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<東京怪談ウェブゲーム ゴーストネットOFF>


神守高校七不思議―会長の受難―

>オープニング
 駅から20分程の場所に今年30周年を向かえる高校がある。
 私立神守高校。
 決して名門とは言えない学校だが、一つ有名なことがあった。生徒会選挙である。
 この学校の選挙に立候補や推薦はない。
 投票日に生徒全員が相応しいと思う者の名前を投票し、もっとも得票数の多かった者が生徒会長を押し付けられるのだ。

「で、押し付けられて会長やってるんだけど」
 KAIというHNの相手は君にそう話しかける…とはいえ、それはチャットの話。
 KAIはここ2週間程で知合ったチャット仲間だ。
「投書があって、学園七不思議の調査をしろって言われてんだよ。
 それも特に砂場に浮かんだ人型の話を ;´д`)」
 朝、砂場を見に行くと砂の色が一部だけ変わり、綺麗な人型になっているという。
 そして最近、それが頻繁に見られるらしいのだ。
「誰かの悪戯だと思うんだけど、ほっとけないし手伝ってくれないか?ジュースの一本ぐらいは奢るから♪(´ω`)」

「おお、やった!サンキュー♪じゃ、さ。何処で待ち合わせるかだけど…」


>神守高校 裏庭

 白いセーラー服の胸元で、赤いスカーフが揺れる。
 今時の高校生には珍しくなった黒髪に一本の三つ編という姿で、滝沢・百合子(たきざわ・ゆりこ)は神守高校の裏庭へと来ていた。
 神守高校からそう遠くはない進学校へ通っている百合子は、KAIこと島津・海(しまづ・かい)から話を聞き、夜になったら神守高校へ忍び込むつもりでいた。
 しかし、まったく知らない場所へ忍び込むのはなかなかと大変だ。
 そこで下調べを兼ねて海に会いに来たのである。
 予めメールで連絡をいれ打ち合わせてあるので、もし教師に見つかっても
『高校合同学園祭のことで生徒会長と約束がある』と伝えれば問題ないことになっている。
 竹刀の入った袋を肩に担ぎ直し、百合子は裏庭を見回す。
 壁はただのコンクリート壁。裏庭には樹木も沢山あり、それらの添え木もある。外側から侵入することさえ出来れば中から出るのは楽そうだ。
「そろそろ時間だし、KAI君に会いに行くとしましょうか」
 満足げに頷いて海との待ち合わせ場所である生徒用玄関へと歩き出し、ふと、校舎を見上げた。
 何かが呼んでいるような声がした、いや声がしたような気がしたのだ。
 それは自分を呼んでいるようで、でも他の誰かのようで。
 何処か、切ない。
(……なにかしら。でも…私の事じゃないような気がする)
 耳を澄ませてみたが、もう呼び声は聞えなかった。
(空耳だったのかしら……ああ、いけない。KAI君待たせてるんだった)
 何か惹かれるものを感じながらも、百合子はその場を後にした。 

>神守高校 砂場

 既に日も落ちかけたグラウンドで海を含む4名―氷澄・要(いずみ・かなめ)、氷無月・亜衣(ひなづき・あい)、滝沢・百合子(たきざわ・ゆりこ)―は砂場へと来ていた。
 色の変わった砂は日中までに他の砂と変わらない色へ変化してしまう。
 その為、今はどう見てもただの砂場だった。
「チャットで頼んだこと、試してみてくれた?」
 海を振り返って問う百合子に、神妙な顔をして海は頷く。
「昨日やってみた。それで今朝見に来たら、シートは少し退かされていたよ。」
「なんだ。それならきっと」
「でも、変だったんだ」
 きっと悪戯だと言いかけた百合子を遮るように、海は言葉を続ける。
「退かされていたというより、ずらされていたって言う方が正しいかもしれない」
 ポケットからハンカチを取り出すと掌の上に広げ、
「こうやって広げた真ん中を摘まんで、少し引き上げるだろ。
 それで手を離すと…」 
 説明しながら真ん中を摘み上げられたハンカチは、摘まんでいた指が離れると持ち上げた部分が僅かだが横に倒れ、その形を留めている。
「丁度こんな感じだった。
 でも、シートには穴も何もなかったし、シートの上を歩いて真ん中へ行き、真ん中を持ち上げるって言うのも変だろ。
 それも砂場に仕掛けをした後でさ」
「今朝も砂の色は変わってたのか」
 頷く海を見て要は言葉を続ける。
「俺の推理だと、会長になったKAIを試すために誰かがやってるんじゃないかと思うんだけど。」
「KAI君を試す?」
「砂場の砂の色が変わっているだけで、別にこれといった被害は出てないだろ。それに誰が生徒会へ投書したのか、まったくわからない。」
 生徒会への投書は無記名でもOKなのである。
「それに投書を海に見せて貰ったが、内容が『七不思議の一つ砂場の人型。調べて下さい。朝に砂場に行けばわかります』だぜ?
 調査を頼むにしては妙な文面だ。」
「そうね。砂場の人型や朝にって指定までしてるのに、出してる情報が少ない気がする」
「誰が何の為に投書をしたのか、それが解ればいいんだけどな…」
 いきなり情報がぽんと湧いてくる訳でもないので、自然に会話が途切れてしまい、要は話題を変える。
「KAI、前の生徒会長について話を聞きたいんだけどいいか?」
 海が頷いて応じる。
「でもここで立ち話もなんだし…生徒会室へ行かないか?お茶ぐらいなら出せるしさ」

 3人が話し合っている間、少し離れた場所で亜衣は小さく呪文を唱えていた。
 祖母から教わった魔法の一つ、元素魔法。
 元素魔法というものには大きく二つ系統があるが、亜衣のは元素そのものを使用する系統ではなく、元素を司る四大精霊に呼び掛けて力を借りる方の系統だ。
 その為呪文は精霊達への呼びかけとなる。
 今、亜衣は大地の精霊に呼びかけて砂場に異常がないかどうかを調べさせようとしていた。
 だが。
「亜衣さん、どうした?」
 驚愕の表情を浮かべた亜衣に、要が声をかける。
「な、なんでもないの。砂場に何かあったりするかなって思ってただけで」
「でも顔色良くないぞ?」
「大丈夫よ、死体があったりしたらやだななんて考えちゃったものだから」
「それは俺も考えた。でも掘り返すには力も時間も許可もないもんな」
 要は笑って肩を竦める。
「それじゃ行こうぜ。海が茶を出してくれるらしいし、一息つけばいい考えも浮かぶかもしれないからな」
「うん、心配してくれてありがとね」
 要が百合子と海を追いかけるように歩き出しても、しばらく亜衣は砂場を見詰めていた。
 既に何者かによって精霊が支配され、使役されている砂場へ。

そしてその支配は、彼女の呼び掛けを受け入れないほど強固なものだったのである。


>神守高校 生徒会室

 前生徒会長は佐倉・美咲(さくら・みさき)という名前の3年生だった。
 特に成績が良いわけでも、運動神経に優れていたわけでもない。
 部活動も部長でこそあったものの、確率計算部という同好会すれすれの部活に所属。
 生徒会室に保管されていた写真を見ると、人の良さそうな男性という感じの容姿。
 いたって普通の男子生徒だ。
 生徒会長だったことと、一ヶ月前に交通事故で死んでしまったことを除いて。
「美咲っていうから女の子かと思ってたんだが」
「名前だけだと良く間違われてた。見れば女に見えるような外見じゃなかったし、からかわれる時に言われてたぐらいかな」
 真面目でどこかのんびりとした感じの美咲だが、教師を相手にしても、自分が納得できない事は納得できるまで説明を求めるような、頑固で気の強い部分を見せることもあったという。
「だからかな。2年の最初からずっと生徒会長だったんだぜ」
「でも、どうしてそんな人が怨霊になんて噂が出たんだ?」
「それは多分、亡くなる少し前から良く砂場に行っていたからじゃないかな。幽霊や魔法は信じないけれど、そう言う話は好きだって言う人でさ。学園の七不思議も調べていたみたいで…」
「その人が七不思議を調べてたのなら、何か残ってないの?資料とかメモとか」
 百合子は小首を傾げ、言う。
「形見分けの時に捜してみたり、美咲さんの友人に尋ねてみたりしたけど、それらしい物は見つからなかったんだ。ここや部室には私物を残さない人だったしさ。」
「そうなるとやはり夜、何が起こっているのか見に行くのが一番ってことだな。でも男の俺やKAIはいいとして、二人は大丈夫か?」
「それって痴漢とかの用心?大丈夫、私、こう見えても強いんだから」
「私も大丈夫」
 妙に乗り気な女性二人の剣幕に押されるように、要と海は顔を見あわせた。 


>神守高校 夜

 紫がかった夜の空の下。
 誰も居なくなったグラウンドで、静かに流れる音がする。
 さらさらさら…
 砂は地から天へと流れ、徐々に現れたそれは、ドレスを纏った人のような形。
 服の皺や顔の凹凸がないために、人間の姿というには不完全。
 けれど、シルエットは1mほどのおかっぱの女の子の姿に近かった。
「ねえ、どうしてそんな姿をとるの?」
 不意にかけられた声に、砂の少女はゆっくりと首を動かす。
 声の方向には亜衣の姿があった。
「精霊じゃないみたい。妖精?それとも妖怪かな?」
「亜衣さん良く解るな」
 亜衣の後ろから要が姿を現す。その後ろには当然百合子と海の姿もあった。
「オカルト好きで勉強してるから」
 亜衣は魔女だ。だがそれは無闇に人に話す事を禁じた事柄。
「妖精や妖怪って悪戯好きだってよく聞くが、アイツの悪戯なのか?」
「そこまではわからない。だって答えてくれない…」
「ねえ、さっきからあの子KAI君を呼んでない?」
 要と亜衣の会話に割ってはいるように、百合子が言葉を発した。
 その先は、海。
「俺って言うか…呼んでるのは生徒会長だよな」
「今はKAI君が生徒会長でしょう」
「二人して何の話を…呼んでるってあの砂の人型が?」
「ええ。聞えない?」
 百合子の言葉に要も亜衣も耳を傾けるが、聞えるのは砂の動くさらさらという音だけ。
 呼ぶ声というものは聞えない。
「ほら。呼んでるんだから近くに行ってあげなきゃ。あ、怖いから嫌だ何て言わないわよね。」
 百合子は海の背中に回り込み、砂場へ向かってぐいぐいと押す。
 聞えない呼び声の存在に悩んでいた亜衣も、それに加わった。
「呼んでるからには何かあるってことなの。虎穴に入らないと虎子を得ないって昔からいうんだから」
「まあ…確かに呼んでいるなら行ってみるのが男ってものだな。頑張れ」
 最後に要の一言も加わって、海は決意したように砂場へと歩き出した。

 それは言葉でも声でもなかった。
 複数の音と意志との絡み合い。
 複雑なチカラの集まり。
 だからこそチカラを持つ亜衣には、それをチカラ以外のモノとして認識する事ができなかった。
 氷の強い加護を持つ要には、異質なノイズのようなものとしてしか認識できなかった。
 それらを持たない普通の人間である百合子と海だけが、それを人間の言葉として、声として認識する事ができた。
 一人は寂しいのだと、そう叫ぶ声。
「ねえ…何がそんなに寂しいんだ?」


「簡単に言うと、構ってもらえなくなった子供が構って欲しくて悪戯をしていたってことか?」
「要さん、それストレートすぎ。」
 海はまだ砂場の前に立ち尽くしている。いや、ただ立っているのではない。会話しているのだ。
 後ろでそれを見守る亜衣と要に、百合子はその会話を伝えていた。
「でも実際どうしたらいいんだ?毎日会いに来てやればやめるのか?」
「それだけじゃダメ」
 ただ黙って話を聞いていた亜衣が呟くように声を出す。
「あの子安定してないのよ。ここの精霊と契約して学校を守ってるっていうけど…
 会話も安定してないんでしょう?このままじゃダメ。」
「亜衣さん…?」
「KAI、その子と契約しちゃいなさい!」
 亜衣は眼前の海の背にそう叫ぶ。彼女の耳には百合子の声と共に大気の精霊達の囁きが聞えていた。
「前の生徒会長は生徒会長として学校を守っているものと契約しようとしてたの。
 でも、力も準備も足りなくて今迄出来なかった。」
 精霊と契約するのは決して簡単な事ではない。
 要のように無意識にそれらの能力や加護を得ている者もある。
 だが、殆どの場合は修業を積み、力を得て始めて契約できるものだ。
「私が契約できればしたいけど、その子は生徒会長にこだわってる。
 生徒会長がいいって言ってる。
 だから契約しちゃいなさい、KAI。私が力を貸してあげるから」
「契約って……」
 亜衣の言葉に困ったような顔をして海が振り返る。
 同時にその言葉に反応したかのように、砂の人型から黄色い光が滲み出してきた。
『ケイヤクヲ!』
 嬉しそうな響きが音ではなく、震動として直接脳に伝わる。 
 それが学校の守護者と名乗るモノの者である事をそこに居る誰もが理解していた。
「KAI。俺は契約とかそういうのはわからない。だからそうしろとは言わない。
 ただ、KAIが自分で選んで決めた事なら協力する。
 その為にここに来たんだしな」
 要はにこりと笑みを浮かべ、右手を伸ばす。その手には光を受けて輝く氷の槍が現れていた。
「これが俺の特技。もしも必要があれば力を貸すぜ。
 だから後悔しないように決めろよ」
「しっかりしなさい。生徒会長なんだし男の子なんだから」
 竹刀を袋から取り出し、軽く構えてみせて百合子も笑う。
「戦いとかしたくないけど…無理強いしたくないしね。
 大丈夫、何かあったら私が護ってあげるわよ♪」
 百合子は誘うように小首を傾げた。
 要がしっかりと頷き、亜衣は光をじっと見詰めている。
 海は…ゆっくり瞬きをすると光に向き合う。砂によって形作られた手に手を伸ばし、姫君の手をとる騎士のようにそっとその手に触れた。

「契約しよう。俺で良いなら…」


>ゴーストネットOFF
 カラン。
「百合子〜こっちこっち」
 ゴーストネットOFFの扉をくぐり、店内へ視線を走らせた百合子に奥のテーブル席から元気な声が飛んでくる。
 亜衣だ。百合子に向かって元気に手を振っている。
「遅くなってごめん。特別授業が長引いちゃって」
 テーブルへとやって来た百合子は笑顔を向ける亜衣の横へ座る。
 向かい側には要と海。
 テーブルの上には珈琲が一つ、紅茶が一つ。
 そして。
 ゴーストネットOFFでアイスを出すときに使用する硝子の器が4つ…いや、正確には5つ。最後の一つはアイスが半分だけ残っている状態で、亜衣の手元にあった。
「…みんなでアイス食べてたの?」
「いや、食べたのは亜衣さん一人」
 何処か楽しそうに答える要に対して、海はがっくりと肩を落とし溜息。
 理由は簡単。
 今日ここでの飲食代は海の奢りだからだ。
 あの後、守護者との契約が執り行われた。
 魔女である事を明かした亜衣の指示によって契約はつつがなく執り行われ、その場に居合わせた要、百合子、そして亜衣の3人は契約の立ち会い者となったのである。
 ただ、やはり契約はそう簡単なものではなくて。
 契約した海も、執り行った亜衣もすっかり疲れてしまっており、またもう時間が遅かった事もあって、報酬は缶ジュースから後日の報告も兼ねてゴーストネットOFFでの奢りを海が提案。
 皆に反対する理由も特にみつからなかった為、ネットの仲間達へどう報告するか、それを話し合う為にもと理由をつけて今日再び集ったのである。
「うーん。でもそんなに食べたらお腹痛くならない?」
「平気よ。冷たすぎず甘すぎず。変なものも使ってないし、美味しいんだから♪」
 そう言って残っているアイスを食べる亜衣の表情は、見ているだけで幸せになれそうなほど嬉しそうだ。
「亜衣さん見てると本当に美味しそう…私も食べてみようかな」
「本当に美味しいよ♪一口食べてみる?」
「ううん、私も頼んでみるわ。すみませーん」
 百合子は亜衣に微笑むと、軽く手を挙げて近寄って来たウェイターにミルクアイスと紅茶を注文する。
「大変だな。」
 それを見て隣りに座っていた海の肩に軽く手を置く要。
「だが、男だったら二言はなしだぜ」
 悪戯っぽい表情で笑う要に、海は苦笑で返す。
「でも…」
「でも、なんだ?」
「こうやって幸せそうな笑顔が見られるなら、安い買い物だと思っていいんじゃないかなってさ」
 そんな風に思うんだ、と続けようとした海の背を叩き、
「海、それはカッコつけすぎ。気持ちはわかる気がするけどな」
 やって来たアイスを食べて嬉しそうな表情をしている百合子と亜衣を見て、要も幸せそうに微笑んだのだった。 

END

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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 /  PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】
  0671  / 氷澄・要 / 男性 / 23歳 / 氷上の貴公子
  0368  /氷無月・亜衣/ 女性 / 17歳 / 魔女の高校生
  0057  /滝沢・百合子/ 女性 / 17歳 / 女子高校生

  NPC / 島津・海 / 男性 / 17歳 / 神守高校生徒会長

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■         ライター通信          ■
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 発注ありがとうございました。
 この作品は私が東京怪談で初めて作成した物語となります。
 知らないプレイヤー様の知らないキャラさんを扱わせていただく。
 それはとても大変でしたが楽しい作業でした。

 滝沢・百合子様。OMCのイラスト拝見させていただきました♪
 イラストからのイメージは強さのあるお嬢様。けれど性格やプレイングを見させていただいた印象は元気な女子高生そのものでした。
 どちらかといえば元気なイメージで書かせていただきましたが、如何でしたでしょうか。
 そして所謂魔法や超能力を持たない事が能力として扱わせていただきました。
 どの色をも含み、どの色にも染まる可能性がある白と同じように。

 もし宜しければここが悪かった、ここが良かったなどご意見頂ければ幸いです。
 皆様のご活躍とまたの出会いを楽しみにさせていただきます。
 それでは、また。