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<東京怪談ウェブゲーム ゴーストネットOFF>


水際への問い

+オープニング+

『愛』ってなんですか?

問い掛ける幽霊が居る。
もし、この問いに答えられる者が居るのであれば
答えてあげてください。


そう、ゴーストネットへの掲示板に短く書き込まれた
書き込み……果たして本当に問い掛ける幽霊は
出てくるのだろうか?


+不在、と言う名の心+

…問います。
愛とは何でしょうか?

ある、とか…無い、とかの問題ではないの。
見えないもの名づけられない物なのに何故皆は言葉に出来るの?
愛と言う物を。

目を閉じる幽霊の姿は何処か霧と似たような儚げな靄へと変化する。
閉じた瞼の向こうに映るのは……優しかった誰か達の姿。
愛していると言っていた。
好きだと言っていてくれていた。

そして自分もそれを幸せに受け入れていた。

けれど……。

ある日突然にそれらは裏切られたのだ。
予想もしなかった行為によって。


だからこそ、問う。

『愛』とは何であるのかを。


+声無き声を聞いて+

バー「ケイオスシーカー」店内。
桐伯はいつものように店が開くまでの時間、食事をしつつネットへと繋いでいた。
もはや日課と言うべきなのだろうか。
商品の情報や、奇妙な噂話…そういうものを入手するのにネットは最適の手段であると言えた。

(……ん……?)

久方ぶりのゴーストネットOFF。
そこにある、とある書き込みに桐伯の視線は釘付けと成った。

書き込まれたタイトルは『水際への問い』

『愛』とはなんだろうか?
答えられる人がいたら答えてあげてください。

かなり、掲示板の書き込みと言うにはあまりに短すぎる問いだけの書き込み。
しかし、そこに何か抗えない物を感じてしまうのは、目に見えない愛と言う物に
対して自分も思う事があるからなのだろうか……。

時計を見る。
まだ、時刻は昼近くを回ったばかりで開店には余裕が有り余る時間だ。
軽く、頷くと桐伯は着替え、出かけるべくパソコンの電源を切ると立ち上がった。

もし、話せる事があるのであればこの問う幽霊と話をしたい。
何故、問うのか。
問いたいと思うようになったのか、その理由を。


+回想〜問うには答えが必要だろうか〜+

愛している、と何万回。
聞いただろう。
愛していると、何万回。
囁いただろう。


言葉は紙切れよりも薄っぺらくて、何処にも答えが無い事などに気付いたのは
残念ながら、死んでから。
哀しくて、哀しくて、ただ此処にあり続ける。
呼びかけても答えなど無いのを知っているのに。

愛していてくれたのなら。

何故……?

『ここで一時のニュースをお伝えします。
先日、湖で見つけられた遺体は河埜・夕湖さんと判明致しました。
警察では河埜さんの関係者から事情を聞く方向で……』

何処かで流れているニュースは自分の事だろうか?
自分の名前を呼んでいる。
決してもう返事など出来ないのに、誰かが、呼んでいる。


此処は冷たくて、寒くて寂しい。
水面に舞う者たちも寒いのに何故、此処に留まっていられるのだろう。
…それは、解っている。
ただ、寂しいからだと。


+水面にて+

(ここら辺で良いだろうか……)

桐伯は、車である湖に来ていた。
水際で問い掛けるのであれば、湖が一番目立たず能力が使えるし落ち着いて
話が出来るからだと踏んだからである。
湖は、ただ穏やかに音を立てることもなく柔らかに、その存在を称えている。
海の様な激しさと優しさの両面は無いがその柔らかさは、何処か人を慰める穏やかさを持っていた。


風が、凪いだ。
桐伯の長く、艶やかな黒髪が風に舞う。
まるで何かを思い出させるかのように、この場所は純粋で和やかだ。


…だが、今回は湖を見るためだけに来たのではない。
話をしたくて、来たのだ。
湖に見惚れるのは後でも存分に出来るのだし……。

(では、やりますか)

湖の湖面すれすれに鋼糸を張る。
その上に立ち、桐伯は水面へと話し掛けた。

「こんにちは、少し良ければお話でもしませんか?」
『…話? ううん、私は問いたいの…ねぇ、答えてくれる?』

…幽霊は何も夜にだけ出るものではない。
こうして明るい時刻にでも気付かないだけで姿は見えるものなのだ。
今も、水の底に浮かぶ彼女の様に。

「勿論です、私で良いのでしたら」
『では、問うわ…愛って、何?』
「愛…私は在ると思います、ただ口先で言う愛とか直ぐに「愛してる」と口に出す様な人は
信用はしませんが。どちらかと言うとこうどうにでる物とでも言いますか、咄嗟に子を護ろうと
する母親とか、恋人を庇おうとする者とか、何の見返りも求めず…いえそんな事考えもせずに
相手のために何かをしようとする心なのではないかと私は思います」
『そう……では…私は……』
「?」
『間違えていたのかしら?』

ふわりと水面から浮き立つ幽霊の姿に桐伯は薄く微笑んだ。

「間違えていた、なんて誰も貴女には言えませんよ?」
『なら、どうして駄目だったのかしら……好きだったのよ、凄く。
相手の人もそうだと言っていてくれてたの…でもね」

震えるように、女―夕湖は目を伏せた。
あまりに深い悲しみに触れたようで桐伯の微笑んでいた顔も曇りがちになってゆく。
何かに共感しているのだろうか。
女が言葉では伝えきれない映像が見える。

幸せな日々を夕湖の思考は伝えていた。
淡く綺麗な映像からもそれは痛いほどに伝わってくる。

だが。

それらは壊れてしまっていた。
些細な口論。
伝わる言葉などあるはずもなく、また伝えられる言葉もなく。
振り下ろされた、凶器。
そこで、切れる映像。
意識がただ濁っていく映像は体験していない桐伯にもまざまざとそれを伝えた。

『こうしてしまえば、もう何処にも行かないよな……?』

かぶる記憶の声は誰のものなのだろう…。
女の意識は死に向かって直進しているからなのか姿は見えない、聞こえるのは声ばかりだ。

『愛してるよ、夕湖』

あまりに痛い、その言葉に桐伯はただ瞳を固く閉じた。


+言葉に、変える事が出来ずとも+


『…間違えていた…の…かしら』

再び、問う声。
どう言えばいいのだろう。
間違えていた、とかそういうものは第三者が決めるべき物ではないのだと。
先ほども言った筈の言葉なのに彼女には伝える事が出来ていない。
声は、届かない。

…いや、この場合「言葉」が、というべきだろうか……?

愛されていたのに殺されてしまった目の前の女性。
愛していたのに殺してしまったであろう、人物。

決してかみ合う事などない。
だが、どちらにもあるモノがひとつあったとするならば。
ただ一つ。
お互いを思いあう『心』

桐伯は何度目になるだろうか、瞳を閉じ息をついた。
今から、きちんと話す事が出来るように。


「…間違えていたとは、思いませんよ…?」
『なら…どうして………ッ』
「…伝えられる言葉に留まっていては駄目なんです」

泣く、彼女に言う言葉ではないかもしれない。
逆に辛い言葉を浴びせる事になる結果になるのは、言う前から良く解っている。
それだけに、桐伯は心の中で苦笑いをした。

それでも。

此処で泣き続け問い掛けるより余程いいのだと、信じたい。
信じる事が力だ。
目には見えずとも、その事だけが最大限の力になる。

『留まっていた覚えなんてない!』
「では、伝えましたか? その方に。どれだけ醜かろうと逃げずに思いを伝えましたか?
…決して独りよがりに成らず貴女の言葉で」
『それは………』

夕湖は黙った。
確かに自分は何もしなかった。
いいや、出来なかった。
言葉を発しても無駄に終り空しい延長線が続いていただけ。
何時しか疲れ、言葉は出なくなった。

その結果。
今、こうして自分の姿だけが此処にある。
…何故、寂しいのか夕湖にはやっと解った。
思いが伝えられていなかったから、何故か一人だったと思うから寂しかったのだと。

「伝えなくてはいけないんです、愛されていたというのならその心を。
そして、幸せだったというのなら……その幸せを守る努力を」
『………間違えていたわけじゃなかったのね?』
「…何度も言っているでしょう、間違えてはいませんよ。ただ……」
『お互いの言葉たちが足らなかっただけ、ね』

苦笑交じりに桐伯の言葉を継ぐ彼女に桐伯も少しだけ苦笑いをした。
…解って貰えたのなら、それでいい。
こういう双方の感情が行き交う物に一人だけの間違いなどある筈はないのだから。

「…それでは、お休みなさい。良い旅であります様、お祈りしますよ」
『…もう行ってしまうのね? …そうね、今なら行けるかもしれないわ』
「いいえ、私は…貴女が、ここから見えなくなるまでお見送りします」
『…ありがとう』

ふわり。
正しくそんな表現が似合うように彼女は微笑んだ。
柔らかく、凪ぐ風のように。

―――そして。

ゆっくりと、彼女は風景に溶けた。


桐伯は、ただその姿を見つめ続けた。
彼女がまた巡る輪の中へ入れるように祈りながら。


「…さようなら、幽霊さん」


「愛」と言う不確かな気持ち。
言葉に出来ず、解る事など一つも無くても。
確かにそれはあるのだから。


ゆっくりと、桐伯は水面に張った鋼糸から離れ湖を後にした。
湖は、消えた彼女を祝福するようにただきらきらと陽の光を受けて輝いていた




―End―

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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【0332 / 九尾・桐伯 / 男 / 27 / バーテンダー】
【1021 / 冴木・紫 / 女 / 21 / フリーライター】
【0743 / 来生・千万来 / 男 / 18 / 高校生】
【0428 / 鈴代・ゆゆ / 女 / 10 / 鈴蘭の精】
【0818 / プリンキア・アルフヘイム / 女 / 35 / メイクアップアーティスト】
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■         ライター通信          ■
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こんにちは、ライターの秋月です。
今回は「水際の問い」に参加して頂いて有難うございました!
今回、問う幽霊と言う事で特に1人に限定せず複数の幽霊が
出ています、よって今回も個別の文章となっておりますが
少しでも楽しんで頂けたら幸いです(^^)

九尾さん、お久しぶりです。
今回、九尾さんに逢えて本当に嬉しかったです。
プレイングもまた九尾さんらしいプレイングで色々と楽しませて頂きました。
中々、問う問いかけられるという事に対して、答えを出すのは
難しい事ですけれどきちんと答えていただけて彼女も満足している事でしょう♪

では、また何処かで会えることを祈って。
*お返事等は、かなり遅くなりますけれど宜しければテラコン等からの
メールお待ちしております。