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<東京怪談ウェブゲーム 界鏡線・冬美原>


ミス鈴浦海岸コンテスト!
●オープニング【0】
 雲1つない青空が広がる鈴浦海岸。その砂浜に作られた特設ステージに、1組の男女が立っていた。
「今年もやって参りました、ミス鈴浦海岸コンテストォォォォッ!!」
 アロハシャツに半ズボン姿という格好の、アサギテレビアナウンサー・唐沢敦はマイク片手に絶叫した。入社3年目、無駄に元気である。
「わたくし、今回の司会進行を務めさせていただきます、唐沢敦でございます!」
「同じく司会の、鏡巴です」
 唐沢とは対照的に、落ち着いた雰囲気の巴。バランスはまあいいのかもしれない。
「ただ今、2時間後に開始されるコンテストの参加者を受け付けております。まだ間に合いますので、奮ってご参加ください」
 巴がそう説明すると、唐沢がすかさず口を挟んだ。
「参加条件は2つ! 水着姿になれること、そして一芸・パフォーマンスを披露出来ることです! 優勝すれば、豪華賞品があなたの物です!」
 テレビカメラに向かってびしっと指を差す唐沢。ともあれ、条件2つをクリア出来れば、出場するのはそう難しくないようだ。
 さて……優勝でも狙ってみますか?

●海と猫缶とあひるさん【1E】
 鈴浦海岸――そこには夏になると地元住民だけでなく、他の地域からも人がやってくる訳で。
「夏にゃ! 海にゃ! あじの開きにゃー!」
「開きにゃ〜☆」
 水着姿の女性と女の子が、砂浜を走り出そうとした。と、そこに背後から2人の首に向かって手が伸びた。首をぐっとつかみ、2人が走り出すのを制止する。
「何で、そこであじの開きになるんだよ」
 アロハシャツを羽織った青年、瀧川七星が冷静に突っ込みを入れた。
「え? 海にはあじの開きが泳いでるって、化け猫の神様が夢まくらに立って教えてくれたのにゃ?」
 きょとんとした表情で女性、白雪珠緒が答えた。
「教えてくれたのにゃ〜☆」
 両手を大きく上げ女の子、小日向星弥が珠緒に同調した。その拍子に、すとんとあひるの形をした浮き輪が足元に落ちる。些細なことかもしれないが、ここに来るまでの間に、すっかり珠緒の口調が移ってしまっていた。
「あじは泳いでるかもしれないけど、開きは泳いでない」
 七星が苦笑しつつ言った。珠緒のこんな言動もいつものことだから、七星にしてみればまあ慣れたものである。
「しょうがないにゃ。だったら猫缶で勘弁してやるにゃ」
 肩を竦め、やれやれといった表情で言い放つ珠緒。
「タマ……そんな言い方、誰が教えた。それに猫缶はもっと泳いでないぞ」
「えっ、日本海で大量に……むがむが!」
 このままだと何だか危険なネタになってしまいそうだったので、七星が慌てて珠緒の口を塞いだ。
「いいお天気なのぉ〜」
 浮き輪を元の位置に戻しながら、星弥がにこぱーっと微笑んだ。雲1つないのだから、それはいいお天気である。
「ああ、快晴だ。やっぱり俺の日頃の行いの現れだな」
 胸を張って言う七星。そして2人の髪をくしゃっと撫でた。
「ともあれ、タマ、星弥、よかったなぁ〜。いい海水浴日和だ。ああ、2人とも日焼け止め、ちゃんとつけるんだぞ? 後で体中痛くなったら困るからな」
 その七星の言葉に、こくこく頷く珠緒と星弥。そして3人は適当な場所を見付けて、レジャーシートを砂浜の上に敷いた。
「さて……と、飲み物買ってくるから、ここから動くなよ」
 準備を終え、2人の方へくるりと向き直る七星。が、2人は七星の方など見てはいなかった。じゃれあっていたのである。
「あひるさんの浮き輪はねー、武彦が買ってくれたの〜。水着はねー、しゅらいんがえらんでくれたの〜。似合ってる?」
「似合ってるにゃ。ま、珠緒さまほどじゃないけどにゃ」
「あのな、2人とも俺の話聞いてるか? 絶対動くなよ、いいな?」
 七星は2人に念を押すと、飲み物を買うために海の家へと歩いていった。

●胸騒ぎ【1F】
 海の家へと向かう七星。次第に2人の姿が遠くなってゆく。それにつれ、七星の胸の鼓動が少しずつ早まってきた。
(……何故だ…何故、こんなに胸騒ぎがするんだろう……)
 何故だか七星は胸騒ぎを感じていた。そういえばイベントでもあるのか、何やらステージらしき物を見かけたが、それが原因という訳でもあるまい。
(おかしい、俺としたことが……)
 首を傾げつつ、七星は海の家へと歩き続けた。

●冷えてません【2B】
 海の家に飲み物を買いに行った七星だったが、そこで思いがけない目に遭うことになってしまった。
「すみませんねー。ビール、さっき冷やし始めたとこなんですよ」
 申し訳なさそうに言う海の家の主人。何と七星と珠緒用に買おうとしていた酒が、冷えた物がないというのだ。
 1度酒モードになった頭は、そう簡単には切り替わらない。七星は諦めて、他の海の家へ向かうことにした。
 と、遠くの方から拍手やら叫び声やらが聞こえてきた。七星が振り返ると、その音が聞こえてきた方角には、何やらステージが作られており、司会らしき2人がその上に立っていた。
「何だあれ?」
 思わず疑問を口にする七星。すると海の家の主人がそれに答えた。
「コンテストですよ、水着コンテスト。ここの毎年恒例行事ですよ」
「水着コンテスト?」
 七星の脳裏に、珠緒のオレンジビキニ姿が浮かんだ。
「豪華賞品も出るんですよ」
「え?」
 七星が怪訝な表情を浮かべた。胸の鼓動が、さらに激しくなった。
(……豪華賞品と聞いて、胸騒ぎが一段と強くなったぞ……)
 何となく、そこはかとなく、胸騒ぎの大きくなる七星。早く2人の元へ戻りたいが、飲み物を買わねば戻れはしない。
 七星はすぐに他の海の家へと向かった。

●呪われた七星【3B】
 飲み物を買いに出ていた七星だが、気付けばかなり離れた海の家まで歩くことになってしまった。
 それというのも、行く先々でビールを冷やし始めたばっかりで、なかなか酒を買うことが出来なかったのだ。
「呪われてるな……」
 七星は思わずぽつりとつぶやいた。これも日頃の行いという奴であろうか?
 それでもどうにか、きんきんに冷えたビールを購入し、七星は2人の待っている場所へと戻ろうとしていた。
 そしてもうすぐ2人の待つ場所という所で――七星の手からビールの缶がこぼれ落ちた。
「……あ……ああぁぁぁ……」
 信じられない物を見てしまったという七星の表情。その視線の先を追うと、ステージがあり、そこには珠緒と星弥の姿があったのだ。しかも珠緒、何をしていたのかはよく分からないが、白猫の姿に戻っていたのである。
「た、タマァァァァっっ! んなとこで何してるーっって、猫に戻るなぁぁぁっ!!」
 叫ぶ七星。しかしここからでは珠緒に届きはしない。それだけでは済まない。人間の姿になった珠緒はさらに、星弥の鼻をこよりでくすぐって、星弥の身体から狐の耳と尻尾を飛び出させたのだ。
「つか、星弥まで道連れにするなぁぁっ!!」
 七星はめまいを覚えたが、それをぐっと堪え、ステージに向かって駆け出していった。珠緒と星弥が七星によってステージから退場させられたのは、その直後のことである。

●録画です【3C】
「七星、何するにゃ! 優勝間違いなしだから黙って見ててにゃ! 猫缶がっぽりにゃ〜っ! やめるにゃ! 離すにゃ〜!」
 ステージ裏手、七星によって強制退場させられた珠緒は、じたばたと暴れていた。
「うるさい! 星弥まで道連れにして、そんなことを言うのはこの口か、この口かぁっ!!」
 むにむにと珠緒の口元を引っ張る七星。
「ふひゃ、ひたひひゃ〜! なへ、やへるひょひゃ〜!」
 珠緒は涙を浮かべ、ふるふると顔を左右に振った。傍らでは耳と尻尾を引っ込めた星弥がうなだれていた。
「武彦には、ゼッタイにナイショにしてほしいのぉ〜」
 小さな声でつぶやく星弥。それは当然のことである。そんなことを草間に伝えれば、管理不行届で七星の身も危ういのだから。
「どうかしましたか?」
 そこにスタッフの銀枝つばきが姿を見せた。突然の出来事だったので、様子を見に来たのだ。すると七星がずいとつばきに近付いた。
「生か?」
「はい?」
「生放送なのか?」
 再度尋ねる七星。ステージから2人を連れ出す一瞬、テレビカメラがあるのを目撃していた。もし生放送であれば……ぞっとする。
「いいえ、録画です」
 それを聞いて、七星がほうっと溜息を吐いた。安堵の溜息である。
「さっきのシーン……カットな」
 睨むように七星がつばきに言う。
「一応伝えておきますけれど……」
 しかし、そんなことをつばきに言われても仕方がない。権限がないのだから。
 最終的に七星は、コネをつかってどうにかするはめになったのであった。

●壷振り天音【4】
「続いての登場は、南宮寺天音さんです」
 テレビカメラに名前が見えるようにボールを差し出す巴。恐らくオンエアでは、ボールがアップで映し出されているのだろう。
「南宮寺さん、どうぞー!」
 唐沢に呼ばれ、天音がステージに姿を見せる。天音はゼブラ柄のべアトップ・ハイレグ・モノキニ水着に身を包んでいた。観客席から男性の感嘆の声が聞こえてくる。体型が発展途上なのが少々残念だが、これがもう少しインパクトがあれば、感嘆の声はさらに大きくなっていたことだろう。
「いやいやいや、男性陣盛り上がってきたようです。すみません、くるっと1回転してもらえますか?」
 天音は唐沢に言われるまま、くるっと1回転した。再び男性の感嘆の声が上がる。気付くと、ハンディカメラが近くへやってきていた。
「南宮寺さんは、以前私のラジオ番組の1コーナーに出演されましたよね」
 巴が思い出したように天音に言った。
(へえ、覚えとるんや)
 感心する天音。まあ、少し前の神薙南神社の月例祭でも顔を合わせていたからなのかもしれないが。
「南宮寺さん、一芸の方は何を?」
 唐沢が尋ねる。ちなみに唐沢も神薙北神社の月例祭で天音と顔を合わせているはずなのだが……無反応。
「一芸はこれや」
 そう言って天音が出したのは、サイコロ2個と時代劇の賭博場で出てくるサイコロ振りの壷だった。
「壷を振って、その出目を百発百中させてみせる!」
 その天音の言葉に、今度は年配の者たちから声が上がった。時代劇をよく見ている年代だ。
「そうですか、それではやってもらいましょう。どうぞ!」
「ちょい待ち! うちが壷を開ける訳にいかんから、代わりに開けてんか」
 振りを言いステージ脇に下がろうとする唐沢を、天音が呼び止めた。確かにそうだ、天音が開けるとインチキをしたと思われかねない。
 唐沢が居残ったのを確認すると、天音は慣れた手付きでサイコロを壷の中へ放り込んだ。そして数回壷を回すと、そのまま一気にステージ上に伏せた。
「さあ……こっからはもう、うちは触れてへんで」
 壷からすっと離れた天音に、唐沢がマイクを向ける。
「南宮寺さん、出目はどうでしょう」
「ピンゾロの丁、これで間違いない!」
 きっぱりと言い放つ天音。唐沢はそれを確かめるべく、壷に手をかけた。ハンディカメラがぐっと近付いてくる。
 壷を一気に開く唐沢。サイコロの出目は……1・1。
「おおっと、ピンゾロです! 大当たりです!」
 驚いたように実況する唐沢。得意げに手を振る天音に対し、観客席から拍手が起こった。
 それからサイコロを変える等して5回同じことを行ったが、いずれも天音は出目を適中させていた。

●すっぱりと【5A】
「8番目の登場は……はい、天薙撫子さんです」
 テレビカメラに名前が見えるようにボールを差し出す巴。この動作も、まだまだ先は長い。
「天薙さん、どうぞステージへ!」
 唐沢に呼ばれ、撫子がステージに現れた。その撫子、飾り気はないものの、純白のワンピースに身を包んでいた。惜しむらくは、その上に白のパーカーを羽織っていたことだろうか。観客の一部から、歓声と落胆の声がステレオで聞こえてきていた。
 撫子はステージ上でしばしきょろきょろとしていたが、一瞬審査員席の方を向いて制止した後に、観客席ににこやかな表情を向けた。
「いやあ、清楚なお嬢さまという感じがしますねえ。水着より和服が似合うのでは?」
 するどい突っ込みを入れる唐沢。撫子は小さくこくんと頷いた。
「ところで、一芸は何をなさるおつもりですか?」
「そうですね……得意な剣術の披露を少々」
「おおっと、剣術ですか! それでは腕前の方、見せていただきましょう!」
 ステージ脇へと下がる唐沢。入れ替わりにスタッフが準備を行う。大玉のすいかがステージ上に置かれ、つばきが撫子に木の棒を手渡した。
 撫子は木の棒をすっと上段で構えると、意識をすいかに集中させた。身動き1つしない撫子に視線が集まり、次第にその場が静まり返る。そして――短いかけ声とともに、撫子の手にした木の棒がすいか目掛けて振り降ろされた。木の棒はすいかの直前で止まったように見えた。
 その数秒後、すいかが2つに割れた。それも、まるで包丁で切ったかのようにすっぱりと。
 たちまち沸き起こる拍手。撫子は照れたような笑みを浮かべ、観客席に向かってぺこりと頭を下げた。
「ブラボー、サムライガール!!」
 ちなみに感動した外国人が、撫子に握手を求めようとしてステージに近付き、スタッフに制止されたというのは余談である。

●棄権【6A】
「18番目の登場は、山口晴美さんです」
 いつものように、巴がボールをテレビカメラに見えるよう差し出した。
「山口さん、どうぞー!」
 唐沢が勢いよく呼び出す。が、ステージに出て来ない。
「山口さん、どうぞー!」
 再び呼ぶが、それでも出て来ない。観客席がざわつき出した。
 ややあって、スタッフが司会の2人のそばへやってきて、何事か耳に入れた。
「はい、18番目に登場されるはずでした山口さんですが、体調を崩されたようで、急遽棄権となりました。残念ですね、唐沢さん」
 巴がすかさず観客に説明を行った。
「そうですね……何しろ暑いですからね。わたくしも、業務命令でなければすぐにでも家に帰って、冷たいビールを飲み干したい所ですよ」
 唐沢の受け答えに観客席から笑いが起きた。もっともそれは失笑に近い笑いであったのだが。

●聖徳太子【7A】
「それでは気を取り直して……19番目の登場は、シュライン・エマさんです」
 巴がボールをテレビカメラに見えるよう差し出した。どうやら18番はそのまま欠番にして、進行を進めてゆくようである。
「シュライン・エマさん、どうぞこちらへ!」
 唐沢に呼び出され、シュラインがステージ上に現れた。その姿はワンピースの白い水着、何ともシンプルである。
 が、シンプルな水着でも着る者が着れば引き立つのか、観客の一部から感嘆の声が上がっていた。背丈が高く、背筋もピンと伸びていたからかもしれない。
「シンプル・イズ・ベスト! いいですね、いいですね、基本ですねー!」
 内容のないことを言いながら、唐沢がシュラインにマイクを向けた。
「さて、一芸の方は何を?」
「んー……そうねぇ、何人か観客の人かもしくはスタッフの人数名に手伝ってもらって、1度に違った単語を言ってもらい、各々何を言ったか当てるってのはどうかしら?」
 少し思案して答えるシュライン。
「聞きましたか、皆さん! 現代の聖徳太子をやろうと言ってます! でしたらやってもらいましょう。あ、前列の方、よろしければステージの方へ!」
 唐沢が前方に座っていた観客に声をかけた。何人かが長椅子から立ち上がる。その中には志神みかねの姿もあった。結局ステージ上には5人の観客が上がることとなった。
「私たちも入りますか?」
 その巴の一言で、司会の2人も加わることになり、これで合わせて7人。
「じゃあ、タイミングを合わせて一斉に単語を言ってもらえる?」
 シュラインがそう7人に言う。その手にはいつの間にやらハリセンが握られていた。
 巴のかけ声に合わせ、7人が一斉に単語を叫んだ。
「ゴす電猫衣原し!」
 単語の長さは微妙に異なり、何となく分かる部分もあるが、混じり合ってしまうとやはり分からない。
「ん……」
 が、シュラインは少し思案した後に、みかね・巴……という順で1人1人指差して答え始めた。
「とうもろこし、冬美原、すいか、電話、猫缶、浴衣、そして……」
 そして最後唐沢の方に向き直り、おもむろにハリセンで唐沢の頭を叩いた。
「おうっ!?」
 唐突に叩かれ面食らう唐沢。そんな唐沢に対し、シュラインは不機嫌そうにつぶやいた。
「……ゴキブリ」
 シュラインにとって、名前を聞くだけでも不快な奴であった。
「すごぉい……」
 みかねが感嘆すると、他の者たちも口々に驚きの言葉を発した。シュラインの答えは、全て正解だったのである。
 観客席から拍手が起こると、シュラインは少し恥ずかしそうに頭を下げた。

●なんとなく、ユーモラス【8】
「いよいよラスト。トリはこの方、巳主神冴那さんです」
 これで最後となる、巴のボール引き。テレビカメラの前に差し出すのもこれで最後。すでに辺りは夕陽に染まり始めていた。
「お待たせしましたっ! 巳主神さんどうぞーっ!!」
 最後ということもあり、唐沢の叫びは一際大きくなっていた。ゆっくりと冴那がステージに姿を現す。その冴那、錦蛇柄のワンピースにハイビスカス柄のロングパレオを腰に巻いての登場だった。
 ワンピースとパレオの柄のアンバランスさが、冴那の醸し出していた色気にマッチしていたのか、最後にも関わらず観客席から男性の声が上がった。
「うおぉっと! さすがはラストに回っただけのことはありますねぇっ! どーですか、お客さんっ!!」
 観客を煽る唐沢。
「唐沢さん、たまたまですよ」
 巴が冷静に突っ込みを入れた。けれど唐沢の耳には入っていない様子だった。
「いやあ、色気ありますねえ。おいくつなんですか?」
 冴那にマイクを向ける唐沢。冴那が静かに答える。
「巳主神冴那……年齢は6……秘密です」
「唐沢さん、女性に年齢聞くのは失礼ですよ」
 やんわりと唐沢を注意する巴。
「ああ、これは失礼! それではさっそく一芸の方を」
「この子たちに芸をさせます……」
「はい?」
 冴那の答えに、唐沢が周囲を見回した。『この子たち』と言われても、それらしい動物はどこにも見当たらないのだが……。
 冴那が軽く手を叩いた。するとステージの袖から、何かが姿を現した。いち早くそれに気付いた観客が、悲鳴を上げる。
 姿を現したのは何と錦蛇であった。それだけではない、観客席からも砂の中から出てきた青大将たちがステージへと上がってきたのだ。パニックになる観客。一斉に客席が空く。
 しかし観客席前方、1人だけ動かない者が居た。みかねである。別に度胸がある訳ではない。単に恐怖で動けなくなってしまっただけである……いやはや。
 蛇たちがステージに揃ったのを確認すると、冴那は蛇たちに命令を出した。
「お回り!」
 すると蛇たちが一斉に回転を始める。
「跳ね!」
 今度は一斉に大きく跳ねる。蛇たちは意外とジャンプ力があった。
「お手!」
 今度はピクリとも動かない。
「お手……は出来ないわね」
 手がないのだから、さすがにこれは無理であった。
 それから冴那は、蛇たちに輪くぐりをさせたり、投げた物を取ってこさせたりした。この少し怖いがユーモラスな様に、一旦は逃げ出した観客たちも次第に戻ってきた。
 最後は一斉にお辞儀する蛇たち。
「お後がよろしいようで……」
 自らもお辞儀し、冴那は蛇たちを身に巻き付けて退場しようとした。が、ふと立ち止まって蛇たちの数を数え出した。
「あら……おかしいわね」
 ぼそっとつぶやく冴那。
(よかった……これで終わり)
 みかねはようやく蛇たちが退場するのを見て、だいぶぬるくなったスポーツドリンクのボトルへと手を伸ばした。しかし何だか感触がおかしい。まるでボトルの他に、何かあるような……。
 ふっとボトルに視線を向けるみかね。ボトルに巻き付いていた青大将と、ちょうど目が合った。
「きっ……きゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」
 みかねの悲鳴が響き渡る。と同時に、みかねの両隣の長椅子が突然壊れ、座っていた観客が砂の上に落ちてしまった。
「あら、そんな所に……悪い子ね」
 冴那はくすりと笑みを浮かべ、はぐれていた青大将を呼び戻した。
「え……えっと、これで無事全員の一芸・パフォーマンスが終了しました。審査員の結果が出るまで、しばらくお待ちください」
 ざわつく観客たちに対し、巴がすかさず言い放った。

●優勝者決定【10】
 30分後――ステージ上に、全ての参加者が揃っていた。29人も並ぶとさすがに狭い。
「お待たせしました! いよいよ、今年のミス鈴浦海岸が決定する瞬間がやってまいりました!!」
 ステージの端で叫ぶ唐沢。観客から拍手が起こり、つばきがさらに煽っていた。
「何でも上位5人が接戦だったそうですよ」
 白い封筒を手に巴が言った。この封筒の中に、結果が記された紙が入っているのだろう。
「それでは鏡さん、優勝者の発表の方、よろしくお願いいたします!」
 唐沢がそう言うと同時に、ドラムロールが流れ出した。いやが上にも盛り上がるというものだ。巴が封筒を開き、中から紙を取り出す。静まる観客。
 そして――ドラムロールが止まった。
「優勝は、南宮寺天音さん、そして天薙撫子さん。何と同時優勝です!」
 ファンファーレが鳴り響き、観客席から大きな拍手が起こった。
「やったーっ!!」
 両手を大きく上げ、身体全体で喜びを表現する天音。一方の撫子は、信じられないといった表情で周囲を見回していた。2人とも、唐沢に促されてステージ中央へと進む。
 優勝者を祝福するように拍手する、シュライン、冴那、星弥。珠緒は頬を膨らませていたが、それでも拍手だけはしていた。
「それでは優勝者への、ティアラとマントの授与です」
 冬美原商工会の幹部がステージ上に立ち、撫子にティアラを、天音にマントを授与した。後日不足分は贈られるということであった。
「なお参加者の皆様には、冬美原商工会より浴衣と、『ROSY−8』より商品券1万円分が各々贈られます」
 淡々と賞品説明を行う巴。つまり優勝は出来なくとも、何らかの賞品は貰えるという訳だ。出て損はなかった、と。
「観客の皆様も、約3時間もの長丁場、おつき合いありがとうございました! また来年、この場所でお会いいたしましょう! それではさようならー!」
「さようなら〜」
 大きく手を振ってコンテストを締める司会者2人。色々とあったコンテストも、無事に終了した――。

●日本猫缶化計画、その興亡【11A】
「コンテスト参加者の方! この後、花火大会を行いますので、時間のある方は続けてご参加ください! 撮影も引き続き行います!」
 コンテスト終了後、ステージの撤収作業が行われている最中、つばきの声が響き渡っていた。
「優勝は無理だったけど、浴衣と商品券貰えたのはよかったのかも」
 シュラインが疲れた様子の七星に言った。よく見ると、顔や身体に出来て間もない引っ掻き傷がいくつかあった。
「まあなあ……」
 浮かぬ顔の七星がちらっと珠緒を見る。珠緒は未だにふてくされていた。
「う〜、猫缶〜」
 珠緒が恨みがましい声を上げた。それを七星が窘める。
「いい加減、諦めろって」
「かじれない浴衣なんかいらないにゃ! 美味しくもない紙切れなんかいらないにゃ! あたしに猫缶をよこすにゃ、『日本猫缶化計画』発動にゃ〜っ!」
 じたばたと暴れる珠緒。そこにシュラインが口を挟んだ。
「商品券で、猫缶買ったら?」
 ぽんと手を叩く七星と珠緒。珠緒の『日本猫缶化計画』は、一瞬にして終了した――。
「しゅらいん〜」
 星弥がシュラインの腕を引っ張った。
「どうしたの?」
「……武彦には、お耳出ちゃったこと言わないでね? ゼッタイにナイショだからね?」
 しゅんとしている星弥。シュラインはくすっと微笑むと、小さく頷いた。
「ん、分かったから。そうだ……貰った商品券で、お菓子買って帰る?」
 シュラインがそう言うと、星弥がにこーっと微笑んだ。
「うんっ! せーや、おかしいっぱい食べたいにゃ〜☆」
「『にゃ』?」
 眉をひそめるシュライン。未だ星弥、珠緒の口調が移ったままであった……。

【ミス鈴浦海岸コンテスト! 了】


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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【 整理番号 / PC名(読み) 
                   / 性別 / 年齢 / 職業 】
【 0019 / 銀枝・つばき(ぎんえだ・つばき)
         / 女 / 10代〜30代? / ディレッタント 】
【 0086 / シュライン・エマ(しゅらいん・えま)
  / 女 / 26 / 翻訳家&幽霊作家+時々草間興信所でバイト 】
【 0177 / 瀧川・七星(たきがわ・なせ)
                   / 男 / 26 / 小説家 】
【 0234 / 白雪・珠緒(しらゆき・たまお)
 / 女 / 20代前半? / フリーアルバイター。時々野良(化け)猫 】
【 0249 / 志神・みかね(しがみ・みかね)
                    / 女 / 15 / 学生 】
【 0328 / 天薙・撫子(あまなぎ・なでしこ)
               / 女 / 18 / 大学生(巫女) 】
【 0375 / 小日向・星弥(こひなた・せいや)
              / 女 / 6、7? / 確信犯的迷子 】
【 0376 / 巳主神・冴那(みすがみ・さえな)
          / 女 / 妙齢? / ペットショップオーナー 】
【 0461 / 宮小路・皇騎(みやこうじ・こうき)
        / 男 / 20 / 大学生(財閥御曹司・陰陽師) 】
【 0576 / 南宮寺・天音(なんぐうじ・あまね)
           / 女 / 16 / ギャンブラー(高校生) 】


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■         ライター通信          ■
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・冬美原へようこそ。
・『東京怪談ウェブゲーム 界鏡線・冬美原』へのご参加ありがとうございます。本依頼の担当ライター、高原恵です。
・高原は原則としてPCを名で表記するようにしています。
・各タイトルの後ろには英数字がついていますが、数字は時間軸の流れを、英字が同時間帯別場面を意味します。ですので、1から始まっていなかったり、途中の数字が飛んでいる場合もあります。
・なお、本依頼の文章は(オープニングを除き)全32場面で構成されています。他の参加者の方の文章に目を通す機会がありましたら、本依頼の全体像がより見えてくるかもしれません。
・今回の参加者一覧は整理番号順で固定しています。
・お待たせいたしました、8月ももう終わりという時期に、8月冒頭のお話をお届けします。このタイムラグは、何とか埋めてゆきたいと思っています。
・さて、今回はミスコンがメインだった訳ですが、色々とこじつけようが出来たのではないかなと思っています。男性の出場者が居るかなとも思ったんですが、さすがに居なかったですね。参加資格で『女性限定』とは書かなかったのですけれど。
・気になる審査基準ですが、結構細かいです。水着姿、プレイング内容、一芸に対する観客の反応、審査員の傾向、その他色々と加味した結果で優勝者を決めました。最後はほぼ1、2点の勝負になってましたから……誰にも優勝の機会はあった訳です。
・今回のアンケートですが、サザンオールスターズの曲が一番多かったですね。サザン強し。中には『おお』と思うような、ロマンチックな回答もありましたね。
・あ、アサギテレビのマスコットキャラクターは、omちゃん(おむちゃん)と決まりました。
・瀧川七星さん、12度目のご参加ありがとうございます。2人のお守、お疲れさまでした。海水浴に来て、泳がずに疲れたというのはどうなのかなとも思いますが……大変でしたねえ。
・感想等ありましたら、お気軽にテラコン等よりお送りください。
・それでは、また別の依頼でお会いできることを願って。