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<東京怪談ウェブゲーム ゴーストネットOFF>


水際への問い

+オープニング+

『愛』ってなんですか?

問い掛ける幽霊が居る。
もし、この問いに答えられる者が居るのであれば
答えてあげてください。


そう、ゴーストネットへの掲示板に短く書き込まれた
書き込み……果たして本当に問い掛ける幽霊は
出てくるのだろうか?


+問い続けても見えない+

…痛い。
痛い………。

(何が?)

自分に問う冷静な声。
何が、痛いの?

(…身体もそうだけれど……)

心が。

痛い。

打ち続けられる何かに必死で耐えながら少女は祈る。
早く、この瞬間が終われば良いと。
痛みで麻痺した身体をさする事も出来ないまま、近しい人が
打ち下ろす痛みに顔を顰める事も声をあげる事も許されないまま
ただ、音だけがその部屋に響いていた。

やがて。

その音も突如として鳴り止む。

ぐったりと、いつものような無表情ではなく声を出す事もない「娘」が
まるで消えてしまったかのようにどんよりとした瞳が動くことなく
1点を見つめている事に「何か」を打ち下ろしていた人物は気付いたのだ。


「由佳?」

その人物は、娘―――由佳へ問いかける。

悪ふざけなら起きなさい、と言っているかのように。

だが決して、由佳は目覚める事は無かった。

「母」から加えられる虐待によって―――言葉を母親流に言い換える事が
許されるのなら「躾」によって、由佳は息絶えていた。

母親が、ぺたりと床に座り込み一粒の涙を流したのを見ることもなく。

だからこそ。
由佳は彷徨う。
暴力ばかりになってしまった「母」と無口で暴力を娘に加えている「妻」を
ただ憐れむような視線で見るだけの何もしなかった「父」と……決して
誰も助けてくれる事は無かった「環境」へ問いかける様に、夜もなく昼もない
空へと彷徨う。


―――ねえ、愛って「何」?と。

風のない空の下、由佳の透明になってしまった身体がふわり、と揺れた。


+噂、千里を駆け巡る+

場所は変わり。
仕事場の休憩中、プリンキア・アルフヘイムは一人の人物から妙な噂話を聞いていた。
…とは言っても、妙と言うよりは本当かどうか解らない様な噂話ではあるのだけれど。

「問う幽霊デスか?」
「そ、インターネットでゴーストネットって言うサイトがあるんだけど
そこのBBSでそういう幽霊が出るんだってかなりの噂☆
プリシー、こう言うの興味あるって前言ってたからさ」
「そ〜デスネ。かなり興味ガありマス……その幽霊ッテ、何処に出るンデスか?」
「…それがね解ってないらしいんだよね…一説によると何処にでも
出るらしいんだけど…人によって男だったり女だったり色々らしいし……あ、でも……」
「デも?」
「ここら辺で女の子の幽霊―――問いかける幽霊だよ? 勿論……を見た人が居たなあ。
確か、青アザが透けて見えたって……虐待のニュースも多いからね、最近」
「ソう言えバ……つい最近、母親ガ娘を虐待シテたってニュースでアリましたね」

ニュースでちらりと見ただけだが可愛らしい雰囲気の少女だったと記憶している。
もし、その子がこの付近に出るのであれば―――それがBBSの幽霊だったと言うのであれば
尚更―――救ってあげたい。
確か、少女の名前は…北原・由佳と言っただろうか。

(何故、問ウのデショウ?世界ノ全てガ見えませンか?)

「…ああ、本当に世も末だね…虐待とか嫌なニュースばかり多くて」

同僚の言葉にプリンキアは軽く頷きながら、この付近に出ると言う幽霊に
仕事が終わり次第、逢いにいこうと決意を固めていた。


+想い、馳せる+

…昔は優しかった「お母さん」
それが、何時のころからだったろうか…変わってしまったのは。
何をしても。
何を言っても。
何時からか暴力ばかりが返って来た。

成績は良くて当たり前。
行儀が良くて当たり前。
門限を守る事も当たり前ならば、起きる時間や眠る時間に一秒の乱れすらも
許されなかった……破れば「躾」である暴力が待って居たから。

…それでも由佳は母の望むとおりにやってきたのは母親が好きだったからだし
此処しか自分の居場所がないことも知って居たから。

幼いころに自分を可愛がってくれた母親に戻って欲しくて
けれど、戻る筈もなくて。

……お母さん。

何度も呼んでいるのに届かなかった、声。

夜の闇に由佳の姿は、ただ同化するばかり。

だが、今日ばかりは勝手が違った。
いつものように問いかけてはいない由佳の姿を見る事が出来る人物がこの場所に
現れたからでもある。

にこやかな、華やかさを備えた金の髪の美女は由佳に、普通の人に話し掛けるような
気さくさで話し掛けた。

「Hi!! アナタがBBSノお嬢サンネ☆」
『BBS……?』
「問う幽霊サン……違いマスか?」
『……そう、だけれど』

由佳は差し出された手をどうしていいか解らずに、ただプリンキアをじっと見ていた。
―――まるで、待ちわびていた誰かが来た様に、じっと。


+巡る輪の中へ+

差し伸べた手を握りもしなければ触れようともしない少女にプリンキアは微笑んだ。
…見知らぬ人が話し掛けているのだから少女のこの態度は当然と言えるだろうとも
解っているからだ。

プリンキアはゆっくりと怯えさせないように由佳へ近づく。
このような暗い場所ではなく、綺麗な物が見えるところへ連れて話がしたい。
まだ、目に見えぬ綺麗な風景は沢山あったのだから。

「此処は、暗いデスね……。
此処でハ何デスカラシルフに頼んでアノ高いビルの上に連れてッテ貰いマショウ☆」
『……え?』

不思議な風が二人を包み込みビルの屋上へと連れて行く。
由佳は自分が何処にいたのかは解らず、ただこの屋上から見えるビルの風景を見た。

輝くネオンに彩られた、街。

生きている間にも滅多には見れなかった街の風景。
何だか、涙が出そうなほど切なくなるのは何故だろう。

プリンキアも一緒に、この風景を見た。
自然が少ない東京ではあるけれど、この街は本当に美しい。
何処か切なそうな由佳の表情もそう言っているようで、愛というものを
問い掛けねば成らない彼女の心が、ただ哀しいと思う。

(…目ノ前が哀しみニ閉ざされるノハ気の毒ナ事……貴女は、此処に居てハ
イケナイと、風も言ってイマスよ?)

問わずとも良いのに。
何があったか、何故虐待されていたかはニュースで聞いた様な気がするけれど
それでも、問わないで自分の目で見て欲しい。
世界の色を。


「デハ…ソット手を胸に置いてミテ下サイ。心臓の鼓動は無くトモその奥深クに在ル《波動》を
感じトルヨウニ…今のアナタは《魂》そのモノですから判ル筈デース。
ソコから外界に向かって波紋の様ニ放たれてイル温かい感情が…『愛』、LOVEデス。
それは生きている人間だけデナク動物や植物や無機物にも宿リ…世界そのモノを
包む大きな波動となっているのデース。
そしてソレは再び私達それぞれに還リ…そこカラ男女のLOVE,家族のLOVE,友達や見ズ知ラズの人に
言の葉や仕草、表情と共に伝わるノデース」
『……うん。けどね………』

お母さんには伝わらなかったみたい、とは言えないまま由佳は地面を見た。
暗い、果てがないように見える地面に飲み込まれそうになる。
プリンキアは、その地面を見ている少女にそっと触れた。
無論本当に触れているわけでもないけれど…迷わないで光のある方向へ進んで欲しくて。

愛とは。
想いを知るための言葉ではなく自分の心の中にある想いを知り相手へ無償で返すための物。
だからこそ、愛という文字の中には「心」が入っている。
両者が不幸であれ、片方が不幸であっても、それらは決して見える事はない。

「…貴女はトテモ気の毒な人……デスが、貴女ノ傍ニ愛がナイ訳でもなく……
ただ、誰もガ少シずつ……気づかナイか忘れテルだけネ?」
『気持ちは気持ちのまま返っては来ないの?』
「見返りヲ求めマスか?」
『ううん…ただ気付いて欲しかったの、辛いよって』

お母さん。
お母さんの事、大好きだけれど。
今は怖いなって思うけれど……でも、気付いて?
…打たれる痛さは打つ方の人と同じくらい…痛いんだって…気付いて。
それなら、平気だから。
気付いていてくれて、それでも私が悪いのなら怒ってくれて良いの。
だけど……自分の事で手一杯で私のことを人形の様に思うのなら、やめて。
これ以上、何もしないで。
ぶたないで。
愛って何?と言う問いを私にさせないで。

「……大丈夫。こんなニ優しい気持ちノ貴女なら…生まれ変わったら、キット
幸せニなれマスよ?」
『生まれ変わる?』
「ハイ…この世界ヲ巡る輪ノ中ヘ……貴女ガ生まれて来るノを待ってイル人が
何処かニいまス……その人達の為ニモ、モウ一度…生まれて来て下サイ☆」
『…次は幸せになれる?』
「勿論☆それデハ、アナタが生まれ変わったらまた逢いまショ☆」
『うん……光のある方向へ行けばいいの?』
「ハイ。真っ直ぐニ光のアル方向へ、行くと良いデスよ?」

夜だと言うのにネオン以外の光がビルの屋上へ集まる。
蛍の光のように淡く儚い光。
それらは、由佳を誘うように空へ舞った。
由佳も光と一緒になって空へと舞う。


ゆらり、ゆらり、と空を往く鳥の様に静かに。


プリンキアは、その光がやがて自分の視界から消えるまでただ静かに見送った。
次の生、彼女にただ幸せな光だけがただあれば良いと。
祈りながら。



 
―End―

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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【0818 / プリンキア・アルフヘイム / 女 / 35 / メイクアップアーティスト】
【0428 / 鈴代・ゆゆ / 女 / 10 / 鈴蘭の精】
【0332 / 九尾・桐伯 / 男 / 27 / バーテンダー】
【1021 / 冴木・紫 / 女 / 21 / フリーライター】
【0743 / 来生・千万来 / 男 / 18 / 高校生】
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■         ライター通信          ■
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こんにちは、ライターの秋月です。
今回は「水際の問い」に参加して頂いて有難うございました!
今回、問う幽霊と言う事で特に1人に限定せず複数の幽霊が
出ています、よって今回も個別の文章となっておりますが
少しでも楽しんで頂けたら幸いです(^^)

プリンキアさん、今回も和むようなプレイングを有難うございました!
今回の話では「解ってるけど聞きたい事」とか、そういうものを
出してみましたが……気付いてても聞きたい事とか。
プリンキアさんの明るい、真摯な心でこの子も救われたのだなと
思っています、参加本当にどうもでした♪

では、また何処かで会えることを祈って。
*お返事等は、かなり遅くなりますけれど宜しければテラコン等からの
メールお待ちしております。