着より和服が似合うのでは?」
 するどい突っ込みを入れる唐沢。撫子は小さくこくんと頷いた。
「ところで、一芸は何をなさるおつもりですか?」
「そうですね……得意な剣術の披露を少々」
「おおっと、剣術ですか! それでは腕前の方、見せていただきましょう!」
 ステージ脇へと下がる唐沢。入れ替わりにスタッフが準備を行う。大玉のすいかがステージ上に置かれ、つばきが撫子に木の棒を手渡した。
 撫子は木の棒をすっと上段で構えると、意識をすいかに集中させた。身動き1つしない撫子に視線が集まり、次第にその場が静まり返る。そして――短いかけ声とともに、撫子の手にした木の棒がすいか目掛けて振り降ろされた。木の棒はすいかの直前で止まったように見えた。
 その数秒後、すいかが2つに割れた。それも、まるで包丁で切ったかのようにすっぱりと。
 たちまち沸き起こる拍手。撫子は照れたような笑みを浮かべ、観客席に向かってぺこりと頭を下げた。
「ブラボー、サムライガール!!」
 ちなみに感動した外国人が、撫子に握手を求めようとしてステージに近付き、スタッフに制止されたというのは余談である。

●棄権【6A】
「18番目の登場は、山口晴美さんです」
 いつものように、巴がボールをテレビカメラに見えるよう差し出した。
「山口さん、どうぞー!」
 唐沢が勢いよく呼び出す。が、ステージに出て来ない。
「山口さん、どうぞー!」
 再び呼ぶが、それでも出て来ない。観客席がざわつき出した。
 ややあって、スタッフが司会の2人のそばへやってきて、何事か耳に入れた。
「はい、18番目に登場されるはずでした山口さんですが、体調を崩されたようで、急遽棄権となりました。残念ですね、唐沢さん」
 巴がすかさず観客に説明を行った。
「そうですね……何しろ暑いですからね。わたくしも、業務命令でなければすぐにでも家に帰って、冷たいビールを飲み干したい所ですよ」
 唐沢の受け答えに観客席から笑いが起きた。もっともそれは失笑に近い笑いであったのだが。

●聖徳太子【7A】
「それでは気を取り直して……19番目の登場は、シュライン・エマさんです」
 巴がボールをテレビカメラに見えるよう差し出した。どうやら18番はそのまま欠番にして、進行を進めてゆくようである。
「シュライン・エマさん、どうぞこちらへ!」
 唐沢に呼び出され、シュラインがステージ上に現れた。その姿はワンピースの白い水着、何ともシンプルである。
 が、シンプルな水着でも着る者が着れば引き立つのか、観客の一部から感嘆の声が上がっていた。背丈が高く、背筋もピンと伸びていたからかもしれない。
「シンプル・イズ・ベスト! いいですね、いいですね、基本ですねー!」
 内容のないことを言いながら、唐沢がシュラインにマイクを向けた。
「さて、一芸の方は何を?」
「んー……そうねぇ、何人か観客の人かもしくはスタッフの人数名に手伝ってもらって、1度に違った単語を言ってもらい、各々何を言ったか当てるってのはどうかしら?」
 少し思案して答えるシュライン。
「聞きましたか、皆さん! 現代の聖徳太子をやろうと言ってます! でしたらやってもらいましょう。あ、前列の方、よろしければステージの方へ!」
 唐沢が前方に座っていた観客に声をかけた。何人かが長椅子から立ち上がる。その中には志神みかねの姿もあった。結局ステージ上には5人の観客が上がることとなった。
「私たちも入りますか?」
 その巴の一言で、司会の2人も加わることになり、これで合わせて7人。
「じゃあ、タイミングを合わせて一斉に単語を言ってもらえる?」
 シュラインがそう7人に言う。その手にはいつの間にやらハリセンが握られていた。
 巴のかけ声に合わせ、7人が一斉に単語を叫んだ。
「ゴす電猫衣原し!」
 単語の長さは微妙に異なり、何となく分かる部分もあるが、混じり合ってしまうとやはり分からない。
「ん……」
 が、シュラインは少し思案した後に、みかね・巴……という順で1人1人指差して答え始めた。
「とうもろこし、冬美原、すいか、電話、猫缶、浴衣、そして……」
 そして最後唐沢の方に向き直り、おもむろにハリセンで唐沢の頭を叩いた。
「おうっ!?」
 唐突に叩かれ面食らう唐沢。そんな唐沢に対し、シュラインは不機嫌そうにつぶやいた。
「……ゴキブリ」
 シュラインにとって、名前を聞くだけでも不快な奴であった。
「すごぉい……」
 みかねが感嘆すると、他の者たちも口々に驚きの言葉を発した。シュラインの答えは、全て正解だったのである。
 観客席から拍手が起こると、シュラインは少し恥ずかしそうに頭を下げた。

●なんとなく、ユーモラス【8】
「いよいよラスト。トリはこの方、巳主神冴那さんです」
 これで最後となる、巴のボール引き。テレビカメラの前に差し出すのもこれで最後。すでに辺りは夕陽に染まり始めていた。
「お待たせしましたっ! 巳主神さんどうぞーっ!!」
 最後ということもあり、唐沢の叫びは一際大きくなっていた。ゆっくりと冴那がステージに姿を現す。その冴那、錦蛇柄のワンピースにハイビスカス柄のロングパレオを腰に巻いての登場だった。
 ワンピースとパレオの柄のアンバランスさが、冴那の醸し出していた色気にマッチしていたのか、最後にも関わらず観客席から男性の声が上がった。
「うおぉっと! さすがはラストに回っただけのことはありますねぇっ! どーですか、お客さんっ!!」
 観客を煽る唐沢。
「唐沢さん、たまたまですよ」
 巴が冷静に突っ込みを入れた。けれど唐沢の耳には入っていない様子だった。
「いやあ、色気ありますねえ。おいくつなんですか?」
 冴那にマイクを向ける唐沢。冴那が静かに答える。
「巳主神冴那……年齢は6……秘密です」
「唐沢さん、女性に年齢聞くのは失礼ですよ」
 やんわりと唐沢を注意する巴。
「ああ、これは失礼! それではさっそく一芸の方を」
「この子たちに芸をさせます……」
「はい?」
 冴那の答えに、唐沢が周囲を見回した。『この子たち』と言われても、それらしい動物はどこにも見当たらないのだが……。
 冴那が軽く手を叩いた。するとステージの袖から、何かが姿を現した。いち早くそれに気付いた観客が、悲鳴を上げる。
 姿を現したのは何と錦蛇であった。それだけではない、観客席からも砂の中から出てきた青大将たちがステージへと上がってきたのだ。パニックになる観客。一斉に客席が空く。
 しかし観客席前方、1人だけ動かない者が居た。みかねである。別に度胸がある訳ではない。単に恐怖で動けなくなってしまっただけである……いやはや。
 蛇たちがステージに揃ったのを確認すると、冴那は蛇たちに命令を出した。
「お回り!」
 すると蛇たちが一斉に回転を始める。
「跳ね!」
 今度は一斉に大きく跳ねる。蛇たちは意外とジャンプ力があった。
「お手!」
 今度はピクリとも動かない。
「お手……は出来ないわね」
 手がないのだから、さすがにこれは無理であった。
 それから冴那は、蛇たちに輪くぐりをさせたり、投げた物を取ってこさせたりした。この少し怖いがユーモラスな様に、一旦は逃げ出した観客たちも次第に戻ってきた。
 最後は一斉にお辞儀する蛇たち。
「お後がよろしいようで……」
 自らもお辞儀し、冴那は蛇たちを身に巻き付けて退場しようとした。が、ふと立ち止まって蛇たちの数を数え出した。
「あら……おかしいわね」
 ぼそっとつぶやく冴那。
(よかった……これで終わり)
 みかねはようやく蛇たちが退場するのを見て、だいぶぬるくなったスポーツドリンクのボトルへと手を伸ばした。しかし何だか感触がおかしい。まるでボトルの他に、何かあるような……。
 ふっとボトルに視線を向けるみかね。ボトルに巻き付いていた青大将と、ちょうど目が合った。
「きっ……きゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」
 みかねの悲鳴が響き渡る。と同時に、みかねの両隣の長椅子が突然壊れ、座っていた観客が砂の上に落ちてしまった。
「あら、そんな所に……悪い子ね」
 冴那はくすりと笑みを浮かべ、はぐれていた青大将を呼び戻した。
「え……えっと、これで無事全員の一芸・パフォーマンスが終了しました。審査員の結果が出るまで、しばらくお待ちください」
 ざわつく観客たちに対し、巴がすかさず言い放った。

●優勝者決定【10】
 30分後――ステージ上に、全ての参加者が揃っていた。29人も並ぶとさすがに狭い。
「お待たせしました! いよいよ、今年のミス鈴浦海岸が決定する瞬間がやってまいりました!!」
 ステージの端で叫ぶ唐沢。観客から拍手が起こり、つばきがさらに煽っていた。
「何でも上位5人が接戦だったそうですよ」
 白い封筒を手に巴が言った。この封筒の中に、結果が記された紙が入っているのだろう。
「それでは鏡さん、優勝者の発表の方、よろしくお願いいたします!」
 唐沢がそう言うと同時に、ドラムロールが流れ出した。いやが上にも盛り上がるというものだ。巴が封筒を開き、中から紙を取り出す。静まる観客。
 そして――ドラムロールが止まった。
「優勝は、南宮寺天音さん、そして天薙撫子さん。何と同時優勝です!」
 ファンファーレが鳴り響き、観客席から大きな拍手が起こった。
「やったーっ!!」
 両手を大きく上げ、身体全体で喜びを表現する天音。一方の撫子は、信じられないといった表情で周囲を見回していた。2人とも、唐沢に促されてステージ中央へと進む。
 優勝者を祝福するように拍手する、シュライン、冴那、星弥。珠緒は頬を膨らませていたが、それでも拍手だけはしていた。
「それでは優勝者への、ティアラとマントの授与です」
 冬美原商工会の幹部がステージ上に立ち、撫子にティアラを、天音にマントを授与した。後日不足分は贈られるということであった。
「なお参加者の皆様には、冬美原商工会より浴衣と、『ROSY−8』より商品券1万円分が各々贈られます」
 淡々と賞品説明を行う巴。つまり優勝は出来なくとも、何らかの賞品は貰えるという訳だ。出て損はなかった、と。
「観客の皆様も、約3時間もの長丁場、おつき合いありがとうございました! また来年、この場所でお会いいたしましょう! それではさようならー!」
「さようなら〜」
 大きく手を振ってコンテストを締める司会者2人。色々とあったコンテストも、無事に終了した――。

●花火も色々あるけれど【11B】
「コンテスト参加者の方! この後、花火大会を行いますので、時間のある方は続けてご参加ください! 撮影も引き続き行います!」
 コンテスト終了後、ステージの撤収作業が行われている最中、つばきの声が響き渡っていた。
「花火大会……」
 蛇たちを籠へと戻していた冴那が興味を抱いた。
(……そういえば、『ヘビ玉』という花火があるとか何とか)
 ふとそんなことを思い出す冴那。名前は耳にしたが、まだ実際に見たことはない。
「花火から蛇が出てくるのかしら……」
 興味を抱いた冴那は、そのまま花火大会にも参加することにした。果たして『ヘビ玉』が出たかどうか……それは不明である。

【ミス鈴浦海岸コンテスト! 了】


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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【 整理番号 / PC名(読み) 
                   / 性別 / 年齢 / 職業 】
【 0019 / 銀枝・つばき(ぎんえだ・つばき)
         / 女 / 10代〜30代? / ディレッタント 】
【 0086 / シュライン・エマ(しゅらいん・えま)
  / 女 / 26 / 翻訳家&幽霊作家+時々草間興信所でバイト 】
【 0177 / 瀧川・七星(たきがわ・なせ)
                   / 男 / 26 / 小説家 】
【 0234 / 白雪・珠緒(しらゆき・たまお)
 / 女 / 20代前半? / フリーアルバイター。時々野良(化け)猫 】
【 0249 / 志神・みかね(しがみ・みかね)
                    / 女 / 15 / 学生 】
【 0328 / 天薙・撫子(あまなぎ・なでしこ)
               / 女 / 18 / 大学生(巫女) 】
【 0375 / 小日向・星弥(こひなた・せいや)
              / 女 / 6、7? / 確信犯的迷子 】
【 0376 / 巳主神・冴那(みすがみ・さえな)
          / 女 / 妙齢? / ペットショップオーナー 】
【 0461 / 宮小路・皇騎(みやこうじ・こうき)
        / 男 / 20 / 大学生(財閥御曹司・陰陽師) 】
【 0576 / 南宮寺・天音(なんぐうじ・あまね)
           / 女 / 16 / ギャンブラー(高校生) 】


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■         ライター通信          ■
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・冬美原へようこそ。
・『東京怪談ウェブゲーム 界鏡線・冬美原』へのご参加ありがとうございます。本依頼の担当ライター、高原恵です。
・高原は原則としてPCを名で表記するようにしています。
・各タイトルの後ろには英数字がついていますが、数字は時間軸の流れを、英字が同時間帯別場面を意味します。ですので、1から始まっていなかったり、途中の数字が飛んでいる場合もあります。
・なお、本依頼の文章は(オープニングを除き)全32場面で構成されています。他の参加者の方の文章に目を通す機会がありましたら、本依頼の全体像がより見えてくるかもしれません。
・今回の参加者一覧は整理番号順で固定しています。
・お待たせいたしました、8月ももう終わりという時期に、8月冒頭のお話をお届けします。このタイムラグは、何とか埋めてゆきたいと思っています。
・さて、今回はミスコンがメインだった訳ですが、色々とこじつけようが出来たのではないかなと思っています。男性の出場者が居るかなとも思ったんですが、さすがに居なかったですね。参加資格で『女性限定』とは書かなかったのですけれど。
・気になる審査基準ですが、結構細かいです。水着姿、プレイング内容、一芸に対する観客の反応、審査員の傾向、その他色々と加味した結果で優勝者を決めました。最後はほぼ1、2点の勝負になってましたから……誰にも優勝の機会はあった訳です。
・今回のアンケートですが、サザンオールスターズの曲が一番多かったですね。サザン強し。中には『おお』と思うような、ロマンチックな回答もありましたね。
・あ、アサギテレビのマスコットキャラクターは、omちゃん(おむちゃん)と決まりました。
・巳主神冴那さん、7度目のご参加ありがとうございます。トリお疲れさまでした。さてさて、初水着はいかがなものだったのでしょうか。観客の反応はよかったようですけれど。採点表を見ますと、一芸に対する反応は高得点でしたよ。
・次のアイテムをお送りします。次回以降冬美原でプレイングをかけられる際、臨機応変にアイテムをご使用ください。
【12:冬美原商工会特製の浴衣】
・効果時間:着用時永続
・外見説明:花火やすいか、朝顔といった模様の描かれた浴衣
・詳細説明:基本の色は淡い水色の浴衣。シワになりにくい素材らしい。また、吸水性もよく早く乾く。周囲の夏らしさが少し上昇する。『ミス鈴浦海岸コンテスト』参加者への賞品。

・感想等ありましたら、お気軽にテラコン等よりお送りください。
・それでは、また別の依頼でお会いできることを願って。