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<東京怪談ウェブゲーム ゴーストネットOFF>


当日の手紙【前編】
●オープニング【0】
 アイドル歌手・片平レイ(かたひら・れい)がビルの屋上より飛び降りて自殺した。そのニュースが流れたのは、つい3日前のことだった。享年17歳。
 アイドルといっても、レイは人気がそうあるという訳でもなかった。ゆえに新聞での扱いは顔写真付きの小さな記事。写真でのレイは、ウェーブのかかった肩までの髪の、細見な少女に見えた。
 多くの者にとってそのまま流されようという事件、それを一部の者たちの記憶に留めさせたのはゴーストネットの掲示板に投稿された、レイの親友の物と思しき書き込みが原因だった。
『彼女が自殺するはずがないんです!
 今日彼女から届いた手紙には、オフには金沢に帰ってくるから遊ぼうって書いてあったのに……。
 それに手紙が書かれて投函された日付、どっちも自殺当日なんですよ?
 これから自殺する人間が、そんな手紙書いて投函するんですかっ?
 警察に話しても取り合ってくれないし……あたし、どうしたらいいんだろう』
 確かに妙な気はする。手紙の件が事実であるなら、自殺当日のレイの行動は奇妙だ。もっとも手紙を書いた時は自殺など考えてなくて、発作的に自殺した可能性もあるのだが。
 さて、どうしたものか――。

●地上から【1B】
「ここが事故現場か」
 11階建てのビルを地上より見上げ、真名神慶悟が小声でつぶやいた。屋上に、銀色のフェンスがちらりと見える。
 慶悟が居るのは、レイが飛び降りたビル『第3深見ビル』の前だった。現場を物理的に、そして霊的に探るために足を運んだのだ。
(屋上から飛び降りようとするならば、フェンスを乗り越える必要があるか)
 やはり実際に現場へ足を運んだのは正解だったようだ。新聞記事にはフェンスのことは1行も記されていなかったのだから。
 慶悟は視線を地上のアスファルトに移した。慶悟より1メートルほど先の場所に、赤黒い染みと白い線が生々しく残っていた。そこがレイの死体があった場所だ。
(居ればいいんだがな)
 慶悟はさっそくその場の霊視を行った。が、レイの霊は見られない。かといって、他の霊が居るという訳でもなかった。
「ここには居ない、か」
 慶悟は小さく溜息を吐いた。そして静かに目を閉じ両手を合わせた後、ビルの玄関へと向かっていった。

●ガードマンの言い分【1C】
「マスコミ……じゃなさそうだな、あんた」
 初老のガードマンが、じろじろと慶悟を見て言った。まあ金髪でピアスもして、スーツ姿のマスコミというのも少数派だろう。
 慶悟はビルの警備員室を訪れていた。一応管理事務所も別にあるが、ビルを管理しているという意味ではこちらも同じである。管理事務所には後で向かうつもりだった。
「そんなに多かったのか?」
 慶悟が尋ねると、ガードマンは待ってましたとばかりに喋り始めた。
「そりゃそうだ、アイドルの自殺なんてのは、格好のネタのようだからな。次から次に来たぜ。ま、それも昨日までがピークだったがね」
「? どうして昨日なんだ?」
「ワイドショー見てないのかい? 昨日が告別式だったんだよ」
「……えらく手際がいいことだな」
 飛び下り自殺だから警察による検死作業が入っているはずなのに、事故の日から数えて5日しか経っていない。何か急ぐ理由でもあったのかと勘ぐってしまう。もっとも娘を亡くした両親からすれば、早く荼毘に付してやりたいと思うのかもしれないが。
「しかしあれだよ。何で何の関係もないうちのビルで飛び降りんだ? あの夜は俺が当直だったから、おかげで社長に大目玉喰らっちまったよ。『何で屋上に鍵かけてなかったんだ』ってさ。馬鹿言うなって、俺はあの夜も屋上に鍵がかかってることを確認したんだっつーの。な、あんたもそう思うだろ?」
 同意を求めるガードマン。しかし、慶悟はあることに引っかかった。
「鍵がかかっていた……いや、屋上の鍵は誰でも簡単に開けられるのか?」
 ガードマンの話が事実であれば、レイはその後で鍵を開けて屋上に出たことになる。そうする必要があったというのだろうか。
「普通は鍵がなきゃ開けられないって。ま、ピッキングのプロなら開けられるかもしれねえけど」
「……確認したのはいつだ?」
 慶悟は時刻を確認することにした。
「そうだなあ。あの夜は22時頃からビルを巡回して、屋上へ行ったのが22時半前後か。だいたいいつも屋上まで30分かけるんだ。それからまた30分かけてここまで戻ってきて……パトカーのサイレンが聞こえてきたのが、確か24時過ぎてたと思うけどな。また巡回へ行こうとした時だよ。それで警察がやってきて、俺も事件のことを知ったんだ。そりゃもうびっくりだぜ」
「このビルは夜中でも出入りは自由なのか?」
「ああ、夜遅くまで作業してる所もあるからな」
 そこまで聞いて、慶悟は思案した。
(とすると、片平女子が出入りするのは容易なのだな。だが、ピッキングの技術を修得していたとは思えない)
 慶悟はガードマンに屋上の鍵を開けてもらうよう頼むと、管理事務所へと向かった。

●屋上から【2D】
 慶悟は管理事務所を訪れた後、屋上へ向かった。管理事務所でもレイとこのビルの関係を尋ねてみたが、全く関係はないという答えが返ってきていた。
(たまたま訪れて飛び降りただけなのか?)
 そんな考えが慶悟の頭をよぎったが、まだ断定は出来ない。屋上の鍵の問題が残っているからだ。
 屋上の鍵は、先程ガードマンに頼んでいたおかげで今は開いている。重い扉を開け、慶悟は屋上に出た。さすがに11階建ての屋上となれば、結構な高さであった。
 四方は2メートルほどのフェンスで囲まれていた。それを乗り越えた先に50センチほどのスペースがある。つまり飛び降りようとするなら、フェンスを乗り越えた後にそのスペースに立ってからということが自然だ。
 屋上に出てすぐに、慶悟は霊視を行った。ここでもレイの霊は見られなく、悪霊も他の霊も居なかったのだが――。
「……残りカスみたいな物だが……」
 思わず慶悟は眉をひそめた。レイが飛び降りたと思われる辺り、そこに邪悪な気を感じたのだ。辛うじて分かったのは、その気を発したのが死者ではなく生者であったことだ。
(問題は、これを誰が発したのかということだ)
 レイが死ぬ間際に発したのかもしれない。けれどもそうでなければ――事件発生時、この場には他に誰か居た可能性が出てくる。だとすると、自殺という線は疑わしくなってきてしまう。鍵の件があるからなおさらだ。
(もう少し、詳しく調べる必要がある。何が片平女史を後押しさせたのか……あるいはそのように仕向けたのか、だ)
 慶悟はそう考え、屋上より無数の蝶型の式神を放った。時間および範囲的なフォローをさせるためである。
「下僕が見るは我が映し、下僕が聞くは我が識なり……」
 式神の見聞きした物は、慶悟にも伝わってくる。そのことによって、レイの痕跡が分かるような物が見付かれば御の字であった。
 慶悟は再びビルの中へ戻ると、1階まで順番に階段を降りてゆくことにした。もちろん霊視しながらである。どこにどう手がかりが転がっているか、分かりはしないのだから。
 しかし手応えを得られるようなことはなく、慶悟は1階に辿り着いてしまった。慶悟は警備員室に再び顔を出すと、屋上を施錠するようガードマンに言い残し、ビルを出ることにした。

●狙われたのは【3C】
「どういうことだ……?」
 真名神慶悟は首を傾げながら、『第3深見ビル』の中より出てきた。
(あまりにも手がかりがなさ過ぎる。霊の存在は見られない、片平女史の痕跡も見当たらない。ないない尽くしだ……)
 それは異常とも思える状況であった。まるで意図的に消されているようでもあって。
(何者かが妨害しているのか?)
 慶悟は思わずそう疑ってしまった。
「どういうことだ……?」
 同じ頃、慶悟と同様の言葉をつぶやいていた者が近くに居た。宮小路皇騎である。
 皇騎はまずはビルの周辺で聞き込みを行っていた。レイの姿が目撃されていたり、不審な目撃がされていないか調べるためである。周辺での聞き込みを終えた後に、今度はビルの中で聞き込みを行うつもりであった。
 けれども結果は芳しくなく、レイの姿を目撃した者は見付からず、辛うじて分かったのは事件当夜に『何だか黒っぽい車が居たような気がする』ということくらいだった。しかし本人が自信なさげでうろ覚えだったこともあり、信憑性に疑問が残る情報であった。
 そしてやはり同じ頃、『第3深見ビル』目指して2人の女性が歩いていた。シュライン・エマとレイベル・ラブである。事件現場へ行く途中にばったり出くわして、そのまま一緒にやってきたという訳である。
 そしてシュラインとレイベルがビルのある通りへ出てきた時だ。2人の目の前を、黒い自動車が猛スピードで走り抜けた。
 自動車はビルへ向かう皇騎の横を通って、速度を落とすことなく走っていった。今まさに横断歩道を渡ろうとしていた思案中の慶悟目掛けて――。
「危ない!」
 思わず叫ぶシュライン。慶悟はぎりぎりの所で横っ跳びで自動車をかわした。速度を落とす素振りの見えない自動車は、たちまち小さくなってゆく。皇騎はポケットの中に入っていたデジタルカメラで咄嗟に自動車を写した後に、慶悟に駆け寄っていった。それに続き、シュラインとレイベルも慶悟に駆け寄る。
 被害はといえば、慶悟のスーツが少し汚れた程度で怪我等は全くなかった。だが、慶悟は怪我よりも酷い被害を受けたのかもしれない。
「狙われたのか?」
 レイベルがぼそっとつぶやいた。その可能性は、決して否定出来なかった……。

【当日の手紙【前編】 了】


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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【 整理番号 / PC名(読み) 
                   / 性別 / 年齢 / 職業 】
【 0086 / シュライン・エマ(しゅらいん・えま)
  / 女 / 26 / 翻訳家&幽霊作家+時々草間興信所でバイト 】
【 0389 / 真名神・慶悟(まながみ・けいご)
                   / 男 / 20 / 陰陽師 】
【 0445 / 水無瀬・龍凰(みなせ・りゅうおう)
                    / 男 / 15 / 無職 】
【 0446 / 崗・鞠(おか・まり)
                    / 女 / 16 / 無職 】
【 0461 / 宮小路・皇騎(みやこうじ・こうき)
        / 男 / 20 / 大学生(財閥御曹司・陰陽師) 】
【 0568 / 守崎・北斗(もりさき・ほくと)
                   / 男 / 17 / 高校生 】
【 0606 / レイベル・ラブ(れいべる・らぶ)
           / 女 / 20代? / ストリートドクター 】
【 0921 / 石和・夏菜(いさわ・かな)
                   / 女 / 17 / 高校生 】


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■         ライター通信          ■
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・『東京怪談ウェブゲーム』へのご参加ありがとうございます。本依頼の担当ライター、高原恵です。
・高原は原則としてPCを名で表記するようにしています。
・各タイトルの後ろには英数字がついていますが、数字は時間軸の流れを、英字が同時間帯別場面を意味します。ですので、1から始まっていなかったり、途中の数字が飛んでいる場合もあります。
・なお、本依頼の文章は(オープニングを除き)全21場面で構成されています。他の参加者の方の文章に目を通す機会がありましたら、本依頼の全体像がより見えてくるかもしれません。
・今回の参加者一覧は整理番号順で固定しています。
・お待たせしました、あるアイドルの自殺事件にまつわるお話をお届けします。現時点で話は大きく3つに分かれていると思います。うち1つは金沢です。もう少し集約するかなと思ってたんですが、意外と範囲が広がりましたね。
・今回のお話ですが、あちこちにヒントをちりばめています。この依頼の成功条件を挙げるなら、レイの事件が自殺・他殺・事故の内の何であるかを確定させることです。ヒントを上手く活用して、証明させてみてください。
・ちなみに推理は苦手という方も大丈夫です。力技で解決させる方法もありますので。それはそれで成功条件となりますよ。
・時間の関係が分からなくなっているかもしれませんので、ここで整理しておきましょう。この前編本文を基準として、オープニングは本文の前日となります。事件が報道されたのは本文の4日前、そして事件が起きたのは本文の5日前となります。
・なお、後編は前編の翌日から開始することとなります。
・真名神慶悟さん、21度目のご参加ありがとうございます。ビルを実際に訪れるというのは大変よかったと思いますよ。管理者に話を聞いたのも正解です。霊視の方は芳しくないようですが。ちなみに……慶悟さんに対しては危険度上がってますのでご注意を。
・感想等ありましたら、お気軽にテラコン等よりお送りください。
・それでは、また別の依頼でお会いできることを願って。