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<東京怪談ウェブゲーム 界鏡線・電脳都市>


楽園の名のもとに
◆楽園の住人
「Good morning!貧乏人ども、今日も元気に働いてるか〜!」
開店前のSPAMに姿を現したのは、近所の研究施設に勤めるキルカ・ウィドウだった。
「エライ言いようだな。サボりか?博士。」
くわえタバコで新聞を広げていた店長の高村 響は入ってきたキルカを見るとにやりと笑って言う。
「何を言うか、可哀想な貧乏人どもに仕事を持ってきてやったのに。」
「え?仕事?研究所の方へ何か機材でも納入があるんですか?」
仕事・・・というキルカの言葉に目の色を変えたのは開店準備をしていたバイト店員の篠原 大介。キルカの前にお茶を出す。そう言うことも仕事のうちだ。
「なんで、うちの研究所がジャンク屋に納品依頼するんだ?仕事はこっちだよ、こっち。」
そう言ってキルカは封筒をヒラヒラと振ってみせる。
「『上』からのお願いでな。秘密裏に解決して欲しいんだ。」
「・・・なんだ、店長のバイトですか。」
篠原はジト目でそう言うと、興味なさそうに開店の準備へと戻っていった。
「んぁ?なんだ、バイトのほうか。なんだい?」
高村がキルカ殻封筒を受け取る。
封筒の中には数枚の書類・・・
「モンスター探し・・・?」
「まぁ、はっきり言っちゃえば『バグ』なんだが、そのバグから生まれた『モンスター』がEDENの中を闊歩しててな。システムの方では存在確認が出来ないんで、「失せ探しモノ屋」にご依頼ってワケだ。」
「何か実害があるのか?」
「今のところは報告されていないが・・・目撃情報が増えてきてしまってな。評判が落ちるのを恐れた『上』が何とかできないかと言ってきたんだ。」
キルカは苦々しい顔で言った。
「目撃情報ってのは?」
「モンスターは<水陸動物園>の中に潜んでいて、巨大なクマのような姿をしている。動きは実物のクマとは違い素早く、力も強いようだ・・・能力値は未知。姿だけだと思った方がいいな。」
「クマねぇ・・・。」
「下手に触れば襲われることもある。ユーザーに被害者が出てからでは遅いんだ。」
「EDEN警察の連中にやらせりゃいいじゃないですか。」
篠原はダンボールの中をごそごそしながら牽制するように言った。
「EDEN警察が動けばそれは正式に報告書になってユーザーに報告される。公式には動けないんだ。」
「OK。引き受けよう。だが俺一人では無理だ。俺以外の人間の行動許可とあとEDENへの武器の持込を許可してくれ。」
高村が言い合いになりそうな二人の間に割ってはいる。
「わかった。武器は使い慣れたものをEDENの中でも現実と同じ効果が出せるように、俺がプログラムしてやる。各自持ち込む武器を俺に申請してくれ。それとアクセスは研究所のターミナルを使えるようにするから。」
EDENは基本的に武器を携帯する事は出来ない。そう言う存在がないからだ。
「では、人員を揃えて「研究所」の方へ来てくれ。」
それだけ言うと、キルカは篠原の入れたお茶をずずっとすすったのだった。

◆デジタルとアナログの境界
高村からの連絡を受けて、キルカの研究室へと集まったのは5人。
皆、EDEN内に持ち込む武器の申請にやってきたのだが・・・

「なぁ、これ本当にEDENの中で使えるようになるのか?」
EDEN内に持ち込むための装備を机の上に広げた御崎 月斗が疑わしげな目でキルカをみて言う。
「うむ。超天才科学者キルカ・ウィドウの手にかかれば朝飯前だ。」
キルカは広げられた呪符やらなんやらをひらひらと眺めながら自信満々で答えた。
「超天才科学者・・・」
御崎は口まででかかった胡散臭い・・・という言葉を何とか飲み込む。
「まぁ、それもあるけど、EDENって言うのは特殊な世界なんだ。基本的には人間同士がアクセスターミナルで直接つながっているものだと思っていい。場所は離れていても人間同士が直接対面しているのと殆ど代わらない。開発者としては予想外の効果だったが、超能力や呪術のようなものは全て通用するんだ。」
そして、タカタカッとキーボードを叩き、しばらく考え込む。
「・・・あと、これは公然の秘密になるんだが、EDENを構成するプログラムそのものもかなり人間に影響を受けやすいんだ。だから、この呪符を使ってEDENにあるモノを爆破する。と言う行動をとろうとしたら、その人間の念に反応してプログラム事態も変化する。つまり爆破されると言う反応を出してしまうんだ。」
「それって、結構やばいんじゃないのか?」
現実と同じように全てが実行されてしまうEDEN。
御崎の言葉にキルカはけろっとして答えた。
「ヤバイね。だから、EDENには特殊警察組織があるんだが・・・ま、非公式な話も少なくない。そう言うときは高村やあんたみたいな連中に頼むことになるんだ。」
「いい加減な世界だなぁ・・・」
「まぁな。現実だってそんなもんだろ?EDENも同じさ。EDENもまた現実世界の一つだからないい加減なもんだよ。」
キルカはそう言うとにやりと笑ったのだった。

◆楽園に降り立つ
EDEN内にはいるにはアクセスターミナルと言う大きなカプセル状の装置の中に入って、自分の登録データを元にしてアクセスする。
登録データは事前に大きなスキャナーのような機械の中で作成され、それを基本データとしてパーソナルデータカードである「パスポート」に登録されている。
アクセスターミナルの二つあるカード挿入スロットの一つにパスを差込み、もう一つのスロットにはキルカが作成した特殊データカード「トランクカード」を差込む。こうすることで通常は申請できない追加アイテムをEDEN内へ持ち込むことができるのだ。
「このトランクカードの使用は一回限定だ。一瞬でもEDENからログアウトしてしまったら無効になるからな。」
キルカはそう言うと、研究施設内のアクセスセンターに並べられたターミナルに入る一同をみている。
カードを入れ終わったあと、●●はゴーグルをかけてシートに寝そべる。EDENにアクセスしている時は体は勧善に無防備な状態になるためにターミナルはシェルターの役目も果たしている。
「じゃぁ、頑張ってくれよ。GoodLuck see you again!」
キルカの言葉を聞き終えないうちに、●●の意識は深く遠のいていった。

軽い眩暈のあと、再び目を開くとさっきと同じターミナルのカプセル状になったフードが見える。●●は手元のスイッチを操作してフードを開いて起き上がった。

「うう、何度やっても慣れないこの感じ・・・」
紫門 雅人がターミナルから起き上がり、大きく背中を伸ばすように伸びをする。
「ジェットコースターに乗った後みたいな感じだな。」
辺りを見回しながら御崎 月斗が言った。
そして、紫門を見た瞬間に大爆笑する。
「な、なんだよ、失礼なガキだなっ!」
笑われる理由など思いつかない紫門は御崎をキッと睨みつける。
ところが、次々とターミナルから出てくるメンバーが紫門を見るなり笑うのだ。
紫月などは笑いこそしないものの、露骨に関わるまいと目を反らす。その様子が笑われる以上にショックだった。
「人の趣味は言わないけれど・・・面白い申請をしたのね。」
クスクスと笑いを堪えながら、結城 凛が言う。
「申請?」
紫門は何がなんだかわからないといった風できょとんとする。
結城は自分の持っていた化粧用のコンパクトを差し出して言った。
「それは・・・あなたの趣味じゃないの?」
紫門は訝しげな表情のまま鏡を覗き込んで・・・絶叫した。
「な、なんじゃこりゃぁっ!!!」
そこに映し出された紫門の顔の上には白いふわふわの毛並みのうさぎ耳が生えている。
「うわっ!うわっ!」
触るとそれはほんのり暖かく、引っ張ると千切れるように痛い。
「嘘だろっ!生えてんのかよこれっ!」
そして恐る恐る自分の尻を見る。頭に生えているということは・・・
「嘘だろう・・・」
白いフワンとした丸い尻尾がピコピコ動く。動かそうと思うと動くのだ。これも自分の体に生えている・・・
その時、ターミナルの置かれた部屋の壁にある大きなモニターにキルカが映し出された。
『装備の調子はどうだ?なかなか男のロマンなしろもんだろう?』
「おまえかーーっ!」
モニターに向って紫門は絶叫する。しかし、可愛い耳と尻尾が今ひとつ迫力を欠く。
『変身スーツは無理だが。今日のところはその程度で我慢してくれよ。それじゃぁ、いい報告を待ってるよ。高村は先に潜ってる、みんなも行動を開始してくれ。がんばってくれな!』
キルカはそれだけ言うと一方的に通信を切ってしまった。
各々が装備を確認すると、きちんとそれらは装備されていた。
「では、行きましょうか。」
結城が先立ってドアを開く。その後に続いて紫月、御崎、紫門と続いて出て行った。

ただ一人残された篠原に憑依してアクセスした司は呆然としていた。
彼のショックは紫門の比ではなかったのだ。
「・・・どういうことなんですか・・・これは・・・」
久し振りに自分の足を見下ろす。すらっと細いくびれのハッキリした美脚が伸びている。
手を見るとすらりと細く、爪には丁寧にマニキュアが施されている。
おそるおそるガラス張りのドアに自分の姿を映してみる。
そこには、つややかな黒髪に色白の端正な・・・明らかに女の顔が映っている。
体も完璧に女だった。触って確かめる気にはならなかったが、体型を際出させるようなカットソーにミニスカートの姿には胸の膨らみも腰のくびれもはっきりと映し出されている。
篠原は有名なネットアイドル「イズミちゃん」であることを司は今ごろ思い出した。
司は次からは正直に話をして男の姿でアクセスするようにしようと心に決めながら部屋を後にしたのだった。

◆楽園の住人たち
EDENの中にはアクセスしている人間以外に人工知能の発展型である感情を持つ擬似人格ユニット「NPC」がいる。
NPCは全員にユーザーと判別するために左耳にナンバーの登録されたピアスと服を脱げば左肩のところにマークが入れられている。
水陸動物園に向うと、ゲートのところでそんなNPCのコンパニオンに出迎えられゲートを抜けた。

「熊の檻から逃げ出してるんじゃないのか?」
御崎は大型哺乳類のエリアを眺めながらぼやいた。
この施設には檻らしい檻はなく、それぞれの動物のエリアが不可視のシールドで覆われている。そのため通路の延長上の広場に普通にライオンが寝ていると言うような光景が見られる。
「ここにいる動物たちはプログラムですから、逃げ出すとか襲うといったような行動は削除されているのではないですか?」
美少女姿の司が言う。動物たちよりミニスカートの方が心許無く気になって仕方がない。
「しかし、おかしい話じゃないか?管理者も居場所が特定できないプログラムなんて。」
「管理者が用意したプログラムではないかもしれませんね。」
「管理者の用意したプログラムじゃない?」
「例えば巧妙な手口で入り込んだハッカーが仕掛けたものだとしたら?」
「ハッカー!?」
司の言葉を聞いて、御崎もなるほどと思う。
確かに、第三者であるハッカーが勝手に仕掛けたものなら、管理者の支配下にないというのもうなずける。
そこで、ふと御崎は不安と言うか・・・胸の中に重いものを感じた。
「モンスターは見つかったら廃棄処分にされるのかな・・・」
御崎は思いをぽそりと呟く。司はそれをさりげなく受け止めた。
「そうですね。EDENに随分影響を与えているようですし、上層部が出てきたと言うことは消し去りたいということなのかもしれません。」
御崎はその言葉に胸を詰まらせる。
モンスターは望まれずにEDENの中に生まれた存在。
御崎の大事な末の弟のことが頭に浮かぶ。一族の中で忌み子だという理由で一族の中から排除されてしまった末の弟・・・
何よりも家族を・・・兄弟を大事に思う御崎は末の弟のために一族を出奔したのだった。
そんな弟とモンスターの陰が重なる。
望まれずに生まれたと言うだけで切り捨てられるのは御崎には耐えられない事だった。
「何とかならないかな・・・」
司は大人顔負けで行動していた御崎の中に思わぬ部分を見た思いだった。
「キルカさんなら何とかしてくれるかもしれませんね。とりあえず傷つけずに捕獲する方向で動いたらいいでしょう。」
「そうだよな。あいつだってEDENの責任者だもんな。何とかしてくれるよな。」
御崎が司の言葉にぱっと表情明るくして言う。
しかし、その瞬間。場内に悲鳴が響き渡った。
「!」
「この先のようですね。急ぎましょう!」
二人は悲鳴が聞こえた方へと全速力で駆け出した。

◆怪物
それはまさに怪物だった。

「うわわわわーーーっ!何なんだよこりゃぁっ!」
現場に駆けつけた紫門は本日何度目かの絶叫をあげた。
「これは・・・」
結城も目の前の光景を見て絶句する。
目の前にいるモンスターは確かに報告に会ったような熊の姿をしていた。
しかし、その大きさは桁外れで、立ち上がったら4メートルを超えるような巨体だ。
その上実際のくまと違い、動きが異常に俊敏だ。
「こんなの相手にどうしろって言うんだよっ!」
キルカに渡された長船を抜き構えるが、一刀両断とはとても行きそうにない。
「私に良い作戦があります。」
結城はそう言うと、飛び掛ろうとしていた紫門の肩を掴む。
「作戦?」
紫門は結城の言葉に振り返ると、結城はサングラスを外して紫門の目を覗き込むように見つめた。
「身体強化です。」
結城の言葉と同時にその瞳が美しい金色に輝く。
獣のような強さと輝く月光のような不思議な瞳だ。
紫門は思わずその瞳を覗き込んでしまう。なんだか軽い眩暈がした。
「お呪いです。頑張ってください。」
結城はにこっと微笑むと、紫門の背中を押した。
「お、おう・・・。」
なんだかわからないまま紫門は刀を構えて熊へと挑みかかっていった。
しかし、一歩力いっぱい踏み出して、その反動に驚く!
「うわっ!」
ジャンプ力が異常にあるのだ。脚力が普段より発揮されている。
紫門にはどうしてかわからなかったが、これは結城のもつ邪眼の催眠効果だった。
攻撃的な術も持つ瞳であったが、こうして人間の潜在の応力をフルに発揮させるための催眠にも使えるのだ。
「こりゃいいや!」
その上、紫門につけられた尻尾は短いながらも身体のバランスを絶妙に保つ役目をしたので、いきなりの身体力増強にも対応できた。
紫門は熊の前に立つと、改めて刀を構えた。この力ならやれるかもしれない。

「待て!殺すな!」
不意に、紫門と熊の間に割ってはいるものがあった。
「生きたまま捕獲するんだ!」
御崎は呪符を握り締めて叫んだ。
「なんだって・・・俺たちの仕事はこいつの処分じゃ・・・」
「処分なんて言うな!」
御崎は紫門をギリッと睨みつける。
「確かに、俺たちが依頼されたのは「モンスター探し」だったな。」
駆けつけた紫月も御崎の言葉に賛同する。
「そ、そうだったか・・・でも、そんな悠長なこと言ってる場合じゃねぇぞっ!あぶねぇ!」
三人は熊の遠慮ない腕の一撃を寸前で交わす。
「とりあえず広場に結界を張りました!この結果以外には出られません!何とか捕獲してください!」
広場を一回りして結界を張り終えた司が、広場の外から叫ぶ。
「そんなこと言ったって、どうやれって言うんだよ!」
熊は巨体でありながらその質量をまったく無視したスピードで紫門、御崎、紫月に襲い掛かる。
何とか動きを止めようと御崎が呪符を熊に撃ち込むが、その動きはわずかに弱まるだけで捕獲までには至らない。
「どうしたら良いんだっ・・・」
御崎に焦りが生まれる・・・このままでは捕獲は難しい。

「そいつの弱点をおさえろっ!両手の手のひらそれぞれと胸のところに同時に念を送れ!それで動きが止まるはずだっ!」
捕獲を断念するかを判断を迫られた時、遅れて到着した高村が結界の外から叫ぶ。
結界の中から出られない代わりに、結界の中へも干渉することが出来ないからだった。
「三箇所同時・・・」
熊の動きは異常に速く、しかも馬鹿デカイ。こんなヤツにどうやったら同時に念を送れると言うのか・・・
「右手は俺がやろう。左手は・・・うさぎ男行けるか?」
紫月が熊の攻撃を避けベンチの影に避難している紫門に言った。
「うさぎ男言うなっ!その位ちょろいもんだぜっ!」
「よし、ではあんたは胸を狙え。」
御崎はその言葉にうなずく。
身長のない御崎に立ち上がって攻撃してくる熊の腕には届かない。
紫月は御崎のうなずきだけ確認すると、すっと身を潜めていた柱の影から熊野前に踊りでる。
そして、軽やかに両手を振るい鋼糸を辺りに巻き付けると、その糸を足場にふわりと舞い上がった。
黒い上着の裾をなびかせて舞い上がるその姿は影のようにしなやかだ。
紫月が飛び出すのと同時に、紫門も刀を構えて飛び出す。
刀自体に念を込めると、思い切り地を蹴って飛び上がった。
「行くぞっ!御崎!」
御崎も熊の前に飛び出す。
熊は同時に三箇所から襲われて躊躇った。
三人はその躊躇いを見逃さなかった。
「食らえっ!」
三人は同時に三箇所の弱点に念を叩き込む。
熊は雷に打たれたように一瞬体を振るわせると、そのまま地面に倒れこんだ。
「やったか・・・っ!?」
しかし、熊は完全に停止したわけではなく、痺れてはいるもののゆっくりと起き上がろうともがく。
「まだ動くっ!?」
御崎が絶望したように呟いたが、その呟きを高村が掻き消した。
「捕獲は完了だ。」
高村はショルダーホスルターから抜いたP−99を構えて熊の背中に弾を撃ち込んだ!
「!」
「そんな怖い顔で睨むなよ、御崎。コイツはプログラム弾だ。麻酔弾みたいなもんだよ。」
高村の言葉に御崎はやっと安堵の溜息をついたのだった。

◆大きな兄弟
「お、捕まえたのか。ご苦労ーさん。」
全てが終わって、保護コンテナの中に熊が収められた頃になってキルカが姿を現した。
「キルカ、こいつを処分するのか?」
御崎は真っ先にキルカにそれを尋ねた。
もし処分すると言うのなら、その熊を何とか貰い受けられないかと交渉するつもりだった。
キルカは御崎の顔をちらりと見るとにやっと笑って言った。
「コイツの居場所はもう出来上がってるぞ。キルカ様が直々にプログラムした最高級の保護施設だ。」
そしてキルカは施設内のマップを御崎に見せた。
そこには「特殊タイプ月の輪熊【月斗】」と書かれた広場が作られている。
「・・・なんだこれは・・・」
「お前たちが捕獲したのは月の輪熊からデータを起こした生物プログラムだったんだ。月の輪熊だから「月斗」。良いネーミングだろう?」
「お、おまえなぁ・・・」
肩を震わせて反論しようとしたところに、今度は紫門が割って入った。
「ちょっと待て!御崎の前に俺の話の方が先だ!」
「よう。男のロマンはなかなか似合うじゃないか。」
キルカはけろっと言い放つ。
「こんなのはロマンでもなんでもねぇっ!」
「なんだ、うさぎ耳は気に入らなかったのか。では、今度はねこ耳に書き換えといてやろう。ありがたく思えよ、キルカ様直々のデータだぞ。」
「それより、この熊の名前を変えろ!」
「いや、うさぎの耳を!」
こんな風にギャイギャイと三人で騒ぐ様子を大人三人は遠巻きに見ていた。
「紫門さん・・・なんだかこの施設のコンパニオン見たいですね・・・」
結城は子供二人に囲まれてじゃれあっている紫門を微笑ましく眺めていた。
「同じ子供なのだろう。」
紫月はそれだけ言うと踵を返す。
「もう、お帰りですか?」
「用は済んだからな。」
結城の問にそっけない返事だけ残して紫月はログアウトするためにアクセスターミナルへと帰っていった。
「それもそうですね。私たちも戻りましょうか?」
結城は隣に立つ美少女に言った。
「そ、そうですね。」
美少女は顔を引きつらせて答える。
「あ、自己紹介がまだでしたね。私は結城 凛です。今日はお疲れ様でした。」
そう言って結城はにこっと笑う。その顔をみて美少女は更に困った顔になり・・・
小さな声で言った。
「司です。篠原さんに憑依してEDENにアクセスしたらこんな事になってしまって・・・」
「ええっ!司さん!?」
結城は驚きに目を丸くする。
確か以前あったことのある司は50代くらいの渋い男性だったはずだった。
「EDEN内ってこんなこともできるんですね・・・」
「そのようです・・・わ、我々も戻りましょう。」
興味深げにしげしげと司を眺める結城の視線を振り払うように、司も紫月の後を追って歩き出した。
「はい。そうしましょう。」
結城は現実世界に戻ったら今後の参考に話を聞かせてもらおうと思いながら、その後に続いたのだった。

The End ?
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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

0054 / 紫月・夾 / 男 / 24 / 大学生
0884 / 結城・凛 / 女 / 24 / 邪眼使い
0873 / 紫門・雅人 / 男 / 19 / フリーター
0790 / 司・幽屍 / 男 / 50 / 幽霊
0778 / 御崎・月斗 / 男 / 12 / 陰陽師

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■         ライター通信          ■
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今回はEDENにアクセス頂きありがとうございました。
物語の展開はこんな感じになりましたが、如何でしょうか?
熊は無事保護されることになりました。今回この結果に至れたのは御崎クンの強い願いがあったからこそです。その活躍を記念?して、保護されてこれからこの世界で暮らすことになる熊に御崎クンの名前を頂戴しました。EDENにくれば何時でも会えるところに熊の月斗君はいますので、良かったら会いに行ってあげてください。そして、これからの活躍も期待しております!頑張ってください!

それでは、またどこかでお会いしましょう。
本日はアクセスお疲れ様でした。