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<東京怪談ウェブゲーム アトラス編集部>


禁じられた遊び【前編】
●オープニング【0】
「最近の小学生ってマセてるわよね」
 月刊アトラス編集長・碇麗香が呆れたように言った。
「女の子相手に『本に子供の作り方が書いてあったから、一緒に作ろう!』なんて言っててね。女の子も『うん、いいよ』なんて言ってて……日本の将来を考えちゃうわね」
 麗香はそう言って日本の将来を憂いてから、思い出したかのように本題を切り出してきた。
「ああ、ごめんなさい。昨日これから調べてもらう場所に行った時に、そんな会話を聞いてたものだから。今回調べてほしいのは、謎の生物よ」
 麗香の話によると、何でも都下某所ニュータウンにおいて、謎の生物の噂が出ているのだという。その噂も犬や猫のようだとか、角が生えていただとか、どうも一定しないそうだ。
「具体的には、まずはその生物の発見に力を注いでほしいのよ。正体とかを調べるのはその後。居ないなら居ないで、そうはっきりさせた方がいいでしょうし」
 なるほど、とりあえずは謎の生物を探せ、と。まあ、それをしないことには、先には進めない訳だし……さて、どうやって見付け出そうか。

●ニュータウンとUMAとジャイアニズム【1】
「あ、未確認生命体って奴ですよね。ネッシーとヒバゴンとか」
 ジュースを飲む手を止め、七森沙耶が思い出したように言った。謎の生物と聞いて、沙耶がまず思い出したのはその2つだったらしい。
「まあそうね。UMAとも言うのだけれど」
 麗香が冷たいお茶で喉を潤しながら頷いた。
「しかし、ニュータウンみたいな場所で捕まらずに生きているというのは凄い話だな」
 少し感心したように言ったのは真名神慶悟だった。どこぞの山奥と違って、開発されたニュータウンにはそこに住む人間は多い。人間が多いのだから単に噂が出るだけでなく、警察なり何なり出動してその生物を捕まえようとするなんてことがあっても、別におかしくはないはずである。
「ニュータウンだからこそ、よ」
 その慶悟の言葉に対し、さらりと答える麗香。
「住む人は多いけど、住民同士の結び付きはどうかしらね。顔は知ってて挨拶はしても……無関心かもよ」
 麗香が皮肉っぽく言った。言わんとすることは、何となく理解出来る。
「ともかく。居るか居ないか、それをはっきりさせればいいんですよね?」
 沙耶が用件を確認する。もしここで『退治して』と言われたら沙耶は困ってしまっただろうが、決してそんなことはなく。
「ええ、そうよ。居ないとはっきり分かればすぐ次のネタの調査に移るわよ」
 麗香はそう答えてから、ちらりとシュライン・エマの方に視線をやった。何やら思案顔のシュライン。
「どうかしたの?」
「え? あ、別に。ちょっと他の考え事をしてただけ」
 シュラインは手をパタパタと振りながら言った。
「何にせよ、聞き込みは必要よね。皆……行くのよね?」
 周囲を見回すシュライン。慶悟と沙耶が頷いた。
「その調査、わたくしも引き受けさせていただきますね」
 冷たい緑茶と美味しそうな羊羹を嗜んでいた天薙撫子が、静かに言った。いつものように和服姿である。この手の調査は人手は多い方がよい。歓迎である。
「そっちの2人は?」
 麗香がテーブルに座っていた1組の男女に声をかけた。女性の方は一心不乱にケーキを食べていて、すでに隣の青年の分にまで手を伸ばしていた所であった。
「おかわりくれるのにゃ?」
 女性、白雪珠緒は食べるのを中断し顔を上げた。口の回りには、生クリームがべっとりとついていた。
「ケーキのお代わりじゃない。謎の生物探しだよ」
 そう呆れ顔で言ったのは、珠緒の隣に座っていた瀧川七星であった。
「んー、行ってもいいけど、ちゃんと報酬払うのにゃ。タダ働きは労働基準法違反なのにゃ」
 口の回りについたままの生クリームを、舌でペロンと舐め取りながら珠緒が言った。苦笑する麗香。
「バイト代はきちんと払うわよ。皆も安心して」
「報酬は猫缶がいいのにゃ。七星の分の報酬も猫缶でいいのにゃ」
 じゅるっと出てくるよだれを堪える珠緒。今度は七星が苦笑する番だった。
「俺の報酬、猫缶ってもう決まってんのかっ?」
「そうにゃ。七星の物はあたしの物、あたしの物はあたしの物にゃ」
(ジャイアニズムだぁ……)
(……ジャイアニズムね)
(ジャイアニズム……ですよね)
(ジャイアニズムかしら?)
(ジャイアニズムか)
(ジャイアニズムだよ……タマの奴、どこで修得したんだ?)
 珠緒の言葉を聞いて、他の6人の脳裏に全く同じ単語が浮かんでいた。
「どうしたにゃ?」
 珠緒がきょとんとした表情を浮かべた。
「……ああ、俺の報酬もタマの言う通りでいいよ。何なら、俺の方の報酬で生クリームにしてもらおうか?」
 結局――七星は笑いながらそう答えたのだった。

●世の子供は現実的に【2A】
 七星以外の5人は、手分けして聞き込みを行うことにした。その方が早いこともあるが、各々のやり方というのもあるからだった。
 慶悟はニュータウンに到着すると、すぐに蝶型の式神を放ち、見回らせることにした。現在地はニュータウンの中央部である。
(茂みや建物の陰……生物が好みそうな場所はこいつらに任せよう)
 謎の生物の大きさや行動パターンも分からない以上、隅から隅まで調べてみる必要がある。式神を放つというのはいい考えであった。
 まずは周囲を流すように、それから徐々に範囲を広げるよう式神に指示を出してから、慶悟は聞き込みを始めた。
 夏休み終盤、ニュータウン内の公園には子供たちの姿が目についた。早速公園に居た子供たちに近付いてゆく慶悟。年の頃なら小学校3、4年生といった感じか。
「……少し聞きたいことがあるんだが、いいか?」
 最初子供たちは慶悟のことを奇異な目で見つめていた。それはそうだろう、真っ昼間にこんなニュータウンで、見知らぬ金髪スーツ姿の青年がいきなり近付いてきたのだから。それでも中には人懐っこい子供が1人は居る訳で。
「何、兄ちゃん?」
 その一言をきっかけに、他の子供たちも警戒を解いたようであった。
「近頃この辺で、怪しい物や怪しいことはなかったか? もし知ってたら教えてほしい」
 すると別の子供が大声で答えた。
「怪しいことなら俺知ってる!」
「どんなことだ?」
「弘とみつ子、最近怪しいんだぜー。いっつも2人で居るしさー」
 それを聞いた他の子供たちが口々に喋り出す。
「え、ほんとかよ?」
「俺も見た見た! 手つないでたよな!」
「新学期になったらからかってやろー!」
 子供たちのはしゃぐ様子に苦笑する慶悟。少し聞き方が悪かったのかもしれない。
「そうじゃなくてだ。例えば怪しい生き物を見たとか……あるだろ?」
「そっち? 何か角生えた奴が居るとか、噂あるけど、嘘くせーよなー」
 最初に慶悟に話しかけた子供がそう言い放った。
「そんな生き物なんか居る訳ねーもん」
「そうだよ。居ないよ」
「兄ちゃん、いい年してそんなの信じてるの?」
 馬鹿にしたような子供たちの視線。慶悟は複雑な表情を浮かべていた。

●首尾一貫しない【4A】
 子供たちの馬鹿にした視線にめげることなく、慶悟は聞き込みを続けていた。子供から老人まで、幅広くである。
 その甲斐あって、決定打には欠けるが慶悟の元に情報が集まりつつあった。
 目撃した者たちの話をまとめてみると、目撃した時間は夕方以降が多く、場所はややニュータウン西部に片寄っていた。目撃時は辺りが暗いこともあり、はっきりと謎の生物を目撃した者は1人も居なかった。ただ、素早く逃げ去る所を見ただけということだ。容姿も各々の話で異なり、一貫しない。が、その大きさはほぼ一致しており、子犬くらいだという。
「まさかとは思うが、子犬1匹に引っ掻き回されてるなんてことはないだろうな」
 ぼそっとつぶやく慶悟。そんな考えが浮かんでしまうのは、やはり決定打に欠けるからだろうか。
 そんな慶悟の元に、蝶型の式神が姿を現した。何やら慶悟を呼んでいるようであった。
 蝶型の式神に誘導されるまま、駆け出す慶悟。やってきたのは近くに川――といっても、人工の川だが――が流れている公園。蝶型の式神たちが、公園内をくまなく探し回っていた。
「どうした?」
 慶悟は蝶型の式神たちから詳しく報告を受けた。すると何やら妙な生物を発見したらしいのだが、相手の方が素早くて見失ってしまったのだという。ちなみにその生物の大きさは、子犬大であったという。
(……この辺りに潜んでいるということか?)
 慶悟は頭の中にニュータウンの地図を思い浮かべた。川の流れている辺りは、ニュータウンの西部に位置していた。

●電話連絡【4D】
 夕方6時過ぎ、不意に携帯電話が鳴った。それは編集部に残っていた七星からの電話で、データを持って今からニュータウンに来るとのことだった。
 七星がニュータウン中央部にある公園を集合場所に指定したので、今からそちらへ向かうことにした。

●目星をつける【5】
 夜7時過ぎ、ニュータウン中央部の公園に6人が集まっていた。七星が持ってきたデータとは、目撃場所を記録したニュータウンの地図であった。至る所に紅い点が打たれている。
 これに撫子が独自で作成していた同様の地図のデータと、慶悟と珠緒が聞き込んだ情報のデータを加えてゆく。その結果、よりはっきりとした物が見えてきた。
「……片寄ってるな」
 慶悟が地図をつつっと指でなぞった。なぞったのは、ニュータウン西部を流れる人工の川の辺りだった。紅い点はその川沿いに多く打たれていた。
「この辺りに出現すると考えるべきなのでしょうね」
 静かに語る撫子。他の場所を張り込むよりは、川沿いを張り込んだ方が謎の生物を発見する可能性が高くなることは、この地図で明白である。
「そうよねえ。だったら、その川の近くにある公園をベースにして張り込んだ方がよさそうね」
 シュラインは手にしたラフ画に視線を向けながら言った。ラフ画は撫子が聞き込んだ話から起こしてみた謎の生物のイメージ図であった。ただ、目撃情報が一致しないので、角があったりなかったり、大きさが違ったりと、幾通りも描くはめになってしまったのだが。
「ねえねえ、七星。ついでに悪いナマモノだったら頭からバリバリ喰っちゃっていいかにゃ?」
 手でよだれを拭いながら、珠緒が七星に尋ねた。
「タマ、今、何て言った? ……悪いナマモノって……」
 七星は思わずめまいがした。
「ああ、いいよ、いい。悪い奴だったら、頭でも尻でも好きな所からバリバリ食っていいよ」
 がっくり肩を落とす七星。議論しても『馬の耳に念仏』なのだから。……いや、珠緒の場合は『猫の耳に念仏』か。
「買ってきました〜!」
 にこにこと公園へ戻ってくる沙耶。コンビニまで買い出しに行っていたのだ。袋の中には人数の2倍分のメロンパンと珈琲牛乳が入っていた。人数の2倍分なのは、徹夜になることを想定してのことであった。
 6人はひとまず腹ごしらえを済ませると、まずは西部にある川近くの公園へ向かうことにした。

●謎の音が【6】
 公園まで後少しという所で、不意にシュラインの足が止まった。
「ねえ、何か聞こえなかった?」
 シュラインが顔を強張らせ、皆に尋ねた。珠緒以外の4人が首を横に振る。
「何か短い音が聞こえたにゃ。あっち?」
 音の聞こえた方角を指差す珠緒。シュラインが頷いてそれに同意する。
「どんな音だよ?」
「んと……犬の声だと思うんだけど。あまりにも短くて」
 シュラインが七星の質問に答えた。
「……謎の生物?」
 沙耶がぼそっとつぶやいた。確かにその可能性もある。
「2つに分かれるとするか? もし謎の生物だとしたら、そちらへ向かう間に他の場所に動くかもしれんからな」
 慶悟がそう提案した。結局、シュライン・慶悟・沙耶の3人が音の聞こえた方へ向かうことになり、七星・撫子・珠緒の3人は公園で待機ということになった。

●惨状【7A】
 シュライン・慶悟・沙耶の3人が音の聞こえた方へ向かっていた途中、小学生くらいの男の子と女の子と擦れ違った。仲良く手を繋ぎ、シュラインたちの来た方向へと走ってゆく。
「みっちゃん、続きは明日だよ!」
「うん、また明日作ろうねっ」
 2人で仲良く何か作っていたのだろうか。微笑ましい会話だった。残念ながら、顔はよく分からなかったけれど。
(……あれ? 今の2人って……)
 沙耶は今擦れ違った2人をどこかで見たような気がしていた。そのことを考えながら歩き続け、やがてどこで見たのか思い出した。
「あ、橋!」
 そう、昼間に川に架かっている短い橋の上に居た2人だ。
「うん?」
 慶悟が前方に何かを見付けた。道路の角の所に、自らが放っていた蝶型の式神が舞っていたのだ。その下には、犬の物らしき脚が少し見えていた。
 そして現場へと着いた瞬間――3人は息を飲んだ。そこには喉からおびただしい血を流していた犬が、身動き1つせず横たわっていたのだ。
「酷い……誰がこんなことをっ!」
 口元を押さえ、震える沙耶。犬の死体が怖いのではない、こんなことをした相手が怖いのだ。
「さっきのは、喉をやられた時の声なのね……」
 シュラインもやりきれないといった表情を浮かべていた。しかし、慶悟だけは別の場所を見ていた。蝶型の式神が、ゆっくりと近くの塀の上に移動していたのだ。
「……しばらくそこを動かないでくれ」
 慶悟はそう2人に言い放ち、塀の上の空間をじっと睨み続けた。
 数10秒後――塀の上から何かが飛び出したきた刹那、慶悟はその何かの動きを『禁呪』で封じた。空中で動きを封じられればどうなるかは自明である。そのままアスファルトの地面へと落下した。
 街灯の明かりに照らされたのは、子犬大のグロテスクな生物だった。頭には捻れた角が1本生えており、口には鋭い牙が。口の回りには紅い物がこびりついていた。そしてその口からは緑色のどろっとした粘液が流れ出し、アスファルトを溶かしつつあった。身体は落下した衝撃のためか、崩れている。『禁呪』の効果がなくとも、もう身動き出来ないというのは明らかだった。
「何よ、この生き物……」
 シュラインが大きく頭を振った。目の前に横たわるそれは、今までに見たことのない生物だった。それは沙耶と慶悟も同様だ。
「魔術的なその……何か、そんな感じがしませんか?」
「……しないと言えば嘘になるだろう」
 小声で沙耶と慶悟が会話を交わす。2人とも、目の前の生物から嫌な気を感じていたのだった。
 果たしてこの生物はいったい……?

【禁じられた遊び【前編】 了】


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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【 整理番号 / PC名(読み) 
                   / 性別 / 年齢 / 職業 】
【 0086 / シュライン・エマ(しゅらいん・えま)
  / 女 / 26 / 翻訳家&幽霊作家+時々草間興信所でバイト 】
【 0177 / 瀧川・七星(たきがわ・なせ)
                   / 男 / 26 / 小説家 】
【 0230 / 七森・沙耶(ななもり・さや)
                   / 女 / 17 / 高校生 】
【 0234 / 白雪・珠緒(しらゆき・たまお)
 / 女 / 20代前半? / フリーアルバイター。時々野良(化け)猫 】
【 0328 / 天薙・撫子(あまなぎ・なでしこ)
               / 女 / 18 / 大学生(巫女) 】
【 0389 / 真名神・慶悟(まながみ・けいご)
                   / 男 / 20 / 陰陽師 】


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■         ライター通信          ■
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・『東京怪談ウェブゲーム』へのご参加ありがとうございます。本依頼の担当ライター、高原恵です。
・高原は原則としてPCを名で表記するようにしています。
・各タイトルの後ろには英数字がついていますが、数字は時間軸の流れを、英字が同時間帯別場面を意味します。ですので、1から始まっていなかったり、途中の数字が飛んでいる場合もあります。
・なお、本依頼の文章は(オープニングを除き)全16場面で構成されています。他の参加者の方の文章に目を通す機会がありましたら、本依頼の全体像がより見えてくるかもしれません。
・今回の参加者一覧は整理番号順で固定しています。
・お待たせしました、ニュータウンで噂される謎の生物にまつわるお話の前編をお送りします。先に言ってしまいますが……今回のお話、終わり方が少々きつくなってしまうかもしれません。予めご了承ください。
・結局本文の後、仕切り直しということになり編集部へ引き上げることになりました。襲ってきた生物は箱詰めして持って帰ったということになりますね、たぶん。
・後編は少なくとも編集部から始まることになります。皆さんのプレイング次第では変更になる可能性もありますが。よろしければ、後編も引き続きお楽しみください。
・真名神慶悟さん、18度目のご参加ありがとうございます。式神を放っていたのはよかったのではないかと思います。気楽に……のつもりが、急転直下、妙なことになりましたけどね。
・感想等ありましたら、お気軽にテラコン等よりお送りください。
・それでは、また別の依頼でお会いできることを願って。