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<東京怪談ウェブゲーム ゴーストネットOFF>


ちかんオバケリターンズ 〜浴衣美人を守って〜


■ オープニング

「ねぇ、この新しい掲示板の書き込みなんだけど」
 雫はしばらくパソコンの画面に見入っていたかと思うと、突然顔を上げて、近くにいた仲間に声をかけた。
 −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−投稿者・SANAE
  最近、私の家の近所の公園で、夜道を歩く女の子が誰かにお尻を触られるっていう噂があります。
  誰でもっていうわけじゃなくて、最近は浴衣を着ている女の子に限られるみたいなんだけど。
  中には暗闇にひきずりこまれたりした人もいるみたいなんだけど、犯人はどうも人間ではないらしいんです。
  悲鳴をあげて振り返ったら、牛乳瓶のそこみたいな眼鏡をかけた男の顔があったっていう話もあるけど、すぐに消えてしまったんだって。
  今度、その公園の隣の神社で大きなお祭りが開かれるので、この夏最後の浴衣だって着ていく人も多いと思うんです。
  誰か幽霊退治にきてください。
 −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
「いきなり退治に来てくれなんて、ずいぶんと乱暴な書き込みだなって最初思ったんだけど…このオバケってもしかして、あいつじゃないかなって思ったの」
 雫は夏休みの初めの頃、みんなで遊園地に出かけた時の話をした。
 藤急ハイランドのおばけ屋敷の暗がりにひそみ、女の子に触れ、きゃあきゃあ脅かせて喜んでいた変態オバケ。
 三森裕介(みつもり・ゆうすけ)と名乗っていたはずだ。
「なんだか見れば見るほど、あいつに思えてくるんだよね〜。こうなったら確かめに行こうと思うんだけど、誰か一緒に来てくれないかな?」


■夏の終わりのお祭り日和
 
 もう秋の気配が、肌に染み渡る九月中旬の空の下、都内の住宅地の一角では祭り拍子が響き渡っていた。
「すっかり涼しくなっちゃいましたね」
 大きく朝顔が描かれた、鮮やかな浴衣に身を包み、柔らかな金色の長い髪と緑色の美しい瞳を持つ少女、ファルナ・新宮(−・しんぐう)は、飾りにしかならない団扇を手に持ち、にっこりと微笑んで一同を振り向いた。
 彼女の横にはファルファと名づけられたメイド型ゴーレムが、お揃いの夕顔の柄の浴衣を着て立っている。
「浴衣を着るのも、もう今年はこれが最後でしょうね。金魚すくいあるかなぁ〜」
 うなずいて答えたのは鳴神・秋歌(なるかみ・しゅうか)。こちらもハーフで金色に近い茶髪をした美少女だ。
 彼女もピンク色の小花が散らされた柄の可愛らしい浴衣をつけて、お祭りの行われている会場の方に視線を向ける。
「ふたりともとってもよくお似合いだよ♪」
 二人にむかって、水野・想司(みずの・そうじ)はにこにこと言った。色白で小柄な美少年の彼は、一見少女にようにも見まがう程である。
 想司は絣の浴衣を身につけ、団扇で柔らかく風を撫でながら、一人だけスーツ姿の真名神・慶悟(まながみ・けいご)を見上げた。
「まだかなー? シュラインさん」
「そろそろだろう。さっきの電話からすると、もう着いてもいい頃だ」
 慶悟は黒いスーツの袖をまくって時計を確認する。
 スーツの下の派手な色のシャツとネクタイ。髪は金に染めて、片耳だけのピアス。一見、ホスト?と間違われやすいような外見の彼は、並ならない能力を秘めたクールな青年陰陽師だ。
 慶悟の声に、想司が道路に身を乗り出して確認する。その時、彼らのいる公園の前にすべりこんできたタクシーから、艶やかな黒に藤を描いた浴衣をつけた大人びた女性が降りてきた。
「…お待たせ」 
 少女達の目がわぁ、と釘付けになる。
 シュライン・エマ。切れ長の美しい青い瞳と、中性的で端正な顔立ちの大人の女性である。いつも後ろに一つでくくっている髪を、結い上げて一本のかんざしで止めている。
 慶悟が、ひゅっ、と軽口のように口笛を鳴らす。
 シュラインは「もう」と肘で彼をつつくと、少女達の方に声をかけた。
「お待たせしてごめんね。ちょっと興信所によって調べものしてきたの」
「そんなに待ってないですよ。…まだお祭りも始まったばかりだし」
 ちかんオバケよりも、お祭りを楽しみにしてきたような口調で秋歌が誘うように言った。
「そうですね〜。お祭りものぞいてみたいです」
 ファルナがにこにこして頷いてみせる。想司も「クレー射撃あるかなー。僕の腕前みせてあげる♪」と張り切った。
 お祭りのお囃子がどんどん強く聞こえてくる。
 お祭りの夜はまだ始まったばかりだ。
「まだそんなに暗くないし、出るのはもう少し後かもね。公園の地形も確かめたいし、一周してきましょ?」
 シュラインが同意する。頷いて歩き出す一同の後ろで慶悟が声をかけた。
「あ、じゃ先に行ってくれ。すぐ後から追いつくから」
「わかったわ」
 一同が祭りに向かっていく背中を見送ると、慶悟は公園をぐるりと囲む林の中にもぐりこんだ。
 祭りは始まったばかりで、これからどんどん人出も増えていくことだろう。その前にやっておくことがあった。
 胸ポケットから符を取り出し、蛾の形の式神を作り出す。そしてそれらを公園に放ち、続けて小さく呪を唱える。
「マリシエイソワカ……」
 陰形の真言。それを唱えた瞬間、彼の姿は突然辺りの闇に紛れて見えなくなっていた。

■始まり
 暗い林の奥から、響き渡る悲鳴。
 それは辺りの人を振り返らせるものではなかった。祭り囃子の音声が大きく、祭りに夢中になっている人々のほとんどが聞こえていなかっただろう。
 だがそれでも、祭りの中にいた皆がそれを聞き逃すはずがない。
 あんず飴を舐めていたファルナとファルファ、綿菓子を買っていた秋歌、盆踊りに混じっていた想司、イカ焼きとゲソ焼きのどっちを選ぼうか悩んでいたシュライン、そして闇に紛れつつ式神に意識を集中させていた慶悟も、それぞれ動きを止め、お互いを見やった。
「出たか!?」
 慶悟は蛾の形の式神をその声の方向に向かわせる。 
 林の中で叫び声をあげた少女がおしりに手を当てたまま、きょとんとして辺りを見回している姿が、式神の視界に映る。
「…あっちだ」
 慶悟が指を向ける。
 一同が駆け出そうとしたとき、ファルナが「待ってください!」と皆に呼びかけた。
「…本当に…ちかんオバケさん、なのでしょうか〜?」
「ん?」
 ファルナは白い指先を両手で組み、祈るように仲間に訴えた。
「あのちかんオバケさんだったら…きっと話せばわかってくださると思うんです〜。私を先に行かせてください」
「ファルナ…」
 慶悟は頭をかいた。
「…危ないですよ? ファルナさん…」
 秋歌が言う。ファルナは首を横に振った。
「そんな危険な方ではありませんの。…大丈夫ですわ。ファルファも置いてゆきます。何かあればすぐに呼びます」
 ファルナは柔らかく微笑み、仲間とファルファを残して、林の方へと歩いていった。

■ちかんオバケ再び
 闇の中に浴衣の下駄の足音が、小気味よく響いている。
 ちかんオバケ三森裕介は、草むらの中に身を潜め、その足音を聞いていた。
 草むらから頭を出し、そっと覗く。長い金髪を揺らして、白地に朝顔柄の浴衣をつけた小柄な少女が辺りをうかがいつつ、一人でこちらに向かってくるのが見えた。
 裕介は小さくほくそ笑み、そっと彼女の背後に回りこむ。幽霊とはなんて便利なんだ。空も飛べるし、姿も見つからない。
(可愛い女の子のお尻に、こうしてタッチなんかしたりしちゃってして…むふふふふふ)
「きゃっ」
 少女は立ち止まって、辺りを見回した。
 何も見えないはずである。立ち止まって眉をひそめる少女に、裕介はさらに悪戯を試みた。
(後ろから抱きついたりなんかしちゃったりして!!)
(そのまま暗がりに引っ張りこんだりしたりなんかして!!)
 少女は抵抗なく裕介に草むらに引きずりこまれたまま、小さくつぶやいた。
「…もしかして…ちかんオバケさんですか〜?」
(えっ)
 少女の暖かく柔らかい双丘に布越しに触れ、(軽くもみもみしちゃったりなんかして〜)、と思っていた裕介の指が止まった。
 少女は振り返って裕介の方に顔を向ける。
『き…君はっ!?』
 裕介はぎょっとしたように目を見開いた。見覚えがある。昔、裕介が始めてちかんオバケになった場所…藤急ハイランドで会った少女だ。
「以前約束したじゃないですか? どうかもうこんな事およしになってください〜」
 少女の青い瞳の淵にそっと浮かんだ涙。裕介はあわてて彼女の体から離れて、宙に浮いた。
『あ…あ…あ…』
 ファルナは立ち上がり裕介を見つめる。裕介はひどく動揺していた。
 その裕介の目の前を、銀色に光る美しい蛾が、羽を羽ばたかせて横切っていく。
「私のこと…忘れちゃいましたか〜?」
 見上げるファルナに、裕介は首をあわてて横に振った。
 …逃げよう。それが一番だ。
 冷静さを取り戻した裕介は、ファルナに背を向けて、空高く飛び去ろうとする。
 だが、次の瞬間。
「待て! 三森!!」
 (えっ)
 裕介の体が空中で固まる。
 前に行こうと思っているのに進めない。
 恐る恐る足元を振り返ると、ファルナの側に駆け付けた他の仲間の姿が見えた。
 可憐な少女と美人なおねーさんと・・・怖い顔をしたおにーさん…。
 おにーさんにだけ見覚えがあった。
(……逃げよう!!)
 全身から血の気の引くのを感じ、裕介は体に力を込めた。だが、自分のものではないように、体は重くぴくりとも動かない。

■ちかんオバケにお仕置きを!
「……名前を名乗ったのがおまえの運の尽きだな」
 慶悟はいつになく怖い表情で、裕介を睨み上げた。ちかんオバケ裕介は、空中でもがき続けている。
「動けないようですね…」
 秋歌がその様子を見てぼんやりと呟くと、慶悟が説明してくれた。
「古より霊の類は名前を当てられると、動きを制されたり成仏させられたりもする。名前というのは人にかけられた呪いのようなものだからな」
「そうなんだ〜…」
「例えば俺が『秋歌』と呼べば、君は振り返るだろう。『秋歌』という言葉が自分のことだと思うからだ。名前を知らなくても振り向かせるのは出来ないわけじゃないが、知っていればこんなにたやすいことはない。さらに霊にとっては、名前を知られるということは、その個を掌握されるようなものだ。軽々しく口にしたアイツが悪いな」
 秋歌はしばらく黙りこむと、それからぱっと明るく微笑んだ。
「…つまり慶悟さんは、ちかんオバケさんを呼び止めたのですね」
「…少し違うが、そんなものだ」
 慶悟は苦笑して、空中に捕まえた裕介にさらに『禁呪』をかけて、地面に落とす。
 数メートルの高さから、ぼてっと落ちてきた裕介は、『ぎゃっ』と叫ぶと気を失ったふりをした。
「わっ、お怪我はありませんか?大丈夫ですか?」
 駆け寄ろうとする秋歌を遮って、シュライン・エマが前に出た。
「大丈夫よ、秋歌ちゃん。…だってこの人、幽霊なんだし。これ以上死んじゃったりはしないから」
 そう言ってシュラインは胸元から手帳を取り出すと、気絶している裕介に聞こえるように読み上げた。
「えーと…三森裕介。22歳。 芥島小学校を卒業し、屑川中学校、五味高校と進み、奮迅島大学に一浪の末、入学」
「なんですか〜、それ?」
 ファルナがシュラインに尋ねる。シュラインはくすりと微笑み、ちらりと横目で裕介の方を見た。
 裕介はぴくぴくと小さく動いている。
「…三年の時に、単位を落としてしまい留年してしまう」
 びくびく。
「動いてますね〜。痙攣かしら…」
 秋歌が心配そうに見守っている。
 看護婦の卵の彼女はけが人を見ると、放っておけないのだ。
「その後半年かけてようやく取れた普通免許で、買ったばかりの新車を運転するも、高速道路でカーブを曲がりきれず、即死」
「よく調べたな」
 慶悟がシュラインに笑う。
「興信所のコネもあるし、そんなに大変じゃなかったわ」
 シュラインは微笑むと、さらに続けた。
「…友人・清くんの談 『あいつ始めてできた彼女とのデートの前日だったんだよな〜』」
「彼女がいらっしゃったんですか!?」
 秋歌が驚きを隠さず聞くと、シュラインはゆっくりとうなずく。
「木花 美奈(このはな・みな)さん。同じ大学に通うサークル仲間…現在は…」
『美奈さん!!』
 裕介は突然顔を上げた。
 そして震えながら、シュラインを見つめた。
『…美奈さんは今どうしてるんです!?』
 シュラインは困ったような顔をして裕介に告げた。
「友人・清くんと付き合ってるらしいわよ」
『!!!!!!!!!!!』
「嘘よ。今も時々あなたの墓参りに出かけてるらしいわ。…こんなことしてていいの? 彼女が気の毒に思えるわ」
 シュラインはその前半の台詞の衝撃で燃えつきかけている裕介に告げた。
 ファルナもうなずきながら裕介に言う。
「…美奈さんのためにも更正してください〜」
『…』
 裕介はうなだれた。
「それにしても、どうしてこんなことされてるんですか? 何か訳があるんじゃ…」
 秋歌が、元気のなくなった裕介の側に座り込み、心配するように話しかけた。
 そのとき、浴衣の裾が少し乱れて、布のあわせ目から太ももの辺りがちらりと覗く。
 激しく動揺していた裕介の視線が、ぴたりとそこで止まる。口元が無意識ににやりと吊りあがる。
『…訳というか…なんというか……それより、浴衣っていいですね…』
「え?」
 秋歌は、裕介を見つめ返す。そしてその視線の先に気がついた。
「きゃああああっっ!!!」
『むふ…』
 思わず裕介を突き飛ばし、仲間の下に駆け戻る秋歌。しばらく小さな幸せに打ちひしがれていた裕介は、はっ、と気を取り戻し、恐る恐る彼らの方を振り返った。
「三森…」
 女性陣を背後に控え、慶悟が眉を吊り上げて彼を見下ろしている。その後ろにゴゴゴゴと音を鳴らしながら、暗雲が近づいてくるような気がするのは幻だろうか。
「おとなしく…成仏したほうが良さそうだな…」
 慶悟が符を手にとる。そのまま高くかざすと、雷光が光った。
『う・・・うわあああああっっっっっ』 
 裕介は宙に舞い上がった。轟音をたてて頬をかするほどのところに雷が落ちる。 右に、左に、裕介はそれを奇跡的に避けながら、空に逃げていった。
「待てえぇぇ!」
『ま…待てませぇぇぇんっっっ』
 頬にあふれる涙を拭って、裕介は轟く雷をバックに高く高く飛んだ。



■ちかんオバケの回想
 雷も届かない高い空に舞い上がったちかんオバケは、ようやく安全を確認して小さく息をついた。
 (「裕介さん…ねぇ、裕介さんってば…ふふふ」)
『美奈さん…』
 生まれて23年、一度も女の子にもてたことなんてなかった。だけどそんな僕を好きと言ってくれたヒト。
 美奈の顔を思い出そうと、そっと瞼を閉じると、なぜかそこに浮かんだのはファルナの顔だった。
(「どうしてこんなことをなさるのです? 約束したじゃないですか?」)
『あれ!?』
 裕介は瞼を開いた。どうしてファルナを思い出したたのだろう。
 

 オバケは足元を見下ろした。
 そこは広く閑静な公園。今日だけは夏祭りで盛り上がっている。浴衣の美人さんが、あっちにもこっちにも歩いている。
 (…浴衣の美人さん…)
 裾から見え隠れする足元が素敵。着物の襟のあわせのふっくらとしたふくらみを見てるとたまらない…。
 想像すると、ぽたりと鼻血が垂れた。そのまま地上に落ちていく。
『あっ』
 裕介は自分の真下を見下ろして、声を出した。
 浴衣ではないものの、白いワンピースの可憐な少女が、林の奥を一人で歩いているのが見えたのだ。
 こんな時間に女の子が一人で…。
 辺りを見回す。あのメンバーは辺りにはいないようだ。
(これでしばらくは、やめにしよう…。この夏、最後のお触りだ〜♪ 色情霊をなめるなよー!)
 裕介は勢いよく林の中に飛び降りた。

■ちかんオバケの最後!?
 闇に潜んだオバケにはまったく気づかず、少女は小さく歌を口ずさみながら、暗い森の中を進んでいく。
 長い黒髪に白い肌、赤い形よい唇。
(…可愛い!!)
 裕介は鼻の下を長く伸ばして、恐る恐る少女の背後に近づく。
 そしてそおっと、彼女を後ろから抱きしめるようにしてその胸をぎゅっと掴んだ。
『あ…あれ?』
 胸が…ない。そこは何の凹凸もなく、ぺったんこだ。
 驚きで固まっている裕介を、少女はくるりと振りかえり、にっこりと微笑む。
「やあ、君が噂の挑戦者さんだね☆」
『…挑戦者?…』
 裕介は彼女を見つめ返す。彼女はにっこりと可愛らしく微笑んで、腕ならしをするように肩に手をやりながらにこやかに答えた。
「忍の術で僕に勝負を挑む、命知らずさんがいるなんてね! さて、お命頂戴だよ♪」
『…え…』
 彼女の細い腕から、光の刃が伸びる。ライトセーバーのようなその刃を持ち、少女はくすくすと笑った。
「いっくよー♪」
 言われたとたん、刃は裕介の目の前にあった。驚いて背後に身を引きかろうじて避ける。その背後に今度は少女が笑っている。
『うわ…うわぁぁぁぁっっっ…』
「ん? 避けたね。なかなかやるじゃないか☆」

 『光刃』を抱えた少女の正体は水野想司。
 こっそり少女に変装し、逃げたオバケの行方を追っていたのだ。
 しかしよく似合う変装である。

『うわぁぁぁぁ!!! 殺されるーーー!!!』
 林の枝も幹もつき抜けながら逃げ回る裕介に、同じスピードで追いながら、背後から右に左に切りつける想司。想司がわざと外しているのか、裕介が奇跡の連続で交わしているのかは定かではない。
「もう死んでるんじゃないの♪ おとなしく成仏してみない?」
『絶対やだーーーっっっ!!!』
 裕介の右の頬を光刃がかする。熱さのような痛みが走って、驚いてつまづいた裕介は地面に転がった。
「ふふふ…」
 想司がその足元に立ち、光刃を掲げる。そこには姿の可憐さとはまったく別の、戦慄を感じさせる魅惑の笑みがあった。
「もう終わりみたいだね、観念しようか☆」
『…あ…あ…あ…』 
 裕介は目に涙をためて、想司を見あげる。その刹那。
 
 バリバリバリバリバリバリ。
 
 想司の目の前が突然、轟音と共に、白い光に包まれる。
「えっ」
 咄嗟に目をつむった想司が、再び瞼を開くと、そこには黒こげになり、煙をぷすぷすと上げている裕介の姿があった。
 そして、反対側の草むらから、慶悟を先頭にシュラインとファルナとファルファ、秋歌が顔を出す。
「まったく」
 慶悟の手には、雷を呼ぶ符が握られていた。
「ひどいなあ。僕がとどめを刺そうと思ってたのに☆」
 想司が腰に手を当てて、ため息をつきながら苦笑する。
「悪かったな。こうでもしないと暴走したお前を止められないと思ったからだ」
 慶悟も苦笑して、札を胸元に閉まった。
「死んじゃったのでしょうか〜? ちかんオバケさん」
 ファルナが恐る恐る慶悟に尋ねる。秋歌はお手当てセットを取り出して、裕介に駆け寄って、脈をとった。
「脈はないようです〜…ご臨終ですね」
「もともと死んでるんだってば」
 シュラインが笑って、秋歌に答えた。
「じゃあオバケ退治も出来たことだし、お祭りにもどろうか? まだお囃子は聞こえるよー」
 少し不満気だった想司も気を取り直して、皆に言う。「そうだな」と慶悟もうなずき、皆が祭り囃子の聞こえる方を振り返った。
「クレー射撃まだしてなかったんだ♪ 1等賞の『銅騎』ソフト。専用コントローラー付はちょっと欲しいところなんだよね☆」
「それって…倒せるものなの?」
 シュラインの咄嗟の問いに、想司はにっこり微笑んで「多分☆」と答える。
 ファルナがふと思い出したようにファルファに告げた。
「金魚すくいしなければなりませんわね。家のものに鉢を用意してもらうように頼んでおいたのを忘れていました〜」
 ファルファはこくりとうなずいたように見えた。ファルナは目を細め、そして背後を振り返りながら言う。
「もしよかったらちかんオバケさんも一緒にいかがですか〜? って…え、オバケさん??」
 さっきまで黒焦げになって転がっていた裕介の姿は、そこから消えていた。
 逃げてしまったのか、それとも成仏して消えたのか。
 林には静けさが戻り、祭り囃子の音だけがいつまでも響き渡り続けていた。

■エピローグ
「おみこしが来ましたよー」
 綿菓子を片手に持った秋歌が、皆を振り返る。
 威勢のよい声と共に、金色に光る大きな神輿が町内を練りまわした後、公園の中にある小さな神社に戻ってきたのだ。
「ほぉ」
 狐の面を手に、りんご飴とげそ焼きを持った慶悟は、シュラインと共にその様子を振り向く。
「豊穣祭なのね。もうすっかり秋のお祭りじゃないの」
「そうだな」
 慶悟はうなずいた。
 その後ろから着流しの浴衣姿に戻った想司が、駆けつけてくる。その手には何故か大きな箱を抱えている。
「やったね♪ゲットしてきたよ」
「想司さんすごいです! ほんとにそれ、クレー射撃で倒してきたんですかー」
 秋歌が感激して口元を押さえている。
「うん、自分でも信じられないくらいだよ☆」
 想司はにっこり微笑んで、驚いた表情のシュラインに小さくVサインを決めた。
「きゃーっ」
 彼らの耳に小さく悲鳴が聞こえてくる。ファルナの声だ。
 まさか!!と思いながら一同が振り返ると、近くの金魚すくいに腰掛けていたファルナとファルファが騒いでいるのが見えた。
「どうした!?」
 すっかり今日は保護者役の慶悟が、真っ先に駆けつける。
 破れた金魚すくいの網の山を足元に、赤面しつつ振り返ったファルナの胸元から、ぴょん、っと金魚が飛び出して、慶悟の鼻に当たった。
「あ・・・っ。やっと逃げてくれました〜…」
 上半身をびしょびしょに濡らし、肩の近くまで襟を乱したファルナに何があったのかは推理されたし。
 金魚の攻めからようやく逃れたファルナは、ふらりとファルファに身を倒し、甘い吐息をついたのだった。

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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】
  0086 シュライン・エマ 女性 27 翻訳家&幽霊作家+草間興信所で時々バイト
  0158 ファルナ・新宮 女性 16 ゴーレムテイマー
  0389 真名神・慶悟 男性 20 陰陽師
  0424 水野・想司 男性 14 吸血鬼ハンター
  0683 鳴神・秋歌 女性 19 看護学生
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■              ライター通信               ■
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 いつもお世話になっております、鈴猫(すずにゃ)と申します。
 大変お待たせいたしました。「ちかんオバケりたーんず 〜浴衣美人を守れ〜」をお届けします。
 真名神慶悟さん、7度目のご参加、シュライン・エマさん、4度目のご参加、本当にありがとうございます。
 水野想司さん3度目のご参加、ファルナ・新宮さんも2度目のご参加ですね。
 またお会いできて、とても嬉しいです。
 鳴神・秋歌さんは初めまして。選んでいただき、本当に嬉しいです。

 シュライン・エマさん
  素敵なプレイングありがとうございます。
  素性を調べられて、裕介も恥ずかしくて夜も眠れないことでしょう。
  また、シュラインさんだけ、痴漢の被害にあってないのは、年齢のせいではありませんから!(汗)
  いやいや、本当ですからね!(笑) 

 それではまた、違う依頼で再会できることを楽しみにして。
 ご参加本当にありがとうございました。(深礼)