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<東京怪談ウェブゲーム ゴーストネットOFF>


水際への問い

+オープニング+

『愛』ってなんですか?

問い掛ける幽霊が居る。
もし、この問いに答えられる者が居るのであれば
答えてあげてください。


そう、ゴーストネットへの掲示板に短く書き込まれた
書き込み……果たして本当に問い掛ける幽霊は
出てくるのだろうか?


+一つの起点+

ある日の事。
いつものように、平和だった団地内で事件は起こった。
屋上から飛び降りたのは一人の少年。
遺書には、ただ一言だけ。

『愛』って、なんですか?

問いかけるような、その一言。
誰もが答える間すらなく、少年は少年自身の世界を閉ざした。


そして。
ゴーストネットで書き込まれる「噂話」へとこの話は引き継がれる。
―――もう一つ。
妙な、いやある人たちから見たら「妙」ではない噂話を引き連れて。


+噂への、興味+

「問いかける幽霊?」

冴木・紫は、ある雑誌編集部にてこの話を聞いた。
時間は、お昼時。
忙しい時間帯のようで居て和やかな昼食を取れるこの時間帯は
噂話をする時間にはうってつけと言えた。
―――無論、仕事が終わってからの雑談ではあったけれど。

「そう、最近多いらしいよ? 結構色々な所で見た人が多くてね、思わず
特集か何か組んでみたらイケるかも!とも思ったり、なんだったり」

相手は「はは」と軽く笑うと「幽霊が問いかけるなんてこれも時代かねえ」と呟いた。
紫もそれに答えられる術もないまま、「どうなんでしょうね」と呟く。

「ただ、まあこの話の面白いところは問う幽霊がいると言う点ではなく……」
「? なんなんですか?」
「ある少年の問う幽霊が現れる場所があるとするだろう? するとだ」
「…何か出るとか?」
「そ。一人の女性がその場所にやってきて花を置くんだそうだ。
それも決まって赤い花ばかり」
「……妙ですね」
「だろ? まあ、もし冴木さんがその幽霊見かけたら答えてやってみてよ。
んで記事一本でも書いてくれりゃウチとしても嬉しいんだが」
「…幽霊が答えを欲してるなら、答えを持つ者の前に姿を現すんじゃない?
 私は愛とかよりも目に見えるお金のほうが大事な人だから、上手く答えてはやれないと思うけれど」
「それでも面白い会話にはなるかもしれんよ? 興味を、持つ。それだって
彼らにしたら一つの答えかもしれんのだから」

男はにっと笑うと胸ポケットから煙草を取り出し火をつけると美味そうに吸い上げた。
紫煙がゆらり…と天井へ流れていく。

「でもちゃんと答えてやれる人もいるんじゃないかしらね」
「まあ無理に、とは言わんさ。今日はどうもご苦労さん」
「ええ、では失礼します」

紫は立ち上がると、仕事場である雑誌社の編集部を後にした。
興味を持つ、その事が答えになるかもしれない…とは、彼も上手いことを言った物だ。
それならばあって話してみるのも面白いだろう。

『愛』って何?
誰もが答えを求める、その問いに。


+夕暮れ時は全てが赤く染まる+

女は、とある場所に立っていた。
夕暮れ時、全ての物が柔らかな朱に染まる中で哀しげな表情で花を手向ける。

その色は、夕日の色を飲み込んだような華やかな赤。

「…もう、問わずにゆっくり休んで頂戴」

あの日も。
そう、あの子が飛び降りた日もこんな夕暮れの日だったとその度に思い出す。
問いかける少年の幽霊が出るたびに、何度も、何度も。

女は花を手向け続けるのに、少年は誰かに聞くことをやめない。

何故、自分に問いに来ないのだろうあの子は。
今なら―――そう、今なら。
あの子の問いに答える事が出来るかもしれないのに。

ふらり、と女が帰ろうと方向を変えたその瞬間。
何処か、冷めたような雰囲気を持つ黒髪の女性がまるで逢えるとは
思わなかったかのように、自分を見ていた。


+繋がるのは身体か心か+

「…初めまして?」

紫は、花を手向けていた女性へと話し掛けた。
夕暮れ時、全ての物が赤い色をもつ中でこの女性は何処か白い花を思い出させた。
何者にも染まらず染められない。
その様な、色。

だが女性は戸惑ったように紫を見るばかりで動こうとも話そうともしない。
紫は、名刺を取り出すと女性へと差し出した。
名刺を見て女性の瞳がぱちくりと丸くなる。

「ライターの冴木・紫さん……?」
「と、言っても3流の雑誌なんですけどね……主に心霊関係の物を書かせて頂いてます。
今回はその……問う幽霊についての噂の真偽を確かめようと色々と歩いていたと言いますか……。
愛について問う幽霊でも少年の幽霊が出た場所には必ず、花が手向けられていると言う
場所に来てみたら、貴方がいましたので驚いたと言うところです」
「…そうですか、それは失礼しました」
「…無礼を承知でお聞きしたいんですが何故花を?」
「……息子がゆっくり眠れるように祈りを込めて手向けるのがおかしいですか?」
「息子?」
「はい。問う少年の幽霊は私の息子です」

今度こそ、本当に紫は驚きを隠せなかった。
随分と若い女性と思っていたのだから、尚更だ。

「…そうでしたか。では何故少年は母親である貴方ではなく他の方に問うのか
お解かりですか?」
「…解りません、あの子のことは何も。何を考えていたのか。何を思っていたのか。
私には結局わからずじまいでした………」

伏せる瞳に、浮かぶ涙。
どう、答えた物かわからなる。

紫はプライドと金ならば、金を選ぶという人種だ。
この噂話に関しても興味があったから来てみようと思っただけだったし
更にそれで金に換金できるなら言うことなしだろうと言う風に思っていた節があることは否めない。

だが、これは。
噂話になっていいものではない。
問う少年の幽霊が本当に居ると言うのなら紫は、その少年に問う必要はないのだと言いたくなる。
何故、死んだんだろう。
いやそんな事は自分には関係ないことのはずだから聞けないけれど。

…夕暮れの色が赤から薄い紫へと変化する。
淡い色彩の中で紫は、聞こえないとも誰に話し掛けてるのかと聞かれそうな言葉を呟きだした。

繋がるのは、身体か心か。
どちらでもなく相応でなければならないと。


+呟く言葉は言霊の幸わふ国へ+

「ねえ…死んでしまってから、気付いたかもしれないけど世の中そんなすてたモンじゃない」
「? あの……誰に話し掛けているんですか?」

女は問う。
誰に問い掛けているのかと。
だが紫は「黙って」と言うように人差し指を自分の唇に置き片目をつぶった。

「ということでどちらかといえば、私も幽霊さん、アンタと同じで答えを欲しているクチね。
愛が何かなんて分からないし、ちゃんとしたカタチで存在するものなのかなんて知らないし、
信じていないけれど、それでもそれは確かに『在る』んじゃないの? 見えなくとも――それを在ると
信じる奴らの心の中には、確かにあるのよ、きっとね」

だから。

「もう、誰かに問いかける必要なんてないでしょう?
見えない、なんて言わせない。こうしている人が居るのを幽霊さん、アンタ無視できるの?」

ざわっ。
大気が揺れた。
まるで傍にずっと居て聞いていたような力強さで。
その中で、本当に掠れたような声で「解ってたよ」と呟く声を紫は聞いたように思った。
否。
聞こえたのだ、声が。

目の前に居る女性の声ではない、自分の声でもない、本当に少年の持つ声の様なその声が
静かに紫に語りかける。

『解ってた……僕は愛されてたんだって。でも、どうしても聞きたかったんだ。
目に見えないものだから余計に。……馬鹿だね、死んでから気付くなんて』
「そう思うなら、次に生まれて来るときは幸せに生きればいい。
ほら、お母さんに別れの挨拶をしてお休み」
『うん……』

少年はゆらりと母親の近くへと寄り添った。
不思議な温かさに女は驚きながらも懐かしい気配にぎこちなく、微笑む。

「ゆっくり………おやすみなさい」
『はい、おやすみなさい……お母さん』

何かが弾けた様に。
聞こえない声が聞こえたかのように。
女は再び、先ほどの様な涙ではない喜びの涙を流した。

愛と言うものが決して自分自身誰かに伝わらない物だと思っていても
何時しか、その気持ちは必ず誰かに届くのだと伝えているようで、紫は
欲していた答えを得たような気分になりつつ、女の肩を優しく叩く。

夕暮れは、終りを告げ夜になろうとしていた。



 
―End―

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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【1021 / 冴木・紫 / 女 / 21 / フリーライター】
【0818 / プリンキア・アルフヘイム / 女 / 35 / メイクアップアーティスト】
【0743 / 来生・千万来 / 男 / 18 / 高校生】
【0428 / 鈴代・ゆゆ / 女 / 10 / 鈴蘭の精】
【0332 / 九尾・桐伯 / 男 / 27 / バーテンダー】
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■         ライター通信          ■
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初めましてこんにちは、ライターの秋月です。
今回は「水際の問い」に参加して頂いて有難うございました!
今回、問う幽霊と言う事で特に1人に限定せず複数の幽霊が
出ています、よって今回も個別の文章となっておりますが
少しでも楽しんで頂けたら幸いです(^^)

冴木さん、初めまして!
クールな感じのお嬢さん、ということでしたけれど少しでも
その雰囲気は出てますでしょうか(><)
中々楽しいプレイングでもあり、楽しませて頂きました。
本当に有難うございます♪

では、また何処かで会えることを祈って。
*お返事等は、かなり遅くなりますけれど宜しければテラコン等からの
メールお待ちしております。