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<東京怪談ウェブゲーム 草間興信所>


人食い屋敷の一夜
◆怪しい依頼
「やぁ、どうも。」
その男は草間興信所事務所の扉をくぐるなり、馴れ馴れしく草間に声をかけた。
「あなたは・・・」
草間もその男の顔に見覚えがある。
以前、BARで一緒に飲んだことのある男だった。
確か名前を・・・ナイトと名乗っていた。
その時に名刺を渡したのを思い出した。
「あんたがここで事務所を開いてるのは知ってたんだよ。妖怪探偵・・・最近業界じゃ有名だからねぇ。」
果たして何処の業界で有名なのやら。
草間はナイトの相向かいに腰を下ろすと苦笑いで言った。
「今日はどういった御用で?」
ナイトは上着のポケットからタバコを取り出し、美味そうにひと吹かしするとにやりと笑った。
「いや、ちょっと側を通ったもんでね。挨拶でもしていこうかなぁと。」
「挨拶だけじゃ・・・ないですよね?」
「んー、まぁ、探偵事務所に来てお茶だけ飲んでちゃ申し訳ねぇわな。」
「で?どういったご用件ですか?」
草間は思わず引きつりそうになる顔を営業スマイルで押しとどめた。
「なぁにね、ちょっと面白い場所を見つけたんで、あんたなら面白がってくれるんじゃないかと思ってね。」
「ははは・・・俺も物好きではあるが暇ではないんでね・・・」
そういってやんわりと?お帰り願おうかと思った草間だったが、ナイトの次の言葉に興味を覚えた。
「面白そうな場所ってのは、ここから一寸離れた街にある民家の廃屋なんだが・・・最近ここでバラバラ死体が見つかってねぇ。」
「バラバラ死体・・・?」
草間の反応をみてナイトはニヤリと笑う。
日々、ハードボイルドに焦がれる草間にとって殺人事件ならばさぞ興味を引くだろうと踏んでの発言だったのだ。
「ああ、その廃屋の近所に住むものが深夜に突如いなくなり、気がついた家人が探すと・・・その廃屋でバラバラになった死体で見つかるということだ。」
「廃屋にバラバラ死体・・・ねぇ・・・」
草間はじっと考え込む。
「依頼にしても良いな。どうだ?人食いの家の調査をしてみないか?」
ナイトはそう言うと家の場所と見取り図などの情報を書かれた書類を机の上に広げた。
最初から調査依頼のつもりでやってきたのは明らかだ。
「側を通って立ち寄った割にはずいぶん準備が良いな。わかったよ、今回は引き受けるとしよう。」
草間は溜息混じりにそう言うと、ナイトから資料を受け取ったのだった。

◆影の取り巻く家
間宮 甲斐が草間武彦から受け取ったメールに示された家の前に立ち、久我 義雅は興味深げにその屋敷を眺めていた。
ここに来るまでに調べたところでは、この屋敷の主はこのあたり一体の地主でこの家で心中を図って死んだのだという。
一家皆殺しの家・・・というわけだ。
「なかなかに興味深いな。」
間宮はそう言うと敷地の中へと一歩踏み込む。
門をくぐった瞬間に、足元が眩むような圧迫感を感じる。
たくさんの何かに纏わりつかれるような・・・重みを伴った圧力だ。
「私を取り込もうというのか?」
この家に集まるものは仲間を求めているというのか?
「面白い。」
そう言ってさらに奥へと踏み入ろうとした時。それを呼び止める声が響いた。
「義雅さん・・・」
草間からメールを受け取った主、間宮 甲斐であった。
「何故ここに・・・?」
そう言って久我に近寄ろうとした間宮にも同じ圧迫感が襲い掛かる。
間宮は一瞬眉をひそめるが、口の中で何か小さく呟くと辺りの気を振り払った。
「大丈夫か?」
久我が少しも心配していないような口調で言う。
この程度のことでどうにかなるような人間でないことはよく知っているからだ。
間宮はあたりを軽く見回してから、少し表情を曇らせていった。
「義雅さんが、どうしてここに来たのかは問いませんが・・・側を離れないようにしてください。よろしいですか?」
その言葉に久我はふっと微笑み、言葉を返した。
「我々は異界に踏み入ってしまった。離れようにも離れられまい。」
その場の様子を楽しむような久我に、間宮は軽く溜息をついた。
久我と間宮が屋敷の前に立っていると、門の外に人の気配が来るのを感じた。
「おや、他の人たちもやって来たようだね。」
明らかにこの状況を楽しんでいる久我は愉快そうに間宮に耳打ちした。
「さて、何を見せてくれるのかな。この家は?楽しいショウが見られるといいね。」
「・・・楽しまれるのもわかりあmすが・・・くれぐれもお気をつけて。」
久我とは対照的にやや緊張した面持で間宮は久我に釘をさした。

「あれ?もしかしてお二人さんもこの家の調査に来はったお人ですか?」
再度調査のためにやってきた今野は久我と間宮を見つけるとそう声をかけて門の中へと入ってきた。
残る二人・・・宮小路と御崎は少し門の前で躊躇っている。
「ははは、ここへ躊躇わずに踏み込んでくるとは大したものだね。」
久我は平然としている今野に言う。
今野は一瞬意味が掴みかねたが、すぐに言葉の意味を掴み苦笑いした。
「あー、俺、霊能者やないんで細かいこと気にせんのですわ。その辺いっぱいにごちゃごちゃ居てるのは見えてるんやけど。」
「見えてるんなら、少し警戒したほうがいいぞ。」
辺りの気を払いながら入ってきた御崎が一見無防備な今野に言った。
「そうですね、ちょっと外とは勝手が違うようですから。」
続いて入ってきた宮小路もあたりを見回して言う。
「まあ、細かいことは皆さんにお任せしますよって、いざっちゅう時に働かしてもらいます。」
今野は悪びれずにそう言ってニッコリと笑った。
その言葉に他の4人はふっと笑みをこぼすが、あたりを取り囲む異様な空気にその笑みはすぐに洗い落とされた。
ここへ踏み入った時から、徐々に気配が濃厚になってきているのを感じていたが、それがいよいよ本格的なざわめきを感じさせ始めた。
「夜が来るからか・・・」
日の落ち始めた空を仰いで御崎がポツリと呟いた。
そして、その呟きが合図になったかのように、家は「活動」を開始したのだった。

◆そこに住まうモノ
「来る・・・」
最初に気がついたのは間宮だった。
家の奥から、ズル・・・ズル・・・と何かが這いずるような音を立ててガラスが破れて口をあけている玄関の方へと近づいてくるのがわかった。
「結界を!この家からアレを出してはまずい!」
そう言って御崎が式を放つ体制に入る。
呪を唱え、空を切り裂くように印を切ると、その場から光が四散する。
その光は家の開かれた場所全てに飛び結界をなした。
それに続いて同じように間宮が式を呼び出す。
胸ポケットから取り出した符に素早く印を切り呪を唱えると、符は美しくしなやかな黒豹へと姿を変えた。
「門を守れ、奴を外へ出すな。」
御崎と間宮が結界をなすと、それは玄関口へと姿を現した。
黒くぬらりとした体に目だけが赤く血走っているのが暗がりでもわかる。
二本足出歩いてくるのだが、まるで獣のような荒々しい気配だ。
「この家の主か・・・?」
宮小路は召喚した「髭切」を構えて、その切先を狙い澄ます。
その時、その黒い影が大きく雄叫びを上げた。
「ぐぉぉぉぉぉぉおおお・・・っ!!!」
低く唸るような声が当たりに響き渡る。
そして、その声が響き渡ると同時に周りの空気がゾワリと蠢く。
「なんやっ?」
今野は自分の目に映るものを見て硬直した。
たくさんの見えない「腕」が、敷地内の5人に襲い掛かる。
久我と宮小路はその見えぬ腕を切り裂き振り払うが、その数は凄まじく尽きることがない。
結界を張り屋敷から影が出てくるのを食い止めている御崎と間宮は自分に襲い掛かる腕を振り払うことも出来ず、苦痛に顔をゆがめている。
「間宮さん!御崎さん!結界を解いてください!その影を消さないことには切りがありません!」
宮小路が二人に叫ぶ。
「そないに長いことは出来へんけど、俺が影をおさえたる!」
今野はその指先に意識を集中する。
今野の「熱」を「見る」ことができる眼には、黒い影は明らかに生き物に近い熱を持った存在として映っている。その熱を一気に奪い去ることによって、一瞬かもしれないがその動きを止めることはできる。
「一瞬でいいです。隙ができれば、私が必ず。」
宮小路も今野の言葉を受けて言う。
御崎と間宮は視線を交わし、うなずき合うとその結界を同時に解き放った。
「凍れやっ!!」
膨れ上がり屋敷から飛び出そうとする影に向かって今野が叫ぶ。
実際に触れるわけではないが、そこに在る影を掴まんと腕を伸ばすと、その指先から冷気を発するように影の「熱」を奪ってゆく。
それに合わせて「影」はゆっくりとその行動を停止した。
「宮小路はん!今や!」
今野の呼び声と同時に、弾かれるように宮小路が影に切りかかる。
無駄な動きはまったくなく、「髭切」の切先は正確に「影」を襲い切り裂いた。
「ぐぉぉぉぉぉぉおおお・・・っ!!!」
「影」は断末魔の叫びを上げてその場に倒れる。
それと同時に5人を捕らえようともがいていた「腕」もするりと姿を消した。

◆傀儡の主
「まったく面白いものを見せてくれるな。」
久我は用心のためにと放っておいた式が、「影」が間宮達に襲い掛かると同時に別の存在が屋敷の中に現れたことを知らせてきた。
間宮達を襲った「影」はその新たな登場人物の傀儡に過ぎぬこともすぐにわかった。
そこで、他の面々と別れて1人で屋敷の中へその正体を見極めんと忍び込んだのである。
「この家の主の無念を利用して「血」を集めていたのか?」
久我は目の前に立つ傀儡の主に問い掛ける。
ジクジクと腐った畳を踏みしめて、一歩また一歩とそこにいるモノに近づく。
傀儡の主はくれない色の唇を笑いの形に歪めて、久我を見ている。
破れた天井から月明かりが差し込み、その姿を照らし出す。
美しい・・・女の姿をしたそれは金属的な声で久我に言った。
『ホホホ・・・おぬしは陰陽師か?』
女は久我を紅に光る瞳で見据えると声をあげて笑った。
『人間風情が何ができるというのじゃ?妾には見えるぞ、おぬしの中にちょろちょろと燃えておるか弱き力が。それを妾に奮うたところで何ができるというのじゃ?』
「お前は人間風情というが、バケモノはいつも人に倒されてきた。そう言うお前も同じく滅ぶ運命ではないのか?」
久我がにやりと笑うと、表の方で断末魔の声が聞こえた。
「ほら、お前の傀儡は倒されたようだぞ。次は何を見せてくれるのだ?」
『おのれ・・・人間風情が小ざかしい・・・』
ゆらりと月光のなかに蜻蛉のような「気」が女から立ち昇る。
『妾の爪で八つ裂きにしてくれようぞ・・・』
「バケモノの力が人の知恵に勝てるものかな?」
久我は怒りに震える女に向かい不敵な笑みを浮かべて言い放った。
『何を抜かすかっ!』
女の爪がグゥンッと迫るのを、久我は寸前でかわした。
そしてふたふりめが久我を襲わんと振り上げられた時、背後から黒い影が女に向かって躍りかかった!

「義雅さんっ!」
部屋に飛び込んだ時、間宮の目の前では危惧していた状態が繰り広げられていた。
主である久我にモノノケの女が襲い掛かっていたのだ。
間宮は咄嗟に女に向けて己の式を放った!
『小癪なっ!』
女は飛び掛ってきた黒豹を振り上げた手で払い落とす。
しかし、黒豹はしなやかな動きで着地すると、再び女に襲い掛からんと態勢を整えなおす。
「間宮、俺が動きを止める。その隙を狙え。」
再び女へと式をけしかけようとした間宮に、御崎が小声で囁いた。
間宮は了解。と眼でうなずく。
合図を受けた御崎も軽くうなずくと、女に向けて声高に叫びながら女の前にと飛び出した。
「こらっ!ババァッ!図に乗ってるんじゃねぇっ!」
『童が何のようじゃ?妾も見くびられたものよの・・・』
くくく・・・と喉の奥で女が笑う。
「子供だと思って甘く見てると、痛い目見るのは大人だぜっ!」
御崎はそう言うと数枚の符を取り出し、素早く印を切ると式を放った。
式は光の矢のように女へと襲い掛かる。
『子供だましぞ!』
女は腕を振るうと上から襲い掛かる式を振り払った。
「馬鹿めっ!」
女が腕を振り上げた瞬間をついて、御崎は女の懐に飛び込んだ。
『!』
御崎は女の胸の真中に一枚の符をあてる。
「今だ!やれっ!」
御崎の合図に間宮が式を放つ。
黒豹は弧を描いて地を離れると、女の喉元に食らいつく。
そして間宮がすっと手元で印を切ると、黒豹は更に食らいつく力を込め、その首を食いちぎった。
『おのれぇぇ・・・』
黒豹に咥えられた女の首がのろいの言葉を吐く。
『人間どもめェェェ・・・覚えておれよ・・・』
女の首はそういい残すと溶けるように消えうせる。
体も首と同じく姿を消した。

◆月明かりの下で
「俺の側を離れないで下さいと・・・申しましたよね?」
人食いの家からの帰り道、間宮は黙って前を歩く主に低い声で言った。
コンタクトで隠された瞳がちろりと光を宿す。
「そうだったか?」
久我は素知らぬ振りで言いのける。
「確かに申し上げました。」
「そうか。では聞こえなかったのかもしれんな。」
久我の少しも反省のない言い方に、間宮は再び胸の中で溜息をつく。
(この方に反省を求めても無駄なのだった・・・)
間宮はそっと目線を上げ、前を歩く男の背を見つめる。
何もなかったかのように飄々と歩く男は、何があってもこの態度を変えることは内容に思われる。
例え、その命を奪われんとするその一瞬でも・・・
そう思うと間宮は再び溜息をつきたい気持ちになる。
しかし、だからと言って何が変わるでもない。
間宮は久我を主とし、主を守るために全力を尽くす。
ただ、それだけだ。
「なんだ、浮かぬ顔だな。」
気がつくと立ち止まった久我が間宮の顔を見ている。
間宮はくっと表情を引き締め、「そんなことはありません。」と姿勢を正した。
それは間宮の久我に対する精一杯の抵抗なのかもしれない。
それを知ってか知らずか、久我はにやりと笑うと再び道を歩き始めたのだった。

The End ?
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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

0804 / 久我・義雅 / 男 / 53 / 陰陽師
0778 / 御崎・月斗 / 男 / 12 / 陰陽師
0527 / 今野・篤旗 / 男 / 18 / 大学生
0803 / 間宮・甲斐 / 男 / 22 / 陰陽師
0461 / 宮小路・皇騎 / 男 / 20 / 大学生

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■         ライター通信          ■
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こんにちは、今回は私の依頼をお引き受けくださり、ありがとうございました。
今回はこんな展開となりましたが、如何でしたでしょうか?
傍観者・・・という事で事件を見る立場に回っていた久我氏ですが、何か秘めたような感じのある興味深い人物でした。これからの活躍を期待しております。頑張ってください。
それではまた、どこかでお会いしましょう。
お疲れ様でした。