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<東京怪談ウェブゲーム ゴーストネットOFF>


受験戦争用兵士

------<オープニング>--------------------------------------

「神楽ちゃーん」
 奥山神楽ははっと目を覚ました。塾の講座と講座、その短い間に眠っていたらしい。ただでさえ消耗の激しい夏、しかもぶっ続けで塾に通っている。眠くもなるか。
 神楽は欠伸をかみ殺し、隣の椅子に座っていた友人を見た。見れば見るほどドレッドヘアがエキセントリックな友人である。
「知ってるか? この塾出るんだってよ」
「出るって……有名大学進学者? パンフレットに書いてあるじゃん」
「そうじゃねーよ。出るったらこれだろ」
 友人は両手を胸のあたりでぶらつかせ、幽霊の手つきをする。
 自分の通っている学校にも幽霊話は絶えない。
 確かに受験生などギリギリまで神経を細くしているものもいるだろう。多感な時期でもある、自殺に向かう要素は揃いやすい。
 だがわざわざ塾で自殺をする人間がいるのだろうか。
 聞いた噂のほとんどは、受験失敗を苦にした生徒が自殺し、幽霊となり合格者を呪うというようなもの。
「何処にでもある話じゃ……」
「有名なサイトに書いてあったぜ。こんど探りにも来るらしい。ネット上でレポーター募集してたもん」
 神楽は友人からそのサイトのURLを教えて貰った。ルーズリーフの端にこつこつとメモをする。
 ネット上で募集をしているのならば、自分も参加してみようか。
 勉強の間の息抜きには良いかもしれない。
 高校最後の夏休み。勉強ばかりではつまらない。


×


 御崎月斗はキーボードを叩いた。液晶画面にいくつかの窓が開いている。どれも投稿メインのオカルトサイトだ。黒い背景に赤字で文が記されている。マウスを動かし、いくつかのリンクを辿る。
『私の弟は、あの塾に行かなければ死なずにすんだかもしれません』
『あの塾はほんとに出ます! 友達が見ました!』
『三階の教室で講義を受けていると、視線を感じる』
「ふーん……」
 月斗はいくつかの投稿やコラムに目を通し、腕を組む。
 進学塾としてチェーン展開をしている、SSSスクール。テレビCMをゴールデンタイムで流すほどの勢いだ。そこの八王子校舎にはなにかと噂が多い。噂好きな年代の子供が通う場所であるし、塾は夜中まで運営している。
「で、いくつかはマジ話……か」
 視線の先には、新聞社のサイトが開かれている。ここでは記事のバックナンバーが読めるのだ。
『SSSスクールの光と影』
『いじめの悪質化と複雑化』
『こどもにとっての受験とは』
 いくつかの硬い記事を読み、月斗は首を左右に振った。肩が凝る。ぎゅっと目と目の間を人差し指で押す。
 ネットやメールで加速度的に広まっていく幽霊話。SSSスクールの運営側は塾のイメージ低下を防ぐため、その道のプロに問題解決を依頼した。
 つまり月斗である。
 月斗は明日の夕方から、八王子校舎へ赴く。表向きの理由は体験入学だが、何かあれば戦闘もありえるだろう。事は穏便に済ますこと−−−それがクライアントの出した条件だった。
 依頼人は月斗の年齢を知り、不安そうにしていた。窺うような電話口の女性を思い出す。相手の顔が解らないネットでの依頼、クライアントも後悔しているかもしれない。労働基準法にも引っかかる。が、表立った仕事ではないため上からGOサインが出たらしい。
 八王子の塾長と名乗った女性は、月斗が十二歳だと知ると中学受験の話を持ち出してきた。自分の塾の進学率などを丁寧に説明しはじめたのだ。こんなときでも営業は忘れないらしい。
 進学関係に興味はない。約束をとりつけさっさと電話を終える。
 それから一時間、月斗はパソコンの前に座り情報収集をしていた。
「何時の電車で行こうかな……」
「梨! 梨買ってきたよー!」
 隣の部屋から声が飛んでくる。時計を見ると、午後の九時を過ぎた頃だった。兄弟が風呂上りに、フルーツを食べるのだろう。
「食べるー」
 呼ばれた月斗は電源を落し、席を立った。
 もう秋かなぁ、と想いながら。


×


 八月三十日。午後六時半。
 猛暑だったくせに、涼しくなるのは早い。月斗はシャツの上にパーカーを羽織り、SSSスクールを訪れた。
 一階は赤いレンガで表面を飾られ、二階からは近代的な白いビルになっている。自動ドアを抜けると直ぐに受け付けがあった。カウンターになっていて、パンフレットなどが並んでいる。
「御崎月斗くんね。体験入学?」
 月斗が頷くと、事務員は設置されている端末を通し、予約を調べる。画面から顔を月斗に戻し、にこりと笑った。
「七時から授業が始まるんだ、案内は聞いてるかな」
「聞いてます」
「それじゃ七時から二階の203教室でね。七時から十時まではずっと授業だから、夕ご飯は早めに取っておいたほうがいいよ。テキストなんかはこちらで用意するから」
 にこやかに事務員は案内をした。
「コンビニで夕飯を買うコが多いよ、ほら隣にあるから。一階のラウンジなら飲食自由だしね。時間が余ったらいろんな所を見ておくといいよ」
 軽く頭を下げ、月斗は受付を離れる。言われたとおりコンビニで簡単な食事と飲み物を買い、ラウンジへ。ラウンジには自動販売機がいくつと、テーブルセットが置かれていた。制服姿の学生が、食事を取っていたり、談笑していたり。勉強をしているものもいる。
 月斗は鮭おにぎりを食べながら、使役している十二神将を解き放つ。それぞれに場所を割り当て、怪しげな気を探らせるのだ。ぱっとそれぞれは持ち場に散っていく。
 話も聞いておくか……。
 鮭の香りを緑茶で流す。飲み終わった緑茶のパックを潰し、自動販売機の横にあるごみ箱へ捨てた。そして、丁度自動販売機でジュースを買った女子に話し掛ける。ショートカットが印象的な少女で、年も月斗に近い。
「幽霊の噂、知ってる?」
「うん」
 同じ塾生だと思ったのだろう。少女は警戒もせず答える。
「信じてるの?」
「なんとなくな、知りたいだろ。面白そうだし」
 ふふっと月斗に微笑む少女。
「嘘っぽいけどなぁ。でも、あたしのお姉ちゃんも合格の報告は電話で済ませてたよ。バカみたいだよね」
「なんで」
「知らないの? 呪われちゃうんだよ。自殺したコが合格を妬むの、そのコはずっと塾にいて、勉強してるんだって。自分が合格するその日まで、死んでるのに」
 今までにこにこしていた少女の顔に、さっと影が走る。
「……理由もわからず勉強してるのなんて……あたしたちもあまりかわんないよね? 君は目的があってここに来てる?」
「俺は体験入学だから」
「そっか、入ったら仲良くしてね」
 少女は手を振りながら離れていった。
 合格したら呪われる。
 そんな噂は学習塾にあってはならない。営業妨害もいいところだろう。
 腕時計を見る。そろそろ七時だ。ラウンジからも人影が減っている。月斗も説明された教室に向かうことにした。何か情報を掴めば、十二神将が教えてくれるだろう。


×


 変な塾だ。
 月斗の印象はそれに尽きた。教室のデザインも生徒も普通で、何処にでもある学習風景なのだが。
 講師がおかしい。
 一時間目、算数の解説に来た講師は、室内でも黒いサングラスをつけ、頬には竜の刺青が彫ってある。黒を基調とした服装は烏かホストのようだ。
 そして−−−。
 何故か一言も発しない。おもむろにサングラスをはずし、教室全体をぬめまわす。そして何事もなかったかのようにサングラスをつけ、教壇の椅子に座ってしまった。胸ポケットから文庫本を取り出し、悠々と読書を始める。
「?!」
 しかも生徒が突っ込まない。
 生徒は一心不乱にノートに向かう。時折教壇の奥のホワイトボードを見、またノートに文字を写していく。真っ白な、文字通りホワイトボードから何を写し取っているのだ。
 月斗は居心地の悪さと異常な気配に、回りを見る。
「……暗示……暗示」
 机の上に置いた筆箱から、ちょろりと白い蛇が出てくる。情報収集に出さなかった唯一の使い魔だ。
「暗示? 守ってくれたのか」
 月斗に言われ、嬉しそうに赤い瞳を細める。十二神将は例外無く月斗を好いている。その愛情表現は多様なのだが、どれも嬉しい。こうして付き添い守ってくれているのを実感として噛み締める。
「ふん……?」
 やっと術に落ちていない人間の存在に気づいたらしい。講師が月斗の机に近寄ってくる。
「お前……」
 きんっ!
 耳に鋭い音が響く。いや、音ではなく悲鳴だった。あまりの音量に耳が人間の声だと認識しなかったのだ。月斗は耳を押さえ、反射的に窓辺を見た。
 目が合った。
 窓の外を落下していく少女の、恐怖に彩られた瞳と。
「あいつっ!」
 自動販売機で会話した、少々小生意気な感のある少女だった。
 月斗と講師は直ぐさま教室を飛び出す。
 生徒たちのシャーペンがノートを行き交う音だけが、教室に残った。


×


「な……んだ」
 エレベーターの場所が悪く、到着するまでに時間がかかりそうだった。月斗は迷わず階段を使い、出口へ。そしてビルの裏側に回ると、ぐったりとした少女を抱いた青年が立っていた。
 月斗は切れ切れの呼吸を整えながら、ほっと全身の緊張を溶かす。
「怪我はないか?」
 遅れてやってきた講師も青年に問う。
「ええ。少し精神をやられているようですが」
 青年はビルの裏側の、じっとりとしたアスファルトに少女を横たえる。
「俺がやろう」
 仰向けにされた少女の額に、講師の大きな手が被さる。一瞬だけ回りの空間が振動し、落ちていた缶がかたかたと振るえる。講師の赤い髪がふわりと逆立ち、やがて落ちつく。
「これで大丈夫だ」
「……そっか」
 月斗は瞳を閉じている少女を見、まだ見ぬ敵への憎悪をたぎらせた。自分が近くにいながら危険な目に合わせてしまった後悔と、傷つけられたプライドがそうさせる。
「危険、危険!!!」
「迷企羅」
 ビルの屋上から、ひらひらと鳥が降りてくる。小鳥サイズの白い鳥は、月斗の肩で羽を休める。十二神将の一人、迷企羅だ。
「危険?」
 青年と講師が眉を寄せる。どうやら二人とも常人ならざる目というやつを持っているらしい。同業者かもしれない。子供一人に仕事を任すなど、大企業がやることではない。不安になって人手を増やしたのだろう。
「危険!」
「上だ!」
 講師と迷企羅の声が重なる。
 頭上からまた悲鳴が落ちてきたのだ。上を見上げると、ぐんと近づいてくる少年の姿。硬く目を閉じ、両手を合わせている。重力に惹かれてアスファルトへ落ちて行く。少女と同じように飛び降りたらしい。
 −−−ぶつかる。
 突然、目が開けられないほどの強風が襲ってくる。月斗は両手で顔を守った。身体が浮いてしまうほどの強い風が収まったので瞳を開くと、また青年が少年を抱きとめている。
「……この子もだ」
 青年が講師に少年を手渡す。少年は何かをぶつぶつと呟き、自分が飛び降りてきたことさえ解らないらしい。講師が少年の精神汚染を清めている間に、月斗は青年をじろじろと見た。
「今の風はあんたか」
「得意体質でね。炎と氷が操れるから」
 月斗は頭の中で、理科の時間にならった台風のなりたちなどを思い浮かべた。冷たい空気と熱い空気がぶつかると、そこには風が生まれる。その突風を利用して少女や少年達の落下速度を押さえたのだろう。
「便利だな。お茶飲むときとか」
「その使い方を言われたのは初めてです」
 くすっと青年が微笑む。優しげな印象だ。
「水だし緑茶とか……便利でいいな」
 肩に留まっていた迷企羅が耳たぶを嘴でつつく。ヤキモチ妬きの性格なのだ。小さな頭をそっと撫でて機嫌を取る。
「家庭のウラワザは置いておいて、ほれ」
 講師が屋上を指差すと、また一人飛び降りてくる。もう慣れてしまったらしい。青年もやれやれ、と呟いて風を創り出し受けとめる。
「ウラワザなんて……テレビ番組じゃあるまいし……」
「それより大本を叩くほうが早いんじゃないか?」
「ガキの言う通りだな」
 講師と青年は頷きあい−−−月斗の身体が空中に浮く。ものすごい風が下から押し上げてくるのだ。
「頑張ってくださいね」
「何が!? うわっ!!」
 一気に風が巻きあがり、月斗は屋上まで飛翔した。巨大な手で持ち上げられているようだ。月斗はバランスをとりながら、給水塔へ着地する。
 俺がやるのか。金貰ってるんだからそれ分は働けよ。なんて色々な考えを巡らせる。給水塔から飛び降り、深夜の屋上を見渡す。都会の夜景が一望でき、中々のロケーションだ。
「失敗したなぁ」
 屋上のフェンスに、眼鏡をかけた少女が座っていた。頭蓋骨が割れ、脳漿がべったりと顔に張りついている。どうやら飛び降り自殺した霊のようだ。
「あんたたちなんなの? 私の邪魔が出来る人なんて今まで居なかったのに」
「井の中の蛙」
 月斗のさらっとした答えに、少女が睨む。
「ムカツク……」
「なんで勉強を苦に自殺したのに、塾でふらふらしてるんだよ。とっとと逝け」
 ふわり、と少女が浮きあがる。半月を背に、両手を広げた。
「私は神様になったの……皆を自由にしてあげてるの。だから、どこへも行かない。邪魔するやつは許さない」
「何が神様……!」
 背中にひどい熱を感じ、月斗は振り向こうとした。が、また続けて熱−−−いや痛みが背中に走る。
 うつろな目をした男子高校生が、カッターナイフを持って佇んでいた。カッターは月斗の血で濡れている。
 同じような視線の子供が、ずらりと並んでいた。蜘蛛の子供のように月斗を襲ってくる。
 少女の霊が大声で笑っている。
「皆、殺しちゃえ!!」
「やべっ……」
 三人ほどに同時でタックルを食らった。その場に倒れると、全員が群がってくる。暴れる月斗の手足を持ち、フェンスから投げ捨てた。
「……ただいま」
「おかえり」
 風で月斗を抱いた青年は、にっこり笑った。


×


 血で染まったシャツを、苦々しくごみ箱へ投げる。浅田幸弘と名乗った熱を操る青年が着ていた上着を借りたが大きい。これまた苛々しながら袖を捲り上げた。
「経費で落ちるかな……シャツ」
「ケチなガキだな」
「経済観念がしっかりしてると言えよ」
 暗示を得意とする講師、黒月焔が両肩を上げる。
 背中の痛みはほとんどない。不意打ちをされた時のショックが強かっただけで、深い傷ではなかった。受付にあった救急箱で手当てをした。
「うーん……」
 幸弘はカウンターから、廊下を軍隊のように行進している生徒を眺める。どうやらほとんどの生徒が霊に操られているらしい。
 三人のお荷物もあるので、月斗たちは受付に身を隠していた。
「生徒を傷つけるわけにもいきませんし。どうしましょうか」
「一点集中強行突破。で、良いんじゃないか」
「賛成」
 焔の提案に月斗は右手を上げる。うだうだやっているのは性に合わない。目当てが決まっているのだから前進あるのみ。
 受付の床には、飛び降りてきた三人の子供が横たえられていた。全て焔の暗示を受け、深い眠りに落ちている。パニックを起こされると面倒なので寝てもらっている。
「俺は暴力反対なんですけどね」
 三人は腰を上げ、屋上へ向かうことにした。
 エレベーターを使うと退路の確保が出来ない。三人は階段を利用することにする。
「お客さんですね」
 三階あたりまで登ったとき、下から足音が響いてきた。ざっざと規則正しい足音で十人以上のグループと思われる。追いつかれないように駆け足で登る。
「上からもか」
 焔は踊り場で足を止める。上からも人の気配が近づいてきていた。
「やるしかなさそうです」
 ふふっと幸弘が笑う。
「暴力反対だったんじゃねぇの?」
「時と場合によります」
 きっぱりとした返事に、月斗は苦笑する。
 強烈な風が下りてきた生徒と上ってきた生徒をふっ飛ばした。焔は額に手を当てる。
「もし生徒が傷害として塾側を訴えたら……俺たちに支払いが回ってくるのか?」
「業務上過失?」
「さくっと行きましょう」
 笑顔で階段を上っていく幸弘を二人は追った。


×


 幽霊の少女は、またフェンスに腰掛けていた。足元には僕とも言うべき操られた生徒たち。全員が白目を剥いて全身から力を抜き、左右に揺れながらもやっと立っている様子だ。
「悪さをやめれば俺が供養してやるぞ」
 焔の一言に、月斗はかちんとくる。
「これだけやっておいて、責任取らせないのかよ」
「あの霊の回りには願いがない。つまり、誰も供養してくれていない。悪霊になるのも当然だ」
「俺は刺されたんだぞ」
「刺されるほうが悪いのよ!」
 きゃははっと少女が高く笑う。
「そうですか」
「……ぐっ!?」
 鋭い氷柱が、少女の胸を貫いた。幸弘が手を上げる。
「刺されるほうが悪いんですね」
 良い性格をしている……月斗はそら恐ろしくなる。にこにこしているのがまた恐い。
「私は悪くないわよ! 皆死にたがってたんだから、その手伝いをしてあげただけ……!」
 言葉と同時に血を吐く。
「貴方の都合に興味はありませんので」
 幸弘は微笑み、無数の氷柱で少女を串刺しにした。針山に針を刺すような、良心の呵責などこれっぽっちもない行動だった。
「やりすぎだ」
「そうですか?」
 焔の苦々しい一言に、幸弘は小首を傾げる。
 少女の戒めが解けたのか、生徒はその場に崩れ落ちた。
「こんなものですかね」
 後ろ髪を引かれることもなく、幸弘は立ち去っていった。
 なんの感慨もない背中を月斗は見る。感情の無い人形のような男だと思った。ただにこにこ笑っているだけの−−−。


×


 今にも消滅しそうな少女の魂を、焔は丁寧に拾い集め繕っていく。やっと掌サイズに瞬く光珠になった。月斗は淡く瞬く光を綺麗だと思った。
「大丈夫だ……ほら」
 焔が空に向かって手を伸ばすと、ゆるりと光は星空に上り始めた。進んでいるのかいないのかわからないほどの速度。けれど、光は確実に遠ざかり、星空に呑まれて消えた。
「転生できるかな。あれだけ傷ついてたけど」
 剥き出しの魂にダイレクトにダメ−ジが入ったはずだ。
「わからん。だが俺たちが出来る限りのことはした。あとは神のみぞ知る、だな」
 魂を拾い集める作業というのは、その人格の記憶を集めるのに似ている。彼女の魂を繕いながら、月斗は彼女が閉じ込めていた様々な想いを知った。
 沢山勉強をした。すると、もっといい成績を、と親に急かされる。悪い成績であれば怒られる。そして第一志望の高校に合格出来なかった。家に帰るのが恐くて、ついに少女は自らを殺した。
 でも−−−。
 親はみとっもない真似を、と供養の一つ、線香さえ彼女に捧げることはなかった。
 成仏する道筋さえ見つからず、彼女は塾に宿る悪霊となった。
 自分と同じ苦しむ魂を見付けては、死への道へと誘った。
 考える。
 自分は陰陽の家系が嫌で、東京へ身を隠した。けれど、忌んだその力で生計を立てている。
 彼女と自分、どこが違ってしまったのだろう。
 死ぬならもっと頑張れば良いのに、とも思うが。
「……なんだかなぁ……」
「若いときほど悩むもんさ」
 焔は煙草に火をつけ、ふわりと夜空に紫煙を吐く。
「そーですね、おじさん」
「二十台だぞ」
 もう一度煙を吐き。
「時間が答えを出す悩みもある。結局、生きたもの勝ちだ」
「あの子は負けたってこと?」
 親と対決する道だってあったはずだ。だが、彼女は死を選んだ。
 そして、自分は生きていて。
 彼女に、自分のような兄弟がいたらまた道も変わっていたのだろう。道しるべは多様なのだから。
「何が道しるべだろうが、歩くのは自分だもんな……」
 月斗は澄んだ星空を見た。
 もう、秋だ。


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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

 0778 / 御崎・月斗 / 男性 / 12 / 陰陽師
 0599 / 黒月・焔 / 男性 / 27 / バーのマスター
 0767 / 浅田・幸弘 / 男性 / 19 / 大学生

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■         ライター通信          ■
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 夏休みが正念場!
 ということで塾ネタを書かせていただきました、和泉基浦です。
 移動の少ない閉鎖空間ということで縦横に動いていただきました。
 犯人である幽霊は成仏いたしましたので、依頼は成功です。お疲れ様でした。
 他の方のノベルを合わせて読んでいただくと、この日一日の全てを見ることができます。
 よろしければどうぞ。

 気に入って下さったら幸いです。それでは。