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<PCシナリオノベル(シングル)>


『 真夜中の迷子 』


 ****

今日は色々と大変だった。
まず朝起きて時計を見ると既に9時過ぎ。勿論完全なるチコクである。
慌てる事も無く学校へ向かっていると、何故か行き倒れのオヤジ発見。
面倒だが警察まで送り届けてやっと学校へ到着。しかしなんとこの日は
創立記念日で学校は休み。仕方が無いので帰って寝なそうと家路へつく
が、途中何時の間に始ったのか工事中で通れず回り道。国道沿いに歩い
て行くも、目の前で車とバイクの接触事故発生。何故か目撃者&証言を
求められ警察で事情聴取され、やっと解放されたと思ったら既に15時。
今度こそ家に帰ろうと警察署前からバスに乗るが…お約束なのか、すっ
かり寝過ごして終点まで来てしまう。しかもとんでもなく田舎に!
帰ろうにも都内へのバスは終了、仕方が無いので最寄の駅まで徒歩で約
1時間。鈍行に揺られて数時間。
そして気が付けば時計の針はとっくに21時を回っており、後少しで22時
という時間だった…。

「……はぁ。疲れた…」

今日は何てヘンな一日だったんだろう。災難としか言いようが無い。
笹倉・小暮は深い溜息を吐いた。

「そーいえば家出る時、すっごい寒気がしたよなぁ…あ、くしゃみも」

そう言いながらも大きなくしゃみをひとつ。
彼はちょっと変わった体質の持ち主だった。
嫌な事が起こりそうな時、面倒事がこの身に降りかかりそうになる時、
決まってそんな時は必ず《悪寒》と《くしゃみ》が止まらなくなる。
それが所謂一つの警報器的役割を担っており、ある意味凄い特殊能力で
あるといえた。
そして、今…その『警報器』が再びなりだした。
今朝よりも数倍強力な《悪寒》が背筋に走り、先程から《くしゃみ》も
止まらない。

「っくしょんっ!……んあ゛〜……風邪かなぁ?」

見当違いの事を言いながら、彼は今度こそ家路へと急いだ。
そして、近道して帰ろうと公園を横切る事にしたのだが、もしかすると
コレがいけなかったのかもしれない。
が…既に後の祭り。
誰もいない公園を歩いていると、ふとジャングルジムの上に小さな人影
が見えた。何とはなく気になり近づいてみると、まあるい明るい月をボ
ンヤリと眺めている少年が一人、そこにいた。灯りの少ない公園の中で、
そこだけが薄らと光りを放っている様に見え少し幻想的な雰囲気を醸し
出している。
思わずボーっと見ていると、不意に少年がこちらへと視線を移した。
すると、少年は小さく「あ!」と声をあげジャングルジムから飛び降り
て笹倉の方へと小走りに近づいた来た。年の頃は中学生くらいだろうか?
随分と小柄な、一見する所少女にも見える華奢な身体が目前で止まった。
何事だろうかと怪訝に思っていると、その小柄な少年はニッコリと満面
の笑みを浮かべ笹倉を仰ぎ見た。

「よっかったぁ〜!俺、助かったよ!」

「??」

笹倉は怪訝な顔をして少年の顔を見つめた。

「悪いけど…俺の事、助けてくれない?」

そして少年は少し恥しそうな顔をしてこう言った。

「俺さ、なんか迷子になっちゃってさ。」

「……は?」

笹倉は一瞬、反応に遅れた。暫らくの沈黙を破ったのは少年のだった。

「ね、頼むよ〜?だ、駄目?」

笹倉は小さく溜息を吐いた。どうやら今日一日はこういう運命らしい。
それにこの後これと言って用事も無いし家に帰るだけだ。しいて言うな
らば少々眠たい気もするが…。このまま家に帰っても暇なだけだ。

「いいよ。」

「え?マジ?よかったぁ〜超らっき〜♪」

嬉しそうに笑う少年を見て、もしかして中学生じゃなくて小学生かも?
と思った笹倉だった。

「あ、俺、笹倉小暮。えっと、名前は?」

「あ〜ゴメン!俺、リーアライズっつーの!よろしくな!」

自分の名前を告げ少年の名前を聞いた笹倉だったが、思いがけずカタカ
ナな名前を聞いてちょっとビックリする。
よくよく見れば確かに、綺麗な明るい茶色の髪に琥珀色をした大きな瞳。
到底日本人には見えない容姿を少年はしていた。

(ハーフかクォーターかなにか、かな?)

取りあえず、会話には支障が無いのでその点は置いておこう。

「…で、住所とか電話番号とか覚えてないの?」

「……んーっと…わかんないや。」

てへへ、とリーアライズは笑いポリポリと頭を掻く。

「じゃぁ…そうだなぁ…特徴とか、どんな所に住んでるとか。簡単な事
でいいから何かわからないかな?」

暗い公園を出て二人並んで明るい方へと歩きながら質問を投げかける。
笹倉の質問に小さく唸りながら考え込むリーアライズだったが、ふと、
何かを思いついたのか顔を上げてニッコリと笑った。

「あのね、高くておっきな白い家の一番上に住んでるんだ!あのね、窓
開けるとぉ、ええっと、なんだっけ?『とうきょうたわー』だっけ?」

「いや、聞かれても…」

「うん?やっぱそうだ。『とうきょうたわー』が見えるんだ!あとね、
一日中開いてる店とかあった…ような気がする。」

その小学生レベルな受け答えを聞いて笹倉はうーんと唸った。

「東京タワーが見えるんだったら…この辺のマンションかな?なぁ、こ
の辺とかに見覚えない?」

しかし笹倉の問いかけには答えず、リーアライズはキラキラした眼をし
て『一日中開いてる店=コンビニ』を熱く語りだした。

「それでさ、その夜中も開いてる店ってさすっげー美味しいもんがいっ
ぱいあるんだぞ!オニギリとかも色んな数あるしぃ♪」

プリンにアンパンにお菓子に…と、コンビニの食材を語りだした少年に
少々呆れる。
どうも迷子になった自覚はあるようだが、イマイチ危機感が足りない少
年に笹倉は溜息を吐くのを禁じえない。

「いや、コンビニの食べ物の事はいいからさ…」

「でさ、そこにあるジュースで超うめーヤツあんだよ!」

「だから…」

その時盛大にお腹の音が鳴り響いた。

「あはははは…俺、お腹すいちゃった♪」

「……」

そしてタイミングよく目の前には24時間営業の明るい電光が現れるの
であった。

 ****

せがまれるままにジュースとアイスを買ってやった笹倉だったが、ふと
最初に感じた疑問をリーアライズに問い掛けた。

「ところでさ、なんであそこに居たの?」

「んーっとね…ケンカしたんだ」

買ってもらったジュースを飲みながらリーアライズは答えた。

「ケンカ?誰と…兄弟?それとも親?」

「ぅうん。俺と一緒に住んでる奘ってゆーヤツ。」

「で?ケンカの勢いで外に飛び出して闇雲に走り回ったら何処にいるの
か解んなくなっちゃった…とか言う?」

「うん。そう!なんでわかったんだ?!」

方向音痴にも程がある!と言葉には出さないがそう思った笹倉だった。

「はは…よし、これ飲んだら本格的に『家』捜しに行こうな。」

「うん!ありがとーコグレ!」

元気に返事を返して笑い振り向いたリーアライズに苦笑する。今日一日
の災難に比べると、今のこれはすごく他愛も無い事に感じられた。
それにリーアライズは犬コロみたいに可愛いし。
そう思いながら笹倉は無意識にリーアライズをぎゅうぅっと抱きしめて
いた。リーアライズもそれを気にする風もなくのん気にジュースを飲ん
でいる。その光景は傍から見ればかなり怪しい二人である。
ふとなにやら強い視線を感じ笹倉はパッとリーアライズから離れた。

「っくしょんっ!」

「どしたの?風邪引いた??」

リーアライズが心配そうに顔を覗き込んだその時。

「てめぇいい加減にしろっ!!」

すぱーん

「っっっ?!」

軽快な音と共に一人の青年が現れた。隣ではリーアライズが頭を抑えて
唸っている所を見ると、思いっきり背後から頭を叩かれたらしい。
この金髪でやたらに綺麗な顔をした青年、どうやらこの青年がリーアラ
イズの同居人らしい。

(従兄弟か何かかな?)

「ナニすんだよ!奘!イテーじゃん!!」

「いい度胸だな。いきなり飛び出して言ったかと思ったら、こんな所で
のんきにジュースなんぞ飲みやがって。」

「いいじゃん!関係ないだろそんなの!」

「食いモンで簡単にナンパされてんじゃねぇよ!」

「ナンパってなんだよ!ウマイのか?」

「……」

「な?ウマイの、それ?」

「…い、いやナンパって食べ物じゃないから…って、あの、俺そういう
趣味はないです…って聞いてます?」

自分の言葉を聞かずに繰り広げられる二人の言い争いに、笹倉は少し呆
れた様子で成り行きを見ていた。

「…痴話喧嘩か、これ?」

がしかし周囲の注目は完全に自分も含めた3人に視線が集まっている事
に気付きちょっと頭痛がしてきた。

「んだよ、それ!俺だって大変だったんだぞ!道わかんなくなってどう
していいかわかんなくて!ずぅーっと公園で悩んでたんだぞっ!」

「解らない?」

「そうだよ!だからぁこのヒト、えっと、コグレに助けてもらったんじ
ゃん!」

その言葉を聞いた青年は片方の眉をくいっと上げた。

「目の前にてめぇの住んでるマンションがみえてんのに、迷子か?」

「えぇっ?!うそっ!」

二人の会話を聞いていた笹倉はくるりと周囲を見渡した。
そう言えば、リーアライズが言っていた特徴と周囲の風景は合致がいく。
もしかすると、走り回っていたら何時の間にか元の位置に戻ってきてマ
ンションの裏手の公園に居た…とかいうオチ?

「方向音痴もココまでくると一種の才能だな。」

「…今っすっげぇ馬鹿にしただろっ!!」

取りあえず仲裁しておこう。周囲からの好奇な視線もイタイし…。
そう思い笹倉は少年へ声と掛けた。

「リーアライズ、落ち着かないとジュース零れてるよ?」

「ぇえ?ぅわわっ!もったいねぇー!!」

ハッとして動くのを止めたリーアライズに笹倉は苦笑した。
どうやら一番効果的な止め方だったらしい。

「それにコンビニ前だし…」

それに男3人、何時までもコンビニ前で要らぬ注目集めるのも遠慮した
かったのも事実。
奘と呼ばれた青年にそう提言すると、冷静になった彼は大きく息を吐き
笹倉のほうへ初めて視線を向けた。

「コイツが世話かけたな。すまなかった。」

「あ、いや、こちらこそ。」

頭を下げる青年に対して、笹倉も慌てて頭を下げた。

「えーっ!もともとの原因は奘のせいっ」

ゴンン

「…っっぅぅ」

「あ、ま、まぁそのくらいで。」

涙目のリーアライズが少々可哀想でまた止めに入ってしまう。金髪の青
年はふぅと溜息を吐き、長居は無用とばかりにさっさと背を向け歩き出
した。片手にはリーアライズを、もう片方の手にはどこかで見たことが
あるような黒い鞄を持って。

「…それでは、失礼する。」

「はぁ、お気をつけて…」

リーアライズを引きずるように帰っていく後姿を見送りながら、深い脱
力感に襲われていた。ふと顔を上げればリーアライズがこちらに向かっ
て手を振っている。

「ありがとー!コグレー!またな〜!!」

それに手をふりかえしつつ笹倉は今日何度目かわからない溜息を吐き出
した。

「…結局、俺ナニ?」

ガックリと一気に脱力した笹倉だったが、徐に立ち上がり背伸びをした。
彼の長い一日は家に帰り着くまではまだまだ終らない。
今度こそ確実に家路に着いた笹倉だった。

 ****

やっとの事で家に辿り着いた笹倉はどっとベットに倒れこんだ。
今日一日、なんかよく解らないけど凄く濃かった様な気がする。
本当に今日は災難続きだった。

「はぁ…マジ疲れたぁ…」

大きな欠伸と共に彼が深い眠りへ就くのにそう時間は掛からなかった。
玄関の鍵をかけ忘れた事も、電気を付けっ放しな事も、ましてやコンビ
ニ袋の中にアイスが入れっぱなしだった事なんかも全部忘れて彼はぐっ
すりと眠っている。
そしてもう一つ。

翌朝、学校へと行こうとした瞬間その事に気がついた。

「あ、あれ…?」

何処かへ学生鞄を忘れてきていた事実に気付いて慌てる青年が、一名。
そして何処で拾ったのか覚えが無い鞄を交番へと届ける少年が、一名。

どうやらその日も平和にとはいかない…かも?

 ****