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<東京怪談ウェブゲーム ゴーストネットOFF>


 時を司るモノ
 <オープニング>
「誰か、過去に行きたくない〜?」
 カフェ内に響き渡る声で雫が訊いた。
 掲示板には「過去へ繋がる砂時計」と題された新記事が載っている。

 旧家の蔵の中で砂時計を見つけました。
 ひい祖父さんが言うには、精霊だか幽霊だか、時を操る者が乗り移っているらしいのです。
 砂時計は三つあるらしく、それぞれ過去、現在、未来へと繋がっているのだとか。
 中でもこの砂時計は過去へと通じているというのです。
 僕は得体の知れないものが苦手で、この砂時計も家にあるだけで嫌な感じがします。
 そこで、過去を覗いてみたいという方にお譲りしようと思います。
 注意事項としては、なるべく過去に行きたい理由が明確な方にお譲りしたいのです。
 もし理由なく過去に行ったりして戻って来られなくなったら怖いですから。
 それから、過去を変えられるかどうかはわからないので「たとえ過去を変えられなくてもあのシーンをもう一度見たい」もしくは思い出を深める、といった気分で望んでください。
 もし過去に深入りして戻ってこられなくなったりしたら大変なことになりますので。
 それでは宜しくお願いします。

「う〜ん、みち、あってるのかなぁ」
 依頼人から送ってもらった屋敷への地図を両手で持って、駒子は空から家々を眺める。依頼人の家は隣に蔵のある随分大きな屋敷らしいので、空から見ても判る筈なのだが。
 そのまま五分程飛んでいると、周りを小さな城壁で囲んだ家が見えてきた。
「あのおうちかなぁ?」
 駒子は門の前に降り立った。門は樹で出来ていて、堅く閉ざされている。
 人がいないのを確かめると、身体を実体化させ、駒子は背伸びしてインターホンを押した。
 インターホン越しでの応答の代わりに、目の前の門が音を立ててゆっくりと開いた。
 目の前にいるのは、小学高学年位の男の子だ。どうやら彼が依頼人らしい。
「駒子ちゃんだよね、待ってたよ。入って」
 
 居間に案内された駒子はキョロキョロと辺りを見渡した。
「ほんとうにふるいおうちだね〜でもおおきいね〜いいなぁ」
「この家はずっとずっと前からあるんだよ。蔵なんて殆ど掃除してないから、何があるのかみんなわからないんだ」
「そうなんだぁ、たんけんしてみればおもしろそうなのにな」
「でも変なもの出てきそうで怖いよ。はい、お茶菓子。それとこれが砂時計だよ」
 砂時計は駒子の掌に納まる位に小さかった。赤い色の砂がキラキラと光っている。
「駒子ちゃんの着物と同じ赤だね」
「ちいさくてきれいだね〜」
「綺麗だけど僕にとっては怖いよ、過去に連れていかれちゃうなんてさ。だからお父さんに頼んで、ゴーストネットの掲示板に砂時計をもらってくれる人がいるかどうか書き込んでもらったんだ。そんな得体の知れないもの欲しがるなんて、駒子ちゃん変わってるね」
「こまこ、べつにかわってないよ。……おっかぁにもういちどあいたいだけだもん」
「お母さんに会いたいの?」
「うん。あとね、おっとぅとあにさとあねさにもあいたいなぁ。こまこね、うまれてすぐだいききんのせいでしんじゃってね、おっかぁとか、みんなないててね。こまこ、ざしきわらしになってからも、ずっときになってたの」
「そっかぁ……駒子ちゃんのこと僕はよく知らないけど、何か事情があるんだね。うん、これあげるからお父さんやお母さんに会ってきなよ」
「うんっ。ありがとぉ」
「使い方はね、砂時計を掌で包んで、耳元に近づけるんだって。それで祈れば、過去に行けるらしいよ」
「わかった〜やってみるね☆」
「あ、ちょっと待って。あのさ……戻ってきたら、どうなったか教えてくれる?」
「いいよ〜教えてあげるね」
 駒子は砂時計を手に取ると掌で包んだ。
 耳元へ近づけると、サラサラと砂の流れる音が聞こえる。
(こまこがしぬちょっぴしまえにいっておっかぁにあいたい)
 やがて砂の音が大きくなり、砂時計に吸い込まれるように駒子の意識は遠のいた。

 ドクン、ドクン。
 ぼんやりとした意識の中で鼓動のような音がする。
(なんのおと……?こまこのしんぞうのおと……?)
 目を開けると、まるで映画のシーンのようなものがぐるぐると目の前を回っている。
 どうやら過去、現在、未来が次々に回転しているようだ。
 ピクンっと掌の砂時計が動いた。
 駒子が驚いて手を開き砂時計を見ると、砂時計は待っていたとばかりに駒子に語りかけた。
「今から貴方の望む過去へ向かいます。タイムリミットは砂時計の砂が全て流れた時です。いいですね?」
「うん」
 目の前の映像が左向きに回り始める。未来から現在、そして過去へと流れていく。
 そして、光った。

 気が付くと駒子は過去に来ていた。
 知っている家、懐かしい匂い。
 深夜らしく、暗くて何も見えない。
 次第に目が慣れてきて、家の中がうっすらと見渡せた。
 ボロボロになった家の中は、貧しさを物語っている。
「もどってきたんだ……おっかぁ、どこ?」
 駒子の母は寝ていた。父も兄も姉も、そして昔の自分も眠っている。
 駒子は砂時計を袖口に入れると母の傍に駆け寄り、母の頬にさわろうとした。
 ところが駒子の手は母を素通りしてしまった。どうやら過去の人間にはさわれないらしい。
 母は目の前にいるのにふれることが出来ない。
 駒子は泣きたくなったが、こらえて母の隣に寝転がってみた。
「おっかぁのにおいだぁ……」
 そっと目を閉じて、駒子はウトウトと眠り始めた。

 五月蝿く音がなだれ込む。
 駒子は音に無理矢理起こされた。
 目を開けてみると家族の姿は無かった。
 慌てて起き上がると、外からガタゴトと騒がしい。農作業をしているようだ。
 日は高くなっているのが室内からでも判る。
 袖口から砂時計を取り出した。
 砂の三分の一が流れ落ちていた。
「んっと、とにかくおっかぁたちにきづいてもらわなくちゃ」
 駒子は大きく息を吸い込んだ。
「おっかぁ〜〜〜〜〜!!!!!」
 ……反応は、ない。
「こまこのこえ、きこえないのかなぁ……」
 駒子は身体が反り返る程、空気を吸い込んだ。
「おっっっかぁ〜〜〜〜〜!!!!!!」
 …………………………。
「やっぱりだめだぁ」
 駒子が息を切らして座り込むと、母達が戻ってきた。
 皆ひどく疲れているようだ。顔もひどくやつれている。
 今は丁度昼頃なのに、母達は食事をする様子がない。
 食べるものが、無いのだ。
 空腹に昼の日差しは苦しすぎたのだろう、少し休むつもりらしい。話す気力もなく、黙って座り込んでいる。
 母の背中におぶられている赤ん坊の駒子も、顔に生気が無い。
 駒子の胸に痛みが響いた。悲しみを訴えている。
 駒子は着物の袖の端を強く握り締め、悲しさを飲んだ。
「つたえなくちゃ、いまのこまこのこと」

 日が落ち、夜になるのは早かった。
 駒子は疲れ果てていた。
 どうして届かないのだろう。叫んでいるのに。
 もしかしたらと思い、念動力のようなことも試してみたが、物は動かなかった。
 言葉を伝えるどころか、存在さえ感じてもらえない。
 どうすればいいのだろう。
 夜は増し、子供は寝、やがて深夜になった。
 仕事をしていた両親は寝仕度を始めた。
 寝てしまわれては、益々気付かれなくなってしまう。
「まって……」
 駒子が言いかけたとき、後ろで赤ん坊の悲鳴が静寂を裂いた。
 両親は赤ん坊に駆け寄り、兄弟達も目を覚ました。
「どうしたの、駒子、どうしたの」
 駒子は振り返った。
 赤ん坊の自分が泣いている。
 普通の泣き方ではない、衰弱していく中で振り絞るような、最期を迎える泣き方だ。
 駒子は砂時計を見た。
 残りの砂はあと僅かだった。
 このままでは、何も言えないまま終わってしまう。
 伝えたい、伝わらない。
 両親の呼びかけが大きくなる。
「駒子、駒子」
 赤ん坊の泣き声が強くなる。
「どうしよぉ、どうしよぉ……」
 焦りだした駒子の目に飛び込んできたのは、命短い赤ん坊の自分の姿だった。
「そうだっ」
 駒子は赤ん坊の身体に体当たりした。
 いくら過去の世界とはいえ、他人にはさわれなくても自分の身体とは波長が合うだろうと思ったのだ。
 開けっ放しの窓から風が流れていくように、自然と駒子は赤ん坊の身体に宿れた。
「駒子っ駒子っ」
 母の顔が間近にある。
 母は、泣いていた。
「おっかぁ、だいじょうぶだよ。こまこ、だいじょうぶだよ」
「駒子……お前、何で喋れて……」
「あのね、おっかぁ、おっとぅ、あにさ、あねさ。なくことないよ。こまこ、すこしだけとおいとこにいくけど、こまこかなしくないよ。こまこはね、しあわせになるんだよ、いま、しあわせなんだよ。でもね、おっかぁのこととか、すごくきになってて、おっかぁたちにいいたかったことがあるからここにきたの。こまこ、しあわせだって。だからかなしまないでって」
「駒子、どういうことなの……?」
 駒子の耳にサラサラと砂の音が聞こえてきた。
 もう時間らしい。
「じかんきちゃった……こまこ、かえらなきゃぁ……。ねぇ、おっかぁ、さいごに、いまわらって?」
 身体が抜けるような感覚があった。砂時計に吸い込まれていく。
 記憶が途切れる直前、駒子は母を見た。
 母は涙を溜めていた。
 微笑んでいたようにも見えた。

「駒子ちゃん、大丈夫?」
 駒子の周りに大きな屋敷が広がっている。
 その中心に依頼人の少年がいた。
 駒子は現在に戻ってきていた。
「ん……へいきだよ」
「でも駒子ちゃん、泣いてるよ?」
「へ……?かがみ、かして?」
「うん、ほら」
 鏡に映った駒子の顔は涙で濡れていた。
 それでも尚、今目に涙が溜まっている。
「大丈夫?辛いことでもあった?お母さんに会えなかったの?」
「ううん、つらいことなんてないよ。うれしかったもん」
 駒子は少年が手渡してくれた手鏡を顔からどかした。
 そして、目に涙を溜めたまま、精一杯、笑ってみせた。
 
 終。
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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

0291/寒河江・駒子(さがえ・こまこ)/女/218/座敷童子

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■         ライター通信          ■
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「時を司るモノ」へのご参加、真にありがとう御座います。佐野麻雪と申します。

 寒河江駒子様
 実はこのオープニングを出し発注を待っている際に、偶然OMCの商品掲載頁にて、駒子様を見ていたのです。
 なので、この発注を見たとき、非常に驚き、又嬉しく思いました。

 「雫」の件は真にありがとう御座いました。
 「雫」の字には気をつけようと思っていたのにも関わらず、間違えて覚えておりました。
 ご指摘に非常に感謝しております。
 同時に、もう戻らない過去を振り返り、頭を抱えております。
 私が砂時計を使い、名前を雫に直していきたいくらいです……(苦笑)
 寒河江駒子様、そして以前に書かせていただいた方々に対し、深くお詫び申し上げます。