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死神の住むサイト
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「なにこれ？」
今日も今日とてゴーストネットの掲示板をチェックしていた瀬名雫は、新たに投稿された書き込みの件名を見て、思わず声を上げてしまった。近くにいた連中は、何事が起きたかとわらわら寄ってくる。
「あのね、これ見て」
そんな周囲の視線が雫が指差した画面に釘付けになる。
そこにはこう書かれていた。
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[666] Subject:死神が住んでるサイトって知ってる？ Name:unknown
初めまして。私、この前すごいサイト見つけちゃった。死神が住んで
るサイトっていうんだけど、そこの管理者の日記に色んな人の名前が
載っててね。管理者が魂を狩ってきます、っていう書き込みを名前と
一緒にすると、ホントにその名前の人が死んじゃうんだって。
最初は私もインチキだぁ〜とかって笑ってたんだけど、そのうち色ん
な人がサイトの掲示板に殺して欲しい人の名前を書き込むようになっ
ちゃって…で、その名前の人も魂を狩るリストに載っちゃったの。そ
したらホントにその名前の人、死んじゃったんだって。掲示板に嬉し
そうに書き込みしてるの、見ちゃったし。
どうしよう、この人、ホントに死神なのかなぁ〜？
一応、サイトのアドレスを載せておくね。
http://www.***.com/*****/
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「ねえ、どう思う？ これって、やっぱホントなのかな？」
雫はそう言って、周りにいる連中をぐるりと見渡した。
◇
淡い光を放つモニターを前に、彼は慣れない手つきでキーを叩く。
画面に表示された掲示板の書き込みをなぞるように、同じ内容をレスの形で自分の名前に向けて書き込んだ。真偽のほどが定かでないとはいえ、こんなに多くの人間が書き込むのか。思わず溜息が零れる。
彼の名は真名神慶悟。
派手な服装に脱色した髪と一見軽そうな外見のこの青年は、性格もまた一部軽めな部分も見受けられるが、その実体は日々陰陽の道を極めんと食い扶持を稼ぐ凄腕の陰陽師である。
これまでに幾つもの事件を解決に導き、その日銭で日夜遊び歩く――もとい人の心の深淵を救済するべく活動していた。故に、彼の日常は貧乏暇なし――いや、金銭潔斎を努めている。
「とりあえず手っ取り早い方法でいくか」
（あまり時間もかけてられねぇしな）
そう心で嘯くのは、キーボードを触る慣れない手つきが如実に物語る。だがまあ、噂が真実としてこのまま死の螺旋を連ねる訳にもいくまい。そう考えたのも、また事実。
「ホントに『死神』かどうかは怪しいトコだがな」
可能性は幾らでもある。掲示板の書き込み。その中からピックアップされた名前。そして管理人の日記。
殺したい人間。死なせたい人間。そう考える人間が自分で出来ないから他者を頼ろうとする。それでは殺し屋と一緒だ。
「……だがまあ」
何かがいる事には間違いあるまい。現実に死人がいるのだから。
そう思ってサイトへ自分の名前を書き込んでみたのだ。あまり本名をこういう不特定多数の場に曝したくはなかったけどな。
サイトの掲示板と、管理人の日記。
よくよく見てみれば、あまり関連性がないのにすぐ気付いた。勿論『魂刈り』リストに載るのは、掲示板に書き込まれた名前からランダムに選ばれている。だが、それ以外からの名前もリストには掲載されているのだ。あるいは他に申告する方法があるのだろうか。
そしてもう一つ。管理人の日記の書き方も巧妙だ。「魂を刈ってきた」ではなく、「魂を刈ってきます」と記してある点だ。実際、名前が載っている連中を調べたところ、殆どが死亡していた――死因は自殺・他殺・事故と多彩だった――が、まだ生きている人間も確かにいるのだ。つまり、確実に相手が死ぬとは限らず、その事を示唆する意味での「刈ってきます」なのだろう。
――そして、今日。
書き込んだ自分の名前がリストに載った。
おそらく近い内に、日記の方へ自分の魂を狩りに来るメッセージが書かれるだろう。
（さて、どうなるかねぇ）
管理人の正体はなんなのか。
その答えを知ることをなんとなく楽しみにしている自分に、慶悟は苦笑するしかなかった。
CASE.3〜クグツ〜
奇妙な気配だ。
繁華街を歩いていた慶悟は、時折感じる視線に何度か足を止めた。
職業柄、妖の気配には何度も接した経験がある。どれだけの喧騒に紛れようと、彼らの気配はすぐに判る。それだけ彼にとっては馴染み深いものだ。
だが、今自分を見ている視線から感じるのは、そのどちらとも取れる気配が入り混じったようなものだった。
（どうやら来たようだな）
うっすらと浮かぶ笑み。
果たしてそれは正体を掴めるチャンスを得た喜びか、或いは余裕の優越か。どちらにしても彼にとっては好都合な展開だ。
そんな考えが脳裏を過ぎる。
そうして視線の方に振り返ろうとした瞬間――
広がる漆黒の地平。何処までも続く暗闇。自分以外の人気はなく、ポツリとただ一人きり。
（引きずり込んだか）
突然の出来事だったにも関わらず、あまり動じた気配はない。ある程度予想していた出来事であるし、こんなことでいちいち驚いていてはこの商売上がったりだ。
落ち着き払った様子で、周囲をグルリと見渡す。
他人の気配はない。さっきはそう思ったが、どうやら勘違いだったらしい。見回していた視線がある一点で止まり、慶悟は素早く身構えた。
「……どうやらお出ましか」
闇の中、ひっそりと佇む姿。その素顔を隠すようにフードを深く被り、全身を漆黒のマントに身を包んでいる。
一般に『死神』と称される格好そのままに、思わず眉根を顰めた。この場の雰囲気といい、どこまでも徹底したやり方だ。生憎この程度で恐怖する心など持ち合わせていない慶悟だが、伝わってくる圧迫感は本物だ。
（さて――どうするか…）
相手の出方が判らない以上、こちらからうかつに手は出せない。だが、あまりのんびりもしてられない筈だ。
沈黙したまま近付いてくる『死神』に、慶悟は無遠慮な嫌味を投げる。
「最近は『死神』の仕事も随分近代的になったもんだ」
そんな彼の言葉に返ってきたのは沈黙。相手はゆっくりと間を詰める。そうして目の前にやって来た姿を、彼は軽く一瞥した。
元々辺りが闇だからだろうか、こんなにすぐ近くにいてもマントの下の顔は影になって見えない。ぽっかりと空いた空間が、まるで全てを吸い込むブラックホールのように感じる。どこか奇妙な違和感を覚え、思わず肩を震わせた。
「おい、あんた――」
「貴方ハ何ヲ望ム？」
慶悟の科白を遮るように響いた声。耳から聞こえたというよりは、直接脳裏に届いたそれは、どこか機械的な無機質なもの。明らかに人でない声色。
疑問に思うよりも先に脳裏を通り抜けていく夢のような光景。
誰かが言ってたっけ。本人のもっとも望む姿を叶えてくれると。朧げながらに考えたそれも、今はとうに忘却の彼方。触れる大気は歓喜を促し、満ち足りた心がやがて慶吾の表情を至福に変える。
このままここで一生を過ごしたい。そう心が動かされた瞬間、慶悟の姿が二重に重なるように傍目からは見えた。
「貴方ノ望ムモノ――ソノ代価ハ貴方ノ魂」
再び聞こえた声。
同時に煌めく刃。闇の中に一閃。
（つまり――そういう事か）
慶悟がその刃で裂かれた瞬間、その身体が一枚の紙切れに変わった。予想だにしなかった結果に、『死神』も僅かにたじろいだようだ。思わず足が後ろに退いたのがその証拠だ。
人型に模した符。身代わり人形としてあらかじめ作っておいたその呪術に、相手はまんまと引っ掛かった。
「フッ」
シュッと擦る音。闇に灯る炎。照らした横顔。口にくわえた煙草にゆっくりと近付け、点火と同時に炎を消した。再び、暗闇。
「望ミノ代償ハ――」
「生憎と。そう易々とこの魂、くれてやる訳にはいかねぇな」
煙草を口の端にくわえたまま、ニッと悪戯めいた笑みを浮かべる。対峙したまま、今度は慶悟の方から相手に近付こうと一歩前に出た。
「悪戯に死を連ねたのは、望みの代償か」
一歩前に出る。一歩後に退く。二人の距離は一定のまま縮まらない。別にそれでも構わない。ただ、相手を追い詰める事が出来れば、と。目の前の相手ではない。その向こうにいるヤツだ。
「狩った魂はどうした？」
さっきまでの軽口から一転、低く凄みをきかせた恫喝。
だが、その声を合図にしたようにそれまでの均衡は崩れた。勢い込んで突っ込んできた相手が、その手にした鎌を大きく振るう。それを紙一重でかわして後方へ跳ぶが、何度となく刃が襲いくる。とはいえ、予測出来た行動に慶悟はなんなくかわした。
口にしていた煙草を手に移し、オレンジの燻火を闇に浮かべる。
次に彼がしたのは、ゆっくりと煙草の火で闇の中に一つの紋様を形作った。
そして次の瞬間。
「貴方ノ――望ミハ」
「答えはなしか」
答えたくないのか、或いは答えられないのか。おそらく後者だろうと思っている。
一目見た瞬間、その纏う気から慶悟には分かった。今目の前にいるのは、さっき自分が作った人形と同じく傀儡なのだろうと。
ならば、今自分がするべき事は、後ろに控えた相手を引きずり出す事だ。そう考え、相手を挑発する意味で煙草を手持ちの武器にした。
「ならばその身でその報い、受けてもらおう」
方陣が完成する。
同時に流れる祝詞。
『我、五行の一火気を奉じ、汝を討ち滅ぼさん』
闇に浮かぶ印が発光し、それは紅蓮の炎の渦へと変わる。渦は瞬く間に『死神』の身体を捕らえ、その内へと引きずり込んだ。断末魔の悲鳴すらなく、闇の衣はあっという間に焼き尽くされた。後に残ったのは、僅かな塵のみ。
「さて……そろそろ出てきたらどうなんだ？」
そう口にした直後。
辺りの闇が濃くなった気がした。いや、ただの錯覚だけじゃない。明らかに手足の感覚が鈍くなっている。
どうやらこちらの動きを封じると同時に、気配をも隠す手段らしい。
「このまま逃がすのもしゃくに障るが…」
（これ以上追い詰めるには、さすがに無理か）
なんにせよ相手の情報が絶対的に足りない。
ひとまずここは一旦退くか。そう結論づける。
そして――
――カーテンの隙間から陽光が射す。
はたと起き上がると、慶悟は素早く今いる場所を確認した。見慣れた壁、見慣れた天井、窓から見える見慣れた景色。そこは、いつも寝泊まりする見慣れた自分の部屋だった。
（夢、てワケじゃねぇよな……）
寝ていた場所が己のベッドであるだけに、その可能性も拭いきれない。
ふと右手を見ると、半分ほど灰になった煙草を指に挟んでいた。慌てて灰皿を探して灰を始末して、一緒に煙草も押し潰した。自分に寝煙草の趣味はない。その辺りはキッチリしている筈だ。
「……とりあえず夢じゃねぇワケだ」
相手の傀儡を倒したのはいいが、肝心の黒幕まで辿り着けなかったのは少し悔しい。再びベッドに寝っ転がりながら、思い出した悔しさに思わず苦虫を噛み潰した。
Report
表示される「サーバーが見つかりません」を前に、少しだけホッとした気持ちになった。同じアドレスを何度か更新してみたが同様で、やはりサーバー自体が消えていると思っていいだろう。
「これで少しは、書き込んだ連中も考えを改めるかね」
口にはするものの、別に本気で信じてはいない。むしろそう信じたい願望の方が強い。
人の心は弱い。その弱さ故、安易に闇に囚われてしまいがちだ。だけど、何者にも負けない強さもまた人の心。幾多もの人の心を覗いた慶悟にはその事をよく知っている。
だから。
「とりあえず簡単に報告だけしとくか」
そして、無念にも狩られてしまった魂達には弔いの祈念を。
そう胸中で呟いて、慶悟はパソコンの前で軽く黙祷を捧げた。
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■ 登場人物（この物語に登場した人物の一覧） ■
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【整理番号 ／ ＰＣ名 ／ 性別 ／ 年齢 ／ 職業】
0389／真名神・慶悟（まながみ・けいご）／男／２０／陰陽師
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■ ライター通信 ■
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大変お待たせいたしました。
この度は『死神の住むサイト』にご参加いただき、ありがとうございます。担当ライターの葉月十一です。
皆様どれも個性的なキャラクターばかりでしたので、今回は完全個別にて書かせていただきました。如何だったでしょうか。少しでも気に入って頂ければ嬉しいのですが。
真名神慶悟様。初めての参加、ありがとうございます。
今回、参加者中唯一の特殊能力の持ち主でしたので、このような結果になりました。いかがだったでしょうか。
ちょっと軽めの気のいい兄ちゃんという印象を受けたので、文体を意識して変えてみました。もしキャラの言動で意見等ありましたら、遠慮なくおっしゃって下さい。
それではまた、別の依頼でお会いできましたらよろしくお願いします。
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