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<東京怪談ウェブゲーム ゴーストネットOFF>


呪歌
◆歌の噂
いつの世にも噂が多い「歌の呪い」
この歌のバックコーラスには歌手を恨んで死んだ女の声が入っている。
昔から時々リメイクされるその歌を歌うと死ぬ・・・
歌にまつわる呪いの噂は多い。

そして最近、囁かれ始めた噂もそんな歌の呪いだった。

『お菓子のCMで流れている曲を聞くと事故にあい死ぬ。』

実際に死んだものがいるのかどうかはわからない。
しかし、企業イメージを悪くすると言うことで、お菓子会社はそのCMソングをすぐに取りやめた。
そのことが噂に拍車をかけたのかもしれない。
そのCMソングは噂と共にネット中を駆け巡り、ついに犠牲者を出したと言う書き込みがなされるようになった。

投稿者:MINORI
友達が歌の呪いで死んでしまいました。
あの噂は本当です。
友達は噂を信じずに、あの歌を歌った翌日に突然死んでしまいました。
皆さん歌わないようにしてください。気をつけてください。

「・・・ほんとなのかしら?」
雫は書き込みをながめながら言う。
歌は元々呪術的なものだ。それによって呪われると言うことはありえるかもしれない。
突然死んでしまったというのも、なんだか呪いの気配を感じさせる。
これは調べてみる価値があるかもしれない。
「カラオケで気持ちよく歌って、いきなり呪われちゃうとか嫌だもんね。」
そううなずくと雫は調査隊の有志を募ることに決めたのだった。

◆疑惑
結城 凛はその書き込みを見て嫌な「予感」のようなものを感じていた。
この書き込みに眼が止まったのは偶然ではない。
以前、邪悪な存在と対峙して以来、「死」という物を「見極める」ことができるようになったのかもしれない。

この書き込みには確かに「死」の気配がある。

「・・・死因については触れられていないわね。」
結城は突然死に関する症例を検索しながら、書き込みに該当するような検死体がなかったか検索を始めた。
医療従事者のためのデータバンクを検索すると数件の該当症例がヒットする。
「原因不明ではないのね・・・心不全・・・」
個人データがわからないために絞り込むことは出来ないが、どれも心臓に関係することで死亡しているようだ。
「循環器系の通院歴のない健康な10代の人間がいきなり心停止する・・・?」
しかも一人ではない。
これが全て例の歌と関係していたら・・・?
結城はゾクリとするものを背中に感じる。
「何とかして情報を絞り込めないかしら・・・」
個人情報もなく、BBSの書き込みだけではこれ以上は推測でしかない。
しかし、これ以上を探るスキルが結城にはない。
どうしたらいいのか・・・結城がしばし考え込んでいると、不意に見ていたPCモニターの画面が切り替わった。
「!」
結城はそこに映し出された少女の画像を見て目を見開く。
「あなたは・・・!」
『困ってるようね?』
モニターに映る少女・・・アリスは鮮明な声で結城に語りかけてきた。
彼女が接続しているのを逆探知して侵入してきたのだろう。彼女ならそのくらい容易いことだと結城は納得した。
「また、貴方の仕業なの?」
『何でも人が死ぬと私たちのせいにするのはやめて欲しいわ。』
結城の言葉にアリスはにやりと笑う。
こういう仕草がひどく大人びて見える。見た目は小学生位の女の子なのに、仕草の端々に違和感を感じるほどの大人びた気配がある。
もしかしたら、年齢通りの外見ではないのかもしれない。
『私はこんな粗雑な事はしないわ。スリープウォーカーも・・・よ。』
「では誰が・・・」
『さぁね。でもこれは呪詛ではないわ。』
アリスは苦い顔で言う。
『スリープウォーカーがそう言うんだから間違いないわ。』
「貴方たちは・・・何を知ってるの?」
結城はアリスの様子を見ていて慎重にたずねた。
アリスの様子を見ると何処からか結城の様子は見ているようだが、それが特定できないのとカメラ越しでは結城の「奥の手」が効くかどうかがわからない。
多分、アリスもそれを警戒して直接接触してこないのかもしれない。
『呪詛のように見せかけた死を呼ぶ歌があって、本当に死んだ人間がいる・・・ということだけよ。』
「その歌はCM曲?」
『それを調べてどうするの?』
アリスは逆に問い返してきた。
「命を弄ぶことは断じて許せない。これ以上犠牲者が出る前に止めさせるのよ。」
結城はギリッと拳を握り締めて言った。
どんな目的が在れ、人の命を勝手に弄ぶことは許せない。
『この歌が話題になって利益を得たのは意外にも製菓会社よ。話題の御菓子はどんなものか・・・マイナスの効果が逆手にでたのね。』
そう言うと意味ありげな笑みを浮かべる。
アリスは遠まわしに製菓会社のやらせだと言っているのだ。
しかし、この少女の言うことを何処まで信用していいのかがわからない。
『行ってみればわかるわ。貴方の目には真実が映るでしょ?』
そう言うとアリスは一方的に通信を打ち切る。
モニターにノイズが走りもとの画面へと戻った。
「・・・調べてみるしかなさそうね。」
結城はそう言うとモニターのスイッチを切った。

◆言霊の響き
空木 栖はBBSの書き込みを見て、疑問を感じていた。
「口ずさむだけで死にいたる呪詛・・・」
いくら呪術的な歌でも、何も知らない素人がただ歌っただけで死亡するだろうか?
書き込みから得られる情報は少ないが、違和感を感じるには十分だ。
しかし、書き込んだ人間を特定するような情報はない。
友人の死が真実かどうかもわからない。
「歌の方から調べた方が良さそうだな。」
空木は慣れた手つきでキーボードを叩くと、モニターには検索されたデータが並ぶ。
よほど噂になっているらしく、CMが打ち切られた今でもネット上ではその話題で溢れているようだ。
歌詞はすぐに見つかった。
「・・・この歌詞は・・・」
空木は一通り歌詞に目を通して眉をひそめた。
その歌詞はCM専用に書き下ろされたらしいもので、なんと言うか・・・子供の歌う変な替え歌のようなものだった。
「これにどんな節がつけば人が死ぬのやら・・・」
小説家であり、言霊を自在に操る空木は「言葉」のエキスパートだ。
どう考えても不可能だとしか言いようがない。この歌詞を何回繰り返しても虫も死ななそうだ。
しかし、術は歌詞と曲が揃って発動すると言う可能性もある。
空木はさらに検索条件を絞り込み、CM曲をできるだけ放映時と同じクオリティで録音した曲データを探した。
製菓会社のほうでは当然手に入らず、少しアングラなサイトで誰かが録音したものをデータ化して掲載していた。
圧縮されたデータをダウンロードし解凍する。
そして、曲を再生する時に一瞬悩んだが、ヘッドホンを使用することにした。
もしかしたら曲に仕組まれた術を食らってしまうかもしれないが、それに対抗する術を空木は持っている。
ヘッドホンをセットし軽く息を吸い込んでから、空木は再生を指示した。

曲がゆっくりと再生される。

TVで放映された時のカットだったのでわずか30秒程度の短いものだったが、空木はその曲の響きに違和感を感じた。
(これは・・・?)
繰り返し再生するが、聞けば聞くほど違和感を感じる。
「もしかしたら・・・」
空木はダウンロードした曲を解析にかける。
個人が所有する簡単な音楽作成ソフトでの解析だったが、明らかに曲に不必要な音が混ぜ込まれているのが波形になって現れた。
「サブミニナル・・・。」
その波形が意味するものが何なのか至急調べる必要だありそうだ。
そして、あらかじめこれは曲に組み込まれたものだとしたら、発注元であろう製菓会社も・・・

◆呪いの波形
結城はとりえず製菓会社の方へ行ってみようと支度をしていると電話が鳴った。
「もしもし?・・・あ、はい・・・」
でてみると、それは知人の研究者からだった。
セラピストと言うことで心理学や生理学にも通じている結城に解析してもらいたいデータがあるという。
今、ちょっと忙しいので・・・と断ろうかとも思ったが、何か予感めいたものがあり、そのデータをすぐに送ってもらうことにする。
メールで送られてきたデータは何かの曲を解析して音別に波形を出しているものだった。
その中のひとつに印がついており、その部分の音が人体に与える影響が知りたいのと言う。
「これは・・・」
なんと言う偶然だろうか。
そのデータは結城が追っている「お菓子のCM」の曲そのものだったのだ。
結城はそのデータの解析を依頼してきたと言う人物の連絡先を聞き、直接解析結果を報告する旨を伝えて電話を切った。

結城は送られてきた波形の音が体に与える影響を解析した。
間違いなくこの曲には神体に影響を与える音が隠されて組み込まれている。
「サブミニナルね・・・」
この音は耳で聞くことは不可能だが、聞いているうちに脳へ届き体へ影響を与える。
「心拍数の上昇・・・呼吸の低下・・・自律神経への影響が著しく現れるわ・・・」
結城はその解析結果にぞっとする。
さっき調べていた突然死をした症例に見事に当てはまる。
この曲を聞いてこうなったと言う証拠はないが・・・こんな偶然があるのだろうか?
「やはり大元へ乗り込まないとダメなようね。」
そして結城は今度こそ出かけるべく、データをしたためて支度を始めた。

◆死者の言葉
知人の研究者に曲の解析を依頼したあと、空木はなんとかして書き込みをしたMINORIと言う人物にあって話をすることは出来ないかと考えた。
しかし、膨大なデータが溢れるネットの中からその一人の情報を拾い上げることは容易ではない。
「これ以上は無理か・・・」
空木がそう呟いてキーを叩く手を止めようとした時、不意に電話が鳴り響いた。

それは結城 凛と名乗る女性から、依頼された音の解析結果が出たので・・・というものだった。
そして、電話の向うの結城は思いがけないデータを提供してくれた。
この音によって死亡したと考えられる突然死の症例があるのだという。
確定ではないので私の推測ですが・・・と結城は付け加えていたが、特殊ともいえる死亡例がCMの噂が流れてからの時期に集中しているのはおかしいと言う。
「やはり原因は歌でしたか。」
同じ件を調べていたと言う結城もその言葉に同意する。
そして、これから製菓会社のほうへ出向くのだがどうするか?と訪ねて来た。
「ご一緒します。俺も会社の方へは直接伺おうと思っていましたので。」
空木はそう言ってから待ち合わせ場所を会社前と決めると受話器を置いた。
「・・・さて、本陣突入ですね。」
空木はゆっくりと立ち上がりジャケットを羽織る。
「言霊を操る者として、放ってはおけないな。」
その瞳にちらりと冷たいものを光らせ、空木は部屋を後にした。

◆欲の果て
空木 栖と結城 凛は問題の製菓会社の前で落ち合うと、社内へと足を踏み入れた。
結城の研究者仲間のコネがあって、会社の研究開発部の人間から多分曲に一番関わっているだろう広報部に約束を取り付けることが出来たのだ。
「お約束している結城と申しますが、広報の飯島さんにお取次ぎ願いますか?」
飯島と言うのは広報部の部長だと言う。
受付には事前に連絡がきていたらしく、にこやかな微笑で応えると奥の応接室へと二人を案内した。

二人は通された応接室のソファに腰掛けると、目当ての人物は殆ど間をあけずに部屋のドアを叩いた。
「初めまして、広報部の飯島です。」
そう言って名刺を差し出す飯島の声を聞いて、結城と空木の二人は直感する。
それは互いがもつ能力が無意識のうちに告げたのかもしれない。
そして「CM曲のことでお伺いしました。」と告げた結城の言葉を聞いた飯島を見て、それは確信へ変わった。
間違いなく、曲に仕掛けを仕掛けたのはこの人物だ、と。

「CM曲に不審な点が見られるんです。」
結城はストレートに切り出した。
解析のした波形データをプリントアウトしたものを机の上に並べる。
「サブミニナル効果をご存知ですね?このCM曲にはその疑いがあります。」
「しかし、そのCMはもう打ち切られたもので・・・」
飯島は明らかに動揺した様子で言い訳を重ねる。
そしてその嘘を重ねれば重ねるほど、二人には真相が見えてくるのだ。
「いい加減になさった方がいい。貴方が言い分けるほど、全てが暴露されてゆく。」
空木は厳しい声で飯島に告げた。
「この歌の所為で人の命が失われている。その現実を貴方は見えていないのか?」
そう言うと空木は飯島の胸倉を掴みぐっと自分に引き寄せた。
そして怯える飯島の目をぐっと覗き込むようにして言った。
「真実を述べろ。その奥にある真実をここに語れ。」
空木の「力ある言葉」が飯島の奥に届く。
その言葉は命令となり、飯島の口を開かせた。
それは催眠術にも似た空木の力なのかもしれない。
「あ・・・ぁ・・・俺は・・・」
飯島は己の罪を自ら暴露した。

噂を利用して話題性を高め好奇心をひくつもりだったこと。
ある程度の効果がなくては噂にはならないので、曲に「仕掛け」をしたこと。
その効果が出たらCMを打ち切り、信憑性を高めるように噂を煽ったこと・・・。

「何てことを・・・」
飯島の告白に結城も怒りをあらわにする。
「そんな軽い気持ちで何人の人間の命が失われたと思ってるんですか・・・」
「違法な事じゃない・・・そ、それに本当に死ぬとは思わなかったんだ・・・」
「確かに確実に死ぬには効果が薄いかもしれない。でも、疲れで身体能力が落ちていたり、通常生活では気がつかないほどの潜在的な疾患を秘めている人間の命を奪うには十分すぎる悪意よ!」
結城は静かに、しかし震えるほどの怒りを込めて言った。
「貴方は生涯悪夢に苦しむのよ。瞳を閉じるたびに貴方が殺した人たちの事を思い出すがいい。」
そして、かけていたサングラスを外すと表情のない冷たい光の眼で飯島の目を深く覗き込んだ。

◆解呪
結城の邪眼に囚われ、意識を失った飯島を置いて二人は会社を後にした。

「あの人は本当に一生悪夢の中で暮らすのですか?」
口数も少なく道を歩いていると、空木が静かにたずねた。
「いいえ。そこまで深い暗示はかけていないわ。しばらく眠るたびに悪夢に苦しむでしょうけど・・・」
結城はどこか沈んだ面持で言った。
飯島を苦しめても死んでしまった人間は生き返らない。
「こんなことがあっても、法律で裁くことも何も出来ない・・・かと言って私が彼を殺す訳には行かない・・・」
節目がちに言う結城を、空木は興味深げに眺めた。
そしてふっと唇だけで笑うような涼しげな笑みを浮かべると言った。
「呪いは我が身に返るモノ。彼らのやった呪いは彼らのもとへ。噂は彼らのもとへ返るのです。」
「?」
空木の言葉の意味を掴みかねて、結城は空木の顔を見やる。
空木は静かに少し微笑んだだけで、それ以上その言葉について説明することはなかった。

その時、結城は空木の言葉の意味がわからなかったのだが、後日その言葉の意味を知ることとなった。

「これって・・・」
しばらくたったある朝、結城は新聞を広げて驚きに目を見開いた。
新聞の傍らに記載された見出しは『製菓会社倒産』。
例の製菓会社だった。
記事に目を通すと、製菓会社は「ここの御菓子は不味い」と言う噂がインターネットで爆発的に広がり、それが原因で売上が急激に落ち込み倒産に至ったのだと言う。
以前よりCM曲を聞くと死ぬ等のよくない噂があったことも、不買への動きへ拍車をかけたものと見られる・・・
そんな記事を読みながら、結城はふと一緒にいた男の涼しげな顔を思い出した。
「言霊使いの言葉の威力はすごいのかもしれないわね。」
そう呟くと結城は新聞を机の上に置いた。

呪いは我が身に返り、噂で命を失うこととなった。
こうして歪な現代の呪いは幕を閉じることとなったのであった。

The End ?
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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

0884 / 結城・凛 / 女 / 24 / 邪眼使い
0723 / 空木・栖 / 男 / 999 / 小説家

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■         ライター通信          ■
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今日は初めまして。今回は私の以来をお引き受けくださり、ありがとうございました。
今回このような展開となりましたが、如何でしたでしょうか?
クールで物静かだけど、少しおちゃめ?なところがあるイメージでお預かりさせていただきました。これからの空木さんの活躍も楽しみにしております。どうぞ、頑張ってください。
それでは、またどこかでお会いしましょう。
お疲れ様でした。