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鍋をしよう PART3
●オープニング【0】
「鍋を……するぞ」
草間が厳し気な表情でそうつぶやいたのは、8月の残暑が特に厳しい日のことだった。
「……今度こそ、今度こそ絶対にまともな鍋を俺は食うぞ!! 誰にも邪魔はさせん!!」
力説する草間。まあ、草間の気持ちも分からないではない。過去2回、鍋パーティを開いたはいいが、普通に食べられたのはどちらも最初のうちだけ。2回とも、散々な状態で終わりを迎えていたのだ。
「今日の夕方から、鍋をするからな。参加条件は、前回までと同じく何かしら食材を持ってくることだ。いいか、くれぐれも普通に食べられる物を持ってこいよ。分かってるだろうな?」
皆に釘を刺している草間の目は、いつになく厳しかった。下手をすれば、仕事の時以上に。
「俺だって馬鹿じゃない……それなりに対処法を考えているからな」
どうやら……この人、鍋1つで本気みたいですよ。
はてさて、どんな方法を考えたのやら……じゃなくて、何を持ってこようかな?
●そんな趣味があったなんて【1C】
「おにぎりよし。胃薬よし。洗面器よし……」
シュライン・エマは台所に立ち、用意したあらゆる物に対し指差し確認を行っていた。終いには消火器にまで指差し確認をする始末で。
(こう色々と準備していても、やっぱり不安なのよねえ)
溜息を吐くシュライン。過去2回の鍋パーティの悪夢が脳裏に蘇る。それを身をもって知っているからこそ、準備に余念がなかった。被害を最小限に食い止めるために。
「後で機材や資料も別室に移しておかないとね」
そのシュラインのつぶやきは、知らない者が聞いたら『たかが鍋で、そこまでするか?』と言われることだろう。しかし、そこまでしなければならない事態が起こり得ないとは限らないのが、ここの鍋パーティなのだ。
シュラインが台所から出ると、小日向星弥が草間の膝の上にちょこんと座って、楽しそうに喋っている所だった。
「きょうは、お鍋なのぉ〜♪ いつもとちゅうでよくわかんなくなっちゃうけど、たのしいのぉ〜♪」
にこーっと微笑む星弥。無邪気な星弥の言葉だが、ここの鍋パーティの様子を端的に表していた。そして星弥はクマさんリュックの中をごそごそとまさぐった。取り出したのは何かの缶詰だった。
「あのね、『櫻月堂』であそんで武彦の所でお鍋ってゆったら、タマちゃんがね、コレをくれたの」
草間に缶詰を手渡す星弥。見ると真っ白なラベルに平仮名で『せーにゃのかんづめ』と書かれている。草間は試しに缶詰を振ってみた。カラカラと中から音が聞こえた。いったい何の缶詰なのだろうか。
「タマちゃんが持ってる中で、いちばんおいしいってゆってたよ?」
星弥が無邪気な笑顔を草間に向けた。すると草間は、その缶詰をリュックの中へと戻してこう言った。
「そうか。でもな、そんなに美味しいんなら、鍋なんかに入れず、大切に持っておくんだぞ。いいな?」
優しく諭すような草間の口調。星弥は一瞬きょとんとしたが、すぐににこーっと笑顔に戻った。
「うん、そだね〜。じゃあきょうは、武彦のゆーとおりにするね」
(やるわね、武彦さん……)
2人の会話を聞いていたシュラインは小さく頷いた。草間の言動が自然かつ、鮮やかだったからだ。
星弥に缶詰をあげた『タマちゃん』のことはシュラインもよく知っている。知っているからこそ、缶詰の中身も想像はついた。聞こえた音がその想像を裏付ける。
恐らくはその缶詰、中身は猫缶――カリカリミックスであろうということに。
しかし、シュラインもただ見ているばかりではいられない。用事があるのだった。
「っと……そうだ、武彦さんにどうしても言わなきゃならないことが」
シュラインは草間のそばへ歩み寄ると、神妙な表情で切り出した。その言葉に、草間が怪訝な表情を浮かべた。
「そりゃぁね、武彦さんにあんな趣味があっただなんて全然気付かなくて吃驚したわ……。まぁ人に迷惑掛かることでなし、武彦さんを好きなことには変りはないのだけど……」
「……何の話だ?」
一気に話すシュラインに対し、きょとんとする草間。何のことだか、よく分からない。
「ただね、星弥ちゃんにまで着せたらたたじゃおかないわよぅ……えぇ、えぇ、恨むだけじゃすまないから、ね?」
じろりと草間を睨むシュライン。その目は真剣であった。
「分からない……何かあったのか?」
とぼけているのか、本気で忘れているのか。草間は頬杖を突いて、しばし悩み続けた。
●儀式ですか?【2】
参加する人間が皆揃い、ようやく今回の鍋パーティが開かれることになった。
カーテンが閉められ部屋の明かりも消され、いくつものろうそくの炎が揺らめく室内。その様子とは対照的に、明るく陽気な女性アイドルの曲がエンドレスで流されていた。不思議な取り合わせ、しかし――。
「あの……何か聞こえるんですけど……」
怯えたように志神みかねが言った。歌声に紛れ、何か低い声が混じっているように聞こえたのだ。
「確かに、妙な気を感じるな。まさかとは思うが……」
何やら心当たりがあるのか、真名神慶悟が難しい表情でつぶやいた。
「聞こえてるわねえ」
シュライン・エマに至っては、すでに頭を抱えていた。シュラインの耳には、はっきりと、しっかりと聞こえていたのだ、その声が。
「『私にも食べさせて……』って聞こえてる……」
「Oh、思い出シマシタ! ジスソング、業界デ話題ダったソングですネー?」
手を叩き、プリンキア・アルフヘイムが言い放った。メイクアップアーティストであるプリンキア、芸能関係の話は仕事柄耳にする機会が多かったのだ。
「そうですよ。夏ということで雰囲気作りです☆」
明るく言い放ったのは、ちゃっかりこの場を仕切っていた七森沙耶だった。何と沙耶は、『幽霊の声が入ったCD』を持ってきたのだった。ちなみにお祓いが済んでいたのかどうか、それを聞いた者は居なかった。あえて聞こうとしなかったのかもしれないが。
「ふむ……これはパーティの名を借りた、何らかの儀式ですか?」
神父であるヴァラク・ファルカータが、興味深気に草間に尋ねた。草間が苦い顔で答える。
「そんな訳ないだろう」
「私もそう思いましたけれど」
しれっと霧島シエルが言った。まあ、2人がそう思った気持ちも分からないでもないけれど。
「だから違う……」
がっくりと肩を落とす草間。すると草間の膝の上に座っていた小日向星弥が草間の頭を撫でた。
「武彦ぉ〜。お鍋のまえに、そんなかおしちゃだめだよぉ〜」
「そうですよ、これから楽しいお鍋じゃないですかっ♪」
沙耶が草間を元気付けるように言った。もっとも沙耶の言う『鍋』は、その前にもう1文字つく鍋なのだが……そう、『闇』という文字が。
「くそっ……飲むぞ、今日は」
「はいはい、どうぞ好きなだけ飲んでください」
草間の言葉に苦笑しながら、バーテンダーの九尾桐伯が言った。桐伯は日本酒『菊姫』と『黒龍』を持ってきていたのだ。
その日本酒を、巳主神冴那が無言で見つめていた。時折ぺろりと唇を舐めながら。
開始前に少しごたごたはしたが――ともあれ、3度目となる鍋パーティは始まった。
●穏やかな時間【3A】
ここで席順を説明しておこう。まず一番奥の上座に草間。草間の右手側、近い方から順番にシュライン、冴那、みかね、沙耶、シエルの5人が。反対の左手側には、近い方から順番に桐伯、ヴァラク、プリンキア、慶悟の4人が各々座っていた。星弥はすっかり指定席となった草間の膝の上である。
いつものように、最初は穏やかに進んでゆく鍋パーティ。鍋に入っているのも無難な食材ばかりで、大きな混乱は起きていない。
(今のうちに食べておくぞ!)
慶悟はハイペースで、煮えた食材をお椀へと取っていた。そう、無難な食材ばかりのうちに出来る限り食べること、これも1つの陰陽の手札であった。つまり『今出来ることは、今行う』ということで――。
「生卵……誰かいる?」
飲み食いともにハイペースだった冴那が、ふと思い出したように言った。するとシエルが手を上げた。
「はい、いただけますか?」
「お椀……」
そう冴那に言われ、シエルは自らのお椀を冴那へと回してもらった。冴那はお椀が回ってくると、生卵を握ったまま手をその上に持っていった。そしておもむろに握りつぶした。
「!」
隣で見ていたみかねの身体が、びくっと沙耶の方へ動いた。冴那の手の中から、卵の中身がとろぉ……っと落ちてゆく。殻が少し入ってしまったのは、まあご愛嬌。
「回して……」
冴那は手についたままの黄身や白身をぺろっと舐めながら、みかねに言った。生卵の入ったお椀がシエルの方へと戻されてゆく。
「ダ、ダイナミックですね」
冷静を装おうとしたシエルだったが、あんな場面を目の前で見せられては、さすがに少し動揺したようだった。
「ミーの持っテキたオ野菜、ドンドン食べテクダさいネー☆」
プリンキアはそう言いながら、皆のお椀に春菊や韮、えのき茸やらを入れていった。いずれもプリンキアの持参した食材である。
「このえのき茸、歯ごたえがいいですね……これはなかなか」
「うむ、春菊も香りがいい」
「韮……美味しいです」
ヴァラク、慶悟、みかねが口々に感想を述べた。どうやら好評のようだった。
「せーやもおさけ飲みたいの〜」
日本酒の瓶へと手を伸ばす星弥。が、草間の無言の指示で、桐伯がすっと瓶を遠ざけた。
「あ〜ん、いじわる〜っ」
草間の膝の上でじたばた暴れる星弥。シュラインが、そんな星弥の興味を変えるようにこう言った。
「あ、ほら、美味しいお水があるから、それ飲みましょ。今、コップに注いであげるから」
シュラインはそばにあった無色透明のペットボトルに手を伸ばした。ヴァラクが持ってきた天然水である。コップへとその中身を注ぐと、シュラインは星弥に手渡した。
「はい、お水」
「しゅらいん、ありがと〜」
星弥はにこーっと微笑むと、コップの水をこくこくと飲み始めた。ヴァラクが星弥を見て、笑みを浮かべていた。
●星弥、異変あり【4A】
3分後――星弥の身に異変が起こった。
「えっ?」
「……おい?」
真っ先に異変に気付いたのは、シュラインと草間だった。
「わぁ……!」
みかねが驚きの声を上げた。他の者の視線も、一斉に星弥の方を向く。ただ1人、星弥だけが事態に気付いていなかった。
「ふに? どうしたの〜?」
きょとんとした表情の星弥。
「羽根が……」
シエルが星弥を指差し、ぼそっとつぶやいた。
「羽根〜?」
星弥はくるっと顔を後ろへ向けた。草間の胸元が見えるはずの場所に、見慣れぬ物が生えていていた。それは白く綺麗な羽根、まるで天使のような羽根であった。
「……せーや、お耳と尻尾あるけど、羽根はないよ?」
自分で見た物をまだ信じられないのか、星弥は目をぱちくりとさせながら言った。
「な……何よこれ」
驚くシュラインに対し、ヴァラクが冷静に説明を行った。
「ああ、説明を忘れていたんですが、あの水は別名『天使の雫』と言いまして。飲んだり浴びたりすると、約3分後に羽根が生えてくるんですよ。生えてくる時に痛みはありませんし綺麗な白い羽根なのでお気軽に天使体験が出来ます。どうです……体験してみませんか?」
笑みを浮かべるヴァラク。楽しんでいるのが、その笑みからも分かった。
「面白そう……」
沙耶がぼそっとつぶやく。
「ずっとこのままなのか?」
「いいえ。24時間後には自然消滅しますが」
草間の質問に、きっぱりとヴァラクは答えた。安堵する草間。1日で消えるのなら、問題はそう大きくない。
「わ〜いっ☆ せーや、天使さんになったのぉ〜☆ きれいなの、ふあふあなのぉ〜♪」
当事者である星弥は、草間の戸惑いはよそに、素直にこの状況を楽しんでいるようであった。
「皆……食べないの?」
この状況にあっても、冴那は黙々と鍋を食べ続けていた。いや、酒の方もだが。
「よく食べてられるな……」
呆れたような草間の言葉。それに対し、冴那はぎこちなく笑いながら答えた。
「蛇はどんなに大きい物でも、顎を外してまで飲み込むのよ……くすくす」
●撃沈【5】
「それじゃあ、今から本編に入りますね。ここからは、1回箸をつけた物は必ず食べてくださいね♪ ルールは以上です」
そろそろ頃合と見た沙耶が、明るく皆に言い放った。それを聞き、過去を知る参加者たちの間に緊張が走った。
「いっきまーす☆」
近くのろうそくを吹き消し、沙耶が何やら食材を入れようとした。沙耶の手元が暗くてよく分からないのだが、うっすらと貝みたいな物が見えていた。
と――そこに向かいから手が伸びてきて、沙耶の手をぐっと握った。慶悟の手だ。
沙耶が怪し気な食材を入れようというのを阻止するつもりなのか。大半の者はそう思っていた。が、慶悟の口から飛び出してきた言葉は、何とも意外な物だった。
「俺のために……鍋を作ってほしい」
耳を疑うような慶悟の言葉。どう考えても、告白のようにしか聞こえなかった。いきなりどうしたというのか? ほとんどの者が怪訝な表情を浮かべている中、プリンキアだけがにこにこと笑顔を浮かべていた。
しかし、告白されてしまった方の沙耶は、素直にその言葉を捉えた。そう、極めて素直にだ。
「分かりました! そんなに闇鍋が食べたいんですねっ♪ 特別にここにはたっぷりと入れます……蜂の子、青汁、エスカルゴ〜♪」
歌いながら、楽しそうに食材を入れてゆく沙耶。
「ああああああっ! 沙耶さん、入れないでっ! 入れちゃ嫌っ! お願い、やめて〜っ!!」
みかねが涙を浮かべながら叫び、心に思ったことを次々に口にしていった。その瞬間、桐伯の目がキラーンと光った。
「入れましたね。入れましたか……ふふ、ふふふ」
怪し気に笑う桐伯。そして草間の方へ向き直る。
「草間さん……サイコロを振ってください」
言われるまま、草間はサイコロを振った。出た目は……2。桐伯はクーラーボックスから何やら取り出し、コップへと注いだ。
「これ、飲んでもらえますか?」
コップを沙耶へと手渡す桐伯。コップには液体が指1本分程度注がれていた。
「何ですか、これ?」
「飲んでから教えますよ」
沙耶の問いかけに、妖しく微笑みながら桐伯が言った。仕方なく沙耶は、鼻をつまみながら一気に飲み干した。
数秒後――沙耶はテーブルへと撃沈していた。慶悟が驚いたように叫んだ。
「お、おいっ! 何飲ませたんだっ!!」
「スピリタス……度数96のウォッカです」
きっぱりと言い放つ桐伯。闇鍋の原因となった者に飲ませるための珍しい――危険な――酒。これが桐伯が密かに準備していた食材、言い換えれば罰ゲームであった。
「度数96だと火がつくよな」
ぼそりと草間がつぶやく。そんな酒だ、未成年の沙耶が撃沈するのは当然のことであった。
「おい、しっかりしろ! 大丈夫か!?」
慶悟は沙耶をテーブルの外へと運び出して、介抱を行っていた。
「ウフフ……美シイ絵ですネー☆」
そんな2人を見て、くすくす笑うプリンキア。しかし気付かなかった。シエルの視線が、プリンキアに向いていたことに――。
●草間の変【6A】
「あのっ! プリンキアさんっ!」
唐突にシエルが叫んだ。プリンキアが目をぱちくりとさせながら、返事をする。
「ハイ? 何でショ?」
「その……『お姉さま』と呼んでもいいですか?」
さすがにこれにはプリンキアも面食らった。
「Ah……uh……ソレハー……」
「もしダメなら……せめて私の気持ちとして、持ってきた飲み物を飲んではいただけませんかっ?」
目を潤ませながら、シエルが懇願した。
「ソレでしタラ……」
それを聞いて、シエルはすぐに立ち上がって台所へ向かった。戻ってきた時には、赤やら青やらの液体が入った瓶を何本も抱えていた。ラベルにはいずれも『ギャラクシー』と書かれていた。
「どうぞっ!」
全ての瓶をプリンキアに手渡すシエル。しかし1人でそんなに飲める訳がない。
「1本いただきましょうか」
興味を抱いたヴァラクが瓶を1本手に取った。同じく興味を抱いたらしい草間と桐伯も瓶を回してもらった。
蓋を開け、一斉に飲み出す4人。それを横目に、シュラインが心配げにシエルに尋ねた。
「ね、これってどんな味なの?」
「私は飲んだことありませんけど、何でも銀河が見えるとラベルには……」
そこまで話すと、シエルはプリンキアの様子を窺った。
「Oh……イッツ、クレイジィテイスト……テリブルネ……」
顔を押さえ、苦し気につぶやくプリンキア。ヴァラクも桐伯も、そして草間も、苦悶の表情を浮かべていた。4人とも、今まさに銀河が見えているのだろう、きっと。
「そうか……そうまでして俺の鍋を邪魔する気か……そうか……ふふ……ふふふ……」
草間が何事かつぶやきながら、妙な笑い声を出し始めた。
「そっちがその気なら、俺にも考えはあると言ったはずだ!!」
とうとう切れてしまったのだろう。草間はおもむろにテーブルの下からカレールーを取り出すと、細かく砕いて次々に鍋の中へと放り込み始めた。後に『草間の変』と呼ぶことになる行動であった。
「ダメだわ、これじゃ……」
シュラインは目元を手で押さえたまま、大きく溜息を吐いた。
●またしても、またしても【7】
混乱の最中、星弥は不意に思い出したように草間の膝を降りた。そしてクマさんリュックの中からリボンの結ばれた口紅を取り出し、シュラインに持っていった。
「しゅらいんにプレゼントなのぉ〜」
にこっと微笑み、シュラインに手渡す星弥。
「口紅? くれるの?」
シュラインが確かめるように言うと、星弥は小さくこくんと頷いた。
「この間バニライムのおね〜ちゃんにあった時、ひろったの。せーやから、しゅらいんにぷれぜんとなの、あけてみて〜♪」
星弥は先日のとある事件で拾った口紅を、シュラインへプレゼントしようとしていた。しかしそんな事情など知らないシュラインは、その口紅がどんな物かも知らずに素直に喜んでいた。……いや、知らないのは星弥も同じか。
「ありがと、嬉しいわ」
プレゼントというのは、いつ貰っても嬉しい物だ。今のように混乱している最中であっても、いや、混乱している最中だからこそ余計に嬉しく感じるのかもしれない。
「……どんな色かしら?」
どきどきしながらリボンを解き、シュラインが口紅を開け――たちまち室内に白い煙が充満した。
「何なのこれっ!?」
「けむいのぉ〜!」
真っ先に、シュラインと星弥の悲鳴が上がった。実はこの口紅……超小型の発煙筒だったのだ。開けた途端に煙が充満する仕掛けの。
「やっぱりこれ、ごほっ! 儀式だったんですかっ! ごほ、ごほっ!!」
ヴァラクの声が咳き混じりに聞こえてきた。
「どうしていつもこうなるの〜! もうこんな生活いやぁぁぁっ!!」
みかねの悲痛な叫び声が室内に響き、立て続けに瓶やお椀が割れる音が聞こえてきた。
大混乱に陥る一同。まるでドリフのコントのオチかと言いたくなるような状況であった。
しかしただ1人、煙の充満する室内をいち早く脱出して台所へ逃げていた者が居た。冴那である。
冴那は冷蔵庫を開けて、食べられそうな食材を見繕うことにした。
「食べられる物は食べられる時に……自然界の掟だものね……くすくす」
たくましい、ああ何ともたくましい――。
【鍋をしよう PART3 了】
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■ 登場人物(この物語に登場した人物の一覧) ■
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【 整理番号 / PC名(読み)
/ 性別 / 年齢 / 職業 】
【 0016 / ヴァラク・ファルカータ(う゛ぁらく・ふぁるかーた)
/ 男 / 25 / 神父 】
【 0086 / シュライン・エマ(しゅらいん・えま)
/ 女 / 26 / 翻訳家&幽霊作家+時々草間興信所でバイト 】
【 0230 / 七森・沙耶(ななもり・さや)
/ 女 / 17 / 高校生 】
【 0249 / 志神・みかね(しがみ・みかね)
/ 女 / 15 / 学生 】
【 0332 / 九尾・桐伯(きゅうび・とうはく)
/ 男 / 27 / バーテンダー 】
【 0375 / 小日向・星弥(こひなた・せいや)
/ 女 / 6、7? / 確信犯的迷子 】
【 0376 / 巳主神・冴那(みすがみ・さえな)
/ 女 / 妙齢? / ペットショップオーナー 】
【 0389 / 真名神・慶悟(まながみ・けいご)
/ 男 / 20 / 陰陽師 】
【 0818 / プリンキア・アルフヘイム(ぷりんきあ・あるふへいむ)
/ 女 / 35 / メイクアップアーティスト 】
【 0937 / 霧島・シエル(きりしま・しえる)
/ 女 / 21 / 派遣社員 】
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■ ライター通信 ■
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・『東京怪談ウェブゲーム』へのご参加ありがとうございます。本依頼の担当ライター、高原恵です。
・高原は原則としてPCを名で表記するようにしています。
・各タイトルの後ろには英数字がついていますが、数字は時間軸の流れを、英字が同時間帯別場面を意味します。ですので、1から始まっていなかったり、途中の数字が飛んでいる場合もあります。
・なお、本依頼の文章は(オープニングを除き)全16場面で構成されています。他の参加者の方の文章に目を通す機会がありましたら、本依頼の全体像がより見えてくるかもしれません。
・今回の参加者一覧は整理番号順で固定しています。
・お待たせしました、3度目となる鍋パーティのお話をお届けします。今回の皆さんのプレイング、高原は苦笑しつつ読ませていただきました。はじけてますね、皆さん。いや、読んでいて楽しかったんですけどね。その分、こちらもはじけさせていただきましたし。
・今回心身に何らかの変化が起きていましても、1日もすれば心身ともに元へと戻っていますので、どうぞご心配なく。
・本文中、やや分かりにくい内容も出ていたかと思いますが、その辺りは『君と、いつまでも』『密かに守れ』といった草間興信所の過去の依頼に目を通していただけると分かるかもしれません。
・それはそうと本文中にも出てました『ギャラクシー』。高原は去年某イベントで飲んだことがあるんですが……普通に飲めましたよ。周囲には不思議がられましたが。
・4度目の鍋パーティは、食べ物が美味しくなる時期がいいかなあ……などと考えています。今度こそ普通に鍋パーティを終わらせてみせましょうとも、ええ。
・シュライン・エマさん、27度目のご参加ありがとうございます。様々なネタ満載といったプレイングでしたね。口紅は、今回の大オチと相成りました。ふと思ったんですが、雑用に追われて鍋はそう多く食べてないんじゃないかなあ……と。
・感想等ありましたら、お気軽にテラコン等よりお送りください。
・それでは、また別の依頼でお会いできることを願って。
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