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<東京怪談ウェブゲーム ゴーストネットOFF>


呪歌
◆歌の噂
いつの世にも噂が多い「歌の呪い」
この歌のバックコーラスには歌手を恨んで死んだ女の声が入っている。
昔から時々リメイクされるその歌を歌うと死ぬ・・・
歌にまつわる呪いの噂は多い。

そして最近、囁かれ始めた噂もそんな歌の呪いだった。

『お菓子のCMで流れている曲を聞くと事故にあい死ぬ。』

実際に死んだものがいるのかどうかはわからない。
しかし、企業イメージを悪くすると言うことで、お菓子会社はそのCMソングをすぐに取りやめた。
そのことが噂に拍車をかけたのかもしれない。
そのCMソングは噂と共にネット中を駆け巡り、ついに犠牲者を出したと言う書き込みがなされるようになった。

投稿者:MINORI
友達が歌の呪いで死んでしまいました。
あの噂は本当です。
友達は噂を信じずに、あの歌を歌った翌日に突然死んでしまいました。
皆さん歌わないようにしてください。気をつけてください。

「・・・ほんとなのかしら?」
雫は書き込みをながめながら言う。
歌は元々呪術的なものだ。それによって呪われると言うことはありえるかもしれない。
突然死んでしまったというのも、なんだか呪いの気配を感じさせる。
これは調べてみる価値があるかもしれない。
「カラオケで気持ちよく歌って、いきなり呪われちゃうとか嫌だもんね。」
そううなずくと雫は調査隊の有志を募ることに決めたのだった。

◆噂のお菓子
「こんなにあったのでは調べきれませんわ・・・」
モニターを覗き込んで天薙 撫子は溜息をついた。
天薙はPCを使って、製菓メーカーと噂についてネットで調べようと思ったのだが、あまりの数に絞り込むことも難しい。
「そんなに話題になるほど、CMを見た覚えも無いのですけど・・・」
歌を聴くと呪われる・・・そんな噂が流れるまでは、あまり聞いた事もない名前のマイナーな製菓会社だったが、噂が流れてからその名前は爆発的に広がった。
CMをすぐに打ち切ってしまったのも、噂に拍車が掛かる原因だったようだ。
あまりにも素早い対応に、信憑性がましてしまったのだろう

「おう、菓子買ってきたぜ。」
ちょうど、検索をあきらめかけたとき、羽島英がコンビニの袋を持ってゴーストネットOFFに戻ってきた。
「これが話題のCMのお菓子だと。」
バラバラっと袋から取り出したのはチョコレートだった。
「頭に良いDHAたっぷり・・・お魚チョコレート・・・ですか・・・」
奇怪なものでも見るように、天薙は恐る恐るお菓子を手に取る。
「おう、生のシラス干しがたっぷりチョコレートだとよ。」
健康のためなら何でもありなのかしら?と、シラス干しが入ったチョコレートの味を想像して天薙は思わず渋い顔をしてしまう。
「で?ネットの方は何かネタはあったのか?」
羽島は菓子を手にとって包装を破きながら天薙にたずねる。
「いいえ、何も。噂の域を超えるものはありませんでしたわ。あとは、あまりにも数が多くて絞りきれません。」
「そっか、じゃあ、やっぱり俺のツテの方が収穫ありそうだな。」
そう言って、菓子をひとつ口の中へ放り込んだ。
天薙も驚きの目でその様子を見ている。
「・・・まずい・・・」
正直な感想を口にして、羽島はチョコレートを無理やり飲み込んでしまった。

◆制作スタジオの怪
「羽島様のツテって仰ったのは・・・こちらですの?」
涼しげな絣の着物に揃いの日傘の向うに建物を見つめながら、天薙は呆れたような口調で言った。
「まぁ、そうなんだけどさ・・・」
羽島は天薙が呆れている原因がわかっていたので、何となくばつが悪い感じで言った。
「こういうところってなんでか集まるんだよな・・・土地が悪いとか原因もあるんだろうけど・・・」
「もう、ずっとこんなですの?」
天薙は建物から目を離さずにそう言った。
天薙と羽島の目にはその建物に取り付いた異変がはっきりと眼に映っている。
そこに黒く影のようにしがみついている・・・地縛霊の姿が。
「つーか、祓ってもキリがねぇんだよ。あそこにいるのは先週来たストーカー女の生霊だし、あっちのは10年前からいる自殺したマイナー歌手の霊だ。そんな連中が、祓っても祓っても毎日のように増えやがる。どーしようもなくヤバイのを見つけたときは祓うけど、それ以外は放置プレイなんだよ!ほら、今日は別件で来たんだから行くぞっ!」
羽島は捲くし立てるように言うと、難しい顔で建物を見つめている天薙の手をガッと掴むと引っ張るようにして建物・・・収録スタジオの中へと入っていった。

「中も凄いですわね・・・」
まだ地縛霊の事が気になる天薙は建物の中をくるっと見渡すとそう言った。
「いや、ちょっと様子がおかしい。この間来たときはここまでひどくなかった・・・」
羽島は建物の中の様子を見て、違和感を感じていた。
確かに華やかな世界の裏側に当たるこの場所は人の念が集まりやすい場所だったが、わずかな間をあけていきなりこんなになってしまうのは異常だった。
「こっちだ・・・」
羽島がツテをたどって約束を取り付けた人物がいるであろう部屋を受付で確認し、その部屋へと向かう。
なんだかその部屋に近づくほどくらい気配は強まるようだ。
「呪詛・・・という感じではありませんが・・・死の気配ですわね・・・」
天薙が感じる気配をそう言う風に言った。
この影が死者の念であることは間違いない。
自分の死を恨んで何かにしがみつこうとしているような・・・そんな感じだ。
しかし、その死者たちが呪詛で死んだというわけではなさそうだ。
天薙が影を探ると意外な反応が返ってきた。
「病死・・・突然死のような死で迷った魂が集まっているみたいですけど・・・どうしてこんなところに・・・」
「どうも、こいつらは俺たちの目的と関係があるようだな。」
羽島が苦い顔で言う。
目当ての人物がいる部屋の前に立っただけで、その中へと念が向けられているのがわかった。

◆作られた呪歌
「失礼します。」
羽島はスタジオ内に作られた事務所のような部屋の扉をあける。
「おう、こっちへ来てもらえるか?」
声をかけるとパーテンションの向うから声が返ってくる。
スタッフは出払っているのか人気はなく、パーテンションで区切られた向うに目当ての人物・・・CM曲のプロデュースをした佐々木と言う人物がいるだけのようだ。
「やぁ、キミが羽島クンか噂は聞いてるよ。インディーズにいるのは惜しい人物だってね。」
佐々木はそう言うとニコニコ笑いながらパーテンションの影から姿を見せた。
「!」
羽島と天薙は姿を現した佐々木を見てギョッとした。
それは明らかに念に憑り付かれた・・・「死相」と言ってもいいほどのものだった。

「なんか話があるんだって?なんのようだ?」
事務所の片隅に作られた応接セットのソファを勧めながら佐々木は言った。
「羽島クンのプロデュースだったら喜んで話を聞かせてもらっちゃうよ。それともそっちの美人さんかな?和風美人だね、新鮮な感じでいいかもねぇ・・・」
どんどんと勝手に話を続ける佐々木を遮るように、羽島はストレートに話を切り出した。
「実は、佐々木さんがプロデュースなさったお菓子のCM曲のことで伺いました。」
その言葉を聞いて、今度は佐々木のほうが動揺に顔色を変える。
「し、CM?」
「はい。あの、打ち切りになってしまいましたけど・・・お菓子のCMで使われていた曲ですわ。」
天薙がそう言ってお菓子の実物を手にしていた包みから取り出す。
佐々木の動揺はいっそう酷くなり、向かいで見ている羽島や天薙にその震えが伝わってくるようだ。
「そ、それがどうかしたのか・・・?」
「あの歌を聴いて死んだ人物がいるのです・・・」
天薙はそっと手を合わせると、佐々木を取り囲む死者たちの念の言葉を自分の中へと導いた。死して真実を知った死者たちが次々と言葉を繰り出す。
「何度か歌を聞いているうちに胸が苦しくなり暗闇に引きずり込まれたと・・・そう訴えてますわ。」
「マスターテープがここならあるだろう?出してもらおうか?」
羽島が佐々木の胸倉を掴んで乱暴に言った。
佐々木はその迫力と天薙の言葉の恐怖に負け、自分のデスクに駆け寄ると引き出しの中をぶちまけるようにして一本のDATテープを羽島に手渡した。
「これならここで再生できるな。」
応接セットの側にあったオーディオにDATテープを入れると再生ボタンを押した。
もしかしたらこの曲に仕掛けられた何かしらの術が発動する可能性もあったが、それに対抗する手段は羽島も天薙も持っていると判断したのだ。

曲が流れ出す。
CMカットでは短く編集されてしまうが、原曲のこれは2分ちょっとの長さの曲だ。
一回聞き終わり、二回目を再生する。
耳に入ってくる音を解析するように聞き入っていた羽島が険しい表情になる。
そしてオーディオの音程調整などをいじり3回目を再生して、乱暴にスイッチを切った。
「サブミニナルかよ・・・」
羽島の耳は通常人手は聞き取れない音域も判別する。
楽士の家系に生まれ呪歌士を生業とする羽島ならではの能力かもしれない。
「あんた、この歌に何を「混ぜた」っ?」
「ひっ!」
羽島の声に佐々木がすくみ上がる。
「ちょ、ちょっといじっただけだよっ・・・少し呼吸が下がって血圧が上がるくらいのことだよ・・・」
「そうして彼らを殺したのですね」
天薙は怒りに肩を震わせながら、怯えて座り込む佐々木の前に立った。
「疲れなどで体力が落ちた人や普段の生活では気がつかないほどの心臓疾患を秘めた人にはそれは十分すぎることでしたのよ・・・」
天薙に霊たちが訴えつづける。巫女の血筋である天薙の耳にはその言葉がはっきりと届く。
「貴方にも見せて差し上げましょう。貴方の周りにいる死者たちの姿を・・・」
そういって、天薙はそっと佐々木の手に触れた。
「ひっ!あ、な、なんだっ!やめろっ!」
佐々木の目には死者の姿がはっきりと映し出されているのだろう。
佐々木は空を切るようにめちゃくちゃに手を振って暴れた。
「やめろっ!殺す気はなかったんだっ!ほんのちょっと話題になればよかったんだよ!やめてくれっ!許してくれっ!」
「死んだ連中だって、死ぬつもりなんかなかったろーさ。」
羽島はしゃがみ込んでじたばたしている佐々木の胸倉を掴み、引きずりあげるように立たせるとその耳元へ口を寄せて囁いた。
「そんなに死者の声が怖いなら、聞こえなくなるようにしてやるぜ。永遠に何も聞こえないようにな!」
そして羽島は鋭く貫くような声で耳元で歌った。

「ぎゃぁぁっ!み、耳がぁっ!」
羽島の声と共に走った激痛に、佐々木は耳を抑えて床をのた打ち回る。
耳を抑える指の間からは血が流れていた。
「何をしましたの?」
「なーに、コイツが二度と歌に関われないように音を奪ってやったんだ。」
羽島はのた打ち回る佐々木を冷ややかな目で見ながら吐き捨てるように言った。
「癒しと祝福の為に歌われる音楽を悪用した罰だ。」
そして、羽島と天薙はのたうつ佐々木を残して部屋を後にした。

◆浄化
「ちょっと待て下さい。」
建物を出て先を行く羽島を天薙が呼び止める。
「なんだよ?もう用件は終わったろ?」
羽島が振り返ると、天薙は建物をおおう影を見つめている。
「おい、まさか・・・」
「はい。これを見捨てては置けません。」
天薙はにっこり微笑むとそう言って、懐から懐剣を取り出す。
白木の鞘に収められたそれは、抜くと美しい白刃が姿を現した。
「彷徨えし御霊よ。地に縛られし念よ。汝が呪縛を切り裂き、今解き放たん・・・」
白刃は天薙の動きと言葉に合わせて、ゆっくりと空に印を刻み付ける。
それは夕日の中でとても幻想的な光景に見えた。
思わず羽島もその姿に見惚れる。
天薙の美しい儀式に霊たちも見惚れているのか、建物をおおう影たちはゆっくりと天薙の前に集まって来た。
「さぁ、もう貴方たちを捕らえるものはありません。行くべきところへお行きなさい。」
浄化の念をこめて天薙はその影をすっと二つに切り裂いた。
すると影たちは一瞬わななくように震え、やがて朧に霞むとゆっくりとその姿を消していった。
ほんの一時のうちに、天薙はしがみつくようにして建物を被っていた霊たちを浄化してしまったのである。

羽島はこのおっとりとした女性の思わぬ力に少し驚きながらも、綺麗になったスタジオを見あげて感嘆の声をあげた。
「すっかり綺麗になっちまったな。」
「そうですわね。」
天薙は懐剣を再び懐に戻すと微笑んで羽島に言った。
「さぁ、参りましょうか?」
「え?何処へ?」
天薙の言葉に羽島は首をかしげる。
「この件が終わったら雫様が皆さんでカラオケに参りましょうと仰ってましたの。」
「カラオケ?」
「羽島様は歌手でいらっしゃいますのでしょう?お歌を聞かせていただくのが楽しみですわ。」
そういってニッコリ微笑む天薙の笑顔に、羽島は断れるわけもなくうなずいてしまった。
(ま、いっか。)
この和服美人が何を歌うのか興味もあったことだし。と、雫の待つゴーストネットOFFへと足を向ける羽島であった。

The End ?
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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

0871 / 羽島・英 / 男 / 23 / インディーズバンド・ボーカリスト兼呪歌士
0328 / 天薙・撫子 / 女 / 18 / 大学生(巫女)

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■         ライター通信          ■
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今日は。今回も私の以来をお引き受けくださり、ありがとうございました。
今回はこんな展開になりましたが、如何でしたでしょうか?
呪いは実はプロデューサーが欲にかられて作った人造的なものでした。呪いの歌が作られた経緯は製菓会社に怒鳴り込んだ方々のほうで書かれておりますので、良かったら目を通してみてください。
天薙さんの読みはいいところまで近づいていたと思います。天薙さんの今後の活躍も期待しておりますね。
それではまたどこかでお会いしましょう。
お疲れさまでした。