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<東京怪談ウェブゲーム アトラス編集部>


三人人面犬を成す
〜 目撃証言 〜

月刊アトラスには、読者からの怪奇情報の投稿も多い。
とはいえ、その大半が単なる見間違いであったり、読者自身の妄想であったりするのは、他の同系統の雑誌とあまり変わらなかった。

「人面犬?」
そんな投稿のうちの一通を見て、三下は呆れたような声を出した。

人面犬。
文字通り、人の顔をした犬のことである。
一昔前に妙な流行を見せたことはあるが、最近ではすっかり噂も聞かなくなって久しい。
三下が手に取ったその投稿は、今や都市伝説の絶滅危惧種と言っても過言ではないその人面犬の目撃証言だったのである。

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

あれは会社から帰宅する途中のことです。

私は、まさに「とぼとぼ」といった感じで歩いている、やせこけて、薄汚れた野良犬を見つけました。

最初はただの野良犬だろうと思ったのですが、近づいてみると、何やら低い声でぶつぶつと呟いているのです。
その内容までは聞き取れませんでしたが、あれは断じて犬のうなり声などではありません。
明らかに、何かを呟いていました。

そこで、私はもう少しよく聞こうと、さらにそばへ寄ってみたのです。
そうしたら、その犬は私の方を振り返り――その顔は、明らかに邪悪な意志を持った人間のそれでした――私を睨み付けて、こう叫んだのです。
「お前の身体をよこせ!!」

私は逃げました。
とにかく、必死で逃げました。

何分か走ってから後ろを振り向いてみると、人面犬はまだはるか彼方を走っていました。
こちらの想像以上に衰えていて、もはや走るのも辛いようでした。

私がいつでも逃げられる準備をして遠くから見つめていると、人面犬はやがて諦めたようにまたとぼとぼとどこかへ去っていきました。

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

(結構詳しく書いてあるけど、信憑性は薄いな)
そう判断して、三下は次の投稿に目を通し……思わず硬直した。
次の投稿も、その次の投稿も、同じような人面犬の目撃証言だったのである。
しかも、目撃された場所は全て同一の地域であり、人面犬の特徴もほぼ一致している。
その上、三人の投稿者は年齢も職業もバラバラで、口裏を合わせている可能性はまずないように思えた。
(ひょっとしたら、本当に人面犬がいるんじゃないだろうか)
そう考えた三下は、慌てて編集長の麗香の所へ向かった。





三下の持ってきた三通の投稿に目を通すと、麗香は少し考えてからこう答えた。
「今時人面犬なんて、とは思うけど、調べてみたいのならそうしてもいいわよ」
「あ、ありがとうございますっ!」
久々に自分の企画が通ったことに感動したのか、三下は深々と頭を下げた。

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

〜 大山鳴動なんとやら 〜

それからおよそ二時間ほど後。
水野想司(みずの・そうじ)は三下たちより一足早く、人面犬が目撃されたと思われる場所に到着していた。
三下が人面犬の調査に関する許可をもらっていた時にたまたま編集部にいた彼は、とある理由から、三下たちよりも早く人面犬を発見して、その身柄を確保しようと思い立ったのである。

「さてと、人面犬はいないかなっ♪」
そんなことを言いながら、適当に辺りを探し回る想司。
だいたいの出現場所こそ先ほどの投稿を横からのぞき見て知ってはいるものの、それ以上の情報があるわけでもなければ、おびき出すなりなんなりするというわけでもない。
普通に考えれば、こんな探し方で人面犬が発見できるはずはなかった。

だが。
想司がそれらしい犬を発見したのは、捜索開始からわずか十数分ほど後のことだった。
「いたいたっ☆」
前方に「目標」を発見すると、彼は小走りでその後を追った。
そして彼と犬との距離が十メートルほどに近づいたとき、彼はその犬の顔――明らかに人相の悪い人間のそれだった――が、自分の方を睨み付けているのに気がついた。
「みーつけたっ♪」
想司は嬉しそうにそう言うと、逃げる暇も与えずに人面犬に飛びかかった。
人面犬も必死で逃げようとはしたが、想司のスピード、そしてパワーにかなうはずもなく、あっという間に取り押さえられてしまった。

と、そこで、想司はあることに気がついた。
よくよく見ると、想司が最初に見た人間の顔は、犬の顔が本来あるべき部分ではなく、後頭部にあったのである。
「ん? どうなってんの?」
不思議に思った想司が前の方――つまり、本来犬の顔があるべき場所――を見ると、そこにはちゃんと犬の顔がついている。
「えーっと?」
想司は予想外の出来事にしばし首をひねると、何やら思いついたように後頭部にある人間の顔をまじまじと見つめ、そしてぽつりと呟いた。
「これって、ひょっとして、人面疽?」
「ああそうだよ、どうせ俺は人面疽だよっ!」
不機嫌そうに人面疽が答えると、想司はきょとんとした顔で尋ねた。
「で、いったいどうしてそんな風になっちゃったのさ?」





人面疽の正体は、近所に住んでいた平凡なサラリーマンだった。
それまで平穏無事な人生を送っていた彼であったが、このところの不況のあおりを受けて人員整理の対象となり、二年ほど前にリストラ。
その後再就職もままならず、あげく藁にもすがる気持ちが災いして悪徳商法に引っかかって大損。
妻子には逃げられ、家財は借金返済のために売り払い、ついに何一つ希望が持てなくなった彼は、二週間ほど前に世の中の全てを呪いながら自ら命を絶ったのである。

その話を聞いて、想司は納得したように頷いた。
「その『世の中の全てを呪いながら』ってののせいで、こんな風になっちゃったんだろうねぇ☆」
しかし、まだ一つだけわからないことがある。
「でも、どうしてそんな野良犬の後頭部に?」
彼がそう尋ねると、人面疽は深いため息をついた。
「この犬は、私が職安に通っているときに、よく吠えられた犬だったんです。
 死ぬ間際に、なぜかこいつの顔が頭に浮かんで、それで、ああ、この野郎、って……」
「本当に、そこまでついてないのも珍しいよね♪」
なんとはなしに、想司がそう相づちを打つ。
すると、その一言が引き金となったのか、人面疽は今までため込んでいた愚痴を一気にこぼし始めた。
「そして、気がついたらこんな風になっていて……。
 他の人間が皆普通の身体でいるのがなんだかうらやましくて、悔しくて、それでつい『お前の身体をよこせ!』なんて言ってはみるものの、本当は他人の身体に移る方法なんか知らなくて……」
ぶつぶつぶつぶつと、延々と愚痴をこぼし続ける人面疽。
それを聞いているうちに、想司はだんだん腹が立ってきた。
「ひょっとすると、そのウジウジジメジメした考え方が、こういう結果を生んだのかも知れないねぇ☆」
彼は一言そう言うと、いきなり人面犬の首根っこを捕まえた。
「あ、あの、ちょっと!?」
突然のことに狼狽する人面犬。
それを引きずるようにして歩き出しながら、想司はこう続けた。
「本当は体力面の特訓だけで済ませるつもりだったんだけど、これはついでにその根性も叩き直した方がいいかもね♪」

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

〜 人面犬の恐怖 〜

ほとんど何の収穫もないまま、三下たちが人面犬の捜索を開始してから二週間が過ぎた。
「レイベルさん、一体どうしたらいいんでしょう」
すでに「あたふた」「おろおろ」の領域を通り越してしまったらしい三下が、泣きそうな声で尋ねる。
「どうしたらいいんでしょうって言われても。素直に何も見つかりませんでしたって報告すれば?」
レイベルはそう素っ気なく答えたが、もちろん三下にそんなことが出来るはずもない。
「二週間ですよ? これだけかけて成果ゼロじゃ、一体編集長になんて言われるか」
「それは私の知ったことじゃないわ。最初に調べようって言い出したのはあなたなんだし」

と、二人がそんなことを話していると、一人の少年が彼女らの方へ駆け寄ってきた。
「あっ、いたいたっ☆」
「ん? 私たちに何か用?」
レイベルが声をかけると、彼は満面の笑みを浮かべてこう言った。
「三下さんたち、人面犬探してるんだったよね?」
その言葉で、三下の表情に微かに希望が戻る。
「ひょっとして、何か知ってるのかい?」
彼がそう尋ねると、その少年――水野想司は楽しそうにこう答えた。
「うん。これから人面犬の所に案内してあげるよ♪」
それを聞くと、三下は安心したように思わずその場にへたり込んだ。
「本当かい!? 助かったぁ」
「窮すれば通ず、か。とにかく、よかったじゃない」
そんな彼の肩を軽く叩きながら、レイベルは思わず苦笑した。





二人が案内されたのは、何やら特撮ヒーロー番組の戦闘シーンででも出てきそうな荒れ地であった。
「想司くん? ここって、目撃証言のあった場所とは全然違うと思うんだけど」
当然といえば当然の疑問を三下が口にするが、想司は全く取り合わない。
「いいから、いいから☆」
そんな二人の様子を見て、レイベルはぽつりと呟いた。
「なんだか、イヤな予感がするんだけど」
そして、その直後に、彼女の「イヤな予感」は現実のものとなったのである。

「とおっ!」
かけ声も勇ましく、何者かが太陽を背にして大きく跳び、レイベルたちの前に着地した。
「な、何!?」
レイベルが目をこらすと、そこには二本の脚で大地を踏みしめ、腕を胸の前で組んだ、あまり人相のよくない、鋭い目つきの男――の顔をした犬の姿があった。
『人面犬!?』
思わず声をハモらせるレイベルと三下。
「いかにも」
人面犬はそう答えると、やおら右手の指――恐らく人差し指のつもりなのだろう――を三下に突きつけると、大声でこう言った。
「三下忠雄! いざ尋常に勝負!!」
「えええええええええっ!?」
三下は驚きの声を上げると、助けを求めるようにレイベルたちの方を見た。
「三下さん、ファイトっ♪」
隣で想司が無責任な声援を送る。
しかし、「ファイト」と言われたところで、この状態の三下が人面犬に勝てるとも思えない。
レイベルは「やれやれ」とばかりにため息をつくと、一歩前に進み出た。
「仕方がない。ここは私が相手をしてあげようか」
それを聞いて、人面犬は不敵な笑みを浮かべる。
「よかろう。しかし、女とはいえ手加減はせぬぞ」
「いいわよ。ただし、私も一切手加減はしないけど」
レイベルがそう答えたとき、想司が二人の間にやってきて、ルール(?)の説明を始めた。
「無制限一本勝負、先に戦闘不能になった方が負けだからねっ♪」
そして、どこからかゴングの音が聞こえ、それが文字通り戦いのゴングとなった。

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

〜 無制限一本勝負 レイベルVS人面犬 〜

「はあっ!」
ゴングの音と同時に、レイベルが一気に間合いを詰める。
人面犬は構えはしたものの動かない。
(私の力に気づいてないみたいね)
レイベルはそう判断すると、一撃で勝敗を決するべく、打ち下ろすようにしてパンチを放った。
彼女の怪力をもってすれば、例え人面犬がガードしようとしたとしても、ガードごとそれを粉砕するのは難しいことではない。そう判断してのことだった。
しかし、突然彼女の目の前から人面犬の姿がかき消え、そのパンチは空しく空を切った。
「!?」
「受けられる」ことは想定していても、「避けられる」ことは一切想定していない渾身のパンチだったため、レイベルは勢い余ってバランスを崩し、そのまま目の前の地面にパンチをたたき込んでしまう。
すると次の瞬間、付近一帯を震度三程度の揺れが襲った。
あまりに強力過ぎるパンチが、局地的地震を引き起こしたのである。

「なるほど、すさまじい威力」
背後から聞こえたその声に、レイベルは慌てて振り返った。
しかし、彼女の予想に反して、人面犬は自分から仕掛けようとするでもなく、初めに現れたときと同じように腕を組んだまま悠々とその場に立っていた。
「だが、当たらねば、どうということはない!」
そう言い放つ人面犬に、レイベルはきっぱりと宣言した。
「今度は当てる」





一方その頃。
三下と想司、そして金山武満の三人は、傍らになぜか用意されていた「放送席」に座って、二人の戦いを見つめていた。
しかも、本来ならば「戦う側」であったはずの三下を除く二人の前の机には、ご丁寧に「実況 水野想司」「解説 金山武満」と書かれたプレートが置かれており、さらに二人ともその役柄に完全にハマりきっている。
「さぁ始まりました、世紀の大決戦っ☆ はたして勝つのはどちらでしょうかっ♪」
「あの金髪の女性の力量がわからない以上は、何とも言えないでしょうな」
などと、想司が早口でまくし立てれば、武満は物知り顔でもっともらしいことを言う、といった具合である。
そんな中で一人だけ浮いているのが、ハマるべき役柄をもたない三下であった。
「あの、これは一体どういうことなんでしょうか?」
おそるおそる、彼が想司に尋ねる。
すると、想司はにこやかに笑ってこう答えた。
「どういうことって、三下さん人面犬と決闘して自分の潜在能力を引き出すつもりだったんじゃないの?」
「は?」
それを聞いて、三下の目が点になった。

実は、今回の騒動がここまで拡大した原因も、例によって例のごとく想司の勘違いにあった。
三下を「潜在能力を解放させたら自分に匹敵する修羅と化すであろう漢」であると考えている想司は、「三下が人面犬を探している」というだけの話を、「三下が(自身の潜在能力を覚醒させるために)人面犬を探し(出して、修行の相手にしようとし)ている」と、自分勝手に言葉を補って解釈してしまったのである。
その結果、「三下と人面犬が決闘しようとしている→今の人面犬では、三下の前に簡単に敗れ去ることは明白→人面犬を鍛え上げ、より楽しい死闘をコーディネイトしてあげる事こそ正しい漢のあり方」というとんでもない結論が導き出されたあげく、その結論によって行動を開始した想司によってあっさりと人面犬の身柄は確保され、そうとは知らない三下たちはいるはずのない人面犬を延々と探し続けるハメになったのであった。

「そ、そんな……それじゃ、今までの二週間は一体……」
意外な真相を聞かされて、三下はがっくりとうなだれた。
その様子を見て、武満が全然フォローになってないフォローを入れる。
「まぁ、人間生きていればいいこともありますよ」
「だと、いいんですけど」
そう言って三下がもう一度ため息をついたとき、想司がレイベルたちの方を見つめたまま言った。
「なんか、次の一撃で決着、って感じになってきたよ♪」





「これでっ!」
レイベルが八割の力で左フックを放つ。
しかし、それが人面犬をとらえることはない。
先ほどと同様、当たるかと思った瞬間に人面犬の姿はかき消える。
だが、今回はそれもレイベルにとっては計算の内だった。

目の前から消えたかと思うと、次の瞬間にはすでに背後に回っている。
ならば、目の前に一撃を放って起きつつ、次の瞬間振り向きざまに攻撃すればいいのではないか?
それが、レイベルの考えた作戦だった。
(今回も、恐らく後ろにいる!)
レイベルはそう考えて、身体をひねるようにしながら背後にいるはずの敵に向かって渾身の右を放った。

顔が後ろに向いた瞬間、自分の予想通りの場所に人面犬がいるのが視界に入る。
(勝った!)
レイベルがそう思った瞬間。
突然人面犬の身体が沈み込み、次いで天地が逆転した。
(投げられた!?)
レイベルがそのことに気づいたときには、すでにどうすることもできなかった。





レイベルの身体が、背中から思い切り地面に叩きつけられる。
その様子を見て、武満が興奮気味に叫んだ。
「出たっ! KUROGANEスペシャル!!」
KUROGANEスペシャル。
本来人面犬に「体育会系の精神」をたたき込むために呼ばれたはずの武満が、どさくさに紛れて教え込んだ背負い投げの変種で、「相手の力を利用して投げる」技である。
今回は怪獣の如き腕力を誇るレイベルの力を利用して投げたのだから、その威力は計り知れないものとなっていた。
レイベルは電車にでもはねられたかのように二度ほど低く弾むと、それきり倒れたまま動かなくなった。
「れ、レイベルさんっ!!」
その様子を見て、弾かれたように三下が飛び出していく。
と、その時、想司はあることに思い当たった。
「でもさぁ、金山さんって空手部だよね?
 なんで投げ技なんか研究してたの?」
「そ、それはだな、まぁ、そのうちわかる、気にするなっ!」
そう答えた武満の視線は、なぜかあらぬ方向を泳いでいた。





三下が慌てて駆け寄ったときには、すでにレイベルは息をしていなかった。
叩きつけられたショックで背骨が折れたのか、身体が曲がってはいけない場所で曲がってはいけない方向に曲がってしまっている。

声もなく、ただ呆然とその場にへたり込む三下。
その三下の肩を叩きながら、人面犬が半ば諭すように、そして半ば責めるようにこう言った。
「もともとはわしとお主との勝負だったはず。
 お主がそれを避けた故、かような結果と相成った。
 この娘の仇を討ちたいというならいつでも受けて立つが、どうする?」
とはいえ、もとより三下にそんな度胸があるはずもない。
しかし、逃げ帰ってこれこれこういうことになりましたと報告するような根性もないため、八方ふさがりとなった三下にはただその場にへたり込み続けるより他に術はなかった。
「臆病者め。これでは話にもならん」
人面犬が、吐き捨てるようにそう言って、彼らに背を向けたとき。
突然、すでに息絶えていたはずのレイベルが、ゆらりとその場に立ち上がった。
「…………!!」
予想外の出来事に、三下はただ口をぱくぱくさせている。
レイベルはそんな三下のことなど気にも留めずに、肩や首を回したりなどして調子を確かめると、一つ大きなため息をついた。
「あぁ、ひどい目にあった」
その声に、人面犬が驚いたように振り返る。
「……なんと!?」
そして、レイベルの姿が視界に入るやいなや、人面犬の顔が見る見る蒼白になっていった。
そんなことには全く気づかず、レイベルは人面犬の方を向いて苦笑した。
「まさか、投げられるとはね。でも、次は負けない」
人面犬の頭の中で「何か」が振り切れたのは、ちょうどその時だった。

「ぎゃあああああああ〜!! ゾンビだあぁ〜!!!」
そう一声叫ぶと、人面犬は目にも留まらぬ速さでいずこかへと逃げ去ってしまい、後には唖然としているレイベルと相変わらず口をぱくぱくさせている三下のみが残された。
「人のことをゾンビ呼ばわりするだなんて、失敬なヤツだな」
レイベルは一言そう呟いたが、その言葉はもちろん誰の耳にも届かなかった。





かくして、人面犬騒動はあっけない形で一応の幕切れを迎えたのであった。

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

〜 その後 〜

人面犬とレイベルの対決から、数日が過ぎた。

結局あの後再び想司に捕獲された人面犬は、「自分自身が明らかな心霊現象である人面疽がホラーが苦手では話にもならない」という理由で、「特訓の続き」として三日三晩に渡って延々とホラー映画を見せられていた。

ちょうど、想司の友人である森里しのぶが遊びに来たのはその時であった。
「想司くん、いる?」
そう言ってひょっこりと顔を出したしのぶが最初に見たものは……もちろん、人面犬であった。

誤解を避けるために言っておくと、このときの人面犬には彼女をおどかす意志など全くなかった。
しかし、いきなり人面犬が出てきただけでも普通の人間は驚くというのに、この人面犬はもともと人相があまりいい方ではなかったし、その上このときは数日に渡るホラービデオ責めですっかりやつれてしまっており、結果的に己自身のホラー度が倍増してしまっていた。

「きゃああああああぁぁ〜!!!」
思わず悲鳴を上げるしのぶ。
それを聞きつけた想司がやってきて、この状況を「人面犬がしのぶをおどかした」と解釈したことも、お約束通りと言えばお約束通りである。
「あっ、こいつ、しのぶをいじめたな!?」
そう言って身構える想司に、人面犬は一瞬戸惑いはしたものの、対決は避けられぬとみるや、すぐにKUROGANEスペシャルの構えに入った。

それを見て、今度は奥で待機していた武満の目が輝く。
想司には秘密にしていたことだが、実はこのKUROGANEスペシャル、もともとは彼が想司に対して使うことを前提として編み出された技であった。
前回の対決で純粋な力勝負ではかなわないということを悟った彼は、何とか想司に一泡吹かせるべく、「柔よく剛を制す」という発想にたどり着いたのである。

だが、そこにも一つ大きな落とし穴があった。
当たり前のことだが、投げるためにはまずつかまえなければならない。
しかし、想司のパンチは威力以上にそのスピードが脅威であり、銃弾以上の速さで炸裂するのだから、当然つかまえられるわけなどないのである。

そして、その結果。
「ぶひゃらっ!?」
人面犬は想司のパンチをまともに受けて吹っ飛び、そのままお空のお星様と消えた。
武満はそれを見て舌打ちを一つすると、次なる「水野想司対策」を考え始めるのであった。

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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】
0424/水野・想司/男性/14/吸血鬼ハンター
0606/レイベル・ラブ/女性/395/ストリートドクター

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■         ライター通信          ■
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・このノベルの構成について
このノベルは全部で五つのパートで構成されており、水野想司様の方とレイベル・ラブ様の方ではいくつかのパートが異なっておりますので、もしよろしければ相手の方の分もご覧になっていただけると幸いです。

・個別通信(水野想司様)
三度目のご参加ありがとうございました。
話の展開上、リクエストのあった黒須宵子ではなく、なぜか金山武満が前面に出てくる結果となってしまいましたが、いかがでしたでしょうか?
もし何かありましたら、遠慮なくツッコミいただけると幸いです。