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<PCシナリオノベル(シングル)>


謎のメモ(必ず戻る)
●LIKE A PRIVATE EYE
 ある日の午後、渋谷・センター街周辺――若者の姿が多く見られる渋谷でも、特に若者たちが行き交う場所だ。ファーストフードも軒を連ねているし、ゲームセンターもある。大手CDショップもあれば、ライブハウスもある。こういう環境だと、ほぼ言うことはない。
 そのセンター街から1本東へ入った通り、交番の前にあるゲームセンターから茶髪で短髪の女性が出てきた。女性は手にしていた写真をジャケットの内ポケットへと仕舞うと、小さく溜息を吐いた。
「やっぱ医者が探偵の真似するんは、どうかと思うけどな……」
 頬等にいくつか傷のあるその女性――松本純覚はやや呆れ気味につぶやいた。
 純覚は目の前を行き交う人々の顔を、しばらくその場に立って見ていた。少年たちはまだそうでもなかったが、少女たちは何故か似通った髪型、似通った格好、そして似通った顔が多かった。流行りなのか、それとも誰かの真似なのか。ただ、奇妙な光景であることは事実だろう。
(化けられてたらかなわん)
 純覚は少女たちを見ながら、そんなことを思った。何故なら純覚は今、人探しの最中だったからだ。
 さて、では純覚が何故に純覚言う所の『探偵の真似』をしているのか。それを説明するには、しばらく時間を巻き戻す必要があった――。

●YESTERDAY
 純覚が渋谷で人探しをすることになった数日前、草間が姿を消した。真夜中に、月刊アトラス編集長・碇麗香の電話で呼び出され……それっきり帰ってこなかったのだ。
 探偵という仕事柄、帰ってこないということが時折あるのはまあ仕方がない。けれどもその場合でも、連絡の1本くらいはある。だから、今回のように連絡なしで何日も姿を消しているというのは異例であった。何か草間の身に起きたのではないか――考えたくなくとも考えてしまう。
 その話が広まると、草間の身を案じた者たちが主の居ない事務所へとちょくちょく顔を出すようになった。その中にはもちろん純覚も含まれていた。
 事務所に顔を出す理由はいくつかあるだろう。事務所のことが心配だったり、1人残された草間の妹である(ということになっている)草間零を気遣ったり等と。しかしこういう理由もある。いつひょっこりと草間が戻ってくるかもしれない、だからいつでも出迎えられるようにしておこうと。口には出さないが、待ち人だらけの事務所の空気がそれを物語っていた。
 そして昨日も純覚は事務所へ足を運んでいた。
(ほんま、草間どこ消えよったんやろな。ええ加減に戻ってきてもええやろに)
 難し気な表情で頭を掻きながら、事務所のあるビルの階段を上ってゆく純覚。自分でも草間を探すために心当たりの場所をあたってみたが、今までの所は全て空振りに終わっていた。難し気な表情なのも、その苛立ちによるものだった。
 2階へ着いた純覚は玄関の扉のノブに手をかけ、いつものように一気に回してみた。しかし鍵がかかっているのか、途中で止まってしまう。
「何や、零も居らんのか。さて、どないしょ……」
 事務所へ来たはいいが、鍵がかかったままでは意味がない。一旦余所で時間を潰してからまた来てみようか、そう純覚が考えた時だ。扉の下の方に、何やら紙切れが挟まっていることに気が付いた。
「うん? 紙切れかいな……?」
 純覚は身を屈め、扉からその紙切れを抜き取った。手帳を破ったと思われる紙切れには、ボールペンで短い文章が書かれていた。慌てて書いたのか、文字は全体的にやや乱れていた。しかし見覚えのある文字だ。
「……待ちいな、これ」
 紙切れに目を通していた純覚の眼差しが鋭くなった。そうなる原因は文章の最後に書かれた署名にあった。署名には『草間』の2文字が記されていたのだ。
 純覚は再び文章に目を通した。その内容は次の通りだった。
『このメモを最初に読んだ者へ 途中になっている仕事を片付けておいてくれ。心配するな、必ず戻る。 草間』
「何を寝ぼけたこと言うてんねん……草間のアホォ」
 馬鹿にしたような口調でつぶやく純覚。しかしその口元には笑みが浮かんでいた。この紙切れ――メモを扉に挟んでいったということは、少なくとも草間は生きてどこかに居るということだ。拘束されているかどうかは分からないが、楽観視するならばその可能性は低いだろう。第一、拘束している相手が、こんなメモをわざわざ挟みに来てくれるほど親切だとは思えない。
「けど気になるわな。途中の仕事って何や?」
 草間が何かの仕事の途中だとは、純覚は知らなかった。まあ知ってたら、草間が姿を消した原因と絡めて調べていたかもしれないのだが。
(ま……聞けば分かるわな)
 ちらっと階下に視線を向ける純覚。ちょうど零が戻ってきた所であったのだ。
「あ、すぐに鍵を開けますね」
 パタパタと零が階段を駆け上がってきた。

●CONTINUATION
「間違いありません、草間さんの字ですね」
 事務所に入ってすぐ、純覚は先程のメモを零にも確認させていた。一応念のためにという奴だ。
「さよか。で……ここに書いてある途中の仕事って何や?」
 純覚が途中の仕事について零に尋ねると、零は即座にその質問に答えた。
「恐らくあれだと思います」
 そう言ってファイルの納められた棚へ向かう零。数あるファイルの中から、おもむろに1冊取り出してこちらへ戻ってくる。
「これです。草間さんが居なくなる前の日に、受けたお仕事のファイルは」
 そう言ってファイルを差し出す零。こちらへ差し出したということは見てもいいということだ。純覚はファイルを受け取ると、さっそく中を開いて読み始めた。
 ファイルには書類が挟まっていた。書類には草間の文字で依頼内容が記され、クリップで写真が1枚留められていた。短髪黒髪で気の強そうな少女の写真だ。少女の名前は高輪泉、年齢を見るとまだ17歳であった。
「ふーん、進路のことで喧嘩して家出かいな」
 純覚が素っ気なく言った。
「つまりあれやな。娘が家を出たから探してほしい……ちゅうことか」
「ええ、そうみたいです。ご両親揃って来られましたけど」
「……何でここ来たんやろな」
「えっ?」
 零が純覚の言葉を聞き返した。
「普通なら家出人の捜索は、警察のする仕事や。何ぞ警察に出されへん事情あるんとちゃうやろな?」
「それはなかったと思います。ここへ来たのは、警察だとなかなか探してもらえないからだと言ってましたから」
「ふーん」
 一応筋は通っている。事件性がなければ、警察の対応は後回しになりがちである。捜索願を受け付けてはくれるが、本腰入れて探してくれるかといえばそういう訳でもない訳で。したがって、ここのような探偵事務所へ来るのもまあ不思議ではない。基本的に金さえ出せば探してくれるのだから。
「けど、それほんまに両親か? そう装った第三者やないやろな」
 ふと思い浮かんだ仮説を口にする純覚。しかしそれはすぐに零が否定した。
「それも大丈夫ですよ。私、父親の方が落とされた免許証を拾った時に、本人だったのを確認しましたから」
「普通の小娘1人のために、免許証まで偽造するアホはほとんど居らんか……」
 世の中は広いから中には居るかもしれないが、常識で考えるなら割の合わない行為である。普通はそんなことやらない。
 純覚はさらに書類を読み進めた。すると書類の下の方、走り書きでやや読みにくいのだが、何やら書かれていた。どうやら渋谷で泉を見かけたという情報が得られていたようだ。受けたその日によく情報をつかめたものだ。運がよかったか、草間の能力が高かったか、そのどちらかだろう。
「渋谷か。他にその両親、何か言うてなかったか?」
「そうですね……よく分からないんですけど、ゲームが好きと言っていたような」
 首を傾げながら零が答えた。
(ゲーム……ゲーセンに出入りしとる可能性もあるなあ。プリクラ撮れるとこも、確か結構あったはずやし)
 渋谷の街並を思い浮かべながら、自然と考える純覚。そこに零の声が飛んだ。
「探されるんですか?」
「あ?」
 純覚は思わず間が抜けた声を出してしまった。
「医者が探偵の真似するんもどうかと思うけどな……」
 純覚は最初躊躇したが、件のメモを最初に読んだこともあって、結局はその仕事を引き継ぐことになった。
 そして時間は再び進んでゆく――。

●FIND OUT
 時間は夕方になっていた。未だに純覚は渋谷の街に居た。渋谷一大きな本屋の前だ。その表情はかなり険しい。
「……草間、はよ帰ってこんと、あたしが興信所乗っ取るからな!」
 渋谷の道端、膨れっ面で言い放つ純覚。渋谷にあるゲームセンターは全て回り、それ以外にも若い娘の行くような店をあたっていたが、そのいずれでも芳しい情報は得られなかった。そのことが純覚を苛立たせ、今のような言葉となって出てしまったのだった。
「今度はライブハウスでも行ってみたろか」
 純覚はジャケットの内ポケットから泉の写真を取り出した。そしてまじまじと見る。
(変装しとんのとちゃうやろなあ……いや、プチ整形かも)
 変装程度ならまだしも、整形されていては純覚の能力をもってしても探し出すのは難しい。そうなればお手上げである。
「けど、こんなに探しても分からんてことは、何ぞ超常的事象でもあったんか……?」
 神隠し、そういう事象があるのは今日までにいくつも報告されている。可能性を否定する訳にはいかない。そこにふと草間の顔が浮かんだ。純覚は大きく頭を振った。
 写真を右手に持ったまま、今日何度目かになるセンター街へ足を踏み入れる純覚。目の前を1人の赤髪の少女が右から左へと横切ろうとしていた。
「!」
 急に足を止め、純覚はその少女の横顔を見つめた。すぐに写真と見比べる。
(居った!)
 純覚は大きく1歩前に踏み込むと、左手でその少女の後ろ襟をぐいっとつかんだ。
「きゃあっ!」
 悲鳴を上げた少女は、すぐに純覚の方へ振り向いた。当然の反応であろう。
「見付けたで……」
 純覚は手にしていた写真を少女――泉に見せた。大きく目を見開く泉。すぐさま逃れようとしたが……純覚相手にそれは無理というものだ。
「髪染めてたら、普通の人間は分からんわな。けどあたしの目は誤魔化せんかったな」
 そして純覚に捕まった泉は、近くのファーストフード店で今日までの事情を話すはめになってしまったのだった……。

●AN ILLUSION?
 泉から一通り事情を聞き、純覚が説得を終えて店を出てきた頃には、すでに外は夜になっていた。
「ほな行こか」
 純覚がくるっと振り返って泉を促した。おとなしくついてくる泉。事情を話しながら自分の思っていたことも全て吐き出したから、きっとすっきりしていたのだろう。ちなみに泉、お菓子職人になるのが将来の夢で、この家出中にもケーキの美味しい店等を食べ歩いていたそうだ。
 と、純覚が再び前を向こうとしたその時だ。雑踏の向こう、ビルの陰にある人物の姿を見付けた。それはよく知った顔――草間の姿だった。
「草間っ!?」
 泉をその場に残し、反射的に駆け出す純覚。だが、純覚が草間が居たと思しき場所へやってきた時には、もうそこに草間の姿はなかった。能力を用いて周辺の透視も行ってみたが、どこにも見当たらなかった。
「……何で逃げんねん、アホ。ほんまに興信所乗っ取ってもええんか……草間?」
 ビルの壁にもたれかかりながら、純覚が溜息と共に言葉を吐き出した。その言葉が草間に届いていたか、それは定かではなかった。

【了】