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<東京怪談ウェブゲーム ゴーストネットOFF>


 蒼画館

 ***

日差しも幾分弱まった、そんなある日。
駅前の交差点で信号待ちをして立っていると、何処からかひんやりと
した風が頬を掠めた。
ふと、何気なく振り向いた先には小さな路地があった。
そしてその細く薄暗い路地の先に淡く浮かぶ小さな看板が見えた。

『蒼画館』

興味を覚え路地へ足を向けると、そこに在ったのは小さな画廊。
路地に面したウィンドウに一枚の絵画が飾られている。
それは、蒼い色の中に小さな光りが射している不思議な絵画だった。
気になって小さな入り口から中を窺ってみるが薄暗くてよく見えない。
思い切って扉を開けようとしたその時、いきなり扉が中から開け放た
れた。薄暗い室内…。
そうしてよく見れば、薄暗い扉向こうに栗色の髪の少女が一人、いた。
少女は此方の視線に気が付き、そしてふわりとした柔らかい笑顔を浮
かべこう言った。

「いらっしゃいませ。さあ、どうぞお入り下さいませ。」



 ***


桔梗は掛けられた声に少しビックリした表情を見せた。
桔梗は、所謂『幽霊』と呼ばれる類である為、自分が見える人間は殆
んど(大きな確率で)腰を抜かして逃げていく方が多い。
しかしこの目の前の少女は自分を見ても臆する事無く、柔らかな笑顔
を向けて立っていた。

「何だい、あたしが見えるのかい?」

桔梗は思わずそう声を出して少女に問い掛けた。その言葉に少女は更
に笑みを深めとコクリと頷いた。

「ええ。貴女の『存在』はとてもハッキリとしていますから。」

「存在がハッキリって…あたしゃ一応幽霊なんだけどねぇ」

少女の言葉に桔梗はくすりと笑った。

「まぁいいや。ねぇ、これも何かの縁だね。ちょいとあたしのお相手
してもらえるかい?」

「えぇ、よろこんで。実は私も退屈をしていた所なのです。」

そう言って少女は嬉しそうに笑った。

「あたし、桔梗ってんだ。あんたは?」

「私は…あ…蒼…と申します。」

少女は一瞬、名前を告げるの事を躊躇した様に見えたが、それは気の
せいだったのだろうか。先ほどまでの笑顔に少し影が射した様に見え
桔梗は殊更明るい声で少女に話し掛けた。

「ふらふら〜っと勝手に入ってきちまったけど、いい画廊だねぇ。こ
れだけたくさんの『絵画』達、一人で管理してんのかい?」

桔梗は周囲を見回した。古い西洋風な造りであるのに、何処か東洋的
な雰囲気をも感じる不思議な空間。灯りもない薄暗い室内であるのに、
暖かな光が何処からか差し込んでいて、例えば陽だまりの中で瞳を閉
じているような、そんな感じに似ている。
違和感。
不快感。
そんなモノを感じる事もなく、不思議と落ち着くのは何故だろう?
桔梗は小首を傾げ、ふとウィンドウに飾られていた蒼い絵画を思い出
し視線をそちらへ向ける。

「なんだろう、ねぇ…この不思議な感じは…」

その視線に気がついたのか、少女はウィンドウに足を向け飾られてい
た蒼い絵を持って桔梗の前に置いた。

「こちらの絵がお気に召した様ですね。」

嬉しそうに笑い少女はその絵を柔らかく撫でた。

「あぁ、なんだか不思議な絵だね。この絵、何ていうんだい?」

「『蒼』と言います。」

「へぇ。あんたと同じ名前の絵なんだね。何だろ、芸術とか美術とか、
あたしにゃよく分んないけどさ、何だか懐かしい感じがするいい絵だ
ねぇ。」

「ありがとうございます!そう言ってもらえると嬉しいです。」

少女は少し照れたように頬を染めて笑った。

「この絵は…私の絵なんです。」

その言葉に桔梗は訳がわからない風な顔をしていた。
それを見て少女は、小さくクスリと笑った。

「この『蒼』の絵画は生きてるんです。」

「生きてる?…え、え?」

桔梗は頭の上に疑問符を飛ばしながらも、目の前にあるその『蒼』の
絵画をじっと見つめた。するとある変化に気がついた。

「絵が…動いてる?」

蒼い絵の光が微かに揺らいでいる。
まるで澄んだ空に風が吹き抜けたような感覚。

「この絵だけではないんです。この画廊にある『絵画』は全て生きて
います。過去や未来という離れた空間の『瞬間』ではなく『今』現在
存在している空間を描いた『絵画』なのです。」

「生きた絵画…?」

桔梗は改めて飾られている他の絵画たちを見回した。この絵のように
一色で描かれた絵画だけではなく、建造物や風景が描かれた絵画もよ
く見てみると…本当に微妙な変化ではあるのだけれど、『静』の中に
確実に『動』が存在していた。

「凄いねぇ…本当に『生きてる』んだねぇ…」

「えぇ…でも誰がこの絵画を描いたのかは…解らないんです。」

ふと、桔梗は少女を見つめた。その表情を見て何か在ると察した桔
梗は、従来の面倒見の良さからか、それとも興味からなのか、突っ
込んだ質問を問うた。

「でもあんたはこの絵が自分の絵だって知ってるんだよねぇ?」

桔梗は目の前にある『蒼』の絵画を指差した。少女は戸惑った顔を
して小さく頷いた。

「あたしね、何だかみんな気に入っちまったんだ。この『蒼画館』
っていう空間とか、あんたの事とかもさ。だから…もし嫌じゃなか
ったら話を聞かせてもらえないかねぇ…?こう見えてもあたしゃ、
400年近くこの世にいるんだ。あんたの悩みみたいなもんとか?
あったら相談くらい乗って上げられるかもしれないよ?」

少女はその言葉に少し考える顔をした。

「私は…『今』生きています。そしてこの絵も生きています。私は
気がついた時既にこの絵と共に居ました。この絵が私だと言う事も
知っていました。だけど、「どうして」という理由は解りません。
だから、その、名前も自分でつけたんです。この絵、蒼いでしょ?
どの絵画もそれぞれにタイトルが付けてあるんです。この絵にもや
っぱり付いてて…『蒼』ってありました。これが私だと『知って』
いたから、だから同じ名前にしたんです。」

少女は薄く笑った。

「私はこの『蒼画館』を出た事がありません。出たいとも思った事
もありません。それに、桔梗さんのようにココを訪れてくる方々が
いらっしゃいますし、寂しい事も無いです。」

それに、と少女は飾られてある絵画を指差した。

「この館の時間は進まなくても、この絵画の中は動いています。こ
の館に変化が見えなくても、この絵画の中に変化があるのです。私
に変化が見られなくても絵が動く事で、『生きている』『存在』し
ている、という実感がわくんです。」

話を黙って聞いていた桔梗はポツリと言葉を呟いた。

「あんたの存在ってあたしと似てるのかなぁ…」

「そうなんですか?」

意外そうに少女は瞳を見開いた。

「存在なんてさぁ結構いい加減だしね。でもいいじゃない。最低限
の存在場所が確立されてんだからさぁ。」

桔梗は不意に「ふふふ」と笑った。

「それにこんな『わくわく』するような出会いもある訳だし、ね?」

その言葉に少女はふわりと笑い返した。
それから暫らくの間、二人は他愛も無い会話を楽しみながら、少女
と共に懐かしくも不思議な『絵画』達を眺めていた。


 ***


しかし、ふと車の音に気が付き目を開けるとそこは交差点だった。
何も変わらない。
最初と同じ、信号待ちをしている状態だった。
駅前にある電光時計は信号待ちをし始めた時間と1分も変わらない。
冷たい風が吹いてきた方向を見やると、そこには。
画廊も無ければ路地も無い。
殺風景な街並みが広がっているだけだった。

何と無くガッカリしていると、雑踏の中から微かな音が耳にではな
く身体に響いてきた。

『何時か何処かの空間でお会いしましょうね』

あの画廊の正体が何なのか、あの少女が何だったのか、それはまた
別の時に…そう思った桔梗であった。

見上げた先の信号機は、ようやく『青色』へと変わっていた。



 ***


「ここは『蒼画館』。色々な空間を絵画した画廊でございます。」

そう言って少女はにっこりと笑った。

「また何時か遊びに来てくださいね?」



 ***



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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

 0616 / 棗・桔梗 / 女 / 394 /典型的な幽霊

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■         ライター通信          ■
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こんにちわ。おかべたかゆきです。
二度目のご参加ありがとうございました。
締め切り当日UPとなってしまいました事を最初にお詫びを
致しますっ!遅くなってしまって本当にすみません!(滝汗)
本当にトロくさくて申し訳ないです…( ̄△ ̄;;

依頼文も内容も微妙に「不思議ちゃん」でプレイング掛け辛
かっただろうと思います。解りにくくてスミマセン!(爆)
で、補足説明。
『蒼画館』の少女は現実存在ではなく空間存在な感じです。
曖昧な存在であるにも拘らず確立された空間ではしっかりと
存在している。ある意味、幽霊と似た感じでしょうか。