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<東京怪談ウェブゲーム ゴーストネットOFF>


死神の住むサイト

Preview

「なにこれ?」
 今日も今日とてゴーストネットの掲示板をチェックしていた瀬名雫は、新たに投稿された書き込みの件名を見て、思わず声を上げてしまった。近くにいた連中は、何事が起きたかとわらわら寄ってくる。
「あのね、これ見て」
 そんな周囲の視線が雫が指差した画面に釘付けになる。
 そこにはこう書かれていた。

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[666] Subject:死神が住んでるサイトって知ってる? Name:unknown
初めまして。私、この前すごいサイト見つけちゃった。死神が住んで
るサイトっていうんだけど、そこの管理者の日記に色んな人の名前が
載っててね。管理者が魂を狩ってきます、っていう書き込みを名前と
一緒にすると、ホントにその名前の人が死んじゃうんだって。
最初は私もインチキだぁ〜とかって笑ってたんだけど、そのうち色ん
な人がサイトの掲示板に殺して欲しい人の名前を書き込むようになっ
ちゃって…で、その名前の人も魂を狩るリストに載っちゃったの。そ
したらホントにその名前の人、死んじゃったんだって。掲示板に嬉し
そうに書き込みしてるの、見ちゃったし。
どうしよう、この人、ホントに死神なのかなぁ〜?
一応、サイトのアドレスを載せておくね。
http://www.***.com/*****/
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「ねえ、どう思う? これって、やっぱホントなのかな?」
 雫はそう言って、周りにいる連中をぐるりと見渡した。





 淡い光を放つモニターを前に、腕組みをした男が軽く苦笑を洩らす。
 画面に表示された掲示板の書き込み内容、書き込みする者達への侮蔑の意が、男の口元を醜く歪める。普段なら厳つく無骨ながらも人懐っこさを垣間見せる風貌だったが、今は酷く冷たい印象を与えた。
 男の名は少女遊郷。
 政府公認の退魔専門刀鍛冶師で、その筋では著名な人物である。彼自身、剣術・古流柔術の達人で鍛え上げた体格を持ち、その剛力は常人をはるかに凌駕するレベルだ。
 そしてもう一つ。特異とも言える彼の体質を挙げるならば、あらゆる超常能力を無効にする反能力とでも呼ぶべき力がある。その力がある故に、彼自身裏の社会に度々身を置く形になったのだが。
「くだらなすぎるぜ」
 吐き捨てるように呟く一言。
 殺したい人間がいる。だが、自分の手を汚したくない。だから代わりに手を下してくれる人間に頼む。そんな保身とも言うべき人間のエゴが、この掲示板では幾つも繰り広げられていた。
「他力本願ってヤツもここまでくるとさすがだな」
 苦々しい思いに胸がムカムカする。裏の世界に生きる彼にとって、覚悟のない人間のそんな身勝手な考えに呆れるばかりだ。
 殺したい人間がいるなら自分でやれ。出来ないなら初めっからそんな事を考えるな。
「……だがまあ」
 こんな阿呆なサイトがあるっていうのも一つの原因か。
 そう思って別人を装い、彼は自分の名を試しに掲示板へ書き込んでみた。そこで一つ解った事がある。
 サイトの掲示板と、管理人の日記。
 どういう理由かは知らないが、必ずしも掲示板に載った名前全員が、管理人の『魂刈り』リストに載るとは限らないという事だ。何度も書き込んだからとか、恨み辛みを多く書き綴ったからとか一切関係なく、リストに載る名前はまったくのランダムだった。
 更に管理人の日記の書き方も巧妙だ。「魂を刈ってきた」ではなく、「魂を刈ってきます」としてあるところだ。実際、名前が載っている連中を調べたところ、殆どが死亡していた−−死因は自殺・他殺・事故と多彩だった−−が、まだ生きている人間も確かにいるのだ。つまり、確実に相手が死ぬとは限らず、その事を示唆する意味での「狩ってきます」と書いているのだろう。

 −−そして、今日。
 書き込んだ自分の名前がリストに載った。
 おそらく近い内に、日記の方へ自分の魂を狩りに来るメッセージが書かれるだろう。
(さて、鬼が出るか蛇が出るか)
 管理人の正体はなんなのか。
 その答えを知ることをなんとなく楽しんでいる自分に、郷は苦笑を禁じ得なかった。


CASE.1〜ノゾミ〜

 奇妙な気配だ。
 時折感じる背後からの視線に、郷は何度か足を止めた。
 職業柄、妖の気配を何度も感じた事がある。まして、現在共に暮らす相棒は人外の存在だ。どれだけ雑踏に紛れようが、間違える筈がない。
 だが、今自分を見ている視線から感じるのは、妖とも人ともとれる二つの気配が混じったものだった。
(どうやら来たようだな)
 口元に浮かぶ笑み。
 元々好戦的な性格ではないが、売られた喧嘩は買うタイプだ。久々に暴れ回るのも悪くない。敢えて危険な端を渡ろうとする自分を、相棒は一体なんて言うだろうな。
 そんな悪戯めいた思いが頭を過ぎる。
 そうして視線の方に振り返ろうとした瞬間−−

 広がる漆黒の地平。何処までも続く暗闇。自分以外の人気はなく、ポツリとただ一人きり。
(結界か?)
 突然の出来事に最初こそ驚いたものの、事前にある程度予感していた為、郷はすぐ自分を取り戻した。あまり細かい事を気にしない性格は、どうやら度胸もかなりのものらしい。
 慌てる様子もなく、その視線がぐるりと辺りを見渡す。
 他人の気配はない、とさっきは思ったが、どうやら勘違いだったようだ。視線を固定した先を見据え、郷は身体ごとそちらを向いた。
「……管理人のお出ましか」
 闇の中、ひっそりと佇む姿。その素顔を隠すようにフードを深く被り、全身を漆黒のマントに身を包んでいる。
 一般に『死神』と称される格好そのままに、思わず苦笑を禁じ得ない。この場の雰囲気といい、どこまでも徹底したやり方だ。生憎その程度で恐怖する心など持ち合わせない郷だが、臨場感は十分すぎる程感じていた。
(さて−−どうでる?)
 相手の出方が判らない以上、こちらから迂闊に手は出せない。やはり無用な戦闘は避けておくべきだろう。
 沈黙したまま近付いてくる『死神』に、郷は心持ち身構える。
「お前が『死神』か?」
 その問いに黒マントは答えず、ゆっくりと間を詰める。そうして目の前にやって来た姿を、郷は用心深く睨んだ。
 元々辺りが闇だからだろうか、こんなにすぐ近くにいてもマントの下の顔は影になって見えない。ぽっかりと空いた空間が、まるで全てを吸い込むブラックホールのように感じる。どこか薄ら寒さを覚え、思わず肩を震わせた。
「おい、お前−−」
「貴方ハ何ヲ望ム?」
 郷の科白を遮るように響いた声。耳から聞こえたというよりは、直接脳裏に届いたそれは、どこか機械的な無機質なもの。明らかに人ではない声色。
 疑問に思うより先に浮かんできたのは、聞き込みで知ったある証言。
 名前が載ったにも関わらずいまだ健在な連中は、皆一様に口を揃えてこう言った。今、自分が一番に望んでいる事を体験した、と。まるで夢のような、だが確かに手応えのある現実だったと。
 そして、生き残った者達は、全員それが本物でないと気付いた瞬間、まるで夢から醒めたような感覚になったのだと言う。
「貴方ノ一番望ムモノハナニ?」
 再び聞こえる声。
 叶わない現実。諦めきれない夢。
(つまり−−そういう事かよ)
 郷の表情が呆れた笑みを刻む。生き残った人間は、相手の見せる夢(現実?)に打ち勝てた精神の持ち主。そして、おそらく大多数の人間は、その夢に魂ごと溺れてしまった心弱き者だったのだろう。
 だが、それも当然の結果かもしれない。見せられる夢がどんなものか知らないが、心の強い人間などホンの一握りに過ぎないのだから。
「チッ」
 郷は軽く舌打ちする。弱い人間に興味はない。だが、その弱みに突け込むような輩こそよっぽど気に入らない。
「貴方ノノゾミは−−」
「気に入らねぇな!」
 さっきまでの警戒心も忘れて、郷の手刀が真横に薙ぎ払われる。タイミング的にも避けるのは不可能な早さだ。
 獲った!
 そう確信した直後、だが手刀はなんの手応えもなく空を切っていた。腕に絡みつくのは、そこにいた黒マントだけ。まるでその中身が最初からなかったように。
「なにっ?!」
 驚く郷は、咄嗟に身構えて辺りの気配を探る。
 だが、世界はどこまでも闇が続くだけで、なんの気配も感じない。己の力に多少なりとも自信があった郷だが、相手がどうやって避けたのかすら判らないのはある意味恐怖だ。とはいえ、幾度も修羅場をくぐり抜けてきたのだ。これぐらいで動じる彼ではない。
 腕に絡みついたマントを無造作に捨て去り、もう一度辺りを見渡す。
 マントだけが残された現実。或いは、最初からその中身はなにもいなかったのか。
 そんな事がふと脳裏を過ぎった瞬間。
「何ガ−−ノゾミ?」
 不意に。
 背後に感じた気配。一瞬前までは確かに誰もいなかったその空間に『それ』は現れた。
 思わず硬直した郷の両肩にそっと腕を伸ばし、抱きつくように首へ回る。吐息が感じられる程耳元に近付く唇。
 郷は身動きが取れずにいた。首に回された腕がまるで『死神』の鎌のように感じられ。近付いた吐息が死を招く告知のように聞こえ。
 縋り付く背中に触れたそれに、生命の熱は一切感じない。声もさっきまでと同じでひどく無機質だ。
 だが、その声に郷の記憶はある人物を思い出す。
 それは彼自身が唯一認めた家族であり、恋人でもある者。
 ゴクリ。
 思わず生唾を飲み込んだ音が小さく響く。
「ソウ。貴方ノノゾミハ、ワタ−−」
「うぉぉぉ−−っ!」
 言い終える前に、押し寄せる不安を振り払った雄叫びが闇に響く。回されていた腕を思いきり振り払い、郷は後ろに振り向いた。
 そこにいたのは彼のよく知る人物で、だがここにいる筈のない顔。何故、と疑問に思うより先に驚愕が襲う。
 相手の口から零れようとするのは、彼の奥底の願望で。
「ワタシトイッ−−」
「消えろッ!」
 叫ぶ。
 繰り出された手刀。

 そして−−

 −−喧噪が蘇る。
 雑踏の波の中、郷は全力疾走したように荒く呼吸を繰り返していた。慌てて周囲を見回すが、闇の気配など微塵もない。陽光射す日常がそこにあるだけだ。
(夢、か……?)
 過ぎった考えをすぐに否定する。そんなはずはない。今、全身に伝う冷や汗がたかが幻如きであるとは思えない。
 ふと目にした腕時計。ガラスの表面が何故かヒビが入っている。どこかにぶつけたか、と考えたがすぐに思い直す。それは、さっき手刀を振り払った時に明らかに感じた手応えの証だと。
 どこか空恐ろしさを感じ、郷は思わず身震いする。
「するとなにか? あそこの管理人は、マジだったってことか?」
 思わずボソリと呟いた声。
 だが、それは誰に届くでもなく周囲の喧噪にかき消された。


Report

 あの後、すぐさま帰宅して例のサイトへアクセスしてみたが、出てきた表示は「サーバーが見つかりません」だった。何度か履歴で他のページも試してみたが結果は同じで、おそらくサーバー自体が消えたようだ。
「チッ」
 軽く舌打ちしてキーボードを乱雑に叩く。
 サイトが消えてしまった以上、これより調べる事は不可能だ。雫の掲示板も覗いてみたが、このサイトに関して何人かが報告した後、アクセス不可能になったと書き込みがあるだけだ。報告内容自体、彼が体験したのと殆ど同じようなものだったが。
「仕方ねぇ。とりあえず報告だけしとくか」
 そう言って彼はキーボードを叩き始めた。勿論、彼の望みについては省略した内容になっていたが。
(俺の望み、ねぇ……改めて自覚させられると恥ずかしいもんがあるな)
 胸に浮かぶ人物に思いを馳せながら、郷は口元に柔らかな笑みを浮かべた。


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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

0543/少女遊・郷(たかなし・あきら)/男/29/刀鍛冶

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■         ライター通信          ■
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大変お待たせいたしました。
この度は『死神の住むサイト』にご参加いただき、ありがとうございます。担当ライターの葉月十一です。
皆様どれも個性的なキャラクターばかりでしたので、今回は完全個別にて書かせていただきました。如何だったでしょうか。少しでも気に入って頂ければ嬉しいのですが。

少女遊郷様。初めての参加、ありがとうございます。
今回、このような結果になりましたがいかがでしょうか。
イメージ的に気のいい兄貴という感じで、非常に書きやすかったのです。もしキャラの言動や表現等で「こうした方がいい」などの意見がありましたら、遠慮なくテラコン等でお送り下さい。
それではまた、別の依頼でお会いできましたらよろしくお願いします。