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<東京怪談ウェブゲーム ゴーストネットOFF>


夏の思い出


◆オープニング
 雫がその投稿を見たのは、八月も半ばを過ぎた頃であった。
 毎日たくさんの投稿が寄せられる、掲示板のログの一つである。
 ともすれば、大量の書き込みの中に埋もれてしまいそうなログではあったが、日頃のこの暑さが雫の目を引いたのかもしれない。
「へぇ・・・・」
 その書き込みを追う雫の目がキラリと光った。
 これはなにか面白そうなことが起きる予感が!
「よっしゃぁ☆これは行ってみるっきゃない!」
 キーボードを叩く手も軽く、レスを打ち込む。
「夏だし、河原で花火大会とかもいいよね〜♪」

 その投稿とは、以下のようなものであった。

[269] Subject:行方不明者多発? name:S 2002/8/X 23:33
 みなさん、東京を流れる○◇渓谷ってご存知ですか?そこで最近、行方不明者が多発しているそうです。川で遊んでいると、いつのまにかいなくなっちゃうんだって。地元の人は、まさか川で亡くなった人の幽霊の祟り!?と噂しているそうです。本当のところはどうなのかなぁ・・・・。


◆いざ集合
「あつーい」
 雫は持参の団扇でパタパタ扇ぎながら嘆いた。
 急いで手を動かさなければ、暑い熱気が顔を打つ。
 例年、そろそろ涼しくなる時期であったが、なぜか今年に限っては夏まっさかりの暑さが続いていた。
 この暑さのせいか、道行く人もまばらで、狭い駅の構内には人一人いない。
 スイカの自動改札機がかろうじて二つ入るぐらいの狭い改札に、小さな駅窓口。
 そこから顔を出しているはずの駅員の姿は無い。
 都会の大きな駅を見慣れた者ならば、ここは無人駅かと驚くほどの静けさである。
「それにしてもみんな遅いなぁ〜・・・」
 雫は時刻表と時計を交互に睨みつけ呟く。
 やがて奥の方から駅員が出て来たかと思うと、近くの踏み切りがカンカン鳴り始めた。
 電車の到着時間なのだろう。
 騒々しい音と共に、オレンジの電車が滑り込んで来る。
「あ、きたきた」
 雫は、下車した客の中に見知った顔を見つけて声を上げた。
「こっちこっち〜、こっちだよ」
 雫が手を振ると、数人のグループがそれに反応し、集まって来る。
 その中で最も目立ったのは、すらりとした長身に白いブラウス、そしてジーズンというラフな服装の女性であった。
 年の頃は、二〇歳を過ぎたほどであろうか。
 抜けるような白い肌に、ストレートの黒髪。
 切れ長の目元はあくまで涼しげで、エスニック風の顔立ちがどこか神秘的な雰囲気を漂わせる。
 端整な顔立ちに加え、どこか堂の入った身のこなしが彼女に多くの視線を集めさせていた。
「はじめまして。美貴神マリヱです」
 にっこり笑うと、美女はそう名乗ったのだった。
「えーっと、これで全員かな?」
 集まった人々の人数を数えながら雫が確認する。
 一人、ニ人、三人・・・・。
「えっと」
 人数の確認をしようとしたその時である。
「すまん。すまん」
 改札とは反対の駅の入り口から、豪快な声と共に現れたのは、袈裟を纏った壮年の男であった。
 綺麗に丸めた頭にはいく筋もの汗が流れ、外の暑さを物語っている。
 埃にまみれた袈裟は、男をどこか怪しげに見せていたが、堂々とした態度と、けして卑しさを感じさせないその雰囲気がそれらを打ち消していた。
 綺麗に切りそろえた口髭と顎鬚を撫でながら、豪快に笑い飛ばすその人を、一同は半ば唖然と見詰める。
「あ、浄業院さん、こっちこっち〜〜」
「おお、すまんな。儂は浄業院是戒という。遅れてすまなんだ」
 どこか憎めない、あっけらかんとした口調で、是戒は言った。
「じゃ、出発〜☆」
 こうして一同はくだんの川へと出発する事になったのだった。

「ねぇ・・・あの坊さん。もしかして、歩いてきたのかな???」
「さぁ・・・?汗」


◆清き水の川
「ほほぉ・・・お山を思い出すのぉ」
 土手の上に立って川を眺めながら是戒は感心したように呟いた。
 駅から歩いて一〇分ほどであろうか。
 急な坂を降りて、梅の木に囲まれた道を抜けると、ほどなくして、ザーっと水が流れる音が耳に届いてきた。
 土手に上がるとその全貌が望める。
 まず見えてきたのは緑なす木々。
 そう広くは無い川幅に流れる水は穏やかで、関を落ちる水が大きな音を立てていた。
 時折キラリと光るのは川を行く鮎だろう。
「綺麗な水。まだ東京にこんな所が残っていたのね」
 木々に囲まれ影となった土手を歩きながらマリヱが嬉しそうに言う。
「ほんと、ここが東京だなんて思えない」
 東京とは言ってもかなりの端ではあるが、東京には変わりない。
 雫も同感であった。
 一同は、石の階段を下りると河原に立った。
 川には釣人が数人いるぐらいで、あまり人の気配はない。
 おそらく観光客が食べた跡から生えたのであろう。
 ところどころ石の間から、小さいながらも実を成らせた西瓜の蔦が伸びている。
「行方不明者・・・・ね。遊んでいるといつのまにか居なくなるっていう事だけど・・・原因はなにかしら?」
 周りを見渡しながらマリヱが呟いた。
「ふむ・・・。なんぞ水妖の仕業か。それとも成仏できぬ霊の仕業か・・・なんにしても、もうすこし情報が欲しいところよな」
 情報なしには迂闊に判断できない。
「じゃ、手分けして、聞き込みしようか」
「そうね」
「うん」
 頷きあった一同は、集合時間を決めて、その場を別れる事となった。


◆聞き込み調査
 是戒は先ほど来た道を少し戻り、坂の上まで来ると、すぐ隣に掛かる橋の中央から川を見下ろした。
 遥か下に見える川に特に変わったところはない。
 一体、ここで何が起こっているのか・・・・?
 もしこの事件が、哀れな魂が引き起こした事ならば、救ってやらねばなるまい。
 是戒は顎鬚を撫でながら小さく呟いた。
 是戒が高野山を出てから二〇年あまりが経とうとしている。
 いくら己が高野山において大阿闍梨という位にあろうとも、巷間に身を置いてこそ世を救えるものだと思い寺院を飛び出したが、事件が絶える事はない。
「世も末よ」
 是戒は呟いた時、橋の向こうから来る人に気付いた。
「おう。もし、そこなお人」
「はい?」
 まだ歳若い主婦と思われる女性であった。
「失礼ながら、二、三お聞きしたい事があるのだが」
「なんでしょう?」
 突然声を掛けて来た僧侶に、主婦は訝しげに振り返った。
「最近このあたりで、不審な事柄はあるまいか?」
 是戒の言葉に、主婦は戸惑いながらもうーんと唸る。
「そうねぇ・・・川で何人が行方不明になっているらしいけど、捜索届が出て、警察も捜してるらしいわね。この付近に犯罪者が紛れ込んでいる可能性があるかもしれないって、この前警察が注意しに来たわ」
「犯罪者・・・ふむ。過去に何かそういった事件があったのだろうか?」
「犯罪はなかったけど、やっぱり川だし、夏になると観光客で一杯になるから・・・溺れて亡くなった人はいたみたいね。もう何年も前のことよ。でもそれから今まで、事件らしい事件なんて起きた事なかったのに、今年になっていきなりこんな事件が起きて。世の中物騒だわ」
 困ったわ、と呟く主婦。
「なんと、亡くなった人がおるのか」
 やはり、成仏できぬ霊の仕業か?
「それぐらいかしらねぇ・・・・・」
 それ以上の詳しい事は判らないと言う。
 是戒は、礼を言って主婦と別れた。


◆花火大会、そして
 一同が再び集まった時、すでに空は暗くなり初めていた。
 河原では、たっての雫の希望により、暗くなったのを幸いに花火が行われていた。
「わ〜い。花火だ〜〜♪」
 ご機嫌であった。
 負けず劣らずはしゃいでいるのはマリヱで、なぜか打ち上げ花火や、噴射型の派手なものばかりを選んで点火している。
「次はこれがいいかしら」
 マリヱが花火に点火し、すばやく離れた。
 勢い良く噴出した炎は、夜空に美しい軌跡を描いて消えていく。
「わ〜綺麗〜☆」
 そんな雫の横で、是戒が線香花火に火を付けている。
 みんなそれぞれ、思い思いに花火を楽しんでいた。
「えーっと、じゃ、そろそろ聞き込みの成果の報告でもしようか」
 雫の言葉で、一同集まる事となった。

 結果、判ったのは以下のとおりである。

・過去に川で亡くなった人がいる。
・行方不明者が多発するなどの事件は、今年八月始めぐらいから起き始めた。
・いずれも河原で遊んでいる時に起きている(川から上がる所は確認できている)
・警察も捜しているが、まだ行方不明者は発見されていない。

「うーん。そんなにめぼしい情報はない・・・なぁ」
「そうね・・・・」
 一同、うーんと唸った。
「ただ、川の向こう岸はかなり深くで、大人でも足が付かないぐらい深いそうです。飛び込みをして遊ぶ人もいるみたいで」
 同行していた男の子が指差したのは川の反対側で、岩肌が露出している辺りであった。
 確かに昼間見た時には、その辺りの水の色は深い緑で底は見えなかった。
 岩肌には「飛び込み危険」という看板が立っており、実際に飛び込みをする人も多いのだろう。
 いつ事故が起きても不思議ではない。
「ってことは、やっぱり、霊的存在がなんらかの作用をしているのかしら・・・?」
「でもそれは変じゃないのかなぁ・・・」
 マリヱの横にいる女の子が言った。
「だって、川で実際に事故があったのは数年前でしょ?なぜ今年に限ってこんな事件が?」
「ふむ、それも一理あるやもしれん。なにしろ、ここいら一体には、特に妖しい気配は感じられん」
 霊的存在の仕業ではないのやもしれん。
 是戒が言う。
 それについてはマリヱも同感であった。
 今現在においても、虫からの知らせは無い。
 何か危険があるなら、判るはずなのだ。
「じゃ、これは、霊的存在の仕業ではなく、犯罪者の・・・?」
 一同が顔を見合わせた時だった。
「む!」
 是戒が何かに反応したように周囲へ目を走らせた。
 同時にマリヱも虫からの知らせを受け取っていた。
 非常に弱いが、何かに虫が反応している。
 二人のただならぬ様子に、一同は何事かと顔を見合わせた。
「そこにおるのは何者か?」
 是戒が声をかけたのは、花火の煙が色濃く残る一角であった。
 今日集まっているメンバーはすでにここに集まっており、それ以外の人の気配は河原には無い。
 一体何事か・・・?
 是戒は数珠を手に印を結ぶと、キッと煙の中を見据えた。
「観念して出て来るがいい」
 鍛えられたはりのある声で告げると、是戒は油断なく構えた。
 マリヱも何事かあってはならぬと、神経を集中する。
 虫による瞬発力増強により、いかなる対処も可能のはずである。
 やがて生ぬるい風が吹くと、ゆっくりと煙が動いた。
 それにともない人型がぼんやりと現れる。
 やがて現れたのは、首元に鈴のついたチョーカーをつけた小さな男の子であった。
 悪意は感じられない。
「男の子?」
 なぜ?
 マリヱは呆然とそれを見詰めた。
「ほほう。どれ、怒らないからこちらに来て見なさい」
 是戒が手招きをすると、男の子は大人しく従った。
「このところの事件はお前の仕業だな?」
 是戒の前までくると、こくんと正直に頷く。
「なぜこんな事をした?人に害をなせば、新たな業を生み、お主のためにならん」
「だって・・・」
 男の子はうつむいて、そのまま黙り込んでしまった。
「何か理由があるのかしら?何も怖くないから、話してみて?」
 マリヱが出来るだけ優しく言う。
 こんな小さな男の子なのだ。
 出来る事なら、力になってあげたい。
「だって・・・だって・・・僕、一人なの」
 寂しいんだもん、という男の子。
「遊び相手がほしかったんだ?」
 マリヱが言うと、こくんと頷いた。
「じゃぁ・・・行方不明になった人たちは今どこに・・・?」
「いるよ。今は眠ってるけど」
 ふむ、と是戒が顎鬚を撫でる。
「だが霊的存在であるお主と、その者達では生きている場所が違う。その者達がそこにおるのは、その者達とって良い事ではない。判るな?」
「うん・・・」
 しょんぼりと男の子は答えた。
 判ってるけど・・・判ってるけど・・・でも、寂しかったの。
 そんな男の子の意志が伝わってくる。
「じゃ、こうしましょう!!」
 マリヱが、勢い良く言った。
「一緒に花火をやりましょう?」
 そうれば、寂しくないでしょう?
 マリヱは、ね、っと片目をつぶってみせる。
 男の子の顔が一瞬にして輝いた。
「ほんと?ほんとに?僕も仲間に入れてくれるの??」
「もちろんよ」
 是戒がにやりと笑って、男の子の頭を撫でた。
「じゃ、花火大会再開〜☆」
 というわけで、再び花火が再開される事となった。


◆夏の思い出
 花火を再開して、どれほど経っただろうか。
「あぁ!!しまった!そろそろ終電が・・・!!」
 雫が叫んだ。
 夜はすでにどっぷりと更けていた。
「そういえば、あの男の子は?」
 ふと見渡すと、いつのまにか姿を消している。
「ほんとだ!どこにいったんだろう!?」
 辺りを見渡したが、隠れている様子も無い。
「あの子・・・・満足したのかな?」
「きっと、したよわ。楽しそうだったもの」
 心配そうに言う女の子に、マリヱは極上の笑みで返す。
「そうだな。きっと、もう事件がおきることはあるまい」
 是戒もまた、深く頷くと言った。
「ではひとまず、我らはこの場を去るとするか。帰って般若湯でも頂きたいものだわい」
「そうね。もう遅いし」
 頷いて、一同は片付けを始めた。
 その時である。
 足元で何かが動いた気配がした。
「?」
 ちゃりんっと、鈴の音が鳴る。
「子猫?」
 その子猫は、甘えるようににゃーんと泣くと、闇の中に走り去って行った。
「あれ?どこの猫??」
「まさか・・・今の猫」
 一同は顔を見合わせた。
「あの猫が・・・さっきの男の子だったりして?」
「まさか・・」
「どうだろう・・・」
「そういえば、あまり詳しい話は聞かなかったわね。男の子の正体とか・・・」
「まぁ、良いではないか。あの子も満足したのだろうよ」
「うん・・・そうよね」
 是戒の言葉にマリヱは河原を振り返って言った。
「では、帰るとしますか!」
「うん、そうだね」
 晴れ晴れとした気分で、一同は川を後にしたのだった。
 マリヱは、川を去るとき再び振り返った。
 なんとなく、「ありがとう」という声が聞こえた気がしたからである。

 行方不明になった人々が帰宅した事で騒ぎになったのは、その翌日の事であった。


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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

0838/浄業院・是戒/男/55/真言宗・大阿闍梨位の密教僧
0442/美貴神・マリヱ/女/23/モデル

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■         ライター通信          ■
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ども、はじめまして。しょうと申します。
このたびは、私の初仕事となります依頼をお受けいただき、ほんとうにありがとうございました。
未熟者ながらも精一杯書かせて頂きましたので、楽しんでいただけたらと思います。
今回の舞台となりました川は、実は私の地元の川がモデルとなっております。
小さい頃よく遊んだもので、書きながら懐かしいものが(笑)
ちなみに西瓜の蔦は本当に生えていました。これは実話です(爆)
是戒さんは徳の高いお坊さんとのことですが、格好良い退魔シーンがなかったのがちょっと残念ですが、なかなか個性的な性格で楽しんで書かせて頂きました。
またお会い出来る事を楽しみにしております。お疲れ様でした。