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<東京怪談ウェブゲーム アトラス編集部>


禁じられた遊び【後編】
●オープニング【0】
 LAST TIME 『禁じられた遊び』――。
 都下某所ニュータウンにて、謎の生物の噂が流れていた。月刊アトラス編集長・碇麗香の依頼により調査を始めた一行は、聞き込み等の結果、謎の生物が多く目撃されているエリアを割り出すことに成功した。それはニュータウン西部、人工の川が流れる辺りだった。
 夜になり、川近くの公園をベースに張り込もうとする一行。だが、途中で妙な音を耳にし、2組に分かれることになった。
 音の聞こえた方向へと向かった組は、途中男の子と女の子と擦れ違う。そしてその先にあった物は、喉からおびただしい血を流して倒れていた犬。直後、犬の喉を噛み切ったと思しき謎の生物に襲われたが、それを何とか撃退することが出来た。
 一方公園に向かった組も、謎の生物に襲われていた。同じく撃退したのだが、思いがけないことがそこで分かった。何と謎の生物は粘土で出来ていたのだ。
 何故このような生物が存在しているのか……調査はまだ続いていた。何か要因があるに違いないのだが――。

●刻まれた文字【1】
「……粘土細工?」
 月刊アトラス編集長・碇麗香は怪訝な表情を浮かべ、目の前に置かれた粘土の塊を見つめていた。
「いーや。さっきまで生きてた奴だよ、麗香」
 瀧川七星がやれやれといった表情を浮かべて言った。それらは少し前まで、子犬大のグロテスクな生物だった物だ。もっとも1つは半分以上崩れ、もう1つには頭部に歯形がついていたのだが。
 ニュータウンに調査へ向かった6人は、この奇妙な生物に襲われ撃退した。その後、一旦麗香の残るアトラス編集部に引き上げてきたのだが……犬の死体を目の当たりにしてショックを受けたのか、引き上げる途中で七森沙耶が自宅へ戻っていた。ゆえにこの場に居るのは、麗香の他に5人となっていた。
「恐らく、これが噂の生物なんでしょうけど……」
 浮かない表情のシュライン・エマ。それはそうだろう、沙耶と同様に犬の死体を目の当たりにしたのだから。いや、それ以上にまだ他にもこの生物が存在して、他の何かを襲ったりはしないかということを危惧していたのかもしれない。
「あのナマモノがあんなに不味いなんて、詐欺なのにゃっ! うー……JAROに訴えてやるのにゃっ!!」
 そう言って腹立ちを隠せない白雪珠緒。ようやく魔物をかじることが出来たというのに、その味が散々だったのだ。怒るのも当然である。ただ、JAROは違うと思う。
「タマ、不味かったのは解ってるから、どんな味だったか思い出してみ?」
 苦笑しながら、七星が珠緒に尋ねた。その返事で、生物の素体が何なのか確定させようというつもりらしい。が。
「え? 味? 覚えてないにゃ」
 きっぱりやや威張るように珠緒が言い放ったことにより、七星は無言で頭を振ったのだった。
 七星と珠緒がそんな会話を交わしている間に、真名神慶悟が粘土の塊に手を触れて慎重に何かを調べていた。
「……何か刻まれているな」
 ぽつりとつぶやく慶悟。足の裏に当たる部分に、何やら文字らしい物が刻まれていたのだ。慶悟の後ろから、シュラインがひょいと覗き込んだ。そして眉をひそめる。
「くさび文字……かしら、それ?」
 シュラインの言うように、刻まれていたのはくさび文字のようであった。シュラインは他の部位も見てみたが、他に文字らしい物は見当たらなかった。
「くさび文字っていったら、メソポタミアか古代ペルシャがすぐに思い浮かぶかな」
 七星がくさび文字を見ずにさらっと言った。ちなみにこの両者、同じ『a』を表すにしても異なるくさび文字となる。
「ちょっと見せて」
 麗香がシュラインと場所を入れ替わって、そのくさび文字を見つめた。仕事柄、麗香はこういうのを目にする機会はあるはずだが……?
「何だか、そのどっちでもないみたいね」
 麗香がきっぱりと答えた。とすると他のくさび文字か、未知のくさび文字ということになる。
「そのくさび文字の種類が何にせよ、この怪異は……邪悪な物だろう」
 慶悟は足の部分には触れず、粘土の塊の検分を続けていた。粘土の塊を切るように押し開き、中に何か詰められてはいないかを確かめていた。
「そのこととは別に、気になることがあるのですが」
 そう言ったのは、他の5人と少し離れて座っていた天薙撫子だった。着物姿の膝の上にはスケッチブックが。今まで何か描いていたようだ。
「七森様から聞いたのですが、現場近くで見かけた男の子と女の子を見かけたとのこと。わたくしはそれも気にかかります」
 その撫子の言葉を聞き、慶悟とシュラインが顔を見合わせた。心当たりがあるようだ。
「……たぶんすれ違った子供たちね。一瞬だったから、顔もよく覚えていないけど」
 シュラインが溜息混じりに言った。すると、今度は七星が口を開いた。
「子供っていえば……やっぱりさ、俺、麗香の言ってたおマセな子供たちが気になるんだよ。タマが化け物かじったのを見てから特に、だよ」
「どういう意味?」
 麗香が七星に視線を向けた。
「何がって、化け物の素体が粘土だったってことさ。油粘土か小麦粘土じゃないかと思ってタマにさっき聞いてみたんだけど……」
 ちらっと珠緒に視線を向ける七星。そして苦笑いを浮かべる。
「……味忘れてるんじゃなあ。しかし、前者は学校教材、後者は間違って口にしても安全な子供の遊び道具として両方とも広く使われているもんだ」
「ちょっと待って。つまりあなたが言いたいのは……」
 七星が何を言いたいのか、麗香も察したようだった。表情が厳しくなっていた。
「……俺は、形の定まらない化け物を作り出しているのは、子供たちなんじゃないかと思う」
 神妙な表情で七星が答えた――。

●くさび文字の秘密【2】
「子供たちが? これを?」
 麗香も俄にはその話を信じられないようであった。が、七星は淡々と話を続けた。
「『本に子供の作り方が書いてあった』って、そのおマセな子供は言ってたんだろう? 『子供を作る』ってのは、その化け物を作るってことなんじゃないのか?」
「確かに辻褄は合うけど……同一人物かまでは分からないわよ」
「それなんだけど、麗香さんにちょっとこれ聞いてほしいの」
 シュラインはそう前置きして、麗香から聞いた話に出てきた子供たちの言葉を口にした。自分の声ではなく、擦れ違った子供たちの声で。たちまち麗香の表情が変わった。
「……こんな声じゃなかった?」
「それよ! その声だわ!」
 麗香がシュラインを指差し、興奮した様子で言った。
「決まったな」
 七星が短く言った。点が線で結ばれた瞬間だった。
「子供2人が遊びの一環の様に何かを為しているのだろう……無垢さと無邪気さは時に殺すことも厭わないからな。早急に手を打つ必要がある」
 その慶悟の言葉は真実を突いていた。七星が大きく頷く。
「麗香。子供の無邪気さは、後ろめたさがない分、本物の化け物なんかよりずっと怖い時があるもんだよ。恐らく手本にした本ってゴーレム製造魔術とかそんな感じの魔術書だったんじゃないかね」
「何、ゴーレム?」
 不意に室内に、別の声が響き渡った。女性の声だ。シュラインが声の聞こえてきた場所に視線を向けると……そこは編集部の隅にある机だった。
 机の下からごそごそ這い出す黒い――と書くと別の生物のように思えるだろうが――少しパンクの入った衣服に身を包んだ、腰まではあろうかという金髪の女性。呆気に取られている一同をよそに、その金髪の女性はつかつかと粘土の塊のそばにやってきた。
「誰にゃ?」
 珠緒が女性を指差して言った。
「レイベル・ラブ。一応医者……よね?」
 麗香が女性、レイベル・ラブに尋ねた。頷くレイベル。
「私にもちょっと見せて」
 そう言うとレイベルは、慶悟と同様に粘土の塊の検分を始めたのだった。
「あそこは寝る所じゃないわよ」
 呆れたようにつぶやく麗香。レイベルも即座に切り返す。
「そうか? この間、大量の人間が寝ていたと思うぞ」
「あれは締切前だったからでしょ。別冊と単行本もあったから、とんでもないスケジュールだったのよ」
 何だかアトラスの修羅場が垣間見えるような会話である。
「生きていたのか、これが」
 レイベルがシュラインをちらっと見た。こくんと頷くシュライン。
「殺したのか、これを」
 今度は慶悟を見るレイベル。慶悟は無言で頷いた。
「ホムンクルスよりゴーレムに近いか……」
 レイベルは興味深気に粘土の塊を調べていた。が、次の言葉はその場に居た全員を驚かせるに十分であった。
「もっと牧歌的だが、少々似てしかし非なる物を昔私も造ったことがある」
「にゃっ? あんな不味い物をっ!?」
 珠緒が信じられないといった表情でレイベルを見つめた。……1人だけ驚きの意味合いが異なったようである。
「異類婚の結果としての愛の結晶だ。製法は省略。しかし……」
 今度は七星に向き直るレイベル。
「奨学生が本を見て造った? かなり無理がありそうだ。下手をすれば死ぬぞ……本人以外も」
「……そんなにあれなのか?」
 七星が問い返すと、レイベルは無言で頷いた。製法は省略していたが、この様子では作り出すのに危険を伴うようだった。
「うん?」
 何かを見付けたらしい慶悟が、粘土の中から黒く細い糸のような物を1本引っ張り出した。
「これは……毛髪か? いや待て……2本が絡まっているな」
「もう1体にも同じ物が入ってはいませんか? 同じ方法で仮初めの生命を吹き込んだとすれば……」
 撫子が慶悟に言うと、さっそく慶悟はもう1体の方も注意深く調べた。そして同様の2本が絡まった毛髪を見付け出した。
「なるほど……これは確かに『子供』だな」
 厳しい表情の慶悟。恐らくこの毛髪は、件の子供たちの物なのだろう。素体の中に埋め込むことにより、何らかの効果を発揮していると思われた。
「こう簡単に幾体も、となると彼らの生命が材料で……」
 ぶつぶつとつぶやくレイベル。頭の中にある製法と、目の前の粘土の塊とを照らし合わせているようだ。と、シュラインがふと思い立ってレイベルに言った。
「あの……もしかして、この意味分かったりするのかしら?」
 くさび文字を指差すシュライン。レイベルがひょいと覗き込む。
「……不味いぞ、この文字は」
 レイベルが眉をひそめた。
「そうにゃ、やっぱり不味いのにゃ!」
 拳を突き上げ、レイベルの言葉に賛同する珠緒。ただ『不味い』の意味合いが違うようなのは気のせいだろうか。
「デモニック……ゴーレムやらホムンクルスやらを悪魔化する、古代の呪いだ。くそ、ますますもって危険だぞ」
「悪魔を作り出していたんですか……」
 撫子がぎゅっと口元を結んだ。悪魔となるとなおのこと見過ごす訳にはいかなかった。
「あの呪いを施すと、夜中の活動が活発になる。能力も夜の方が高いんだが……よく殺したな」
 レイベルは再び慶悟を見た。
「にゃっ? 悪魔は筋ばっかで美味しくないのにゃ! そんなの作るなんて、言語道断なのにゃっ! 珠緒姐さんは許さないのにゃ!」
 珠緒は、また違った意味で見過ごせないようであった。

●辿るために【3】
「そういえば、合流した時に何か子供たちのこと、言ってなかった?」
 シュラインが慶悟に尋ねた。
「ああ。怪しいことを子供たちに尋ねたら、『弘とみつ子、最近怪しい』という答えが返ってきたあれ……」
 はたと言葉を止め、目を見開く慶悟。
「……それか?」
「でしょうね。これで全部繋がったんじゃないかしら」
「男の子が弘で、女の子がみつ子ってこと?」
 麗香の問いに、シュラインが頷いた。
「その2人なんですが、このような顔ではなかったですか?」
 撫子が麗香にスケッチブックを向けた。そこには男の子と女の子の顔が描かれていた。
「そうねえ……男の子はもう少し目が細めだったかも。女の子は頬が心持ちふっくらしてたんじゃないかしら」
 その麗香の言葉を聞き、撫子は再び絵に修正を加え始めた。
「どうしたの、それ」
「七森様からお聞きした特徴を元に、似顔絵を起こしてみたんです」
 作業の手を止めず、シュラインの質問に答える撫子。この分なら、2人を探し出すのが少し楽になりそうだった。
「ともあれ、急いで粘土の出所に弘とみつ子の特定・保護、それと本の回収を行う必要があるぞ」
 きっぱり言い放つレイベル。いずれも出来ることなら早急にすべき事柄であった。
「特定は可能だ……式返しを使えば」
 静かに慶悟が口を開いた。
「己に向けて放たれた呪符を折鶴に変え式神と為し、呪を打ち返す技……これを式返しという。式役の手法に倣えば土塊とて同じことができる。陰陽五行に連なるものは陰陽師にとっては何問わず……そして、式が返る場所はただ一つ……」
「作られた所かしら?」
「その通り。それを追跡すれば、自ずと2人の居場所は分かるだろう」
 麗香の言葉に慶悟が答えた。
「それは私も思っていた。1体は私が調べるぞ……どこまで辿れるかは分からないが」
 レイベルはそう言って、粘土の塊を1体分確保し始めた。
「1体で十分だ」
 短く慶悟が答える。
「後は、飽和活性化させたエドルをウィタ受容体に戻すとして……」
 再びぶつぶつとつぶやくレイベル。専門的な用語が出てきているので、他の者にはいまいちよく分からない内容である。
「……装備が足りないな。誰かお金貸してくれないか?」
 レイベルが皆の顔をぐるりと見回し、最後に麗香と視線を合わせた。
「5万までなら出せるけど」
 財布を取り出し、5万円をレイベルに手渡す麗香。その表情は渋い。
「でも辿るのは明日にした方がいいかもしれないわ。さっき言ってたでしょう、呪いを施すと夜の方が能力が高いって。雇い主として、みすみす危険な所へ放り込む気はないわよ」
 麗香がそう口を挟んだ。もっともな話ではある。しかし一刻を争うかもしれない状況でもある。話し合いの末に、朝になったらすぐにニュータウンへ向かうということとなった。
「麗香。引き続き調べるけど猫缶追加なのにゃ。珠緒姐さんも七星も安くないのにゃ」
 バイト代の交渉に入る珠緒。危険手当のつもりなのだろうか。
「1個でいい?」
「う……仕方ないにゃ。それで手を打ってあげるにゃ。……魔物が喰えないなら猫缶喰うしかないのにゃ。世知辛いのにゃ」
「2個にしてあげるわよ」
 最後の珠緒の言葉が泣き落としのように聞こえたのだろう。麗香はバイト代を猫缶2個引き上げることを決めた。その様子を七星が苦笑して見ていた。

●子供の目線【4B】
 翌朝――シュラインは再びニュータウンにやってきていた。が、他の5人とは別行動を取っていた。それというのも、別件を調べようとしていたからであった。
「……やっぱりないわね」
 溜息を吐くシュライン。1晩の下調べでそれらが周囲に見当たらないことは薄々分かっていたが、実際に見当たらないと分かると、どっと疲れが出るようだった。
 シュラインが探していたのは古美術商や古書を扱ってる店であった。
(たぶん男の子が家にあった本を読んだんだと思うんだけど……その本がどこから手に入ったかなのよ、問題は。でもニュータウンの周囲にないんじゃ、捜索範囲が広がるだけだわ)
 シュラインは件の本を、古美術商や古書を扱う店で手に入れたのではないかと考えていた。それゆえに昨夜下調べをしたりしたのだが……何だか雲行きが怪しくなってきていた。
(もう1度考えてみましょ。男の子が本を手に入れるとしたら……)
 道端に立ったまま、シュラインは思案してみた。
(まずは家よね。それから普通の書店かしら。後は図書館とか。小学校だったら図書室もあるわよね……)
 はっとするシュライン。
(……図書室?)
 意外な盲点に気付いた瞬間だった。
「まさかとは思うんだけど……ね」
 シュラインは携帯電話を取り出すと、慶悟に電話をかけた。確か慶悟たちは、粘土の塊から男の子たちの居場所を辿っていたはずである。運がよければ、本を確保しているかもしれない。そうでなくとも、男の子の家を見付け出していることだろう。
(どうせ後で行くつもりだったし)
 2回コールした後、電話に慶悟が出た。
「そっちに本ある? もしあったら一番後ろのページを見てほしいんだけど」
 シュラインは即座に慶悟にそう言った。もし本があって、その最後のページにある物があれば……それは図書室で手に入れた物に違いがなかった。
 ややあって慶悟から返ってきた答えは、最後のページに図書カードを入れる物が付いていたというものだった。しかも小学校の名前まで記されているという。
(図書室で手に入れたのね)
 これで入手先ははっきりした訳だ。もっとも何故図書室にそんな本があったのかは分からないけれども。
 と、突然七星が電話に割り込んできた。何でも珠緒から電話があって、川近くで化け物と2人らしい子供を見たのだという。
 シュラインは男の子の家には向かわず、すぐに指示された場所へと向かうことにした。
 指定されたのは川に架かる短い橋の近く。だがしかし、そこでシュラインが目の当たりにしたのは――人間大の化け物が、珠緒と撫子相手に戦っている姿であった。その近くには、弘とみつ子と思しき2人が、怯えた表情を浮かべていた。

●激闘【5】
 慶悟・レイベル・七星の3人が川に架かる短い橋へとやってくると、そこでは撫子と珠緒が人間大の化け物を相手に戦いを繰り広げている所であった。その化け物は、昨夜目の当たりにした子犬大の化け物に酷似していた。
 撫子が化け物の手や足を止め、珠緒が何度も爪で引っ掻いていたが、2人が劣勢なのは一目瞭然だった。化け物は口から緑の液体を何度も吐き出していたのだ。運良く2人にはかかっていないが、液体のかかったと思しき橋の上のアスファルトからは煙がいくつも立ち上っていた。
「タマ!」
 思わず叫ぶ七星。しかし珠緒の方にはそれに答える余裕は見られなかった。ふと脇を見ると、3人よりも先に着いていたと思われるシュラインが、怯えた表情の男の子と女の子を保護していた。恐らくこの2人が弘とみつ子なのだろう。
「いかんな……」
 奥歯をぎりと噛み締め、慶悟は懐から呪符を数枚取り出した。そしてそれらを式神へと変え、先に撫子と珠緒の応援に向かわせた。当然のことながら、慶悟も化け物の方へと向かった。
「成長したか、合体したか……どちらにせよ難しいぞ」
 レイベルも何事がぶつぶつつぶやきながら、慶悟の後を追った。七星は戦闘の様子を窺いつつ、シュラインのそばへ向かった。
「この遊びは終わりだ!」
 慶悟がそう叫ぶと、式神たちが化け物を取り囲んだ。その動きを見て何かを察したのか、撫子が化け物を取り囲むように妖斬鋼糸を動かした。妖斬鋼糸が一瞬淡く光ったような気がした。
 ただちに化け物に対して『禁呪』を施す慶悟。化け物が動きを止める。
「動かなくなったにゃ……?」
 注意深く化け物を見つめる珠緒。しかし――。
「ゲ……ゲ……オマエラニジャマ……サセナイ」
 化け物は低い声で喋ったかと思うと、何と再び動き出したのだ。
「ワ……ワレラノラクエンヅクリノ……ジャマヲスルナ! ゲ……コロシテヤル! シネ!」
 そう言って緑色の液体を四方八方に吐き散らす化け物。式神が2体その液体でやられてしまった。
 一転、防戦一方となる一同。しかしその時、レイベルが透明な液体の入った瓶を取り出したかと思うと、蓋を開けて化け物の頭上へと放り投げた。瓶の中の液体は、頭から化け物へとかかる。
「もう1度やってみろ!」
 レイベルは慶悟と撫子に大きな声で言い放った。慶悟は残っている式神たちに、再び化け物を取り囲ませた。撫子も妖斬鋼糸で化け物を取り囲む。再び一瞬淡く光る妖斬鋼糸。
 慶悟は再度化け物に『禁呪』を施した。再び動きを止める化け物。
「ゲ……ゲ……? ナンダ……ウゴカナイ!」
 化け物は必死に身体を動かそうとするが、ピクリとも動かない。
「我火気を奉じ……」
 慶悟はこの機を逃さず、化け物に対し『浄化炎』を施した。化け物の身体が浄化のための炎により、たちまち燃え上がる。
「ウ、ウワーッ! ヤ、ヤメロ……ア、アツイ……アツイ……ゲアーッ!!」
 それが化け物の断末魔の叫びであった。化け物はものの1分ほどで灰と化し、橋の上に崩れ落ちたのだ――。

●無邪気さは……【6】
 化け物を倒した一行は、弘とみつ子を連れて近くの公園へ移動していた。あのまま橋のそばに居ると、野次馬がやってくる恐れがあったからだ。
「先程の液体は何だったんですか?」
 撫子がレイベルに尋ねた。
「あれか? あれは一時的に能力を下げる液体だ。製法は省略。予算5万円程度だから、本当に一瞬の効果しかないがな」
 レイベルは昨夜麗香から受け取ったお金で、そういう効果のある液体を作っていたのだった。『飽和活性化させたエドルをウィタ受容体に戻す』ための物かどうかは、製法が省略されたために不明であるが。
「そうか。それで一度は破られた『禁呪』が、次は効果を破られなかったという訳か」
 慶悟が感心したようにつぶやいた。ちなみに――式神で第1の結界、撫子の妖斬鋼糸で第2の結界を作り出した上での『禁呪』を化け物は破ったのだ。かなりの力を持っていたということは想像に難くない。
「何してるにゃ! あんな粘土の化け物、美味しくないのにゃ! メーワクなのにゃ!」
 撫子とレイベル、そして慶悟が言葉を交わしている頃、珠緒は弘とみつ子の頭をべちべちと叩きながら説教を行っていた。
「タマ〜、ほどほどにな〜」
 しばらくは好きにさせるつもりなのか、七星はその様子を腕を組んで見つめていた。
「命作り出そうなんて127年早いのにゃ! そういう悪いコは、化け猫が頭からかじってやるのにゃっ!」
 口を大きく開け、かじる真似を見せる珠緒。弘とみつ子は怯えながら身体を後ろへと逸らせた。
「タマちゃん〜、子供はかじらないように……猫缶が大事ならね」
 苦笑しながら言うシュライン。暗に『かじったら猫缶没収』と言っているようなものだ。それに気付いたのか、珠緒のトーンが落ちた。
「まあ……化け物も倒したし、珠緒姐さんは心が広いから説教はこの辺にしてやるのにゃ」
 珠緒が下がると、入れ違いに撫子が前に出てきた。
「どうしてあのような物を作ったんですか?」
 穏やかかつ優し気な口調で、単刀直入に核心に触れる撫子。こうなった以上、遠回しに話を進めても仕方がないからだ。
「だって……学校の図書室で、子供の作り方の本を見付けたから……」
 うつむき加減に話す弘。
「この本か」
 レイベルが弘に古びた表紙の本を見せると、弘は大きく頷いた。
「子供の作り方に興味があったのか?」
 努めて穏やかに尋ねる慶悟。再び弘が頷いた。
「だって、お父さんに聞いても、お母さんに聞いても教えてくれないし……そうしたら図書室にあの本があったから……僕、みつ子ちゃん誘って……」
 ぽつぽつと話してゆく弘。みつ子も相槌を打つように頷いていた。
「けど……あの本に書かれてる子供の作り方は、間違ってるのよ? 正しいことは、そのうち学校でも教えてくれると思うけど……」
 シュラインが静かに2人に話しかけた。しかし、弘は唐突にこう叫んだ。
「嘘だ!」
「嘘だよ」
 みつ子も弘に同調した。シュラインにはその言葉の意味が分からなかった。
「……どうして嘘だと思うの?」
 もしかすると、これは聞かない方がよかった質問かもしれない。だがシュラインはあえて聞いた。
「だってお父さんもお母さんも先生も、学校にある本に書いてあることは正しいって言ってたもん! だからあの本に書いてあることは正しいんだよ!」
「あたしたち、正しい方法通りにしていたんだよ? なかなか上手くいかなかったけど……少しずつ上手になってきてたよね。失敗したのは、邪魔になるから川に捨ててたんだよ。ねー」
 みつ子は弘と顔を見合わせて、笑顔を浮かべた。純粋で汚れのない……それゆえに恐ろしさのある笑顔だった。
「だから子供の無邪気さは……なんだよ」
 七星がやりきれないといった様子で、大きく頭を振った。
「ねえ、僕たち何か間違ってたの?」
「あたしたち何か間違ってたの?」
 その2人の言葉に対し、一同は即座に明確かつ理論的な答えを返すことは出来なかった――。

【禁じられた遊び【後編】 了】


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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【 整理番号 / PC名(読み) 
                   / 性別 / 年齢 / 職業 】
【 0086 / シュライン・エマ(しゅらいん・えま)
  / 女 / 26 / 翻訳家&幽霊作家+時々草間興信所でバイト 】
【 0177 / 瀧川・七星(たきがわ・なせ)
                   / 男 / 26 / 小説家 】
【 0234 / 白雪・珠緒(しらゆき・たまお)
 / 女 / 20代前半? / フリーアルバイター。時々野良(化け)猫 】
【 0328 / 天薙・撫子(あまなぎ・なでしこ)
               / 女 / 18 / 大学生(巫女) 】
【 0389 / 真名神・慶悟(まながみ・けいご)
                   / 男 / 20 / 陰陽師 】
【 0606 / レイベル・ラブ(れいべる・らぶ)
           / 女 / 20代? / ストリートドクター 】


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■         ライター通信          ■
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・『東京怪談ウェブゲーム』へのご参加ありがとうございます。本依頼の担当ライター、高原恵です。
・高原は原則としてPCを名で表記するようにしています。
・各タイトルの後ろには英数字がついていますが、数字は時間軸の流れを、英字が同時間帯別場面を意味します。ですので、1から始まっていなかったり、途中の数字が飛んでいる場合もあります。
・なお、本依頼の文章は(オープニングを除き)全9場面で構成されています。他の参加者の方の文章に目を通す機会がありましたら、本依頼の全体像がより見えてくるかもしれません。
・今回の参加者一覧は整理番号順で固定しています。
・大変お待たせいたしました、謎の生物を追うお話の後編をお届けします。化け物の正体は、本文にあるような物でした。高原としては久々に胃が痛くなる内容だったのですが……さて。タイトルの意味は、最後まで読んでいただけたのなら自ずと分かるのではないでしょうか。ちなみにBGMとしては、同名の名曲を思い浮かべていただければと思います。
・何故あんな本があそこにあったのか等、色々と疑問はあるかと思いますが、真実は闇の中です。もしかすると何者かが邪悪な企みのために利用しようとしていたのかもしれませんね。
・本の処遇ですが、アトラスを通じて学校に連絡した後、炎で浄化することとなりました。学校に戻してもあれですから……ね。
・シュライン・エマさん、31度目のご参加ありがとうございます。子供たちの声を確認させるのは上手かったと思います。本の入手経路に関しては、想定した事柄が打ち消されたら、原点に戻って考えるだろうなと思いましたので、あのようなことになっています。文字は文字でもくさび文字でした。ですがいい所を突いていたと思いますよ。
・感想等ありましたら、お気軽にテラコン等よりお送りください。
・それでは、また別の依頼でお会いできることを願って。